第4回宍道湖・中海ラムサール条約と賢明な利用を語る会
ラムサール条約と「ふゆ水たんぼ」−ラムサール条約と農業振興を考える−
2006(平成18)年度3回シリーズの第2回目(通算4回目)の「賢明な利用を語る会」を、10月21日(土)にふゆ水たんぼに取り組んでいる宇賀荘地区営農組合の地元の和鋼会館(安来市)にて開催しました。
今回は、農業とラムサール条約について新しい試みである「ふゆ水たんぼ」(冬季灌水水田)を中心に、県内外の事例発表や座談会など行いましたので、その概要について報告します。
1.主催:島根県、島根県立宍道湖自然館ゴビウス、ホシザキグリーン財団
2.実施年月日:平成18年10月21日(土)午後1時30分〜午後4時
3.場所:安来市安来町安来市立和鋼博物館
4.参加人数:55名
5.次第
(1)開会挨拶島根県環境生活部次長三代広昭
(2)事例発表
財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団研究員嶋田哲郎氏
「ラムサール条約と水鳥との共存」
宇賀荘地区営農組合組合長岩さき()隼雄氏
「安来市内での水鳥と農業との関係について」
中海水鳥国際交流基金財団米子水鳥公園指導員神谷要氏
「中海に飛来する水鳥と周辺地域の自然環境について」
岩手大学農学部教授溝田智俊氏
「出雲平野で越冬するガン類のエサ資源の調査と化学分析」
島根県農畜産振興課有機農業グループ主幹安部裕治氏
「島根県が推奨する「環境保全型農業」について」
(3)参加者と発表者による意見交換、座談会
6.概要
開会に先立ち、島根県環境生活部次長三代が、あいさつと本会の趣旨解説およびこれまでの経緯について説明し、その後今回のテーマである水鳥との共存について関係機関より事例発表、座談会等を行いました。
最初の事例発表は、宮城県にあるラムサール条約登録湖の伊豆沼・内沼での環境と水鳥との共存について、財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団の嶋田氏より発表がありました。
内容は、ラムサール条約の理念等についての解説、登録湿地で増える鳥と減る鳥についての研究結果などの発表で、「伊豆沼では近年ブラックバスが問題となっており、小型魚が減少している。これらは水鳥にとっても大切なエサ資源であることから水鳥の飛来数にも少なからず影響を及ぼしているのではないかとの仮定のもと調査を行っている。水鳥の動態は湿地の状態をあらわす鏡であり、モニタリングを続けることで周辺環境と水鳥の共存を探っていくことが大切である」との提言がなされました。
次に、安来市宇賀荘地区営農組合より、宇賀荘地区で取り組んでいる有機農業について現状と問題点について、岩崎組合長より報告がありました。宇賀荘地区では環境に配慮し、なおかつ消費者が求めている安心安全の産物を送り出すために減農米等の生産を行っています。当初問題となったのは除草対策で、除草剤散布をゼロもしくは1回としましたが、最初は人の手で除草等を行ったものの対応できないため、田植機に除草機を取り付けることのできる機械の導入や、冬季灌水する「ふゆ水たんぼ」により、そのような問題をクリアしています。この「ふゆ水たんぼ」に取り組んだのは、有機物が分解される際に発生する有機酸が雑草の発芽を抑制することが分かったということが大きな理由です。こうして、昔いたような様々な生物が暮らすことのできる環境が戻ってきたとのことです。また、水を張った田んぼにはコハクチョウもやってくるようになりました。収量については若干落ちるものの、契約栽培というかたちを取っており、全量買い取りと価格を上げることで、安定的に生産を続けることができます。「今後は大区画ほ場整備による効率的省力的な生産性の高い農業を、環境に優しいかたちで展開できるようにとりくんでいきたい」と締めくくられました。
