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さらなる中山間地域の活性化に向けて

 

中山間地域資源調査特別委員会が、平成16年12月に行った政策提言の内容は、下記のとおりです。


「さらなる中山間地域の活性化に向けて」

提言にあたって

現状と課題
県議会では、平成11年3月に「島根県中山間地域活性化基本条例」を制定した。
県議会では、平成12年12月に中山間地域の活性化について、多方面にわたる提言を行った。執行部においては、その提言に基づいて策定された中山間地域活性化計画を推進しているところである。
当委員会では、中山間地域の資源を活用し、中山間地域の公益的機能の増進及び具体な地域産業の振興策について調査を行ってきた。
中山間地域においては、第1次産業就業者数の減少の一方で第3次産業の増加など全国的にみられる産業構造の変化や、若者の意識の変化、都市の魅力など、様々な要因から、若者の流出が続いた。
人口の約41%、面積で約84%を占めている本県中山間地域においても、人口や世帯数の減少、さらに高齢化の進行等が深刻な問題となっており、農林業等の経済活動や集落機能の低下から、地域社会の存続すら危ぶまれる状況にある。
しかしながら、中山間地域は、都市生活にとってもなくてはならない存在であり、中山間地域の暮らしの豊かさを実感しつつ、都市住民からの共感も得られるようにならなければならない。

課題解決に向けた基本的方向性
中山間地域の課題解決に向けて、今回は、中山間地域の資源に着目するとともに、条例制定からこれまでの経緯をふまえ、「人」と「生活」の観点から、現在特に求められる取り組みの基本的方向性を整理した。
(1)人に着目した方向性
今、中山間地域で生活している人々が、「快適に楽しく幸せに」暮らしていくことのできる仕組みづくりが必要である。
また、次代の地域の担い手であると同時に今の課題を解決してくれる若者が活躍していける仕組みづくりが必要である。
(2)生活に着目した方向性
中山間地域における雇用、医療、買い物、冠婚葬祭、教育、交通、交流について、トータルな仕組みの再構築を図ることが必要である。


具体的活性化方策についての提言

 
中山間地域の課題解決に向けた基本的方向性を基に、地域の資源を活用した具体的方策として、次のとおり、提言することとした。

集落を補完する新たな地域運営の仕組みづくり
本県の中山間地域の集落規模は、2002年現在で平均世帯数28.3世帯、平均人口82.6人であり、全国的に最も小さなレベルである。
しかも、3,583集落のうち、450集落が高齢化率50%以上であり、263集落が平均世帯規模2人未満である。元々小規模集落が多い中、集落の小規模化にますます拍車がかかっており、また小規模集落での人口減少率がより高い。
地域によっては集落の小規模化より、農業の共同作業、葬儀などの集落機能維持が困難となっており、また集落の消滅も起こりつつある。
一方、地域の自然環境やコミュニティといった地域資源を積極的に評価して地域の独自性を打ち出し活性化させるため、そこに住む住民自ら地域の将来を考え運営する、集落とは別の新たな地域運営単位の構築も始まっている。
この新たな地域運営単位は従来の集落を否定するものではなく、集落でできなくなった活動を補完する視点を持ちつつ、より積極的な活動や事業を展開するためのものであり、おおむね旧町村(大字)、小学校区、公民館区等に相当した範囲設定が行われている。運営は集落に見られるような地縁集団的性格とは異なり、組織、役割分担(部会など)、目的、手段等が明確になっているケースも存在する。
(1)市町村合併による行政の広域化の中で、より各地域の独自性・自主性が求められる時でもあり、このような集落を補完する新たな組織が、今後地域の維持・活性化に大きな役割を果たすと思われる。また、新たな組織には地域をコーディネートできる人材の配置が重要と思われる。
県は「集落を補完する新たな組織」の構築のための地域・市町村の主体的な取り組みを、中山間地域研究センターを中心とした各種情報の適宜提供などを行うとともに、地域・市町村と一緒になって取り組んでいくこと。

