島根PR情報誌「シマネスク」(2023年3月発行)
しまね散歩:松江・茶町編/ステキな出会いを探します
人情たっぷり
城下の商店街
國暉酒造
国宝・松江城の南側、宍道湖(しんじこ)のほとりにある茶町商店街。江戸時代に、船で運ばれた品々で商いを営む人々の街として発展しました。
宍道湖大橋から見えるのは、旧松江藩時代の蔵。その昔、地元の「國暉(こっき)酒造」によって移築され、今も使われている仕込み蔵です。
創業は明治7(1874)年。しっくい壁に平格子(ひらごうし)の町屋風情を残すお店から、楽しそうに談笑する声が聞こえてきます。試飲コーナーでは社長の岩橋弘樹さんが、お酒をつぎながら松江の歴史を語っていました。
大きな梁(はり)がむき出しになったベンガラ色の空間は、バーカウンターのようです。広島県から訪れた池本美優さんは家族旅行で来て気に入り、今日は友人を誘って訪れたのだそう。「和の雰囲気とフルーティーなお酒がマッチした小粋な体験です」と楽しそうに話します。
商店街を歩いていると、路地裏に小さな古本屋さんを見つけました。古い随筆や工芸本、昔の料理本をそろえた「冬營舎(とうえいしゃ)」です。店主のイノハラカズエさんの特徴ある選書が評判で、県外の古本愛好者も足を運ぶお店です。
店内のお客さんは、ビールを片手に文学談義を楽しむ人や、差し入れを持って訪れ、2時間もおしゃべりをして帰る人など、とても自由な雰囲気。常連客の細田雅大さんは「おかげで、本がさっぱり売れていない」とおどけます。
そんな様子に「お客さんのユニークな思考に巡り合えるのが古本屋の楽しさ」と目を細めるイノハラさん。お客さんとの日常をつづった著書には茶町商店街の人たちも登場します。
焼き菓子店「COCHICA(コチカ)」の曽田千裕さんは、イノハラさんのお店のような、楽しい雰囲気にひかれて西茶町に店を開きました。
店内はカウンター席と二人掛けテーブル席だけのシンプルなしつらえで、落ちついた雰囲気。全粒粉のスコーンや地元産の果物を使ったタルトが人気です。
「COCHICA」の向かいに日本茶スタンドの看板を掲げるのは創業132年の加島茶舗。「出雲地方では来客に抹茶を出す文化があります」と教えてくれたのは、6代目となる加島浩介さんです。
茶審査技術八段の段位を持つ加島さんに、煎茶の香りや味を鑑別する作業を見せてもらいました。「お茶には人と人をつなぐ魅力があります。それを守り、伝えていきたい」と話す姿に、お茶どころの文化を担う熱い思いを感じました。
夕暮れ時、宍道湖大橋たもとの「ミートショップきたがき」の前に行列ができています。
お客さんの目当ては、しまね和牛肉を使ったビーフコロッケ。赤身肉をたっぷりの和牛の脂で炒め、ジューシーな味わいとゴロッとした肉の食感で、1日2千個も売れる人気商品です。
茶町地区の魅力を、人情の濃さ、と語る社長の北垣健司さんは「伝統の『鼕(どう)行列』を和気あいあいとやり遂げる仲の良さが自慢です」と話しながら、家路につくお客さんを丁寧に見送りました。
城下町の落ちついた雰囲気を残す茶町商店街。絆を大切にしながら暮らす人たちの思いに触れました。
新型コロナウイルス感染防止に配慮して撮影しています。
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