感染症 年報
3)インフルエンザ定点感染症の流行状況:表5〜10、図1〜4
1999(平成11)年4月から、内科定点15施設が加わり、計38の定点となり13シーズン目となった。2012年のインフルエンザの報告数は7,133件(定点当り187.7)と2002年以降で第5位と中位であり、今年度の数を2002(平成14)年〜2011(平成22)年の10年間の年間平均患者数で除した流行指数は0.96であった。
県全体では、昨年12月中旬(50週)に流行期に入り、本年2月前半にピーク(6週[定点当り30.7])になった後、速やかに衰退していったが、流行期を脱したのは5月前半(19週)であった。東部、中部、西部、隠岐の週当り件数のピークは、それぞれ[53.5]、[28.6]、[20.2]、[19.0]と東部で大きく、2012年度の報告指数も東部(隠岐を含む)で1.24の他は、中部0.85、西部0.78であった。圏域別定点当り件数は、松江圏域256.9が特に大きく、次いで出雲圏域200.7であり、他の圏域は94.8〜184.2件であった。
患者の年齢区分別割合は、乳児1.7%、1〜4歳25.1%、5〜9歳32.2%、10歳代17.8%、20〜50歳代18.3%、60歳以上4.8%であり、概ね例年と同様であった。
4)小児科定点感染症の発生状況
(1) 全県的な感染症の流行状況:表5、図2
2012年のインフルエンザも含めた患者報告総数は25,075件であった。ここ11年では第5位と中位であり、流行指数も1.05であった。
ア) 患者報告数が特に多かった疾患― ( )内の数値は流行指数
RSウイルス:1,155件(4.89)。特に2012/2013年シーズンの立ち上がりが早く、多かった。
伝染性紅斑:459件(1.45)。昨年に引き続き、2006(平成18)年以来の流行となった。昨年は中部が56%を占めたが、今年度は東部と西部で多かった。
感染性胃腸炎:11,233件(1.30)。2006年以降、報告が多いが、2010年に次いで2位の件数であった。
イ) 患者報告数が例年並みであった疾患― ( )内の数値は流行指数
突発性発しん:812件(0.96)。「流行」とする疾患ではない。2002年からは703〜1,093件と変動幅は小さく、本年はここ11年で6位の件数であった。
ヘルパンギ―ナ:675件(0.91)。ここ11年では年間372〜1,105件の報告があり、2003年、2007年が流行年と言える。本年は7位であった。
水痘:1,608件(0.89)。ここ11年では毎年1,580〜2,157件の報告があり、変動は比較的小さい。本年はその中で8位とやや少なかった。
ウ) 患者報告数が例年より小さかった疾患― ( )内の数値は流行指数
A群溶連菌咽頭炎:798件(0.70)。2006年以降、千件を超える報告数であったが、本年はここ11年で9位と少なくなった。
流行性耳下腺炎:483件(0.50)。2010年、2011年と流行年であったが、本年は非流行年になった。
手足口病:86件(0.07)。2011年の特大の流行から一転し、ここ11年で最少の報告数であった。
エ) RSウイルス感染症―
2011/2012年シーズン(7月〜6月)は、766件(東部315件、中部346件、西部105件)の報告があった。2012/2013年シーズンの流行の立ち上がりは早く、かつ、大きく、2012年内に既に812件になった。
なお、2005/2006年以降の件数は、順に149件、250件、238件、346件、及び昨シーズン2010/2011年は417件であった。
(2)地区・圏域別にみた流行指数:表6、7、9、図3
ア)各地区での流行指数の上位疾患(突発性発しんを除く)― ( )内は流行指数
東部(隠岐を含む):RSウイルス(3.98)、伝染性紅斑(1.91)、感染性胃腸炎(1.26)
中部:RSウイルス(4.46)、流行性耳下腺炎(1.11)、感染性胃腸炎(1.09)
西部:RSウイルス(9.08)、伝染性紅斑(2.45)、感染性胃腸炎(1.73)、A群溶連菌感染症(1.48)
イ)定点当りの報告数の地区別、圏域別比較―( )内は定点当りの報告患者数
A群溶連菌咽頭炎:出雲圏域(55.8)、大田圏域(43.0)で多かったが、2011年より流行は小さい。
感染性胃腸炎:松江圏域(702.1)、大田圏域(589.0)、益田圏域(504.7)で多かった。
水痘:雲南圏域(110.5)、大田圏域(91.5)、松江圏域(87.7)で多かった。
伝染性紅斑:中部は昨年(63.6)に集中し、本年(6.7)は少なかったが、東部と西部の流行は、昨年と本年はそれぞれ(30.7)と(30.4)及び、(15.5)と(21.5)と、2年間にまたがった。
ヘルパンギーナ:大きな流行ではなかったが、東部(42.1)と隠岐(36.0)で多かった。
流行性耳下腺炎:県全体では非流行年に移ったが、雲南圏域(103.5)で大流行した。2009年は益田圏域(60.7)、2010年は松江圏域(167.9)、2011年は大田圏域(167.5)で特に大流行した。
(3)感染症患者月別発生状況:表8、9、図4〜6
月別(1か月は4週に換算)にみた県全体の全疾患の患者報告数(インフルエンザを含む)は、1月(2,647件)、2月(5,102件)、3月(2,654件)で特に多く、この3か月で年間の41.5%%を占めた。少なかったのは8月(875件)、9月(938件)、10月(983件)で、この3か月で年間の11.2%を占めた。
―流行の季節変動 (月別報告数は1か月4週に換算)―