医療・買い物・学校等の新たな生活運営の仕組みづくり
中山間地域では、高齢化が進み、運転免許を持っていても、自動車・バイクが利用できる人が少なくなってきている。また、人口の減少により、商店・医療機関など生活関連拠点が減少し、集落の生活機能は低下してきている。公共交通機関の利用者の減少から、事業者の不採算路線からの撤退などにより、国道などの幹線までしかバス路線がない地域も増加してきている。
さらに、医療機関、商店、金融機関、郵便局、役場等がバラバラに分散して配置されており、利用しにくい状況になってきている。
このため、教育・医療・福祉・商業・交通など生活に密接に関連する施設の利便性を向上させるためには、バス停までの距離、バスの料金や運行本数の確保など一定の交通サービス水準が確保される必要がある。
赤字不採算が必須となる中山間地域の公共交通を補助するコストは、住民の生活水準を一定水準以上に維持するために必要な行政コストであり、この水準の確保は、国・県・市町村が将来にわたって取り組むべき共通の行政課題である。
こうした課題解決のための具体的方策に関しては、中国地方5県の中山間地域担当課で構成される中国地方中山間地域振興協議会や島根県中山間地域研究センターから提言が行われている。
その内容は、交通結節点と生活拠点の集中整備、圏域の総合交通計画の立案・実施など中山間地域の生活の利便性の維持・向上に欠くことのできないものであり、今後、国・県・市町村・関係団体・関係事業者・住民が連携し実現に向けた取り組みを行うことが望まれる。
(1)交通結節点と生活拠点の集中整備について
ア商店、医療機関、行政機関、学校などの分散して配置されている生活拠点を巡回するループバスの運行を行い住民の利便性向上を図るといった、地域の実情に応じた取り組みが必要である。
イなお、商業・医療・行政機関・教育などの基本的な生活拠点を中心広場とし、バスターミナルを併設した交通結節点との集中整備については、集落の小規模化と市町村合併による新たな地域運営単位の構築にからめて、長期的・計画的に取り組むことが望ましい。
県においては、アドバイザーの派遣、ショッピングセンターと公共施設の一体的整備などの商業集積に向けた利用可能な整備支援メニューの紹介等、県内各地で地域の実情に応じた取り組みが展開されるよう関係部局が連携した支援を実施すること。
(2)圏域の総合交通計画の立案・実施について
ア県は、国の職員も招き、現地において通院や買い物など生活に関する体験型研修を開催するなど、その中山間地域での生活の実態を把握した上で、中山間地域の生活者の視点に立った、例えば、運行車両の空車率を減少するため、福祉・教育・交通分野が連携して地域住民の様々な目的別移動手段の確保に取り組むなど、対応策を検討することが必要である。

イ県内の市町村では、集落に居住する高齢者の通院や買い物、子供の通学のために、市町村営バスの運行、ディマンド型の公共交通サービスの提供などを行っているが、今後の人口減少による利用者数の減少などを考慮すれば、効率的な運営や自治体の財源確保が課題となってくる。
一定水準の公共交通サービスの提供は、中山間地域における生活を維持していくため必要不可欠である。県は、このような観点に立ち、財政的支援に加え、福祉・教育・交通分野の連携やデマンド型公共交通サービスなどそれぞれの地域にあったシステムの構築に向けて地域・市町村と一緒に知恵を出し合って取り組んでいくこと。

 

