感染症 年報
2)インフルエンザ定点把握疾患の流行状況:表4〜12、図1、2、3
1999年(平成11年)4月より15施設の内科定点が加えられ、計38の定点となって3シーズン目となった。
2002年(平成14年)の報告数は2,547件であり、2001年(平成13年)とほぼ同規模であった。
定点数を考慮すると1989年(平成元年)以降で最小規模(2000年の1/3程度)の流行が2シーズン続いたことになる。
この数を1991年(平成3年)以降の10年間の年間平均患者数で除した流行指数も0.43と小さかった。
地区別の報告数は東部500件(流行指数0.31、定点あたり患者数45.5人)、中部921件(0.69、76.8人)、
西部1,088件(0.47、83.7人)、隠岐38件(定点あたり患者数19.0人)であり、流行規模は西部と中部で比較的大きく、
東部と隠岐で小さかった(東部の流行指数は隠岐を含む)。
2次医療圏域別に定点当たり報告数をみると大田圏域(137.3人)、雲南圏域(108.7人)、浜田圏域(90.6人)
の各圏域で多く、出雲圏域が(66.1人)中間位であり、松江圏域(45.5人)、益田圏域(44.6人)、隠岐圏域(19.0人)
の各圏域で少なかった。
流行のパターンをみると、前年12月の患者数は11件のみであり、本年1月より流行が始まった。
ピークは2月であり、全県で1,111件となった。その後急速に減少したが、5月、6月にもなおそれぞれ108件、25件の報告があった。
12月には181件の報告があり、次シーズンの流行が始まった。
年齢層では3歳代が最多(8.0%)であったものの大差無く、各年齢層に分布していた。
1歳未満は3.5%、20歳以上は17.8%、60歳以上は1.8%(46件)であり13年度とほほ同様の分布であった。
流行したウイルス型の主体は昨年同様Aソ連型であった。A香港型は2001年末より検出されたものの散発的に検出されるまま経過し、
4月以降にもなお検出された。B型は2月下旬より散発的に3月下旬まで検出された。
(1)全県的な感染症の流行状況:表1、図1
2002年(平成14年)のインフルエンザも含めた報告患者数は14,311件であった。
ここ11年では最も少なかった昨年に次ぐ第2位の少なさで、流行指数も0.74であった。
本年での患者発生が、最近11年間の平年値より報告の多かった疾患をあげる。まず伝染性紅斑が437件
(流行指数1.47)で、1992年(平成4年)の大流行の1/3程度であるが、1998年(平成10年)、1997年(平成9年)
に次いで多かった。次いで咽頭結膜熱の139件(流行指数1.25)、流行性耳下腺炎1,322件(1.18)、
手足口病1,069件(1.15)であった。流行性耳下腺炎は1999年(平成11年)より比較的多い状態が続いているが、
1989年(平成元年)の大流行の1/3程度である。手足口病は1998年頃より、多い年と少ない年とが交互になっており、
最近では手足口病の少ない年にヘルパンギーナが多くなっている(それ以前はヘルパンギーナは一定して多く報告されていた)。
逆に平年より報告の少なかった疾患をあげると、感染性胃腸炎(流行指数0.89)、水痘(0.88)、突発性発疹(0.76)、
A群溶連菌咽頭炎(0.90)が平年をやや下まわった。百日咳は昨年に続いて1桁の報告数であり、風疹も2000年(平成12年)
より3年連続1桁の報告が続いた。麻疹は1990年(平成2年)に1,243件、1993年(平成5年)に972件の大流行があった後は
比較的少ない状態が続いているが、1桁の報告数になったのは1998年(平成10年)、1999年(平成11年)のみである。
患者数の多かった上位8疾患を図1に示した。本年度の1位は感染性胃腸炎、2位はインフルエンザであったが、
例年この2疾患が1位、2位を占めている。3位は水痘で1999年(平成11年)より引続き位置している。
以下、本年は流行性耳下腺炎、手足口病、突発性発疹、A群溶連菌咽頭炎と続いた。
例年第8位以内のヘルパンギーナに替わって本年は第8位に伝染性紅斑が入った。
(2)地区・圏域別にみた感染症流行状況:表5、6、8、9、10、11、図2
地区別に流行の特徴をみるために、流行指数が1.4を越えた疾患をあげる。
東部では伝染性紅斑が1.45であった。中部では咽頭結膜熱が4.72および流行性耳下腺炎が1.95であった。
西部では伝染性紅斑が1.93および麻疹が1.43であった。
圏域ごとの特色をみるために、疾患毎に定点あたりの報告数が特に多かった圏域をあげる。
