感染症 年報
2)インフルエンザ定点感染症の流行状況:(表5〜10、図1〜3)
1999年4月より15施設の内科定点が加えられ、計38の定点となって6シーズン目となった。2005年の報告数は9,066件であり、1999年以降では最大の流行であった2003年の9,764件に次ぎ第2位であり、昨年の4,822件の1.88倍であった。今年度の数を1995年以降の10年間の年間平均患者数で除した流行指数も1.56と大きかった。
地区別の報告数は東部(隠岐を含む)2,718件(流行指数1.58、定点当り患者数209.1人※)、中部2,892件(同1.71、241.0人)、西部3,456件(同1.45、265.8人)と流行規模は近似していた。
2次医療圏域別では、定点当り報告数が最も多いのが雲南圏域(399.0人)で、次いで浜田圏域(271.0人)益田圏域(264.6人)となっている。雲南圏域が3年連続で1位である他は、変動がみられるものの圏域間での報告数に顕著な差はみられない。
週の定点当り報告数が1人以上になり流行が始まったのは、第3週であったが、雲南圏域(第4週)と益田圏域(第5週)はやや遅れて1人以上となった。ピークは松江・出雲圏域が第8週、大田・浜田圏域が第9週、雲南・益田・隠岐圏域が第10週にピークとなった。県全体では第9週がピークとなったが、これは例年にくらべ約2週遅いピークとなる。全報告数に対する月毎の割合は、1月3.9%、2月38.8%、3月42.1%、4月8.5%であったが、3月の報告割合が多く、また小規模な再流行のあった4月の割合も高くなっているのが特徴である。定点当り報告数が1人未満に減少したのは、大田・浜田圏域が歳18週、益田・隠岐圏域が歳19週、出雲圏域が第23週、松江・雲南圏域が第25週で、出雲圏域以東で遅かった。
2005年 第52週には定点あたり1人以上となる報告があり、2005/2006シーズンの始まりとなった。
年齢別では、4歳代が最も多く(7.5%)、5歳以下では全体の36.9%を占めた。1歳未満は5.7%で昨年の約2倍の報告であった。60歳以上は4.9%で漸増傾向がみられる(2002年1.8%、2003年3.9%、2004年4.8%)。
流行ウイルスはB型より流行が始まり特異であった。2月以降A香港型が加わり、3月以降はA香港型のみとなった。
3)小児科定点感染症の発生状況
(1)全県的な感染症の流行状況(表1,図1)
2005年のインフルエンザも含めた総患者数は24,893件であった。1999年に実施要領が改正され2000年より成人のインフルエンザが加わったことを考慮しなければならないが(20歳以上で454件から2,382件)、多い順で1995年以降の11年間で第1位であり、これを凌ぐ報告数は13年前の1992年まで遡る。流行指数も1.36と大きかった。
−患者報告数が特に多かった疾患− ()内の数値は流行指数
咽頭結膜熱:480件(2.83)。全国的に2004年に大流行し2005年も比較的大きな流行がみられた。島根県でも昨年の581件ほどではなかったが、突出して多かった。
伝染性紅斑:390件(1.76)。特別大きい流行は1987年(2,015件)と1992年(1,324件)にみられ、その他にも500前後の流行年が4〜5年毎にみられていた。2003年、20004年と非流行年が2年続いたのみであるが秋より東部と中部で流行してきた。
A群溶連菌咽頭炎:887件(1.48)。全国的には2004年に大流行し2005年はそれを下回る報告数であったが、島根県では報告数の多かった2004年を超え、ここ11年で最大の報告数であった。
感染性胃腸炎:8,387件(1.47)。昨年は1992年以降で最大の報告数であったが、本年はそれを更に凌ぐ数が報告された。
−患者報告数が例年並みであった疾患− ()内の数値は流行指数
水痘:2,036件(1.14)。ここ11年で最も多かったのが1997年の2,080件、最も少なかったのが1998年の1,578件と毎年同規模の報告数となっている。
突発性発しん:961件(1.10)。「流行」と表現する疾患ではないが、この疾患は最多が2004年の1,093件、最少が2000年の681件と変動幅が比較的小さい。
手足口病:1,035件(1.01)。流行年と非流行年が比較的はっきりとしている。本年は流行年であったが規模は比較的小さかった。
−患者報告数が例年より少なかった疾患− ()内の数値は流行指数
流行性耳下腺炎:920件(0.86)。2003年、2004年と非流行年であったが、報告数が増加してきた。これまで1〜2年の非流行年の後、2〜4年の流行年のパターンとなっている。