所得確保及び活動の場としての地域産業の新たな展開の仕組みづくり
中山間地域では、平野部と比較して、建設業、農業、製造業での就業割合が高くなっているが、農業、製造業を中心に就業人口が減少してきている。建設業についても、最近の経済情勢や県・市町村の財政状況による公共事業の削減等、厳しい状況になってきている。
一方で、島根県の中山間地域ならではの資源、環境を活用し、中山間地域における所得確保及び活動の場としての地域産業の新たな展開として、コミュニティ・ビジネスとしての産直市の数や販売額は増加してきている。
農業だけでなく、第1次産業・第2次産業・第3次産業の連携を考えるべきであり、従来の農産加工品販売と、レストラン、グリーンツーリズムなど体験事業との連携や、“商品、食、体験を通し都市部消費者に田園ライフスタイルを提供するサービス業”を強く意識した収益性の高い産直市モデルに向けた取り組みへの支援が求められている。
(1)産直市への支援について
県下各地で取り組まれるようになった産直市は、地元で作られた新鮮な野菜や味噌などの地域で育まれた加工品が魅力になっている。一方、消費者からは、農林水産物の食品としての安全性が強く求められている。
このため、各地域で取り組まれている産直市への支援として、次の取り組みが望まれる。
1-生産物の認証や栽培履歴、栽培農地に関する情報提供や、割高になりがちな有機農産物やエコ農産物の安全性・こだわりについての情報提供に対する支援
2-県外も視野に入れた、産直市を含め、食事処、宿泊所、見所、島根県の田舎の味などの情報提供
3-各産直市の出店作物の連携や情報交換ができるような推進体制の整備に向けた支援
なお、価格・品揃えの拡大だけに傾倒した産直市の単なるドライブイン化は避けるべきであり、差別化のために、徹底的な地産地消の追及、トレーサビリティ機能の向上を図るべきである。
(2)都市住民との交流の促進について
都市住民に、農山漁村の豊かな自然、文化、人々との交流を楽しんでもらうため、県内では、地域の食材が味わえるレストランや宿泊施設等、グリーン・ツーリズムやブルー・ツーリズムにむけて、様々な取り組みが行われている。
都市住民との交流により、農山漁村を訪れた都市住民は、憩い・健康回復・癒しなど農山漁村の良さを十分に満喫することができ、農山漁村では、活気と経済的効果が生じるとともに、本県中山間地域の自然と地域文化に育まれた豊かな暮らしを再認識することができる。
このため、県は、新たに取り組もうとしている動きを支援するとともに、地域・市町村と連携して、中山間地域の自然環境・歴史・文化や宿泊場所や体験メニューなどのガイドの養成など、グリーン・ツーリズムなどの取り組みを積極的に支援していくこと。

 

「土地利用」の再構築に向けた仕組みづくり
土地は個人の財産であり、その有効な利用や管理は、本来、個人に任せるべきであるが、耕作放棄や森林荒廃等その管理責任が果たせていない土地が増加している。
農地及び森林は中山間地域における生産の基盤であるとともに、洪水防止、国土保全機能等公益的、多面的機能を有しており、これを放置した場合、農地や森林の荒廃はますます進み、地域に与える影響は多大なものとなる。
国においては、食料・農業・農政審議会において、新たな耕作放棄地対策等についての具体的な方策等が検討されているところである。
県においても、有効な土地利用の施策を充実強化するとともに、市町村で取り組まれる土地利用プランの策定やその実施を支援する必要がある。
(1)森林・農地の土地利用プランの策定について
平成15年度末における島根県の地籍調査進捗率は37.87%であり、全国の調査進捗率46%に比べると、約10ポイント下回っている。
土地に関する正確な情報は、土地取引、土地活用、まちづくり等を推進するための基礎条件であり、地籍調査の一層の促進が望まれる。
その上で、現状の正確な情報データベースを構築し、土地の効率的な活用を行うため、耕作放棄地等の解消・防止に関する土地利用プランを策定し、土地のコーディネート等その有効利用に繋げていくことが望ましい。
(2)農地の耕作放棄対策について
農地の耕作放棄や、荒廃を防止するためには、しまね農業振興公社などの農地保有合理化法人や市町村が管理する「中間保有機能」等を活用し、耕作放棄地等の増加に歯止めをかけるとともに、特定農業法人等の管理能力のある担い手に農地を集積するためのシステムを強化推進すること。
また、本県では20a〜50aとなっている農地法による農地所有面積の下限面積要件は、U・Iターン者などの新規就農者や豊かな自然を楽しむ田舎暮らしを始めようとする者が、初期投資として取得する面積としては大きすぎると思われる。後継者不足により耕作放棄地が増える状況であり、新規就農しやすい農地取得に向けた支援が必要である。そこで、国の制度の活用も含めて、耕作放棄地を減らし、農地を守り、豊かな田舎暮らしを楽しむための農地保有下限面積要件の緩和について検討すること。
(3)森林の荒廃対策について
本県は森林率79%で全国3位の森林県であるが、近年木材需要が低迷し森林経営意欲の減退による荒廃森林が増加している。森林は木材生産のみならず、水源涵養、災害防止機能や近年では地球温暖化防止のためのCO2吸収源など様々な公益的機能を有しており、里山林としての広葉樹を含め、環境に配慮しながら多様な森林を育成していく必要がある。そのためには、森林整備地域活動支援交付金の活用や治山事業、独立行政法人緑資源機構、林業公社等の公的関与による整備を一層推進していくとともに、地域と一体になった森づくりなど、住民参加の整備の方法を検討する必要がある。
更に、県産木質資源の需要拡大に向けて県、企業、県民等が連携・協働して事業を推進し、森林と産業のつながりを回復し、木を育て、森を護る循環を再生していくこと。

