トップ > 医療・福祉 > 薬事・衛生・感染症 > 感染症 > 感染症情報トップ > 疾患別
感染症情報トップ
対象疾患一覧
疾患別
カレンダー
感染症 週報
グラフ一覧

風しん
対象疾患一覧県報告数と届出基準全国報告数風しん情報
島根保環研所報 第52号(2010) 掲載

島根県における風しんの抗体保有状況について

1.はじめに
 風しんは、感染力及び発症した場合の臨床症状も、麻しんほど強くはなく、不顕性感染が1割から3割認められる。 しかしながら、妊婦が妊娠初期に感染した場合の新生児の「先天性風しん症候群」が問題となり、定期予防接種に組み入れられ、 当初(1977年)は、中学生女子のみが接種対象となった。
 その後、平成6年の法改正により対象年齢が生後12か月以上90か月未満の男女が対象となり、平成18年には、 生後12か月以上24か月未満(第1期)と、小学校就学前の1年(第2期)の2回接種となり、さらに、 平成20年度からの5年間に限定して、中学1年生(第3期)と高校3年生(第4期)に相当する年齢の人へのMRワクチン接種が追加されるなど、 接種対象年齢、回数が大きく変遷してきている。
表1と図1  今後は、定期予防接種2回接種世代の増加により風しん患者の発生は漸減していくと予想されるが、当分の間、 定期接種1回対象者及び平成6年の法改正による経過措置対象者、定期接種対象外世代の者の中には感受性者が存在し、 その集団内での感染拡大のリスクは残されたままであると考えられる。 今回、風しんの抗体保有状況を年齢区分及び制度による区分別に把握したので報告する。
2.調査内容及び方法
 平成21年、県内の医療系専門学校生徒・職員及び高等学校の教諭・職員に対し、同意を得た後、アンケート調査 (予防接種歴の有無、接種年齢等)及び採血を行い、平成22年、同様な方法で、県内の事業所職員に対し調査を行った、 風しん抗体価を、デンカ生研株式会社製の『風疹ウイルス抗体キット R-HI「生研」』の説明書に記載された方法により測定し、 抗体価8倍未満を"陰性"、8倍以上32倍未満を"陽性(抗体不十分)"、32倍以上を"陽性"と判定した。抗体が"陰性" または"陽性(抗体不十分)"の者は、感染の可能性がある「感受性者」とした。
 なお、調査開始前に、倫理上の配慮として、個人情報の取り扱いを含め調査内容及び方法について、 島根県保健環境科学研究所倫理審査委員会において承認を得ている。
3.調査結果及び考察
3.1 性別年齢区分別HI抗体価の状況
 県内の専門学校生徒・職員127名および高等学校教諭・職員111名、事業所職員645名、合計883名から調査への協力を得た。 性別年齢区分別のHI抗体価の状況は、表1のとおりである。
 予防接種法による対象が女性のみの期間があったり、女性では先天性風しん症候群の予防のための任意予防接種が勧奨されていたため、 男女で陰性者の割合が大きく異なっていた。
3.2 年齢区分別抗体保有状況の全国調査との比較
 毎年、国は、"感染症流行予測調査事業"として、全国で数十箇所の地区で抗体価の測定を行っている。 同様の検査方法で島根県の抗体検査を実施しており、今回2009年におこなわれた全国の調査結果を2010年の年齢区分に合わせ比較してみた。(図1)
 男性では、18-29歳までは、全国より感受性者が少ないが、30歳代では、全国に比して感受性者が多かった。 (30-34歳:p<0.01で全国と有意差有)30歳代は定期予防接種の対象者ではなかったため、自然感染の機会が少なかったと推察される。 男性40-45歳では感受性者及び陰性者の割合が全国並みとなっている。約40年前の1970年代の風しんの発生状況は資料として把握できないが、 1977年から予防接種が開始されたことからも、その背景に、全国規模の風しんの流行があったのではないかと想像できる。
 女性では、25歳以上で全国に比して感受性者が少なかった。しかしながら、20-24歳で全国に比して感受性者が多く、 約3割が感受性者であった(女性は全国と比較して、全て有意差なし)。
図2
3.3 予防接種制度対象区分別の状況
 定期予防接種の対象区分ごとに、陰性者と抗体不十分者の割合をみてみると(図2)、定期予防接種の対象になっていなかった。 31歳以上の男性では3人に1人が感受性者であった。予防接種制度の無かった47歳以上の男女差も大きかったことから、 女性はかなりの人が任意で予防接種を受けていたことが推察された。
 "全員接種(20-22歳:1987年10月2日〜1991年4月1日生まれ)"と、"経過措置(22-30歳:1979年4月2日〜1987年10月1日生まれ) "世代では、男女とも接種対象者となっている。この、"全員対象"と"経過措置対象者"の世代では、前者が幼児期、 後者は中学生時期で対象と、接種時期が大きく異なっており、この差が、感受性者率に大きく影響していると推察される。 幼児期に接種した者は接種後の経過年数も長く、また、ほとんどが予防接種による免疫獲得であるのに対し、中学生時期に接種した者は、 経過年数が短いことと、さらに、風しんの好発年齢の幼児期を経てからの接種となるため、中には、幼児期に不顕性感染により免疫を獲得し、 予防接種でブースター効果がかかった可能性も示唆される。
 特に、女性では、"全員対象"世代の感受性者率が、他の予防接種対象となった世代の中で、一番高かった。
4.まとめ
 島根県では、1992年以降、風しんの流行はおこっていない。2000年以降は、1桁の報告にとどまっている。 風しんは2008年から全数報告対象疾患となったが、2008年4例、2009年1例の報告と非常に少ない状況である1)
 抗体保有状況の全国との比較では、島根県では、男性で30-39歳、女性で20-24歳の感受性者率が高かった。
 全国的に"経過措置"世代では女性の約20%、男性の約25%が予防接種を受けていないことが課題としてあった2)。 また、予防接種率が低いことに併せ、女性では抗体保有率が低かったという報告もある2)
 今回の島根県の調査でも、感受性者率が、女性の30歳代2.7%(3/110)に対し、"経過措置"世代は12.0%(18/150)と高率であった。 しかしながら、"全員対象"世代では、31.7%(32/101)とさらに高率で、優先的に対策を講じる必要があると思われる。
 風しんの好発年齢前の幼児での接種は流行阻止に効果があるが、更なる流行阻止のため30歳代男性に、また、特に、 "先天性風しん症候群"を予防する意味で、全員対象世代(20-22歳:1987年10月2日〜1991年4月1日生まれ) の女性には、 追加の任意予防接種を勧奨する必要がある。
参考文献
1)島根県感染症情報センター:http://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/dis/zensu/515.htm
2)20-39歳女性の年齢別風疹抗体保有状況、1999-2007年:伴 文彦 他 感染症学雑誌,83、386(2009)
風しん情報
麻しん情報

島根県感染症情報センター