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中山間地域の活性化方策に関する提言

 

平成15年2月議会において中山間地域活性化調査特別委員会の委員長報告に基づき議会として知事へ中山間地域の活性化方策に関する提言を行った。

その内容は下記のとおりです。

中山間地域の活性化方策に関する提言

━若者が中山間地域に帰ってくる条件とは━

平成15年3月

中山間地域活性化調査特別委員会

提言にあたって

県議会では、平成12年12月に中山間地域の活性化について、多方面にわたる提言を行った。執行部においては、その提言に基づいて策定された中山間地域活性化計画(以下「活性化計画」)を、副知事を本部長とする中山間地域対策本部のもと推進しているところである。
当委員会では、活性化計画のフォローアップを行い、活性化計画の推進にあたっては、11のプロジェクトが立ち上げられ、具体的な取り組みがなされていることを確認し、今後の成果を待つこととした。
また、現場主義の立場から、若者が中山間地域に帰ってこないのはなぜかという問題意識を持って実施した数回の実地調査により、中山間地域対策に対する基本的考え方をまとめるとともに、特に新たな視点として女性の活動を支援していくことが必要ではないかとの方向性を見出した。
 

1,基本的考え方
(1)特別対策としての位置づけ
中山間地域の深刻な現状をみるにつけ緊急かつ集中的な対策を特別措置として実行していかなければならない。
特別措置の内容としては、財源の集中、補助率等の嵩上げ、優先採択などが考えられるが、一般対策としては実施が困難な事業であっても、対象を中山間地域とすることで特別に実施することを積極的に検討する必要がある。
たとえば、中山間地域集落維持・活性化緊急対策事業については、使途を特定しないで集落に100万円を交付するということで、一般対策としてはなかなかできないところであるが、中山間地域の活性化ということで特例的に実施することができたものである。
このように、一般対策の枠を越えた大胆な発想のもとで、政策を立案していかなければならない。

(2)総合的な施策の推進
中山間対策を推進するにあたっては、従来の縦割り意識をうち破って、総合的、横断的な視点に立って取り組むことが必要である。縦割り行政の弊害はいろいろな場面において生じているが、あらゆる行政の分野が関係する中山間対策に取り組むにあたっては、特に気をつけなければならないことである。
県においては、中山間対策が総合行政であるという認識のもと、副知事を本部長とする中山間地域対策本部を組織して、全体の姿勢としては、各部局の連携のもとに推進しようということになっているが、現実には、関係部局間の連携が十分取られているとは言い難い事例も見受けられる。
今後は、中山間地域対策本部の予算・事業執行面における権限や機能を強化し、縦割りの枠に収まらない、部局を横断するような事業や施策を思い切って提案するような姿勢が求められる。

(3)住民自身による地域づくりの支援
中山間地域集落維持・活性化緊急対策事業については、事業対象集落の99%にあたる1364集落において、地域の現状や将来について熱心に話し合いが行われ、住民自身が考え、住民自身が実行するという形で、それぞれ特色ある取り組みがなされた。
こうした取り組みを持続させ、さらに発展させるための支援策を講じていかなければ、せっかく盛り上がったものが一過性で終わってしまいかねない。
緊急対策事業のフォローアップ事業として実施中の中山間地域元気な集落事業では、こうした観点から取り組みを一層活発にするための支援を行うこととされており、今後の動きを期待したい。
また、NPOなどの住民団体は都市部においては、まちづくり、福祉、介護、文化、スポーツなどいろいろな分野で組織されてきているが、中山間地域においては、リーダーになろうとする人がいないということもあって、なかなか住民団体が育たないという状況がある。今後、市町村合併が進展する中では、集落単位にこだわらないより広域的な住民の団体活動が必要になってくると考える。
中山間地域対策を考えるにあたっては、従来のような行政主導ばかりではなく、住民自身による「自立」を手助けするという視点も必要であると考える。