ヘルパンギーナ:555件(0.81)。過去11年間でみると最多が2003年の1,105件、最少が1998年の310件と、同じエンテロウイルスの手足口病に比べ変動幅が小さい。
報告数の多かった上位8疾患を図1に示した。本年の1位はインフルエンザ、2位は感染性胃腸炎であったが、例年この2疾患がほぼ交互に1・2位を占めている。3位の水痘を始め他疾患の順位も例年と同様であった。
−定期予防接種対象疾患− ()内の数値は流行指数
百日咳:12件(0.45)。1982年より2000年まで17件〜423件の報告がある。2001年より3年間1桁の報告であったが、2004年の31件に引き続き本年も2桁の報告となった。
風しん:5件(0.14)。1992年の5,167件の大流行の他、1999年まで報告数が報告が多かったが、2000年以降1桁の報告が続いている。
麻しん:2件(0.04)。1998〜1999年に1桁であった後、2000年に中部、2001年に中部と東部、2002年に西部で流行がみられた。2003年以降は1桁の報告が続いている。
(2)地区・圏域別にみた流行状況(表6、7、9、図2)
−各地区での流行指数の上位疾患(突発性発しんを除く)−()内は流行指数
東部(隠岐を含む):咽頭結膜熱(2.77)、伝染性紅斑(2.35)、感染性胃腸炎(2.20)
中部:咽頭結膜熱(3.04)、伝染性紅斑(1.64)、感染性胃腸炎(1.71)
西部:咽頭結膜熱(2.76)
本年の特徴として、各地区「咽頭結膜熱が昨年には及ばなかったものの本疾患としては特大の流行が全県で続いた」ことがまずあげられる。さらに、伝染性紅斑の流行が東部と中部でみられたが、これは島根県に特異的な流行と考えられる。また、感染性胃腸炎の流行が東部と中部で大きかった。
−定点当たりの報告数の圏域比較−()内の数値は定点当り報告患者数
咽頭結膜熱:出雲圏域(34.0人)、浜田圏域(30.0人)、松江圏域(27.6人)で特に多く、他圏域では一桁ないし報告がなかった。
A群溶連菌咽頭炎:昨年と同様に雲南圏域(70.0人)で特に多く、大田圏域(12.5人)で少なかった。他圏域では27.0〜41.4人とほぼ同規模の報告があった。
感染性胃腸炎:昨年と同様に松江圏域(514.9人)と大田圏域(506.5人)で多く、浜田圏域(190.0人)と益田圏域(68.0人)で少なかった。
水痘:松江圏域(112.1人)でやや多く、大田圏域(57.0人)でやや少なかったが、全体的にほぼ同規模の流行であった。
手足口病:昨年と比べ隠岐圏域(2.0→75.0人)、雲南圏域(16.0→56.5人)をはじめ多くの圏域で増加したが、出雲圏域(53.8→19.8人)のみ減少した。
伝染性紅斑:昨年は出雲圏域(11.4人)が最多であったが、これを雲南圏域(28.0人)、松江圏域(24.1人)、隠岐圏域(24.0人)で大きく越えた。
へルパンギーナ:昨年は全圏域(18.7〜57.3人)で中等度の流行がみられたが、これに匹敵したのは松江圏域(40.1人)、出雲圏域(30.6人)、益田圏域(20.7人)のみであった。
流行性耳下腺炎:昨年の益田圏域(109.3人)に代わって浜田圏域(75.7人)が最大の流行地となり、松江圏域(54.1人)、大田圏域(52.5)でも多かった。
(3)感染症患者別月別発生状況(表8,9、図3〜5)
月別(1か月は4週に換算)にみた県全体の全疾患の患者発生報告数は、2月(4,591件)、3月(4,450件)、1月(2,371件)、12月(2,337件)の順に多く、この4か月で年間の54.9%を占めた。
逆に少ない月は順に、10月(774件)、9月(784件)、8月(876件)で昨年と同様であった。
月間で特に報告数が多かった疾患は、1月の感染症胃腸炎(1,531件)、2月のインフルエンザ(3,180件)と感染性胃腸炎(1,063件)、3月のインフルエンザ(3,451件)、12月の感染性胃腸炎(1,396件)などであった。
−流行に季節変動のみられた疾患(月別報告数は1か月4週に換算)−
咽頭結膜炎:6月(58件)と12月(97件)に突出して多かった。後者の冬季の大流行は特異であり、中部(67件)と西部(26件)で多かったことによる。東部では1月から7月まで流行が続き、最多の月は2月と6月(30件)であった。中部では6月(21件)に流行した後、9月から流行が拡大していった。西部では8月(26件)に流行があった後、11月から最流行が始まった。隠岐ではなかった。
