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政策提言「医師確保のための臨床研修システムの構築に向けて」


◎はじめに

 平成16年度からの新臨床研修制度の実施により、大学は大学附属病院の研修指導体制を固めるために、関連病院から中堅の研修指導医を引き上げるようになった。他方、それまで研修医の多くは大学で研修を受けていたが、新制度の下で自由に研修先を選べるようになり、都市部の病院で研修する研修医が増え、研修後も大学に復帰するものは限られている。
大学に医師、研修医が充足しない地域では、大学からの医師の派遣が得られず、現場の医師は厳しい勤務状況を余儀なくされ開業に向かうようになり、さらに残された医師に過酷な勤務を強いて医師の不足に拍車をかけている。
島根県においても診療科目の縮小や救急告示の取り下げなどにより、地域医療は極めて深刻な状況に陥っている。
このような状況に対して、県としても医師確保のための様々な施策を実施し、一定の効果を挙げてはいるが、医師不足を解消するにはいたっておらず、このままでは、本県の地域医療は維持できなくなることが危惧される。
こうした状況を解消するためには、国に対して求めるべき事項も多くあるが、県としても本県医療の維持に向けた効果的な施策を実施していかなければならない。
当委員会が昨年11月に沖縄県で調査した臨床研修プロジェクトでは、大都市部の病院に勝るとも劣らない初期臨床研修のマッチング実績を上げていた。沖縄県がこれまで歩んできた歴史や地域の特性を考えると、その事例を直ちに本県に当てはめることはできないにしても、十分注目に値するものであった。
特に「臨床研修病院群プロジェクト『群星沖縄』」は複数の病院が共同して高い理念と魅力的なシステムを提示し、全国から研修医を集めており、本県の医師確保対策の推進にあたっても大いに参考とすべきものである。
医師の臨床研修のあり様と医師の供給は密接な関係にあり、今後本県が必要な医師を確保していくためには、初期臨床研修、さらには、その後の後期・専門研修等、生涯を通じて医師を育てていくことが重要である。
こうした観点から、当委員会では県内における医師確保のための臨床研修制度のあり方について提言を行うものである。

平成20年3月13日

 
島根県議文教厚生委員会
委員田中八洲男
副委員中村芳信
副委員白石恵子
小沢秀多
福間賢造
石橋富二雄
三島治
多久和忠雄
森山健一

1.本県の臨床研修の現状と課題
(1)現状
○県内の初期臨床研修指定病院は、島根大学医学部付属病院、県立中央病院など12施設である。
○平成20年研修医の県全体のマッチ者数40人で鳥取県に次いで少なく、募集定員に対する応募者数の割合を示すマッチ率は42%で全国最下位となっている。
○島根大学付属病院の定員は48人で県全体の50%を占め、マッチ者数
22人で55%となり、大きなウエイトを占めている。
○島大に次いで定員が多いのは県立中央病院、松江赤十字病院で各10人、マッチ者数は中央病院が10人(100%)であるが松江日赤は4人(40%)にとどまっている。
○これまで一度もマッチ者数がない病院もあり、個々の病院のみの取り組みでは研修医の確保は限界がある。
○平成18年後期研修医は36人、平成19年は22人となっており、初期臨床研修医の数をかなり下回っている。

(2)課題
○県内で臨床研修医を確保するためには、各病院の個別の取り組みだけではなく、島根大学医学部附属病院を中心に各病院が連携し一体となった取り組みをシステム的に行う必要がある。

2.提言
(1)臨床研修の質的向上を目指し、以下に掲げるシステム構築に向けて県として必要な施策を講じ、その実現を図ること。
・島根大学医学部付属病院を中心に「病院群」を形成し、臨床研修のレベルアップを図ること。
・「病院群」を形成するにあたっては、可能な限り多数の病院・診療所及び介護施設等を包含するよう関係機関の合意形成に努めること。
・臨床研修の理念として、離島・中山間地域おける医療に対する使命感の育成を臨床研修の重要な理念とすること。
・教育研修センターの設置などシステム構築にあたって必要な事項については、積極的な支援を行うこと。

(2)システム構築後の目標として、以下の項目を関係者の間で共有できるよう関係機関と連携して必要な措置を講じること。
・遅くとも2〜3年後を目途として、可及的速やかにマッチング率の向上の実績を挙げること。
・県外からの研修医の募集や県外在住の島根県出身研修医、島根大学医学部卒業医あるいは在籍経験のある医師などの帰県を促す活動を行うこと。

(3)システムの構築とその後の円滑な運営、研修医に対するホスピタリティ醸成などのため、市町村・医師会などとの連携に努めること。

 

 

◎参考

 

1.初期臨床研修医マッチング結果及び県内後期研修医数(県内指定12病院)

(参考資料MicrosoftExcel:29.5KByte)


2.沖縄県の事例
(1)沖縄県立中部病院
戦後沖縄で大学医学部が設立されない中でない中での医師養成に先導的役割を果たしてきた。新臨床研修スタート後も高いマッチング率を誇っている。
研修1年目は院内に、2年目以降は隣接に宿舎を確保
救命救急センターを核に多くの症例を経験
複数の指導医のもとで、先輩が後輩を指導する屋根瓦方式による研修体制
医師一人勤務の離島診療所勤務医を育成する役割も果たしている。
後期研修希望者も多く、その大半が県内にとどまることを希望している。

(2)群星(むりぶし)沖縄プロジェクト
元県立中部病院長宮城征四郎先生をプロジェクトリーダー兼センター長に、7つの管理型臨床研修病院と20箇所の協力病院・協力施設により臨床研修プログラムを実施し、高いマッチング率を維持。
宮城リーダーがキーパーソンとして、その理念がプロジェクトの骨格をなしている。(高いカリスマ性)
【群星沖縄の7つのコンセプト】
1.多数の研修病院が思想信条を超え、一致協力して、沖縄ひいては日本の明日の良き臨床家を育成する。
2.多数の病院群で環境を整えることにより、研修医にとってベストの研修プログラム、ベストの教育環境を構築する。
3.グローバル・スタンダードの医療を実践する。
4.CommonDisease(普通の病気)中心の救急、プライマリー・ケア研修を実践する。
5.米国との医学医療交流を通じ、FacultyDevelopment(教育方法・能力の向上)に力を注ぐ。
6.研修医の欧米臨床留学制度を確立する。
7.研修医と共に医療の質を向上させる。

 




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