島根県感染症発生動向調査2011年報：ウイルス検査情報

　感染症発生動向調査事業にともなう感染症流行とその病原体の確認調査を行うため、2011年1月から12月の間に県内の病原体検査定点が採取した 12疾患群914検体の患者材料について検査を実施した。これらの患者材料は県下の小児を中心とした感染症の原因となるウイルスの流行状況を反映しているものであり、咽頭炎をはじめ、インフルエンザ、咽頭結膜熱、手足口病、ヘルパンギーナ、無菌性髄膜炎、感染性胃腸炎、麻しん等の疾患についてウイルスの検索を行った。

　309検体から8種256例のウイルスが検出された。インフルエンザウイルスはAH1pdm09型が110例、A香港型(AH3)が99例、B型が40例であり、その他にライノウイルス、単純ヘルペスウイルス各2例、エコーウイルス3型、7型、ヒトメタニューモウイルス各1例が検出された。

　春期に流行があり、14検体の検査をおこなった。
　起因ウイルスであるアデノウイルスは8例から検出され、3型が5例、1型、2型、6型が各1例であった。 3型は2006年までは咽頭結膜熱の主流行株であったが、その後は検出数が減少した。本年は検出数は少ないが、本疾患から検出されたアデノウイルスの60%を占めた。その他、エコーウイルス7型、ヒトメタニューモウイルスが各1例検出された。

　発生動向調査が開始されて以来最も大きな流行が起こり、132検体と多数の検体の検査をおこない、109検体からウイルスが検出された。内訳は従来ヘルパンギーナの原因ウイルスの一つであったコクサッキーウイルスA6型が67例と最も多く、次いでA16型31例、A10型4例であった。その他、エコーウイルス3型3例、アデノウイルス1型、2型、ポリオウイルス1型が各1例検出された。

　小規模な流行があり、検体数は27検体であった。検出されたウイルスはコクサッキーウイルスA6型11例、A10型10例、エコーウイルス3型が2例であった。

　散発的な患者発生であり、21検体中5検体からウイルスが検出された。検出されたウイルスはコクサッキーウイルスB4型、エコーウイルス3型、 7型であった。

　183検体中129検体からウイルスが検出され、調査した疾患の中で最も多種類のウイルスが検出されている。
　主なウイルスは、ノロウイルスG2 66例、A群ロタウイルス 32例、サポウイルス 10例、アデノウイルス40/41型 3例、ノロウイルスG1 2例であった。

　9症例26検体の検査をおこなったが、麻しんウイルスは検出されなかった。伝染性紅斑の流行を反映してパルボウイルスB19が4症例10検体から検出された。

　アデノウイルス、ライノウイルスは年間を通して散発的に検出された。コクサッキーA群ウイルス、エコーウイルス3型、ヒトメタニューモウイルスは夏期から秋期、インフルエンザウイルス、A群ロタウイルス、ノロウイルスG2は冬期から春先、サポウイルスは春期から夏期に検出された。
以下に代表的なウイルスについて月別の検出状況を述べる。

　5月から8月に6型、7月から10月に10型、8月から12月に16型と1～2か月時期をずらしながら3つの型が検出された。特に6型は6，7月をピークに大きな流行となった。

　2010/2011年シーズンは2010年11月から流行が始まり、2011年5月に終息した。2011/2012年シーズンは1２月から流行が始まった。
　2010/2011年シーズンは2010年11月にA香港型(AH3)が先行して流行し、その後12月にAH1pdm09型が加わり、２つの型による流行となった。 2011年１月にはさらにB型も検出され、3つの型の混合流行となった。それぞれの型のピークはAH1pdm09型が1月、A香港型が2，3月、B型が3月であった。流行は5月に終息したが、6月にB型による閉鎖措置があった。
　2011/2012年シーズンはA香港型の流行で始まった。

　ライノウイルスは年間を通して散発的に、RSウイルスは肺炎・気管支炎、熱性疾患から主に冬期に検出された。ヒトメタニューモウイルスは5～11月に22例検出された。

　ウイルス性感染性胃腸炎は主に冬季から春季にかけて流行する。ノロウイルスはG1型が1月、8月に散発的に検出されたのみであるが、 G2型は1～4月と9～12月に流行が認められた。A群ロタウイルスは1月から検出され始めて4月をピークに5月まで検出された。また、サポウイルスが3～7月に、アデノウイルス40/41型が11，12月に検出された。

