水産業活性化に関する政策提言
農林水産委員会が平成13年3月に行った政策提言は下記のとおりです。
また別にPDFファイルでも提供していますので、必要な方はダウンロードしてください。
本県水産業は、豊かな漁場を背景に全国有数の漁業生産量を誇り、県勢の発展に寄与してきた。
しかしながら、近年の漁業資源の悪化、漁業就業者の減少・高齢化の進行、魚価安、漁村の活力低下等により本県水産業を取り巻く情勢は極めて厳しい状況にある。
こうした中で、国連海洋法条約に基づく200海里の排他的経済水域の設定など漁業制度の大きな変革があり、新たな漁業の国際的な枠組みが構築された。このような情勢を踏まえ、県では平成10年7月に「島根県新水産振興基本構想」を策定し、力強い水産業の積極的展開に努めているところであるが、その後、平成11年1月には日韓新漁業協定、平成12年6月には日中新漁業協定が相次いで発効し、本県周辺水域において国際状況の大きな変化を見たところである。
また、国においては、我が国水産業を国民の求める水産物を将来にわたって安定的に供給する産業として持続的に発展させるため、これまでの政策を抜本的に見直し、我が国周辺水域における水産資源の適切な保存管理と持続的利用を目指した政策に再構築することを基本とした、「水産基本政策大綱」及び「水産基本政策改革プログラム」が平成11年12月に取りまとめられたところである。
今後は、新たな水産基本政策の理念と基本的な施策の方向を「水産基本法」(仮称)として制定し、政策プログラムに沿って、政策の具体化を図っていくこととされている。
本県においては、このような状況変化に的確に対応するため、本県の水産振興の基本的な構想について、国の政策の動向等を踏まえながら見直す必要が生じている。
当農林水産委員会では、県内3カ所の水産事務所の単位で「水産業活性化地域会議」を開催して地域の意見を聴取し、今後の本県水産業の振興に係る施策の取りまとめに鋭意取り組んできたところである。
このたび、下記のとおり農林水産委員会の総意をもって「政策提言」として取りまとめたので、県におかれてはこれを真摯に受け止め、水産振興基本構想の見直しも含め、今後の本県の水産業及び漁村地域の活性化に向けた諸施策を強力に展開されるよう強く要請する。
併せて、国が果たすべき役割についても、この提言を踏まえ地域の実情に即した的確な対応がなされるよう国に対し強力に働きかけられたい。
記
1水産業の担い手の確保について
〔現状と課題〕
本県漁業は、漁獲量や漁業生産額の減少、魚価の低迷等による所得の伸び悩みなどにより厳しい状況におかれており、漁業就業者数は、昭和58年に7,781名であったものが平成10年には4,629名と大幅に減少している。
また、高齢化の進行が著しく、漁業就業者数4,629名のうち60歳以上は2,390名で51.6%を占め、自営就業者に限ってみると60歳以上の割合は、71.2%に達している。
雇われ就業者については、平成8年度に設置した島根県漁業就業者確保育成センターやふるさと島根定住財団、関係市町村等とが連携した取り組みを行ってきたことにより、一定の成果を上げているところであるが、自営漁業者も含めた担い手の確保は、本県水産業を今後も持続的に発展させる上で極めて重要な課題となっている。
担い手不足の要因は、漁業経営の将来性への不安、漁労技術習得の困難さ、多額の初期投資、漁村の閉鎖性など新たな着業に向けての困難性等に起因しており、魅力ある漁業経営の確立と新規就業者の支援体制の整備が早急に求められるとともに、リーダーとなる人材の育成や高等学校における水産教育の充実など担い手育成の一層の推進を図ることも極めて重要である。
このような現状を踏まえ、次の施策について推進されたい。
〔実施すべき方策〕
(1)魅力ある漁業経営の確立
1-魅力ある漁業づくりの推進
漁業への新たな就業を確保するためには、漁業が、誇りと生き甲斐をもてる産業であることが重要である。そのため、高度な技術と厳しい労働に見合った収入の確保が図られる漁業経営の確立を支援するとともに、遊漁船業など、多角的な漁業経営の促進にも努めること。
また、豊かな森林の存在が漁業資源の保護育成に欠かせないことを踏まえ、漁業関係者の積極的な森づくりへの参画と普及・啓発を推進すること
2-操業の効率化、省力化の推進
漁業経営の安定と厳しい操業環境を改善するため、少人数でも操業可能な機械化等による、操業の効率化、省力化を推進すること
3-融資制度の充実