2,女性の活動を支援
実地調査の中で一番印象的であったことは、いきいきとして地域で活躍している女性の姿であった。ある女性は子どもたちに地元の安全な野菜を食べさしてやりたいとの強い想いから、学校給食のための有機農法による野菜生産組合を組織し、また、ある女性は子育て中の母親のつながりを図るために育児グループを立ち上げ、さらに、都会からIターンした女性が都市部との交流により地域に新風を吹き込むなど、女性としての発想を生かして、様々な分野で男性を上回るパワーで地域の活性化に取り組んでいる。
こうした女性のパワーをさらに生かしていくことが、中山間地域の活性化の鍵を握っているのではないかとの強い感想を受けた。
しかしながら、こうして頑張っている女性からも中山間地域における女性の地位や制約など中山間地域で活動することの困難さを訴える意見が多数出され、都市部に比べて女性の社会参加率が低いとの指摘があった。
こうした調査結果から、中山間地域において、女性があらゆる分野で活躍できるようにするために、女性の理解を得やすい、女性の参加を想定した事業の立案を行うとともに、様々な女性グループを支援する手だてを講じていかなければならないと考える。
また、農業などの就労のほか、家事、育児等多方面で活動しなければならない中山間地域の女性の立場を考慮するなら、男女共同参画による地域づくりを積極的に推進して、女性が地域で安心して活躍できるような土台づくりをしていく必要がある。

以上の調査結果をもとに「若者が中山間地域に帰ってくるための条件とは」という課題をテーマに議論を深めるなかで、「総合的子育て支援の推進等による定住の促進」、「新規就農者に対する総合的支援」及び「中山間地域の特性を活かした産業の振興や交流の拡大」の3点については、活性化計画においても十分ではなく、今後解決すべき大きな問題として浮かび上がってきた。
そのため、今回、この3点について具体的な活性化方策を提言することとした。

 

具体的活性化方策についての提言

1,総合的子育て支援の推進等による定住の促進
中山間地域の豊かな自然に併せて、都会を上回る子育て支援体制を整備することによって、島根県の中山間地域を子どもを生み育てやすい環境としていく。そして、そのことを全国に情報発信することにより、都市部で子育て環境に不安を抱いている者などのUIターンの促進を図っていく。
(1)中山間地域の特色を活かした子育て支援の推進
少子高齢化の一層の進行が予想される中山間地域については、自然や風土などの恵まれた条件を活かし、それぞれの地域の特色に応じたきめ細やかな子育て支援体制を早急に整備する必要がある。
・少子高齢化が特に進行している地域の保育所や幼稚園における特例措置として、地域の特色を活かした保育や幼児教育を実施するための施設・設備の改善や保育士等の加配に対する財政援助、地域の女性や高齢者を採用しての保育事業への支援措置などを推進する。
・UIターン者への特例措置として、保育料の減免措置などの実施を検討する。

(2)地域ぐるみの子育てのため拠点づくりの推進。
中山間地域は若者の転出により、母親となる世代の女性が少なく、子育て中の母親にとってお互いに悩みを話し合ったり相談したりする機会に恵まれない。また、子どもたちにとっても、近所に同年齢の子どもが少なく、遊び相手が限られてくる。そのため、子育て中の親ばかりではなく、子育てを経験した人であったり、また、家族ぐるみであったりなど、地域の誰もが気軽に参加して子育てなどについて話し合う場所、また、子どもたちの身近な遊び場所となる「集いの場」が必要である。
・中山間地域研究センターとNPOの共同調査研究事業の成果である「ごった煮スペース」の実現を図る。
・しまね女性塾から提言のあった「子育て・子育ち支援センター」の実現を図る。

(3)子育て支援団体への支援・助成
都会から中山間地域にIターンし現在子育て中の女性からは、都会と違って中山間地域においては子育てサービスの選択肢が少なく、住民ニーズに十分に応えているとは言えない状況にあるとの意見が出された。
近年芽生えてきている民間団体の活動を通して子育てサービスの充実を図る必要があり、中山間地域ほどその必要性は高いと思われる。
都市部においては住民による子育てグループが組織されており、島根の中山間地域においてもそうした動きがあるが、人材、場所、活動資金など、十分に機能するために解決していかなければならない課題は多い。このため、市町村等と連携して、各種の支援を行っていくべきである。
・中山間地域における子育て支援団体の育成・発展を図るため、その実態を調査・把握し、円滑な運営に必要な支援・助成を実施する。
・子育て支援団体に子育てサービス事業(子育て相談事業、子どもの遊び場づくりなど)の実施を委託し、中山間地域における子育てサービスの充実とともに団体の育成を図る。

