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第5回宍道湖・中海と賢明な利用を語る会

ラムサール条約登録と宍道湖中海でのエコツアーの可能性について考える

2006(平成18)年度3回シリーズの第3回目(通算5回目)の「賢明な利用を語る会」を、平成19年2月3日(土)にホテル白鳥(松江市)にて開催しました。

 今回は「賢明な利用」の中でも、両湖の自然環境や資源を活用した「エコツアー」の可能性について、主催する立場や受け入れ側、ガイドをする立場など、各方面の方にご発表いただいた後、意見交換などを行いましたのでその概要をご報告いたします。

1.主催:島根県、県立宍道湖自然館ゴビウス、ホシザキグリーン財団

2.日時:平成19年2月3日(土)午後1時30分〜午後4時

3.参加者数:約60名

4.会場:ホテル白鳥(松江市千鳥町)

5.次第

(1)開会挨拶島根県環境生活部次長三代広昭

(2)事例発表

(3)参加者と発表者による意見交換、座談会

まつえ市民環境大学村/環境カウンセラー石原孝子氏

宍道湖でのエコクルーズのとりくみ

NPO法人まちづくりネットワーク島根理事/(株)M環境設計室長松本修宗氏

宍道湖でのエコツーリズムの可能性について

ひろでん中国新聞旅行(株)取締役/広島県観光アドバイザー有田隆司氏

エコツーリズムの取組に対するアドバイス

島根県商工労働部観光振興課主幹河原賢氏

今後のエコツーリズムの取組について

 

6.概要

世界湿地の日ステッカー

 

 開会に先立ち、島根県環境生活部次長が開会のあいさつの中で、ラムサール条約登録一周年を迎えたことや、「世界湿地の日」(2月2日)の取組み等について紹介し、その後、4名の発表者の方に事例発表をいただいた後、参加者と発表者による座談会(意見交換)を行いました。

 

 最初の発表は「まつえ市民環境大学村」副会長で、環境カウンセラーでもある石原孝子氏より、宍道湖でのエコクルーズの取り組みについて紹介していただきました。石原氏(以下、内容抜粋)

 当初エコクルーズは松江しんじ湖温泉の旅館組合の有志で立ち上げた企画で、その立ち上げにあたっては、宍道湖沿線にさまざまな観光地ができたにもかかわらず、温泉街の利用者数が思うようにのびなかったことがきっかけとなり、宿泊してもらうためには朝か夜遅くの企画を立ち上げる必要があるとの発想からはじまりました。しかしながら旅館組合だけで続けていくのはなかなか大変である上、エコクルーズは環境的な側面が強いことから、「まつえ市民環境大学村」が2年目から関わることになりました。

 現在20名程度が2人1組になってガイドにあたっており、旅館組合が観光客中心、大学村が地元住民を対象にプログラムを実施しています。宍道湖の環境の話は特別なことではなく、観光客も自分の家に帰れば切っても切れない水との関係がある。そのようなときに思い出してもらえる話を中心に展開しています。

 また、エコクルーズ以外にもキャンドルナイトの取組みを2年前から実施しており、昨年はラムサール条約登録を記念してハクチョウをキャンドルで象りました。キャンドルナイトの取組みは二酸化炭素削減の環境的な側面が強いように見えるが、今年は松江市との共催で松江城開府400年を記念したイベントになることが決まっています。このような環境活動は観光振興の上でも大きなヒントになると感じているので、今後も私たち市民と行政、そして民間が協力することにより、環境と観光を結びつけた活動を展開したいと、市民団体の立場から様々なアイデアを語られ、これからの取組にも意欲をみせておられました。

 

 続いてNPO法人まちづくりネットワーク島根の松本氏より、宍道湖でのエコツアーの可能性について発表がありました。

 「まちづくりネットワーク」では、嫁が島を中心とした活動、今春完成予定の夕日スポットの有効活用、そして今年度初めて行った大橋側カヌーツーリングなどを展開しており、それぞれの活動紹介と参加者の反応についてお話しいただきました。(以下、内容抜粋)

松本氏嫁が島にまつわるイベントとしては、「嫁が島に歩いて渡ろう」という企画があり、年々参加者が増えています。この企画ではおよそ200メートルをみんなで歩いて嫁が島まで渡り、湖の水にじかにつかることで、宍道湖の水質を実際に感じてもらい、環境について関心を持ってもらうことを目的としています。また、嫁が島の景観を維持するために保全管理活動も展開しています。この活動も毎回参加人数が増えており、人々の環境に対する意識の高まりを感じています。そして、この活動が認められ、平成17年にはしまね景観賞を受賞しました。

 その他では、今春完成予定の「夕日スポット」の有効活用にかかる試験も実施しており、「嫁が島の夜間ライトアップ」やスポットでの「夕日コンサート」などを実施し、参加者から高い評価を得ました。昨年秋には、環境省からの助成事業で、大橋川と中州を利用した「カヌーツーリング」の企画も実施しました。この事業は、湖沼の水質保全が目的で、中州と剣先川の約2キロをカヌーに乗ってヨシ原を巡ったり、生物の生息環境を実際に自分の目で見るもので、地域住民による湖沼環境保全活動が定着するきっかけになればと思っています。

