感染症 年報
3)インフルエンザ定点感染症の流行状況:表5〜10、図1〜4
1999(平成11)年4月より内科定点、15医療機関が加わり、計38の定点となり12シーズン目となった。2011年のインフルエンザの報告数は8,699件
(定点当り228.9)と2001年以降で第4位であり、今年度の数を2001(平成13)年〜2010(平成22)年の10年間の年間平均患者数で除した流行指数は
1.28であった。新型インフルエンザで特大の流行がみられた2009年を除く平年としては大規模な流行になる。
県全体では1月から3月まで同規模の流行が続き、4月より急速に衰退した。東部と中部は2峰性の波があり(それぞれ3週[28.5]と11週[19.2]、
4週[22.9]と11週[30.7]にピーク)、西部は4週[20.5]がピークであった。報告件数は中部で多く、3,529件(流行指数1.61、定点当り294.1)であり、
東部(隠岐を含む)は2,877件(東部のみ同1.27、225.5)、西部は2,293件(同0.97、176.3)であった。
年齢別では、乳児2.2%、1〜4歳23.0%、5〜9歳31.5%、10歳代20.6%、20〜50歳代20.0%、60歳以上2.7%であり、10歳未満が56.7%を占めた。
4)小児科定点感染症の発生状況
(1)全県的な感染症の流行状況:表5,図2)
2011年のインフルエンザも含めた総患者数は29,513件であり、ここ11年では新型インフルエンザが流行した2009年の34,472件に次ぐ第2位に多く、
流行指数も1.32であった。
―患者報告数が特に多かった疾患― ( )内の数値は流行指数。
手足口病
:3,659件(4.16)。全県で平成元年以降でも特大の流行があり、発疹も大きく、四肢や体幹に広がり、特徴的な症状であった。
伝染性紅斑
:778件(3.09)。2006(平成18)年(936件)以来の流行年になった。全県で流行したが、特に中部で多く56%を占めた。
流行性耳下腺炎
:1,262件(1.33)。東部の特大の流行は縮小したが、東、中、西部でほぼ同規模に発生し、2年連続の流行年となった。
―患者報告数が例年並みであった疾患― ( )内の数値は流行指数
A群溶連菌咽頭炎
:1,298件(1.24)。ここ6年では5位とやや少なかった。
咽頭結膜熱
:544件(1.23)。2007年の大流行後は同規模の報告数が続いている。
感染性胃腸炎
:9,527件(1.16)。ここ6年間では5位の報告数であった。
水痘
:1,591件(0.88)。ここ11年では毎年1,582〜2,215件の報告があり、変動は小さい。本年はその中で10位とやや少なかった。
突発性発しん
:781件(0.92)。「流行」とする疾患ではない。2001年からは703〜1,093件と変動幅は小さく、本年はここ11年で8位の件数であった。
―患者報告数が例年より小さかった疾患― ( )内の数値は流行指数
ヘルパンギ―ナ
:524件(0.67)。ここ11年では年間372〜1,105件の報告があり、2001年、2003年、2007年が流行と言える。本年は10位であった。
百日咳
:9件(0.90)。ここ11年では2004年31件、2005年12件、2,008年19件の他は一桁の件数である。
RSウイルス感染症
:2010/2011年シーズン(7月〜6月)は417件(東部174件、中部149件、西部94件)。2004/2005年シーズン以降は32件、149件、250件、238件、
346件と続き、2009/2010年シーズンは488件であった。47週(11月下旬)に10件を超え(23件)、ピークは51週と52週の46件と48件であった。
7週(2月中旬)に10件未満になった。
(2)地区・圏域別にみた流行指数:表6、7、9、図3
―各地区での流行指数の上位疾患(突発性発しんを除く)−( )内は流行指数
東部(隠岐を含む)
:手足口病(4.17)、伝染性紅斑(2.00)、咽頭結膜熱(1.62)
中部
:伝染性紅斑(5.23)、手足口病(4.32)、流行性耳下腺炎(1.44)
西部
:手足口病 (3.97)、伝染性紅斑(2.07)、流行性耳下腺炎(1.37)
なお、百日咳は全県の9件中6件が中部から報告された。
―定点当りの報告数の地区別、圏域別比較―( )内は定点当りの報告患者数
咽頭結膜熱
:松江圏域(44.9)、出雲圏域(28.6)、益田圏域(19.3)で多かった。
A群溶連菌咽頭炎