続いて、米子水鳥公園の神谷氏より中海の水鳥と周辺地域の環境について発表がありました。中海を例にとり、ラムサール条約の指定の経緯やその条件を、中海に飛来する水鳥の個体数の推移とともに解説されました。後半部分ではコハクチョウを例にとり、コハクチョウを守るためにはどのような条件がそろえばいいのかという解説のなかで、「単純にエサを確保することが先決と思われがちであるが、餌場の確保と同じくらい重要な問題としてハクチョウの「ねぐら」の確保も問題である」との指摘がありました。先の発表者の宇賀荘地区が餌場であるならば、水鳥公園はねぐらであり、このような関係が国内でさらに広がれば水鳥の保護につながるのではないかとのことや、エサ場の確保とはつまり農業の維持であり、それを農家だけに任せるのではなく、作物購入など非農家であるわれわれもその生活について見直し、連携することが大切であるとの提言がなされました。
次に、岩手大学農学部の溝田教授より、出雲平野で越冬するガン類のエサ資源の調査と化学分析について発表がありました。溝田氏は、昨年より出雲平野で越冬するマガンのフンとエサを採集し、それらに含まれる窒素含有量と時期による含有量の推移についてまとめておられます。調査の結果、出雲平野では水田のイネ科雑草を主なエサとしていることが分かりました。またエサ植物とマガンのフンの窒素含有量は飛来当初は低い値を示していましたが、北帰行が始まる直前あたりから双方共に含有量が指数関数的に増加していることが分かりました。ちなみにこの傾向はその他の一部の越冬地でもみられますが、窒素含有量は他の地域よりも高いことが分かりました。今のところ出雲平野の作付け体系は、ガン類のエサ資源確保に適したかたちとなっていますが、今後作付け体系が変わり、ガン類のエサ資源確保が難しくなったときは、マメ科植物を河川敷に播種することで安定的なエサ場となりうるのではないかとの提言がなされました。
最後に、島根県農林水産部農畜産振興課の安部氏より、島根県が推奨する環境保全型農業について紹介がありました。島根県及び農林水産省では、環境保全型農業を推進しており、例えば化学合成農薬・肥料の使用比率を段階的に減少させて作付けされた農産物に、それぞれ特定のマークを標示して販売し、消費者に安心・安全を提供する取り組みがなされています。しかしながら、それらのマークの認知度は若干低いレベルにあり、今後はマークの普及はもとより、その理念についても普及活動をさらに展開する必要があるとの認識を述べられました。また、宍道湖・中海流域での農業による流出水が、両湖の水質に影響していることから、流出水対策を行う事業の取り組みについて発表がありました。今年度は4地域で取り組んでおり、そこでの水質調査の速報値についての発表がありました。「窒素、リン、CODはいずれも低い値を示していることが分かったが、代掻き時期には量は少ないものの値は高くなっていた。今後は農業生産力を落とすことなく環境に配慮した農業を展開できるよう県としても取り組みたい」と意欲を語られました。
座談会
5人の方からの発表後、参加者との意見交換が行われました。参加者からは、「中海・宍道湖に流入する農業排水が両湖の水質を一気に悪化させているが、ふゆみず田んぼではそのような配慮はなされているのか」、「マガンによる麦の食害の問題についてその対策方法とマガンのエサの嗜好性」、「他県の登録湿地での観光政策と水鳥保護の現状と問題点」など、たくさんの意見や質問が寄せられ、参加者と事例発表者等との意見交換が行われました。また、省エネルギーの観点から地産地消の取り組みの推進や農家と消費者との連携をもっと進めるべきだなど、多様な角度からの発言もありました。
このように、中海・宍道湖の水質や動植物などと農業との関係、あるいは生産者と消費者との関わり、大きな意味では地球環境からのアプローチなど、湿地と周辺環境について様々な視点から考えていく必要があるようです。
お問い合わせ先
環境政策課宍道湖・中海対策推進室
〒690-8501 島根県松江市殿町1番地 TEL:0852-22-6445