すまいる
隠岐島後森林組合/宮崎郁志(たかし)さん
古里の山と海を相手に生きる
高さ20メートルを超す杉の傍らに立ち、木のてっぺんを何度も見上げる宮崎郁志さん。幹の反りや枝の張り具合から木の重心を予測し、切り込みの入れ方や倒す方向を慎重に見定めます。周囲の安全も確認すると、チェーンソーのスターターを引き、伐採開始。うなるエンジン音や、幹の切り込みにくさびを打ち込む鎚(つち)の音が静かな森に響き、やがて傾き始めた杉は林道と小川に挟まれた狭い緑地に地響きを立てて倒れました。
「木は一本一本違うので、狙った方向へ安全に倒すには自分の創意工夫が試される。林業の醍醐味(だいごみ)ですね」。宮崎さんの表情に、充実感が漂いました。
隠岐島後森林組合で働く宮崎さんが林業を志したのは、漁師の祖父や父の影響から。祖父らの漁を手伝ううちに、自然を相手にする仕事にあこがれを抱くようになったといいます。海に囲まれた隠岐の島町は、島の面積の約86%を豊かな森林が占めており、「海にはいつでも関われる。自分は山で働こう」と島根県立農林大学校の林業科に進学しました。
初めて島を離れて生活して感じたのは、「どこかに出かければ知り合いがいる」という隠岐のコミュニティーの心地よさ。同じように島を離れた同級生と再会して地元の話に花を咲かせたとき、「働くなら、友達のいる島に戻ろうって思ったんです」。2年ぶりに古里へ帰ってからは、地域の相撲大会や祭り、清掃活動に参加する日々。「自分自身にいろんな役割があるし、地域の年長者に経験談が聞けるのは隠岐に住んでいるからこそ。そんな人間関係が面白い」とあらためて感じています。
経験を積んだベテランだけでなく、同世代も多い職場は働きやすく、一人で任される仕事も増えてきました。「林業を始めた頃に初めて植樹した苗木が、僕の身長を越したんです。ちゃんと木になったな、とうれしくて」。古里の自然を未来へつなぐ喜びをかみしめています。
宮崎郁志さん(左から2人目)と隠岐島後森林組合の仲間
苗木を育て、木を伐採した山に植樹
高性能林業機械も操縦
父の漁を手伝う宮崎さん
みやざき・たかし(右端)
1992年生まれ、隠岐の島町出身。高校卒業後、島根県立農林大学校の林業科に進学。2013年に隠岐島後森林組合に就職し、古里へ戻った。仕事では木の伐採や育苗、植樹に携わり、休日は父親のサザエ漁を手伝ったり、趣味の釣りに出かけたりするなど、隠岐の山と海でキャリアを磨く。一日の終わりに、日本海に沈む夕日を眺めるのが心癒やされるひととき。
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