感染性胃腸炎:4月(1,425件)5月(1,210件)、12月(1,778件)の流行が大きく、この3か月で42.5%を占めた。12月の件数はここ11年では2006年11月(1,597件)、2007年12月(1,492件)、2008年3月(1,492件)、2010年(1,582件)と比べ最多であった。東部では4月、中部と西部は12月が最多であった。
水痘:例年のように、1月(207件)、12月(205件)に多く、9月(40)、10月(46)に少なかった。昨年は、例年の5月、6月の初夏の山は小さかったが、本年はこの山を認めることなく非流行期に移行した。
伝染性紅斑:1月を山に漸減し、8月頃からは非流行期になった。東部は2011年3月頃から、西部は同じく8月頃から流行期となり、共に本年1月が山であった。中部は2010年11月頃から流行期となり、2011年10月頃から既に非流行期であった。
ヘルパンギーナ:中規模の流行であったが、東部と中部は7月、西部では6月をピークに流行した。
RSウイルス感染症:県全体では、2011/2012年シーズンは42週(10月中旬)に 10件を超え、52週にピーク(84件)となり、2012年9週(3月初旬)に10件未満となった。2012/2013年シーズンは36週(9月初旬)には10件を超え、39週(9月下旬)からは、ほぼ毎週、40件を超えた。
(4) 定点別把握疾患の年齢別患者数の分布:表10
RSウイルス感染症(今年度報告分):乳児前半16.6%、乳児後半23.0%、1歳代34.3%、であり、これらが73.9%を占めた。
突発性発しん:乳児前半2.5%、乳児後半52.3%、1歳代42.2%であり、これらが97%を占めた。
1歳代が最多であった疾患:咽頭結膜熱(1歳代の占める割合:5.3%)、感染性胃腸炎(21.8%)、水痘(26.7%)、手足口病(27.9%)、ヘルパンギーナ(36.3%)であった。疾患は昨年と同様で、いずれも7歳未満の児に広く分布している。
その他の年齢が最多であった疾患:A群溶連菌咽頭炎(4歳、18.3%)、伝染性紅斑(3歳・4歳、各18.3%と18.7%)、流行性耳下腺炎(18.2%)。疾患、割合とも例年と大きな変化はなかった。
成人の水痘:2005年21件、2006年24件と近年の増加が危惧されたが、2007年以降7件、9件、11件、7件、11件と続き、2012年も6件に止まった。進学の際の予防接種の増加によるかもしれない。
成人の流行性耳下腺炎:流行年の2010年と2011年は14件と27件であったが、本年は8件であった。
百日咳:近年、成人例の増加が指摘され、本県でも昨年は2件の報告があった。本年は6か月未満の1例のみであった。
−本年の特徴−
・RSウイルスの報告件数は次第に増加しているが、2012/2013年シーズンの流行の立ち上がりは早く、かつ非常に大きい。
・伝染性紅斑が昨年2006年以来の流行年となり、中部は昨年に集中して、東部と西部は昨年と本年前半にまたがって流行した。
・手足口病は昨年、特大の流行となったが、今年はここ11年で最少の件数になった。
・マイコプラズマ肺炎が昨年6月頃から本年を通し特大の流行を続けた。
5)眼科定点感染症の流行状況:表5、6、7、8、9、10、図7、8
急性出血性結膜炎
:1992(H3)年、全県で113件の報告があった後は、急速に減少の傾向を示し、特に1999(H11)年以降は、2001(H13)年の4件を除き、全県で年間1〜2件の報告に止まり、
報告数0件の年もしばしばみられる状況である。2012(H24)年の報告も中部からの1件のみであった。
流行性角結膜炎
:急性出血性結膜炎とほぼ軌を一にするように1998(H9)頃から急速な報告数減少の傾向が続いている。2012(H24)年も散発例の報告として、東部4件、中部6件、西部1件、計11件であった。
流行性角結膜炎はここ10年以上、病像の最盛期に著明な結膜偽膜形成、角膜上皮障害を伴う、結膜炎の緩解期に点状表層角膜炎を発症するなど、
典型的な病像を呈する事が稀となり、病像が比較的マイルドである事が多いなど、確定診断が必ずしも容易でない場合もままあると思われる。
幼小児期、学童期の受診行動の変化をも含めて、流行状況の正確な把握のためには、一考を要するものと考えられる。
6)基幹定点把握疾患の発生状況:表5、6、7、8、9、10、図9
細菌性髄膜炎
:中部から4件、西部から2件の報告があった。年齢区分別の内訳は、乳児1件、1〜4歳1件、60歳以上4件である。1999(H8)年以降の14年間で患者報告数は計77件になった。年齢区分別の内訳は、
乳児22件、1〜4歳11件、5〜9歳3件、10歳代3件、成人38件である。なお、東部からは、2006(H18)年以降報告がない。
無菌性髄膜炎
:中部からのみ35件の報告があった。2007(H9)年の108件の大流行を除くと、2002(H14)年以降、年間6〜41件の報告がある。なお、東部からは2006(H18)年以降、西部からは2002(H14)年以降報告がない。
マイコプラズマ肺炎
:297件(5.37)。全国的に昨年6月中旬以降、本年12月の時点でもなお特大の流行が持続しているが、島根県も同様で、本年はここ11年で最多の件数となった。ここ2年の合計は、雲南圏域96件、出雲圏域15件、大田圏域54件、浜田圏域260件、隠岐圏域5件である。相当数の報告漏れが懸念される。
ここ2年の年代分布は、5歳未満204件、5〜9歳89件、10歳代66件、20〜50歳代44件、60歳以上27件である。
クラミジア肺炎
:6件(2.61)。中部から5件、西部から1件の報告があった。昨年も6件の報告があり、ここ2年の年代区分別分布は、10歳未満4件、10歳代1件、20〜30歳代5件、60歳以上2件である。