(4)「子育てするなら島根の田舎で」の情報発信
中山間地域は自然に恵まれ子育てには適した環境である。さらに、都市部に劣らない子育て支援体制が加われば、全国に「子育てするなら島根の田舎で」という情報発信が自信をもってできることとなる。

2.新規就農者に対する総合的支援
中山間地域の集落を維持していくためには、基幹産業である農業の維持・発展が欠かせないが、そのためには、後継者(担い手)の養成を積極的に行っていかなければならない。地元の若者に限らず、都会からのUIターン者が容易に農業に参入できるような環境を整備することが必要である。特に近年は都会の女性の田舎暮らし指向の高まりの中から、ふるさと島根定住財団の産業体験にもみられるように、農林業に従事することを希望する者が増えつつあり、こうした女性の要望にも的確に応えられるような体制を整備しておくことが必要である。
県においては、新規就農者の確保のため、就農前から経営安定までの一貫した就農援助策が実施されている。ただ、委員会に招請した多くの参考人から、農業技術習得の困難性が訴えられ、また、住宅確保などの生活支援を含めた市町村等の受け入れ体制の強化が必要であるとの意見が出されている。
(1)農業研修体制の充実
新規就農者に対して技術習得の希望や段階に応じた研修制度をわかりやすく提示し、効果的な研修を実施する必要がある。
・新規就農者への研修機能を持った県の施設などの指導体制や設備を充実する。
・それぞれの研修施設の役割を明確にするとともに、総合調整部門を設置して、連携の強化を図る。
・女性を対象にした研修メニューや都会の女性向けの農業体験事業を推進する。

(2)農業法人の育成・確保
就農を希望するIターン者の多くは将来的には自営農業を目指しているものの、技術や資金の不足等により、当初は農業法人等への就職という形で農業に就いている場合がある。こうした雇用就農者を受け入れることができる経営体を育成するためには、企業的農業法人の育成を一層促進すべきである。
・認定農業者などの個別農家及び集落営農の法人化を促進する。
・資本力や経営ノウハウを持つ企業の農業参入を進める。

(3)市町村等における受け入れ体制の強化
新規就農者の定着を促進するためには、市町村を中心としての受け入れ体制を強化する必要がある。
・市町村において、定住促進のため総合的に対応する窓口(部署)の設置、定住相談員等の配置などによる受け入れ体制の強化を図る。
・地域を上げての受け入れ促進を目的とした関係機関による協議会の設置及び地域住民への啓発活動を推進する。
 

3.中山間地域の特性を活かした産業の振興や交流の拡大
中山間地域には自然、農林業、伝統文化、人材など都市部にはみられない貴重な特色ある資源が存在する。それらを活用して、産業の振興を図るとともに、都市から人を呼び寄せて交流の拡大を図っていくことが重要である。

(1)中山間地域の特色を活かした産業の育成
地域の特色に目を向けることによって、今まで省みられなかったものに新たな付加価値を見出して商品化したり、伝統的な技能を現代風にアレンジするなど、地域資源が有する潜在能力を掘り起こすという新たな発想による起業が地域を活性化させるとともに、地域の雇用拡大に大きな役割を果たしつつある。しかしながら、こうした新しい地域産業の形態については、UIターン者が起業することが多いこともあり、当初は経営が安定しない場合も多いため、行政の積極的な支援体制を構築していく必要がある。
1-産業間の連携等の促進及び起業への環境づくり
中山間地域の産業振興には、地域の農林水産物を加工して付加価値を産み出して、自然、歴史、風土等の地域資源を組み合わせて販売促進につなげたり、また、生産と観光の一体化を図るなど、一次産業・二次産業・三次産業の連携が有効である。
・県や市町村、商工会やJAなどの幅広い産業支援機関による横断的な中山間地域の産業支援のため体制を構築する。
・中山間地域研究センター等において、起業ための効果的な啓発や情報提供を進める。
・市場の拡大や商品開発に向けて、関係企業や産業アドバイザーとのネットワークを圏域外・県外に向けて構築する。
・地産地消を推進するために、生産、販売から消費までの流通ネットワーク構築の取り組みに対して支援する。