咽頭結膜熱は出雲圏域(定点あたり19.4人)で、A群落連菌咽頭炎は雲南圏域(86.5人)と益田圏域(45.0人)で、
感染性胃腸炎は大田圏域(480.0人)と雲南圏域(304.5人)で、手足口病は雲南圏域(75.5人)と出雲圏域(61.2人)で、
ヘルパンギーナは益田圏域(42.3人)で、麻疹は浜田圏域(6.0人)と益田圏域(5.3人)で、
流行性耳下腺炎は雲南圏域(222.0人)で多かった。咽頭結膜熱は出雲圏域が県全体の報告数の70.8%を、
同様に麻疹は浜田圏域と益田圏域で72.3%を、流行性耳下腺炎は出雲圏域以東で80.3%を占めた。
(3)感染症患者月別発生状況:表7、8、9、10、11、図4、5
県全体の月別患者発生報告数は、全疾患では1月から3月に多く(1、2、3月でそれぞれ1,502件、2,251件、
1,523件;全体の36.9%)、7月から10月に少なかった(7、8、9、10月でそれぞれ、789件、574件、416件、465件;全体の15.7%〉。
報告数の多い月と少ない月が比較的明らかにみられる疾患をあげる。A群溶連菌咽頭炎は1月から2月に多く
(最多は2月の102件)、8月から10月に少なかった(最少は9月の6件)。感染性胃腸炎は1月から2月に多く(最多は1月の708件)、
6月から10月に少なかった(最少は9月の173件)。水痘は1月と12月に多く(最多は12月の239件)、7月から10月に少なかった
(最少は9月の34件)。ヘルパンギーナはほぼ4月から9月にかけて発生し、6月から7月に明らかなピークがみられた。
手足口病は前年の冬の小流行がそののまま引き続き(1月は50件)、5月に256件と小さなピークを示してその後漸減し
10月頃より散発的になった。例年、夏に大きな涜行を示すパターンが昨年は変化している。
咽頭結膜熱は前年12月の多発傾向がそのまま7月まで続き(最多は3月の21件)、夏に特に流行することなく8月以降1桁の報告数となった。
流行性耳下腺炎は通年的に報告があり、最多は6月の177件、最少は9月の63件であった。
麻疹は昨年9月より12月まで報告がなかったが、本年1月に1件の報告があった以降、8月まで報告があった。
3月(10件)と5月(12件)に多かった。
地区別・月別にみて、特に目だった流行のみられた疾患をあげる(括弧内ほ定点当たりの該当月の報告数)。
A群溶連菌咽頭炎(定点当たり月平均2.2人)では中部において2月(5.6人)と5月(5.3人)に、
西部こおいて1月(8.0人)と2月(5.8人)に大流行がみられた。感染性胃腸炎(18.6人)では隠岐圏域において2月(55.0人)
に大流行がみられた。伝染性紅斑(1.4人)では中部において4月(4.7人)にやや多かった。ヘルパンギーナの西部における6月の
ピーク(10.5人)は他地区の6月ないし7月のピーク(2.7人〜4.4人)に比べ大きかった。
麻疹は西部において5月(1.4人)の発生は東部、西部の最多が0.1人であるのに比べ大きかった。
(4)定点把握疾患の年齢別患者数の分布:表12
1歳をピークとして報告のみられた疾患は咽頭結膜熱(全報告数に対する該当年齢の報告数の割合は33.0%)、
感染性胃腸炎(同16.3%)、水痘(27.4%)、手足口病(27.1%)、ヘルパンギーナ(29.3%)であった。
流行性耳下腺炎は4歳をピークとしており(17.4%)、A群溶連菌咽頭炎と伝染性紅斑は5歳をピークとしていた
(それぞれ17.0%と16.9%)。
突発性発疹は6ヵ月未満に8.9%、6ヵ月から12月に69.9%、1歳代に18.1%(これらを合わせて96.9%)が発生していた。
百日咳は4件報告があったが、3件は6ヵ月より12ヵ月未満児にみられ、残る1件は1歳代であった。
麻疹は47件中7件(14.9%)が1歳未満であり、1歳代が9件(19.1%)あった。ワクチン接種の至適年齢の過ぎた
2歳から9歳の小児が21件(44.7%)あり、10歳代が6件(12.8%)、20歳以上が4件(8.5%)報告された。
(5)感染症流行状況の経年的変動:表4、5
1982年(昭和57年)より始まった感染症サーベイランス以来21年間のデータが蓄積された。
麻疹は1982年(昭和57年)、1990年(平成2年)、1993年(平成5年)に大流行がみられたが、全体としては減少傾向が
認められる。特に1998年(平成10年)、1999年(平成11年)と1桁の報告数であったが、2000年(平成12年)より3年続けて
2桁になった。2000年、2001年は中部地区を主とし、2002年は西部を主として流行した。
