感染症 年報
2)インフルエンザ定点感染症の流行状況:表4〜12 図1、2、3
1999年4月より15施設の内科定点が加えられ、計38の定点となって4シーズン目となった。2003年の報告数は9,764件
(定点当り256.9人)であり、新たな定点数となってから突出して多かった。定点数の増加を考慮しても1993年以降で1995年
(定点当り297.9人)と匹敵する大きな流行であった。とりわけ2001年、2002年が最小規模の流行であったこともあり印象的
であった。この数を1993年以降の10年間の年間平均患者数で除した流行指数は1.91と大きかった。
地区別の報告数は東部2,441件(流行指数1.82、定点当り患者数221.9人)、中部3,236件(2.43、269.7人)、西部3,733件
(1.69、287.2人)、隠岐354件(定点当り患者数177.0人)であり、流行規模は全地区で昨年を大きく上回った。
2次医療圏域別に定点当たり報告数をみると雲南(372.7人)、大田(362.7人)、益田(275.0人)、浜田(254.0人)、
出雲(235.3人)、松江(221.9)、隠岐(177.0人)の順に多かったが、圏域差は比較的小さかった。
流行のパターンをみると、週毎の定点当り報告数が1以上となったのは前年の2002年からで、出雲圏域で第50週、益田圏域
で第51週、そして第52週には全圏域で1以上(全体で2.89)となった。ピークはいずれの地区でも1月にあり、1月中の
報告数は全県で4,854件と全報告数の49.7%を占めた。2月は全県で2,423件と半減したが、中部での2月の報告件数は1月
の71.6%にとどまり、減少傾向は緩やかであった。3月は1,070件と全体の11.0%にまで減少したが、東部が3月の報告の
38.2%を占め多かった。4月には全県で146件(1.5%)とほぼ終息したが、西部ではやや尾を引いた。5月は西部で14件が
報告されたが、6月には県下での報告はなくなり、昨年に比べ終息は速やかであった。2003/2004シーズンは、2003年12月末
においても流行は始まっていない。
年齢層では1歳代が最多(8.3%)であり、4歳以下に報告数が多かった。1歳未満347件(3.5%)、20歳以上2058件(21.1%)
と昨年と比べ実数は大きく増加したものの、全体に対する割合は昨年とほぼ同様であった。60歳以上は383件(3.9%)と実数、
割合とも昨年の46件(1.8%)を大きく上回った(80歳以上でみても85件あった)。
流行したウイルスの型は当初はA香港型(AH3)で、2月下旬以降はB型が主となり、3月下旬以降はB型のみとなった。
ちなみに1999年以降B型を含めて2〜3種類が時期をずらしながら流行しているが、2000年はA香港型(AH3)とソ連型(AH1)の
混合、2001年と2002年はソ連型が流行の主体であった(表21.年次別ウイルスの推移参照)。
(1)全県的な感染症の流行状況:表1、図1
2003年のインフルエンザも含めた総報告患者数は21,514件であった。1999年より実施要領が改正され成人のインフルエンザ
が加わったことを考慮しても、本年は過去11年間で2番目に多く、流行指数も1.20であった。
−本年の患者発生報告が、過去11年間の平年値より多かった疾患−
手足口病:1,651件(流行指数1.77)とここ11年間で1995年、1998年に次いで多かった。
ヘルパンギーナ:1,105件(流行指数1.67)で1992年以来の大きな流行であった。なお、ヘルパンギーは1992年まで
毎年1,000件を越える報告が続いていたが、その後は流行年と非流行年がみられるようになった。また、手足口病とヘルパンギーナ
の両者が共に大流行を示したのは1992年以来のこととなる。
咽頭結膜熱:162件(流行指数1.38)で最近では1998年、1994年に次ぐ流行であった。なお、島根県では大きな流行となら
なかったが、全国的にはここ10年間で最大の流行となっている。
−例年並みの報告数であった疾患−
発生件数の多い順に、感染性胃腸炎、5,398件(流行指数0.95)、水痘、1,604件(0.87)、突発性発しん、770件(0.85)、
A群溶連菌咽頭炎、509件(0.82)であった。
− 例年より報告数の下回った疾患−
伝染性紅斑:40件(流行指数0.18)で1997年、1998年の流行の後、昨年も流行年となったが1年で落ち着いた。
百日咳:4件(0.14)で2001年より1桁が続いている。
風しん:5件(0.07)で2000年より1桁の発生数が続いている。
麻しん:5件(0.03)であった。麻しんは1998年、1999年と全体で1桁であった後、2000年に主に中部、2001年に
主に中部と東部、2002年に主に西部で流行している。
流行性耳下腺炎:369件(0.30)で、過去11年間では1997年と1998年が報告数の少ない年であったが、本年はさらに
最少であった。
患者数の多かった上位8疾患を図1に示した。本年度の1位はインフルエンザ、2位は感染性胃腸炎であった。例年この
2疾患がほぼ交互に1位、2位を占めている。3位には例年は水痘が入るが本年は大きな流行となった手足口病が入った。