 このような一連の活動をとおして、宍道湖に対する関心が高まり、環境や景観の大切さを知るきっかけになると思っています。またそれが宍道湖や水辺環境に親しみ、愛着を感じ、環境を大切に思う心が目覚め、環境保全活動の定着や発展につながり、流域ごとでの活動の取組みを連携させ、ネットワークを築くことで独自性のあるエコツーリングの継続が可能になるのではないかと感じています。地域ごとの特徴はすぐには見つかりにくいが、地域住民と一体となった取組みで時間をかければ可能になると感じていると締めくくられました。

続いて、広島県にある「ひろでん中国新聞旅行株式会社」の有田氏より、エコツーリズム展開に際してのアドバイスという題材で、実践例や取組みのポイントについて発表いただきました。

 まず、有田氏は、エコツーリズムという言葉の概念を整理すると、持続可能な勉強をするための旅行であると説明されました。これに類するものとして、「グリーンツーリズム」や「ヘリテッジツーリズム※」があり、エコツーリズムの実際において特に着目する点として4点をあげて説明がありました。(以下、内容抜粋)

 1点目は、企画立案について、「みどりの日」や「文化財保護デー」などの自然観光資源にか有田氏かる年中行事を利用した設定があります。旅行商品として成功している地域では、このような行事等も見逃さずに設定されています。

 2点目は、このようなツーリズムを展開するには、案内をする人材の育成が不可欠である。さらに、ツーリズムを成功させるには、専門的な話だけではなく、その地域の先生としてさまざまなことに対応できる柔軟さが必要となることが必要です。これは、質問に対してすべて答えるという意味ではなく、分からないことは仲間に尋ね、あるいは後日回答をするなどの「ホスピタリティ」(丁重にもてなすこと)が必要ということです。

 3点目は、食事やお土産の部分について、受け入れる土地から発信することが基本であること。従来のお土産物店への立ち寄りではなく、お客様が満足し、その土地を感じることのできるものがエコツアーには大切である。

 4点目は、受け地の収入を確保すること。いつまでもボランティアだけでは人が育たないし、何より続けていくことが難しい。そのためには近隣を問わず「応援団」ができるように活動することがポイントとなります。つまり、地元の人が地元の自慢をすることが何よりの早道だと考えています。

 最後に今後の課題として、これらのツーリズムとは、爆発的に人気がでるような旅行商品ではないことをまず認識し、スロースターターとして継続していくことが大切であると考えています。派手なパンフレットの掲載よりもお客様同士の口コミなど、従来の旅行代理店へのプレゼンテーションではなく、消費者へ直接プレゼンテーションするような意識に変革することが必要です。そして何よりも「ホスピタリティ」というおもてなしの気持ちを用意することが重要であると強調されました。

※ヘリテッジとは遺産という意味があります

 

 最後に島根県観光振興課の河原氏より、現在の観光市場の動きと島根県の観光振興の取組み方針について説明がありました。(以下、内容抜粋)

 まず、観光市場の取組みについては、経済市場とともに成熟期に入りつつあります。つまり、消費者のニーズが多様化し、それぞれにあわせた臨機応変な対応ができることが今後の市場での生き残りにかかってくるということです。エ河原氏コツーリズムについて言えば、長期滞在型が可能であるかどうか、地域資源の有効活用がなされているか、着地型の旅行商品企画であるかどうか、等が検討項目となり、これらの問題をクリアするためには「ランドオペレート機能」が重要になってきます。つまり、お客様に商品を提供するには「安定的で持続可能な」かたちで、毎日とは言わないが通年ベースで数年サービスをし続けるしくみが必要で、それはすなわち商品として有料であり、有料の質を維持していくことが不可欠ですが、そのためにはある程度の組織が必要になります。現在、法改正が検討されていますが、NPOなどの新しい組織も活用しながら、既存の行政をうまく利用して進めることが重要です。

 今年度島根県では、エコツーリズムの試験的取組みや素材調査を行っており、その一環として東京の旅行代理店と連携してバードウォッチング等を企画運営を実施しました。その中で、さまざまな成果も上がってきていますが、今後エコツアーを展開するにあたり、地域に於ける素材や商品を安定的に提供できる組織作りが大切だと感じています。来年度以降はその点について力を入れていきたいと思っている、と継続的に取り組む姿勢を強調されました。


座談会(要約)

座談会の様子

 

 発表に続いては、座談会が行われました。座談会ではまず石原氏と松本氏より、現在の取り組みについて感じている課題点についてより詳しく説明がありました。

 松本氏からは、ひとづくりや組織づくりの点から話題提供され、「嫁が島の保全活動では、言ってみれば肉体労働の側面が大きく、また費用も自己負担になるのでなかなか若い人が集まりにくかった。しかし年配の方にも呼びかけたところ参加が徐々に広がり今は年代を超えた交流の場に育っている。このようなネットワークづくりが自分たちの仕事であるような印象を持っている」とのことだった。