:中部(100.0)、東部(64.9)、隠岐(49.0)で多かった。隠岐は2010年の大流行よりかなり減った。
感染性胃腸炎
:松江圏域(608.6)、大田圏域(579.0)、出雲圏域(394.0)で多かったが、いずれも2010年より減少した。
水痘
:松江圏域(88.3)、中部(83.6)、益田圏域(61.0)で多かったが、いずれも2010年より少なくなった。
手足口病
:全圏域で多かったが、特に益田圏域(203.7)、松江圏域(201.6)、出雲圏域(188.6)で顕著であった。
伝染性紅斑
:4年間の非流行年の後、全圏域で流行した。出雲圏域(71.4)、雲南圏域(40.5)、松江圏域(30.7)と、中部以東で多かった。
ヘルパンギーナ
:2010年と同様に松江圏域(49.0)のみで多かったが、特に大きい流行ではなかった。
流行性耳下腺炎
:大田圏域(167.5)で大流行になった。2009年は益田圏域(60.7)、2010年は松江圏域(167.9)が特に大きい流行圏域であった。
(3)感染症患者月別発生状況:表8、9、図4〜6
月別(1か月は4週に換算)にみた県全体の全疾患の患者報告数(インフルエンザを含む)は、1月(4,179件)、2月(3,623件)、3月(3,993件)で特に多く、
この3か月で年間の43.6%を占めた。少なかったのは8月(1,038件)、9月(1,418件)、10月(1,048件)、11月(1,407件)で、この4か月で年間の18.2%を占めた。
―流行の季節変動 (月別報告数は1か月4週に換算)―
咽頭結膜熱
: 通年性に発生したが初夏に流行があり、4月(129件)、5月(106件)の2か月間で年間の46.5%を占めた。ここ11年では2006年6月(185件)の流行が大きかった。
A群溶連菌咽頭炎
:2月(203件)と3月(212件)に多く、流行が特に大きかった2007年と2008年のそれぞれのピークの6月(189件)と5月(144件)を凌いだ。
最少は昨年と同様に9月(38件)であり、6月(106件)にも小ピークがあった。
感染性胃腸炎
:3月(1,121件)、4月(1,132件)、12月(1,233件)で多かった。これまでのピーク、2006年11月(1,597件)、2007年12月(1,492件)、
2008年3月(1,492件)、2010年(1,582件)と比べ少なく、2009年1月(1,205件)と同様であった。
水痘
:1月(182件)、12月(286件)に多く、例年の5月、6月(120件、127件)のピークは比較的に小さかった(2010年は210件と213件)。
なお、2006/2007年の12月と1月は412件と316件であった。
手足口病
:4月中旬より5月にかけ漸増し、6月(999件)に急増し、7月(709件)にかけ特に大きな流行になった。8月(236件)に一旦減少した後、9月(620件)
にも山ができた。26週[6月下旬、394件]と、36週[9月上旬、243件]がピークであった。最近の流行年の2007年9月(191件)、2010年7月(261件)と比較しても流行の大きさがわかる。
伝染性紅斑
:1月(33件)から例年より多く、4月(107件)をピークに流行した。その後、10月(35件)まで漸減したが、再び増加に転じ、12月には62件になった。
前者の流行は中部、後者は西部と東部が主体である。
ヘルパンギーナ
:7月(146件)をピークに6〜9月の間流行し、約7割は東部から報告された。なお、大流行の2007年7月のピークは447件あった。
流行性耳下腺炎:
2009年5月頃より益田圏域で流行し出し、2010年は東部で特に大きな流行になった。本年は1月(186件)より12月(37件)まで漸減が続いたが、
西部で4月、5月(68、66件)、隠岐で7月、8月(12、11件)をピークに流行した。
(4)定点別把握疾患の年齢別患者数の分布:表10
RSウイルス感染症(今年度報告分)
:乳児前半18.6%、乳児後半22.6%、1歳代33.5%、2〜4歳21.0%、5〜9歳3.3%であった。10代6件、成人例2件があった。
突発性発しん
:乳児前半3.8%、乳児後半52.1%、1歳代41.4%、2〜3歳2.9%で、例年より1歳代がやや多かった。
1歳代が最多であった疾患
:咽頭結膜熱(1歳代の占める割合29.6%)、感染性胃腸炎(22.7%)、水痘(27.8%)、手足口病(35.6%)、ヘルパンギーナ(33.0%)であった。