流行周期の少ない疾患として突発性発しんがあげられるが、この他に年間患者数の変動が少ない疾患として水痘、感染性胃腸炎
があげられる。
(2)地区・圏域別にみた感染症流行状況:表5、6、8、9、10、11、図2
−各地区での流行指数上位3疾患−
東部(隠岐を含む):手足口病(1.73)、ヘルパンギーナ(1.32)、A群溶連菌咽頭炎(1.27)。
中部:ヘルパンギーナ(1.70)、咽頭結膜熱(1.58)、手足口病(1.36)。
西部:咽頭結膜熱(3.59)、手足口病(2.29)、ヘルパンギーナ(1.91)。
本年の特徴は、「各地区でインフルエンザが大流行したと共に、手足口病とヘルパンギーナの両者が流行し、さらに東部では
A群溶連菌咽頭炎(中部と西部の流行指数はともに1.0以下)が、また、西部と中部では咽頭結膜熱(東部での流行指数は0.36)
が流行した」といえる。
東西に細長い地理的特徴として、それぞれの隣接する地区の影響を受けながら疾患が波及している。
−定点あたりの報告数が特に多かった疾患の圏域比較−
咽頭結膜熱:益田圏域(定点当り17.7人)と出雲圏域(9.0人)で多く、他の圏域では定点当り3.0人以下であった。
昨年は出雲圏域(19.4人)の報告が多く全県の70%あまりを占め、益田圏域(0人)の報告がなかったため、流行地域が移動している
ことがうかがわれる。
A群溶連菌咽頭炎:雲南圏域(44.0人)と隠岐圏域(36.0人)で多かったが、大田圏域(4.5人)をはじめとする西部で
少なく、地域差が目立った。
感染性胃腸炎:大田圏域(517.0人)と雲南圏域(370.5人)が多かった。昨年も両地区とも報告数が多く、特に大田圏域
では過去5年間とも定点当り500人前後の報告がある。
水痘:益田圏域(115.7人)で多かった。
手足口病:全体に多かったが、特に大田圏域(107.5人)と益田圏域(102.0人)で目だった。
ヘルパンギーナ:各圏域とも一様に多かった。
(3)感染症患者月別発生状況:表7、8、9、10、11、図4、5
月別にみた県全体の全疾患の患者発生報告数は、1月(5,622件)、2月(3,324件)、3月(2209件)に多く、年間の57.8%を占めた。
次いで6、7、12月にも1000件を越える報告数があった。
1月から3月の間で最も多い疾患はインフルエンザであり、ヘルパンギーナ、手足口病の多発した6月(1,169件)、7月(1,502件)
と感染性胃腸炎が増加した12月(1,307件)の報告数が多い。
報告数が600件以下と少なかった月は9月(493件)と10月(485件)であった。これは例年と同様の傾向で、2001年と2002年
にはともに8、9、10月が600件以下であった。
−流行に季節性のみられる疾患(月別報告件数は1か月4週換算)−
A群溶連菌咽頭炎:11月(68件)と12月(65件)に多く、9月(16件)に少なかった。地区別では、東部は5、6、10、
11、12月に、西部では1、2、3月にやや多いが、中部では11月(46件)と12月(36件)に特に多かった。
感染性胃腸炎:冬期に多く、3月(868件)と12月(917件)にピークがみられ、、7月〜9月の夏期に少なくなる。
水痘:冬期の1月(175件)と12月(210件)、および春期の5月(177件)に多く、夏期の8月(78件)と9月(52件)
に少なかった。
手足口病:6月(378件)、7月(656件)、8月(207件)に山があり、この3ヵ月間に年間の報告数の84.3%が集中
している。地区別では、東部で6月(116件)と7月(180件)、中部で6月(94件)、7月(176件)、8月(90件)、西部で
6月(168件)と7月(292件)に集中して流行した。
ヘルパンギーナ:夏期の代表的な感染症であり、6月(262件)、7月(459件)、8月(118件)に山があり、この
3ヵ月間に年間の報告数の85.8%が集中した。地区別では、東部で6月(52件)、7月(81件)、中部で6月(141件)、
7月(120件)、西部で7月(252件)に集中して流行した。
(4)定点把握疾患の年齢別患者数の分布:表12
1歳代がピークを示した疾患は、インフルエンザ、咽頭結膜熱、感染性胃腸炎、水痘、手足口病、ヘルパンギーナで多く、
いづれも季節性がみられるが経年変動の比較的少ない疾患であった。他の年齢で最多であったのは、比較的流行年周期の
みられるA群溶連菌咽頭炎が4歳(17.0%)、流行性耳下腺炎が4歳(15.4%)であった。突発性発しんは6か月未満8.0%、
12か月未満66.1%、1歳22.7%で、1歳以下で報告全体の96.8%を占めている。百日咳は4件の報告があったがいずれも
6ヵ月未満児であった。麻しんは5件のみであり、乳児が1件、1歳代が3件、成人が1件であった。
(5)感染症流行状況の経年的変動:表4、5
感染症サーベイランスは1982年(昭和57年)に開始され、以来22年間のデータが蓄積され、長期の流行変動が追える
ようになった。
麻しん:1982年(1,759件)、1990年(1,243件)、1993年(972件)に大流行がみられたが、1994年以後は105件以下で推移している。
特に1998年、1999年と1桁の報告数であった。しかし、2000年(76件)、2001年(97件)には東.中部で、2002年(47件)には