 一方石原氏からは、エコクルーズの年間対応の実績やそれにかかる経費ついて「エコクルーズは特に7月、9月は人の入り込みが見込めず、場合によっては1名のお客様のために船を動かさなくてはならないこともあり、当然ガイドとなるメンバーは完全な無償ボランティアである」という現状を説明されました。

 このことについて県の河原氏からは、「県としては補助金等の助成については、今すぐに対応できるかどうかは分からないが、エコクルーズ単体では赤字かもしれないが、地域全体でみればどこかで収支が合うかもしれない。エコツーリズムを考える際にはそのような包括的な視点が大切だと思っている。しかしながら今の赤字という現状についても解消しなければ、このような取組みは続かないことも理解する」とのコメントでした。座談会の様子

 また、有田氏からは、「エコクルーズに限って言えば販売方法に検討の余地がある。従来の方法は、サービスする側がお客様に直接販売しているため、さまざまな制約が発生する。これを企画として成立させ、旅行代理店等に委託することで安定的な運営が可能となる。繁忙期の収入を閑散期に補填し、また閑散期を新米ガイドの研修やモニターツアー等に当てれば、新たな収入源として確保することも可能となる。そのようなしくみの利用も必要ではないか」とのアドバイスがありました。また、「旅行産業は間接経費も入れると今や50兆円産業と言われている。国内どこを見てもこれほどの規模を誇るものはなく、旅行の閑散期に安いインフラを利用してモニターツアーなどの回数をこなし、新企画を試験的に実施することで、ツーリズムにおいて最も大切なホスピタリティ(おもてなしの気持ち)を養うことが重要である」と続けられました。

 会場からの質問や意見もあり、「このような環境を意識した活動は最初から善意だけで成り立っている訳ではなく、どこかしら利害関係などからの派生的な部分もある。ただ、それをどのように育てていくかが問題である。また、このような活動を展開しても参加するのは県外の人が中心で、地元の松江の人があまりに少ないことに驚く。また、松江の人は参加しないだけではなく、県外の人がそれだけ関心を持っていることに気づいていないことにも驚いた」との発表がありました。

 続いて、松江市内で観光案内人をしている方から、案内人の現場からの提言がありました。「特に旅行代理店の企画ではあまりにも時間に制約があり、さらに松江に宿泊しないという現状もある。お客様は私たちの案内にとても感動していただいているが、この時間(案内のために与えられた時間)ではすべての人にそう思っていただくのは難しい。また、水辺環境だけが意識されているが、島根県は山林が中心である。このような山と観光地が繋がっていないことも問題であると感じている。そして行政の対応が見えにくい。私たちの仲間の多くは、地域全体のために行っていることを行政には認識していただき、できる補助をやっていただきたい」との発表がありました。

 これについて有田氏からは、「発表者の方も石原氏も有償で取り組むべきである」と述べられました。また、山間地と観光地の乖離の問題については、「情報を集中的にまとめてインターネット以外の手段で発信(忙しい担当者はインターネットで検索までしない)することで旅行代理店が商品に仕立て上げることができるので、我々をうまく使ってほしい」とのアドバイスがありました。

 

 既存の観光とエコツーリズムの違い、受け入れ地としての意識や姿勢、地域の把握、継続するための体制や人材、資金面など、課題や考えていかないといけないことがたくさんあることがわかりました。また、地域に住む人々が歴史、自然、景観、資源など、地元の財産に誇りを持ち、アピール(自慢)していくことが継続的な「賢明な利用」につなげていくためには重要なことのようです。

 


世界湿地の日ポスターと啓発パネル

 

 前日(2月2日)は「世界湿地の日」。この日を中心に世界各国の条約湿地で様々な催しが行われています。宍道湖・中海周辺でも、この「賢明な利用を語る会」をはじめとして、様々な取組が行われました。

この「賢明な利用を語る会」の会場にも「世界湿地の日」のポスターを掲示するとともに、各種パネルやパンフレット等を用意し、来場者の方に閲覧頂いたりお持ち帰りいただきました。

 

 また、本日ご発表いただいた「まつえ市民環境大学村」の石原孝子氏からは、エコクルーズ乗船のお客様へ記念にお配りしておられる「シジミの根付け」※をご来場いただいた方全員にプレゼントされました。石原様、池内様(くりんぴーす館長)をはじめ、ボランティアをなさっている方々、ありがとうございました。

※「シジミの根付け」はくりんぴーす(川向リサイクルプラザ内)で行われている「リサイクル体験教室」でシジミの殻を利用して作成しておられます。その他にも各種リサイクル体験教室が行われています。

くりんぴーす(外部サイト)

シジミの根付け

 

 


お問い合わせ先

環境政策課宍道湖・中海対策推進室

〒690-8501 島根県松江市殿町1番地
TEL:0852-22-6445