U・Iターンによる若者の定住促進の仕組みづくり
島根県では、平成8年度から、(財)ふるさと島根定住財団が中心となって、県内定住を促進するため、U・Iターンの支援や情報提供などに取り組んできており、長期の産業体験者は平成8年度から平成15年10月末にかけて735人が終了し、そのうちの約半分、368人が県内に定着するなど、実績を上げてきているところである。しかしながら、中山間地域では、人口の減少が進行し、集落機能の維持すら困難な集落もでてきている。
このため、中山間地域の維持・活性化のため、若者のU・Iターン促進とその仕組み作りが望まれる。
(1)U・Iターン者への親身になった支援について
農林漁業に新規就業した人によっては、技術に熟練していなかったり中山間地域での生活に慣れない人もいることから、農林漁業の技術指導や集落内での社会生活に向けた助言などを行う、いわば「里親」的な支援が必要な場合が考えられる。
また、定期的に、県内へのU・Iターン者が集まり、意見交換する機会を設けることが重要であり、U・Iターン者の悩みや意見を施策へ反映する必要がある。
県としては、市町村での取り組みが促進されるよう、側面的な支援を検討すること。
(2)「空き家」を改修した賃貸住宅の確保について
県内には空き家がたくさんあるが、空き家は、権利関係や設備の整備状況が異なっていることなどから個々での対応は困難であるため、市町村が空き家の情報をいかに把握し活用するかということについて、県は一緒になって検討し、U・Iターン者の住宅に関する要望にすぐ対応できるようにする必要がある。
(3)従来型定住支援事業の促進について
(財)ふるさと島根定住財団などで取り組まれている「U・Iタ−ンのための島根の産業体験事業」や「しまね暮らし体験事業」などの定住支援事業は、例えば、長期の産業体験終了者のうち半数が本県に定着するなど、その取り組みは評価できることから、さらに促進すること。

 

おわりに

今回の提言は、平成13年に策定された「中山間地域活性化計画」の計画期間が、平成16年度で終了するところから、平成17年度以降の新たな中山間地域対策に向けて、中山間地域の資源に着目して、活性化方策を提案したところである。
中山間地域は、本県の大部分を占めており、当該地域住民の生活の場であるとともに、豊かな自然や文化を保有し、国土保全機能や環境保全機能も果たしている。
そうした本県中山間地域においては、集落機能の崩壊が進行する集落も増えつつある現状から、中山間地域の活性化に向けた取り組みは急務となってきている。
その取り組みは、県の財政状況も大変厳しい時に直面しているが、本県中山間地域の活性化に向けて、当該地域に不可欠な社会基盤の整備も視野に入れたビジョンを描き、県民が将来への希望を持てるものでなければならない。
執行部におかれては、本提案を真摯に受け止め、中山間地域の活性化の推進に向けて全力を挙げて取り組まれるよう望むものである。

平成16年12月17日

島根県議会中山間地域資源活用調査特別委員会

委員上代義郎
副委員絲原徳康
尾村利成
和田章一郎
井田徳義
田中八洲男
小沢秀多
原成充
内田敬
田原正居
倉井毅
浅野俊雄

 

 


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