疾患は昨年と同様で、いずれも7歳未満の児に広く分布している。
その他の年齢が最多であった疾患
:A群溶連菌咽頭炎(3〜5歳、13.2〜13.7%)、伝染性紅斑(4歳、5歳、各17.1%と16.6%)、流行性耳下腺炎(3歳、4歳、各19.3%と16.4%)。
疾患、割合とも昨年とほぼ同様であった。
成人の水痘
:2005年21件、2006年24件と近年の増加が危惧されたが、2007年以降7件、9件、11件、7件と続き、2011年も11件に止まった。
大学等への進学の際の予防接種の増加によるのかもしれない。
成人の流行性耳下腺炎
:非流行年の2008年と2009年は3件ずつであったが、流行年の2010年は14件、本年は27件と多く、流行状況に強く影響される。
百日咳
:9件の内訳は6か月未満3件、3歳、5歳、7歳、10歳代が各1件、成人は2件であった。近年、成人の罹患が問題になり、全国小児科定点よりの報告では、
成人例の割合は、2007年以降30.9%、36.7%、40.5%、2010年第19週までで56.0%と、年々増加している。
本年の特徴
・手足口病が全県で大流行した。皮疹も大きく、四肢、体幹に広がり、特異であった。
・伝染性紅斑が2006年以来の流行年となり、中部を主体に全県で流行した。
・流行性耳下腺炎が2006年以来の流行年となり、2009年の益田圏域、2010年の東部、本年の大田圏域と主体地域を変えつつ流行を続けた。
5)眼科定点感染症の流行状況:表5、6、7、8、9、10、図7,8
急性出血性結膜炎
:1992(H3)年、全県で113件の報告があった後は、急速に減少の傾向を示し、特に1999(H11)年以降は2001(H13)年の4件を除いては全県で1〜2件の報告に止まり、
報告数0件の年もしばしばみられる状況である。2010(H22)年も西部で1件の報告があったのみであったが、本年も全県で報告数は0件であった。
流行性角結膜炎
:急性出血性結膜炎とほぼ軌を一にするように1998(H9)頃から急速な報告数減少の傾向が続いている。2010(H22)年には全県で8件の報告であったが、
本年は東部15件、中部0件、西部12件とわずかながら報告数増加を認めている。
流行性角結膜炎の月別報告状況では、東部で年間を通じて散発的に各月1〜2件の報告であったが、西部で6月3件、7月4件の報告があった影響で、
全県としては6,7月に平たい山を持つ流行ラインとなった。
流行性角結膜炎はここ10年以上、病像の最盛期に著明な結膜偽膜形成、角膜上皮障害を伴う、結膜炎の緩解期に点状表層角膜炎を発症するなど、
典型的な病像を呈する事が稀となり、病像が比較的マイルドである事が多いなど、確定診断が必ずしも容易でない場合もままあると思われる。
幼小児期、学童期の受診行動の変化をも含めて、流行状況の正確な把握のためには、一考を要するものと考えられる。
6)基幹定点把握疾患の発生状況:表5、6、7、8、9、10、図9
細菌性髄膜炎
:中部からのみ14件。乳児4件、20〜50歳代4件、60歳代2件、70歳以上4件であった。1999年以降、中部からは毎年、報告がある。
東部からは2006年より、西部からは2002年より報告はない。
1999年以降の13年間で計71件になった。年齢別内訳は、乳児21件、1〜4歳10件、5〜9歳3件、10歳代3件、成人34件である。
無菌性髄膜炎
:中部からのみ27件。2007年の108件の大流行を除くと2001年から6〜41件の報告がある。東部からは2006年より、西部からは2002年より報告はない。
本年の年齢分布は乳児4件、1〜4歳6件、5〜9歳4件、10歳代3件、成人10件であった。
マイコプラズマ肺炎
:133件。全国的に6月中旬以降、大きな流行が12月初めをピークに拡大したが、島根県では2009年(147件)の雲南圏域を主とする大流行に次ぐ流行で、
やはり6月から増加し、12月(30件)が最も多かった。雲南圏域24件、出雲圏域10件、大田圏域23件、浜田圏域79件であり、他圏域からは報告はなかった。
相当数の報告漏れが懸念される。
本年の年齢分布は5歳未満60件、5〜9歳25件、10歳代28件、20〜50歳代14件、60歳以上6件であった。
クラミジア肺炎
:中部から4件、西部から2件あり、1999年以降で最多であった。月別では1月1件、8月2件、11月2件が報告された。年齢分布は10歳未満3件、
20〜30歳代2件、70歳以上1件であった。