　適切な検査材料と採取時期が感染症の病原体診断のための重要な要素である。現在、定点医療機関において呼吸器系感染症は咽頭拭い液および鼻汁・鼻腔拭い液、胃腸炎症状は糞便、髄膜炎症状では脊髄液・咽頭拭い液・糞便、そして水疱を伴う発疹症は水疱液・咽頭拭い液・糞便、眼疾患では結膜拭い液・咽頭拭い液等の検査材料を採取してもらい、ウイルス検出を行っている。
以下に材料別のウイルス検出状況を示す。

　340検体が病原体定点から送付され、234検体（68.8%）からウイルスが検出された。手足口病の大きな流行を反映して、コクサッキーウイルスA群が122例と多数検出された。その内訳はA6型が76例、A10型が17例、A16型が29例であった。また、インフルエンザウイルスが53例検出され、内訳はAH1pdm09型が30例、A香港型が12例、B型が11例であった。この他に熱性疾患、肺・気管支炎からヒトメタニューモウイルスが19例、RSウイルスが7例、咽頭結膜熱、咽頭炎等からアデノウイルス15例検出された。

　主にインフルエンザ様患者由来の検体で25検体中18検体（72%）からウイルスが検出された。検出されたウイルスの内訳はインフルエンザAH1pdm09型10例、A香港型1例、B型5例、RSウイルス2例であった。

　鼻腔拭い液と同様、主にインフルエンザ様患者由来で検体数231検体中195検体（84.4%）からウイルスが検出された。主な検出ウイルスは、インフルエンザAH1pdm09型72例、A香港型87例、B型25例であり、その他、RSウイルス5例、ライノウイルス3例、ヒトメタニューモウイルス2例であった。

　主に感染性胃腸炎患者由来で、検体数270検体中146検体（54.1%）からウイルスが検出された。主に検出されたのは下痢症関連ウイルスでノロウイルスG2 66例、A群ロタウイルス32例、サポウイルス10例、その他アデノウイルスが14例検出された。エコーウイルス3型は熱性疾患、無菌性髄膜炎、手足口病等の患者由来で15例検出された。

　2011年に流行した手足口病およびヘルパンギーナの主要な原因ウイルスであった。東部・中部で5月中旬から検出され初め、6月に入って西部へと流行が拡大した。東部では7月下旬、西部では8月上旬、中部では8月中旬に流行は終息した。

　ヘルパンギーナおよび手足口病から検出された。7月には東部・中部で検出されたが、流行が始まったのはコクサッキーウイルスA6型の流行が終息した8月下旬から県内全域で同時期に検出された。流行の規模は小さく、東部は9月下旬、中部は10月上旬、西部は10月下旬まで検出された。

　主に手足口病の原因ウイルスであり、2，3年周期で流行している。本年はコクサッキーウイルスA6型の流行が終息しつつあった8月上旬中部で検出され初め、東部・西部に拡大し8月下旬には県内全域で検出されるようになった。中部では9月上旬をピークに11月中旬まで、西部では散発的に10月中旬まで、東部では散発的に12月中旬まで検出され、手足口病の流行後期の主な原因ウイルスとなった。

　2010/2011年シーズンは12月上旬から県内全域で流行し始めたAH1pdm09型が1月は流行の主流となり、県内全域で多数検出された。11月中旬に東部、 12月上旬に中部から検出された後検出されなくなったA香港型(AH3)は1月中旬から中部・西部で2月中旬には東部でも検出され、 AH1pdm09型と入れ替わるように流行の主原因ウイルスとなり、東部・中部では5月上旬まで検出された。一方、B型は1月中旬から県内全域で検出され、 4月まで中部・西部を中心に検出された。B型は流行が終息した6月下旬に単発で発生し閉鎖措置のとられた集団からも検出された。
　2011/2012年シーズンは第50週（12月中旬）に定点当たりの報告患者数が1人以上となり、流行入りした。ウイルスはA香港型が11月下旬に東部、 12月上旬に中部、下旬に西部と、県内全域に拡大していった。

　本ウイルスは冬季から春季の感染性胃腸炎の起因ウイルスで、例年ノロウイルスの流行が終息する時期から流行し始める。
　本年は1月上旬に散発的に中部で検出されたが、ウイルスの流行は東部で2月中旬から始まり、3週間から4週間遅れで、中部、西部へと拡大した。ウイルスが検出されなくなったのは、東部が3月下旬、中部が5月中旬、西部が4月中旬であり、流行期間が短かった。

　2010/2011年シーズンのノロウイルスG2の流行は12月上旬から県内全域でほぼ同時期に始まった。1月以降は東部・中部で3月までほぼ継続的に検出された。西部では1月下旬に1例検出されたのみであった。
　2011/2012年シーズンは東部で9月下旬に検出され初め、その後20日間隔で中部、さらに西部へと流行が拡大した。また、ノロウイルスG1型は中部でのみ、散発的に検出された。