2-地域に密着した産業の育成
地域の住民が地域の資源を活用して地域の需要に応えるために行う産業形態(コミュニティビジネス)の導入を進めていくことが有効である。
・中山間地域研究センター、産業振興財団及び定住財団等の連携により、地域の実態に応じたコミュニティビジネスの育成・発展についての実証的研究を進める。
・コミュニティ・ビジネスを始めようとする者に対して指導、相談などを行う相談員(コミュニティビジネス・アドバイザー)を中山間地域に配置する。

(2)都市と農村との交流を目的とした事業の推進
中山間地域の活性化のためには、定住促進を図るとともに、中山間地域の魅力をアピールして都市部のからの訪問者を増やして、交流人口の増加を図る必要がある。
1-魅力的な農村体験ができる事業の推進
都市部の住民が中山間地域に求めるものは、自然体験(グリーンツーリズム)だけではなく、都会では味わえない農業、伝統文化や伝統産業などを体験する田舎暮らし体験(ルーラルツーリズム)への要望も高まってきており、民間との連携により多彩な発想でもってこうした事業を推進していく必要がある。
・農業体験と観光(温泉、グルメなど)をセットにしたパックツアーなど都市住民に魅力的な企画による事業を推進する。
・田舎暮らしも満喫でき生活設備も充実した農家民宿等の整備を進める。
・「島根の田舎の魅力」をPRするため、都市部において田舎暮らし体験のキャンペーン活動を展開する。
2-女性の活力や高齢者の能力を発揮できる事業の推進
中山間地域に若者を呼び戻すためには、女性が住みよい地域であるとともに、女性がいきいきと多方面において活動していることも重要である。特に都会の女性にとって中山間地域の自然は魅力であっても、女性の社会参加の低さなど男女共同参画社会推進の遅れが定住をためらわせる一因ともなっている。このため、地域団体等への女性の参加率を高めるとともに、地域振興を目的とした女性グループの育成・発展を図っていく。また、都会の女性との交流により中山間地域の女性の活力を高めていくことを視野に入れた事業を推進していく。
中山間地域の特色の一つとして、地域に愛着を持ち地域に詳しい高齢者が潜在能力として存在しており、生きがい対策としての視点からも、高齢者が都市住民に地域の歴史や風土を親しみやすく話してきかせることを目的とした事業の推進が必要であると考える。

・中山間地域における女性の社会参加を高めるための啓発活動を実施する。
・中山間地域の地域振興を目的とした女性グループについて、財政的支援を行うとともに、「県立女性センター」等を中心として調査、広報、表彰などを行うことにより、育成・発展を図っていく。
・都会の女性との交流を目的とした事業を推進する。
・地域の語り部としての高齢者ボランティアを養成する事業を推進する。

おわりに

今回の提言は、調査活動の中から前回の提言では手薄であった項目についてポイントを絞って、活性化方策を提案したところである。しかし、中山間地域は早期に解決を必要とする道路、住宅、医療、福祉など幾多の問題をかかえている。
執行部としては、この3項目を重点に対策を講ずるとともに、中山間地域活性化計画の推進に全力をあげて取り組み、中山間地域の活性化を是非とも実現されたい。そのためには、中山間地域対策本部の機能を強化して、県庁組織のみならず市町村をはじめとする関係機関とも連携して、県民一丸となって中山間地域対策に取り組まれるよう望むものである。
また、現在、県内においては市町村合併が着実に進展しており、将来的には中山間地域における市町村の構図も変わってくるものと予想され、新たな状況のもとでの地域の発展が期待されているところである。ただ、市町村合併が成立したとしても、ただちに地域の諸課題が解決するものではなく、特に中山間地域が抱える課題の多くは取り残されるのではないかとの声も耳にしているところである。
市町村合併の建設計画の策定に当たっては、周辺部となりかねない中間山間地域に対しての施策を盛り込まれたい、特に、産業振興及び定住促進については、専門の部局を設置するなどして、積極的に取り組むように要望するものである。

 

 


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