最近の地域的な流行は全国的な傾向でもある。年齢別患者数の分布をみても、1歳早期での予防接種の徹底が急務と考えられる。
また、自然感染ではなく、予防接種を受けた女性が母親になっていくことおよび、麻疹患者に接することがなくなり
保有抗体のブースター効果による上昇がみられなくなることから、母親から児への移行抗体が少なくなることが
予想されている。接種時期を乳児期に早めることの検討も必要であろう。10歳以上の患者は2000年は10件(13%)、
2001年は21件(22%)、2002年は10件(21.3%)と多かった。思春期等における2度目の接種も検討が必要であろう。
風疹は1992年(平成4年)の特異な大流行の後は、島根県では散発が続いている。1997年(平成9年)は全国的には
かなりの流行がみられた。5年毎の流行がいわれているが、2002年は全国的にもごく散発的であった。
予防接種は、流行そのものを抑制すべく1995年(平成7年)より年少児に男女の接種がおこなわれており、その効果が
現われているのであろう。
流行性耳下腺炎はこれまで1985年(昭和60年)と1986年(昭和61年)、1988年(昭和63年)から1990年(平成2年)、
及び1993年(平成5年)から1996年(平成8年)が流行年であった。1999年(平成11年)よりまた流行年になったが、
1999年は東部で、2000年と2001年は西部で、2002年は中部(雲南圏域)で流行した。全国的には1999年と2000年は少なく、
2001年1月より1年を通して流行が続き、2002年8月頃より漸減してきている。本疾患は3〜4年周期で大きく増減する
傾向にあるとされており、今後も注意が必要である。
百日咳は1984年(昭和59年)以降著減した。さらに1989年(平成元年)以降は1991年(平成3年)に報告数が152件
となったのみで2桁の報告が続いていた。さらに2001年(平成13年)8件、2002年(平成14年)4件と、2年続けて1桁となった。
全県的に3種混合ワクチンの接種を早める努力が続けられいるが、ゆるむことなくその努力を続けていただきたい。
また、特に集団保育児にはできるだけ早期の接種を望みたい。
他疾患については疾患別患者発生状況を参照していただきたい。
(1)急性出血性結膜炎
1992年(平成4年)に県西部を中心に100件を越える大きな流行があり、その後1995年
(平成7年)並びに1996年(平成8年)にやはり西部を中心に30件前後のやや小規模な流行をみたが、1997年(平成9年)
以降は全県で2〜4件の散発的な報告をみるのみで推移しており、2002年(平成14年)も全県で2件の報告のみであった。
(2)流行性角結膜炎
1996年(平成8年)以前は全県で200件を越える報告数があったが、1997年(平成9年)以降は、
100件台で漸減しながら推移していた。2001年(平成13年)は98件と過去10年間で最低の報告数であったが、
本年はそれをさらに下回って71件の報告数であった。月別発生動向は、10月に全県で0であった他は、年間を通して4〜8件の
報告数であった。年齢別では、80歳以下の各20歳区分では全て10〜20件の報告であり、特徴的な差違を認めなかったが、
80歳を越える年齢では、報告数は0であった。
5)基幹定点把握疾患の発生状況(週報):表4〜12、15、図7,10
急性脳炎は8月に出雲圏域で乳児の1件があった。
細菌性髄膜炎は5月に出雲圏域で乳児の1件があった。
無菌性髄膜炎は33件と1999年(平成11年)以来の多発がみられ、流行指数は1.22であった。いずれも出雲圏域以東でみられ、
松江圏域で27件、雲南圏域で1件、出雲圏域で5件であった。発生は1、2、4月を除くいずれの月でもみられ、
6月から8月の3ヵ月間に64.3%が集中した。年齢は乳児が6件、1歳より10歳未満が17件、10歳〜25歳未満が10件であった。
マイコプラズマ肺炎は75件であり、昨年の報告数の75.5%であった。報告があったのは出雲圏域以東のみで、松江圏域
(33件)と雲南圏域(37件)で多かった(2001年(平成13年)は松江圏域29件、雲南圏域73件)。
報告数は2001年秋の流行ピークの後しだいに減少し、2002年はかなり減ったものの、増減を繰り返しながら月5件前後で
12月まで報告が続いた。
クラミジア肺炎は松江圏域で9月に1歳〜5歳未満の1件のみが報告された。
成人麻疹の報告はなかった。(但し、小児科定点では20〜30歳代に4名の報告があった)。