A群溶連菌咽頭炎:通年性に報告があった。3月(101件)が最多であり、7月〜10月の間(31〜47件)は少なかった。地区別では、東部で11月と12月(37、34件)、中部で1月〜3月(45〜49件)、西部で12月(39件)に比較的多かった。
感染性胃腸炎:1月(1,531件)、2月(1,063件)、12月(1,396件)に大流行があったが、いずれも特大であった昨年の4月(1,044件)を凌駕した。隠岐では12月に特に流行がなかった他はいずれの地区でも同様であった。
水痘:例年通り、冬季(1月、11月、12月;それぞれ202件、217件、277件)と初夏(5月、6月:それぞれ264件、269件)に山があり、夏から初秋(8月、9月、10月;それぞれ56件、43件、57件)に少なかった。東部で6月(121件)と12月(112件)の流行、西部で1月(101件)と12月(108件)の流行が大きかった。
手足口病:昨年の11月(231件)ピークとする特異な流行の影響で1月(89件)にもやや多かったが、本年は7月(205件)をピークとして6月から9月の間に流行した。ただし中部と隠岐では9月(それぞれ52件、26件)がピークとなった。
へルパンギーナ:規模は小さかったが例年の通り夏に流行し、ピークは7月(162件)、8月(133件)であった。隠岐で流行がみられなかったほかは大きな地域差はなかった。
伝染性紅斑:昨年4月〜6月に小流行がみられた後、落ち着いていたが5月(16件)より漸次、流行が拡大している(12月;86件)。ただし、西部では6月(13件)頃にやや増したのみでおさまり10月頃より再び幾分増した程度である。
流行性耳下腺炎:5月(55件)より概ね漸次、流行が大きくなっている(12月:171件)。これは東部ではっきりしており、西部では7月をピークに後は漸減した。
RSウイルス:昨年第50週(12月初旬)に2004/2005年シーズンの最初の報告があった(2003/2004年のシーズンは2004年第1週)。最後の報告は第13週(4月初旬、昨シーズンは第17週)であった。2005/2006年のシーズン最初の報告は第39週(9月下旬)と早かった。
(4)定点把握疾患の年齢別患者数の分布:表10
ピークの年代は1歳であった疾患と4歳である疾患の2群に分かれた。1歳がピークの疾患は咽頭結膜熱(1歳の占める割合21.0%)、感染性胃腸炎(同20.6%)、水痘(同27.7%)、手足口病(35.6%)、ヘルパンギーナ(36.2%)であった。4歳がピークであった疾患は、インフルエンザ(4歳の占める割合7.5%)、A群溶連菌咽頭炎(同18.7%、昨年は3歳がピーク)、伝染性紅斑(同14.9%)、流行性耳下腺炎(同19.2%、昨年は3歳がピーク)であった。
各年代の最多疾患は4歳まではいずれも感染性胃腸炎であり、5歳以降はいずれの年代もインフルエンザであった。
突発性発しん6か月未満6.9%、6か月〜12か月未満61.3%、1歳29.9%であり、2歳未満で98.1%を占めており、昨年とほぼ同様であった。
百日咳は、12件の報告があったが、乳児が7件を占め、2歳、4歳、5歳が各1件あり、10歳以上20歳未満にも2件の報告があった。風しんは乳児、1歳、10歳以上20歳未満が各1件と5歳が2件であった。麻しんは1歳と4歳の2件であった。
(5)感染症流行状況の経年的変動:表4,5
感染症サーベイランスは1982年(昭和57年)に開始され、以来24年間のデータが蓄積され、長期の流行変動が追えるようになった。
麻しん:1982年(1,759件)、1990年(1,243件)、1993年(972件)に大流行がみられたが、1994年以後は105件以下で推移している。特に1998年、1999年、2003年、2004年、2005年は1桁の報告数であった。この間の2000年(76件)、2001年(97件)は東・中部で、2002年(47件)は西部を主に流行した。全国的にも2005年には流行した地域はなかった。
2006年4月1日より定期予防接種は麻しんと風しんの2種混合ワクチンとなり、2011年から就学前の2回目接種が開始される。ただし、定期接種期間は1年間ずつに短縮される。世界的に押し進められている麻しんの根絶の動きに遅れをとらないよう接種率を高めるための一層の努力が必至である。また、2000年から3年間の島根県の流行では、いずれも1歳が最多報告年齢であった。1歳になってからできるだけ早期に接種されなければならない。
風しん:1992(平成4)年の特異的な大流行(5,167件)の後の1993年から1999年までは320〜42件の報告となり、さらに2000年から2005年まで1桁の件数が続いている。全国的にも1999年から減少していたが、地域的な流行は続き、2004年は1999年以降で最も多かった。先天性風しん症候群は2000年以降は毎年1例の報告であったが、2004年には10例に増加し、本年は2例が確認された。
