宍道湖・中海の湖底貧酸素化現象の仕組み
(3)湖底貧酸素化が生物に与える影響
宍道湖と中海では、湖底の貧酸素化が魚介類をはじめとする底生生物の生存を脅かしており、生物の分布や生産量に大きな影響を及ぼしていると考えられます。宍道湖・中海で実際にどのような例があるのかを解説します。
A.二枚貝類(ヤマトシジミ、アサリ、サルボウ)の分布と湖底の貧酸素化
宍道湖において、ヤマトシジミが生息するのは水深4mより浅い沿岸部だけです。ヤマトシジミが深い場所に生息しない理由は、底質などいろいろな要因があると考えられますが、もっとも大きな要因は湖底の貧酸素化であると考えられます。宍道湖でも、水深4mより深い湖底では夏期に貧酸素化が起こるため、湖底に定着して生きるヤマトシジミは生存が困難になります。
宍道湖において浮遊幼生から湖底に着底した直後ヤマトシジミ稚貝を調べた例では、水深4mほどの深い水域でも7〜8月まではその年に着底した微少な稚貝が多数見られましたが、8〜9月を過ぎるとそれらの稚貝はほとんど姿を消してしまいます。これは8〜9月に湖底貧酸素化の程度が強くなるため、稚貝が死滅してしまうためではないかと考えられます。
このように、通常ヤマトシジミは浅い水域に棲むため貧酸素水の影響をあまり受けないようにも思えますが、言い換えれば深場では貧酸素水があるから生息できないのであって、宍道湖の湖底の貧酸素化が軽減されれば、ヤマトシジミの漁場はさらに広がる可能性があります。
図17宍道湖におけるヤマトシジミの分布と貧酸素水の関係
図18宍道湖における水深4m付近のヤマトシジミ稚貝個体数(1m2当たり)の変化
(1994年-1995年、平田沖の例)
また、中海でも同じように7月頃までは水深3m程度のところにサルボウガイなどの着底稚貝が多数見られても、8〜9月にほとんど死滅してしまう例が知られており、これも夏季の貧酸素水塊の発達のためと考えられます。中海は昭和20年代まではサルボウ・アサリなど非常に豊かな漁業生産を誇っていましたが、現在これらの貝類のほとんどとれていません。その大きな要因の1つは底質の悪化と湖底の貧酸素化にあると考えられます。中海の湖底貧酸素化が軽減・解消されれば、これらの貝類をはじめとする水産資源の復活も夢ではありません。
図19中海の水深3m地点でのアサリ・サルボウ稚貝の個体数
(1993年、中海揖屋干拓地沖の例)
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