しまね散歩:大田・大森編/ステキな出会いを探します
世界遺産の町に受け継がれる日常
他郷阿部家の台所
16~17世紀、銀の産地として世界に知られた石見銀山。そのお膝元の町として栄えた大田市大森地区には、今も約400人が暮らしています。
朝早く、香ばしい香りの漂う中田商店をのぞくと、フライパンいっぱいのごまを炒っていました。作っているのは看板商品のごま豆腐です。
「ごまは毎朝炒ったものを使う。そうじゃなきゃ、こんなに香り高いのは作れんよ」と、店主の中田正敏さん。早速いただいてみると、味も香りも濃厚です。焦がさず均一にごまを炒るのは腕力がいるといい「今じゃ息子の方が上手だな」と頼もしげに調理場へ目を向けます。
すると表の通りで、楽しげな声が響きました。市内の保育所から遠足にやって来た親子連れです。一帯は町並み保存地区に指定され、住居やカフェとして使われている建物には、かつての商家や武家屋敷も。約230年前に建てられた地役人の屋敷には「暮らす宿他郷(たきょう)阿部家」という小さな看板があり、興味を引かれて門をくぐりました。
中を見せてもらうと、宿泊客のいないタイミングを利用してメニューの試食会をするところだそう。台所は魚の焼けるにおいやごまをする音がして、大きな食卓にササガレイや葉ワサビのしょうゆ漬け、がんも煮などが次々と並び始めました。「湯気もまきを割る音も、ごちそうのひとつよ」と宿の“竈婆(かまばあ)”こと松場登美さん。
台所にはかまどがあり、大小の竹ざるや鉄瓶など、昔ながらの手仕事で作られた道具が現役で活躍しています。松場さんは「昔のものにこだわってる訳じゃないけど、かまど炊きのご飯で作ったおにぎりをほおばると、みんな『おいしい』じゃなく『幸せ』って言うのよ」。その一言に、「ぜいたく」の意味を教わったような気持ちになりました。
他郷阿部家をおいとますると、ちょうどお昼。おいしそうなパンが並ぶ「ベッカライ・コンディトライ・ヒダカ」に入りました。
店を切り盛りするのは、ドイツのマイスターの資格を持ち、東京から移住した日高晃作さん、直子さん夫婦。プレッツェルやバウムクーヘンなど伝統的なパンやお菓子だけでなく、地元の夏みかんやニンジン、ハチミツを使ったオリジナルの品もあり、目移りしてしまいます。「いい食材があり、それを生かしたパン作りができるのは、ここでしかできない挑戦」と晃作さん。手仕事を大切にする町に、ぜいたくな日常をまたひとつ見つけました。
新型コロナウイルス感染防止に配慮して撮影しています。
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