漁業経営には、初期投資に多額の資金を要するばかりでなく、漁具や漁船の更新、さらには、不漁時の経営安定に当たっても多くの資金を必要とすることを踏まえ、担い手対策、経営基盤安定化対策、漁船建造等漁業経営の実情に応じたきめの細かい融資制度の充実を図ること
4-漁業経営安定等のための諸規制等の見直し
漁業資源の適正な管理に配慮しつつ、漁業経営の効率化と新規漁業者の参入を容易にするため、漁業許可制度などの諸規制について、本県の実情を踏まえた見直しを進めるよう努めること
(2)新規就業者の受入支援策の充実
1-技術習得に対する支援
新規就業に当たって、大きな課題の一つは漁業技術の習得であることから、指導者の確保等、技術習得のために漁協、漁業者、行政等が一体となった体制の整備を図ること
2-自立に向けての財政的支援
漁業技術の習得と、経営者として自立するまでには長い期間を要することから、新規就業者が漁業者として一人立ちするための資格取得やその間の経営維持のための支援、さらには、初期投資に対する支援等の施策の構築を図ること
3-企業や漁業者等の連携の強化
担い手確保に当たっては、漁協等水産団体、船主、行政、水産高校等が相互に連携を図ることが不可欠であり、そのため情報交換の場を設置するなどその体制を整えること
4-UIターン就業希望者の住宅の確保
研修生や新規就業者の定着に向けての大きな懸念事項が住宅の問題であり、安心して暮らしていける住宅の整備に対する支援の充実を図ること
(3)担い手確保のための情報提供
新規就業者確保のためには、漁業のイメージアップを図ることが必要であり、インターネット等の活用を促進し、積極的な情報発信に努めること
2水産加工について
〔現状と課題〕
本県における平成10年度の水産食品製造業の総出荷額は、258億円で、水産加工全体では、漁業生産額に匹敵する生産額と推計されている。
本県の主な食用加工品は、カレイ、イワシ類を中心とする塩干品と野焼き、かまぼこを中心とするねり製品及びフグ味醂干しなどの調味加工品であるが、いずれも経営体の規模は零細であり、その経営基盤は脆弱である。
近年の水産加工業を取り巻く環境は、従事者の不足や高齢化の進展、冷凍すり身はもとより、塩干品についても地元漁獲量の減少に伴い原魚の調達先を中国など海外に依存していることによる原魚調達の不安定性、消費ニーズの多様化と多様な食品の流通に伴うねり製品の消費の落ち込み及び製品価格の伸び悩みなどによって水産加工業の経営は非常に厳しい状況に置かれている。
一方、製造物責任法(PL法)の施行や消費者の安全志向に対応して、販売サイドの品質・衛生管理に対する要求も年々厳しくなっており、加工事業者は、HACCP(危害分析重要管理点)方式の導入などこれらの要求に適切に対応することが必要となっている。
このような現状を踏まえ、次の施策について推進されたい。
〔実施すべき方策〕
(1)水産加工原料の安定的な確保
水産加工業者にとって、加工原料の安定的な確保は経営を左右する死活問題である。加工原魚の流通体制の整備を促進するとともに、加工原魚保管用の大型冷蔵庫の設置など、漁獲量の変動に対応できる加工原魚の供給体制の整備を促進すること
(2)水産加工品の付加価値向上
地元で漁獲される旬の魚の加工品の限定販売を行うなど、島根産を意識した水産加工の商品開発を促進し、付加価値の向上を図ること
(3)水産加工品の品質・安全性の確保
消費者の安全志向に的確に対応できるようHACCP(危害分析重要管理点)の導入など、水産加工品の品質・安全性の向上を図ること。また、衛生管理も含めた製品開発に関する技術的な指導体制を構築すること
(4)水産加工品の販売促進
消費者のニーズにあった商品の開発と販売促進のための「求評商談会」など機会づくりを進めること。また、インターネットを活用した取り引き拡大など販売促進に向けた取り組みを支援すること
(5)加工労働力の確保
加工労働者の高齢化が進んでいることから、新たな加工労働者の確保対策を推進すること。その際、外国人研修生の受け入れを進めている事業者もあることからその対応について適切な指導と支援を行うこと
3水産物の流通対策について
〔現状と課題〕
水産物の産地価格は長期にわたって低迷し、漁獲量の減少とも相俟って漁業及び漁協の経営に大きな影響を与えている。
一方、消費者の水産物に対する志向は、水産物が健康食品として広く認識されるとともに、高品質で安全な地元産品に対する需要が高まっており、昨年7月のJAS法改正による産地表示の義務づけによって、商品の差別化が一層進んでいる。