流行性耳下腺炎:これまで1985年〜1986年、1988年〜1990年、1993年〜1996年および1999年〜2002年が流行年であった。2〜4年間の流行年が続いた後、1〜2年の非流行年を挟んでいる。流行年でも比較的地域的な流行がみられ、1999年は東部で、2000年と2001年は西部で、2002年は中部(雲南圏域)での流行が大きかった。2003年は県全体で少なかった。2004には益田圏域でのみ流行した。2005年はやや増加したが流行したのは浜田・松江・大田圏域であった。
百日咳:1983年には423件報告されたが、1984年以降著減した。さらに1991年に152件報告されて以降は2000年まで17〜63件で推移し、2000年より2003年まで一桁が続いた。しかし、2004年は東部で20件など全県で31件の報告となった。幸い2005年には12件に減少した。この2年の計43件のうち、乳児は21件で49%を占めている。また10歳以上も7件で16%を占めている。年長児や成人もたとえ予防接種歴があっても普通の風邪症状であったり、保菌者となって年少者の感染源になりうることが知られている。特に集団保育に入る場合は、できるだけ早期に3種混合ワクチンを済ませる必要がある。
4)眼科定点感染症の流行状況
急性出血性結膜炎
1995年からの10年間のうち1998年までの4年間は、直前の2年間に比べやや増加し、年間全県で10〜35件の報告であった。し
かし1999年以降は全県で0〜4件の散発を示すのみとなり、2005年は0件であった。1995年〜1998年の増加は主として西部地区での8〜26件の報告によるもので、他地区では1995年に東部地区で8件の報告があった他は0〜3件の散発的な報告であった。
流行性角結膜炎
1995年に全県で279件の報告があった後は、この10年間報告件数は全県で漸減し、殊に2001年からは2桁台の患者報告数をしてしていたが、2005年は全県で126件とかなり急激な報告数の増加を示した。
この10年間では前半の多数報告があったため、流行指数は全県で0.95に止まっている(表5)。
地区別の実数は、東部7件(流行指数0.53)、中部13件(同0.22)、西部95件(同1.54)であり、西部地区での流行があったようである。
年齢別患者数では、0〜19際の若年者で23件の報告がみられたているが、20〜80歳の103件(20歳階級別の平均で34.3件)に比べ、若年者の罹患が比較的少なかったようである。60〜80歳の老人で49件の報告があり、また若年者では4から5歳の就学前期に軽いピークがみられた(表10)。
月別報告件数は全県で6、7、8月に著名なピークがみられたが、東部、中部ではいずれも散発であり、西部地区での傾向がそのまま現れたものである。
5)基幹定点把握疾患の発生状況:表5、6、7、8、9、10、図7
細菌性髄膜炎:6件の報告があった。年齢別では乳児1件、1歳以上5歳未満2件、25歳以上30歳未満、50歳以上55歳未満で各1件であった。圏域別では出雲圏域5件、隠岐圏域1件であった。月別では1月2件、2・3・11・12月で各1件であった。
無菌性髄膜炎:6件(流行指数0.23)。ここ11年で2000年と並び最小であった。年齢別では乳児と1歳以上5歳未満各1件、5歳以上10歳未満2件、20歳以上25歳未満と30歳以上35歳未満で各1件であった。圏域別では松江圏域2件、出雲圏域4件であった。月別では1月と6月に各2件、7月と12月に各1件であった。
マイコプラズマ肺炎:16件。集計対象が1999年より異型肺炎からマイコプラズマに変わり、報告数はそれまでの129〜987件から5〜106件(平均39.6件)へと大きく減少した。年齢別では乳児2件、1歳以上5歳未満4件、5歳以上10歳未満6件、10歳以上15歳未満2件、20歳代と40歳代が各1件であった。圏域別では出雲圏域14件、松江・雲南圏域が各1件であった。全国的には2003年より衰えることなく流行が続き、2005年は2年前より増している(これはIgM抗体測定キットの普及により診断が容易になったことも関与しているかもしれない)。島根県では2002年以降、漸減しており、西部と隠岐からは2000年以降報告がみられないが、報告もれがあると推定される。
クラミジア肺炎:3件。出雲圏域から7月に乳児1件、9月に5歳以上10歳未満児1件、雲南圏域から10月に60歳以上の1件の報告があった。
成人麻しん:本年は報告がなかった。