西部を中心に流行した。2000年からの麻しんの流行は全国的にみられ、この流行が島根県にも波及したものであるが、2003年は
隣接する鳥取県あるいは西日本各地で流行したが、幸いにも県内での流行にいたらなかった。予防接種法でもこれまで24か月
までに接種を済ませることとされていたのが、標準接種年齢が生後12か月から15か月までの間に変更になった(2003年11月28日
改正、2004年1月1日施行)。WHOにより世界的に推し進められている、麻しんの地球上からの根絶に向けての進展が期待される。
今後、我が国でも、3歳健診時あるいは小学校就学前の接種もれのチェック態勢の確立が望まれ、接種を受けるよう指導と接種機会
の確保に努めることとされている。また、自然感染に比べ抗体価レベルの低い予防接種を受けた女性が母親になっていくこと、
および麻しん患者に接する機会が少なくなり保有抗体のブースター効果による上昇がみられなくなることから、母親から児への
移行抗体が少なくなることが予想されている。接種開始時期を乳児期に早めることの検討も必要であろう。また、10歳以上の
患者は2000年は10件(麻しん報告患者の13%)、2001年は21件(22%)、2002年は10件(21.3%)にみられ、抗体の消失も
考えられることから、多くの先進国で既に行われている思春期等における2度目の接種も検討が必要であろう。
風しん:1992年の特異的な大流行(5,167件)の後の1993年から1999年までは320〜42件の発生となり、さらに2000年以降は
2003年まで1桁の件数が続いている(全国的には1997年に流行がみられた)。予防接種は、1995年より流行を抑制すべく年
少児男女の接種となり、その効果が現われているのかもしれない。
流行性耳下腺炎:これまで1985年〜1886年、1988年〜1990年、1993年〜1996年および1999年〜2002年が流行年であった。
2〜4年間の流行年が続いた後、1〜2年の非流行年を挟んでいる。ただし、1999〜2002年の同じ流行期内でも1999年は
東部で、2000年と2001年は西部で、2002年は中部(雲南圏域)で流行し、その地区・圏域内を移動しながら流行が拡大している。
全国的には1999年と2000年は少なく、2001年1月より1年を通して流行が続き、2002年8月頃より漸減してきている。
百日咳:1984年以降著減した。1989年以降は1991年に152件の報告がみられるが、その後2桁の報告が続くようになり、
さらに2001年以降2003年まで3年間続けて1桁となった。全県的に3種混合ワクチンの接種を乳児期に開始する努力が
続けられいるが、ゆるむことなく続けていただきたい。
(1)急性出血性結膜炎
過去10年間の前半(1993年から1997年)は全県的にかなりの報告数があり、特に西部地区で1996年、1997年に2桁台の報告
があったが、後半(1998年から2002年)は1998年に西部地区で12件の報告があった以外は全県でも1〜4件が散発的に報告
される程度で推移している。特に県東部では1997年以降は報告がない。本年は、西部地区で8月、6歳児1件の報告があった
のみである。
(2)流行性角結膜炎
2000年には、全県で112件の報告があったのちは2001年98件、2002年71件と減少傾向にあり、本年も全県で82件の報告数
であった。本年は東部地区で年間を通じて若干の増加がみられている。月別では2月を除いて毎月報告件があり、7月に
例外的な減少があったものの、夏期に多発の傾向が見られた。年齢別では10歳から79歳までが82件中78件を占め、20歳から
39歳までが33件で最多であり、9歳以下は4件を数えるのみであった。
5)基幹定点把握疾患の発生状況(週報):表4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、図7
急性脳炎は本年は報告がなかった。なお、急性脳炎は法改正により11月5日より五類全数把握疾患に変更された。
細菌性髄膜炎は6件報告され、1999年以降で最多であった。40歳代の1名の他は2歳未満である。地区は東部4件、中部2件
である。
無菌性髄膜炎は14件と比較的少なく、流行指数は0.51であった(ここ11年間の平均は26.4件)。松江圏域で10件、出雲圏域で
4件であった。8月に4件、9月に3件の他は通年に弧発した。年齢は乳児が2件、1歳以上5歳未満が6件、5歳以上10未満が
4件、10歳以上15歳未満が1件であった。
マイコプラズマ肺炎は25件報告された。2001年(平成13年)は106件、2002年(平成14年)は75件であり漸減している。全国的には
本年は流行年で特に岡山県で流行した。圏域別では松江圏域21件、出雲圏域4件で2001年、2002年に流行した雲南圏域からは
本年は報告はなかった。年齢別では1歳以上5歳未満10件、5歳以上10歳未満6件、10歳以上15歳未満7件、成人2件であった。
本年度中に抗マイコプラズマIgM抗体を迅速診断するキットが使用されるようなり、今後、このことによる診断件数の増加を加味
して判断する必要があるであろう。
クラミジア肺炎と成人麻しんは報告がなかった(但し、成人麻しんは小児科定点では1件報告されている)。