水産物の適正な販売価格の形成には、このような消費者の志向に加えて多種多様な食品との競合や少子高齢化による水産物需要の減少など、水産物の消費・販売環境の変化に対応した販売体制の構築が必要である。
現在の水産物流通は、その多くが漁協ごとに開設された「水産物産地卸売市場」で販売されているところであるが、市場取扱量や買受人の減少に伴い、産地市場の価格形成力は低下している。また、水産物の産地流通過程において、
販売や輸送などの面での効率の悪さが指摘されているところでもある。
さらに、水産物の品質向上や規格化の面では他産地に比べて立ち遅れが見られるほか、水産物の衛生管理の面でもこれまでの取り組みが十分とはいえない状況であり、これらの取り組みについても早急な対応が必要である。
このような現状を踏まえ、次の施策について推進されたい。
〔実施すべき方策〕
(1)卸売市場の改革と流通改善
水産物流通コストの削減を図るとともに、多様化・高度化する消費地のニーズに的確に対応できる産地流通体制の整備を促進すること。その際、産地市場の統合による競争原理の強化や販売経費の節減、卸売り市場の販売時間の延長などに留意すること
(2)水産物の高品質化と安全管理体制の整備
水産物の高品質化と、漁獲から消費まで一貫した衛生的で安全な水産物供給システムの確立を促進すること。その際、冷却海水施設や氷温貯蔵施設など鮮度保持の具体的手法について検討を進め、必要な施設整備を促進すること
(3)水産物の販売促進
1-的確な産地情報の提供
水産物の販売を促進するため、消費者に対して旬の魚の情報や浜値の情報など産地情報を的確に提供できる体制の整備を促進すること。その際、インターネットの活用も検討すること
2-水産物のブランド化促進
水産物の鮮度保持、品質管理を徹底し、「島根の魚」を新鮮で安全な魚として定着させ、島根ブランドの確立に努めること。また、水産物の新たなブランドづくりを進めるため、生産者、買受人、漁協等が一体となって取り組む協議会の設置などブランドづくりの体制を整備すること
3-水産物の地場消費拡大と魚食普及運動の展開
地元で獲れた旬の魚が地元の消費者に確実に届く体制を整備し、地場消費拡大に努めること。また、健康に優れた日本型食生活を普及するため、魚の家庭料理の紹介パンフレットや旬の魚のカレンダーの作成など積極的な魚食普及運動を展開すること。その際、地元水産物の学校給食への積極的な活用も進めること
4住みよい漁村づくりについて
〔現状と課題〕
漁業・漁村は、食料の安全保障、自然環境の保全、伝統・文化の継承、地域社会の維持等の多面的な機能を有しており、これらの機能の維持は、県土の均衡ある発展に不可欠である。
また、漁村は、地域住民の生活の場であると同時に、漁業生産活動及びこれに関連した流通・加工活動の拠点であり、水産業の持続的発展の基盤として重要な役割を担っている。
しかしながら、水産業を取り巻く状況は厳しく、過疎化、高齢化の進行に伴い、本県の漁業及び漁村地域の人的・物的基盤は年々脆弱化し、漁村地域の活力の低下が懸念されている。
このため、水産基盤の効率的・効果的な整備を推進するとともに、住民が安心して暮らせる生活環境基盤の整備に努め、住みよい漁村づくりを着実に進めていくことが重要である。
このような現状を踏まえ、次の施策について推進されたい。
〔実施すべき方策〕
(1)漁業・漁村の持つ多面的な機能(公益的機能等)の適切な評価の確立
漁業・漁村の持つ多面的な機能の重要性について、広く県民の共通認識として確立できるように、啓発普及の推進を図ること
(2)水産基盤の整備の推進
漁港・漁村の整備と漁場の整備を一体化した新たな長期計画「水産基盤整備計画」を策定し、効率的・効果的な水産基盤の整備の推進を図ること
(3)生活環境の改善
集落内道路の整備、漁業集落排水施設の整備など漁村の生活環境整備の促進を図ること
(4)漁村地域の活性化
「いきいき漁村づくり推進事業」の充実により、漁村の自主的・主体的取り組みによる地域の活性化を図ること
(5)漁村女性の主体性が発揮できるパートナーシップの確立
女性漁業関係者が意欲と能力を発揮できるよう漁村女性の自主的活動への支援の充実を図ること
(6)都市と漁村の交流促進
海洋性レクレーション、体験学習、産直販売等により都市と漁村の交流を促進し、開かれた漁村地域づくりを推進するとともに地域としての収益機会の増大を図ること
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