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新たな「森林・林業活性化プラン」策定に当たっての政策提言

 

新たな「森林・林業活性化プラン」策定に当たって、農林水産委員会が平成13年2月に行った政策提言は下記のとおりです。
また別にPDFファイルでも提供していますので、必要な方はダウンロードしてください。


国民の意識が、物の豊かさの追求から快適で安心できる暮らしや心の豊かさを重視する方向へと変化している中で、森林に対する国民の要請も、木材生産、国土保全、水資源のかん養はもとより、良好な生活環境の保全、保健・文化・教育的利用、温暖化防止等の地球環境の保全、生物多様性の保全等、多様化・高度化している。
一方、森林は、林業の生産性の低下から必要な整備が十分に行われなくなっており、このままでは国民の求める多様な機能の持続的発揮が困難になる恐れがある。このような中で、国においては林政改革大綱が策定され、これまでの木材生産を主体とした政策を抜本的に見直し、国土保全、水資源かん養、環境の保全等、森林の多様な機能を持続的に発揮させるための政策へ再構築を図ることとされたところである。
本県においては、県土の約8割を森林が占めており、県勢の発展を図るためには、森林の保全と林業・木材産業の振興発展は不可欠である。
しかしながら、森林・林業・木材産業を取り巻く情勢は極めて厳しく、容易に回復することは困難な状況である。
県では、このような情勢を踏まえつつ、国の林政改革大綱の方向にも留意した新たな「森林・林業活性化プラン」を、平成12年度末を目途に策定される予定である。
このプランは、21世紀初頭の本県の森林・林業・木材産業の方向を決める極めて重要な計画となるものである。
当農林水産委員会においても、昨年度県内7カ所で開催した「農林業活性化地域会議」等を通じて多くの地域住民の意見を聴取するとともに、様々な角度から議論を深め、プランに反映すべき施策の取りまとめに鋭意取り組んできたところである。
このたび、下記のとおり農林水産委員会の総意をもって「政策提言」としてとりまとめたので、県におかれては、これを真摯に受け止めプランに適切に反映するよう強く要請する。
なお、このプランの実行に当たっては、県の指導体制の充実強化はもとより、その実効性の確保に努めるとともに、施策の効果測定など適切な進行管理を行われたい。



森林・林業・木材産業の果たすべき役割
森林は、洪水や土砂崩れの防止、良質な水資源の安定的な供給、保健休養の場の提供などの公益的機能とともに、二酸化炭素を吸収・貯蔵し、地球温暖化防止に寄与するなど環境保全機能も果たしている。
また、林業・木材産業は、森林を適正に管理しつつ、再生産可能で環境への負荷の少ない優れた資源である木材の生産と、その効率的な利用を行うものであり、人と環境に優しい循環型社会の構築に欠くことのできない重要な産業である。
とりわけ、本県は、県土の約8割、約52万haが森林で占められ、林野率は全国5位の高い地位を占めており、林業・木材産業の振興は県勢発展のために極めて重要な課題であるといえる。
しかしながら、林業・木材産業は、採算性の悪化、国産材需要の伸び悩み等から極めて厳しい状況が続き、林業粗生産額は平成5年の132億円から平成10年の88億円へと大きく減少しているところである。
このため、森林所有者の森林管理意欲は減退し、放置森林や荒廃森林の増加、山林の不在地主化などが進み、これからの森林保全の大きな障害となっている。
このような現状を踏まえ、次の施策について推進されたい。

〔実施すべき方策〕
(1)森林は、国土保全や環境保全など多面的な機能を持ち、また、本県が誇りうる豊かな自然を形成する主要な資源であることを踏まえ、森林を、県民共有の公共的財産として位置づけること
(2)前項の観点から、森林を守り育てることを森林所有者の努めとし、森林所有者が管理できない場合は、公的関与による森林整備に踏み込むなど森林を守り育てる仕組みを構築すること
(3)川上、川下が協力・連携し、川上の森林保全について川下が支援する仕組みを構築すること。
その際、一般市民、市民団体、漁業関係団体など広範な協力が得られるよう参画を呼びかけること
(4)森林保全の経費を社会全体で負担する仕組みが必要であり、緑の募金事業の充実や森林保全に対する税の創設など、森林整備全般にわたる新たな財源について総合的な観点から検討を進めること
(5)県境を越えた広域的な連携による、豊かな森林や伝統文化等を活かした地域づくりを促進するため、林道など広域的な基盤整備の充実を図るなど、森林の機能を発揮できる環境づくりを実現すること

 

 

公益的機能を十分発揮する「豊かな森」づくり
本県民有林は約48万8千haとなっており、そのうち、37%の約18万haに人工林を造成している。この人工林は育成途上にあり、保育の必要な40年生未満の若齢林が約8割を占めている。
人工林のうち約8万haはスギ、ヒノキの間伐対象森林であり、今まさに間伐のピークを迎えているところである。
このような現状を踏まえ、本県の林業施策は、針葉樹の保育に重点を移すとともに、複層林や育成天然林など多様な森林の造成を推進してきたところである。
しかしながら、平成11年度の間伐実施率は34%にとどまっており、さらに間伐材の利用率は10%と低調であり、手入れの行き届いていない現状が浮き彫りとなっている。
一方、マツや広葉樹を中心とした天然林については本県森林資源の約6割を占めている。しかし、昭和50年代から急速に拡大した松くい虫被害によりマツは海岸部を中心に大きな被害が発生しており、「島根マツ」の減少、公益的機能の低下、景観の悪化等様々な問題が生じている。また、木炭生産やチップ材として本県林業を支えてきた広葉樹も生産量は大きく減少している。
集落周辺の里山林は、地域住民の生活に密着した重要な役割を果たしていたが、近年、里山林の利活用が減少するとともに荒廃が進み、生活環境の悪化や野生鳥獣被害など多くの問題が発生している。
また、新しい動きとして、県民の環境や自然への関心の高まりなどから、自然観察会や森林・林業体験プログラムなどが各地で実施されるようになり、ボランティア活動による森林整備なども取り組まれるようになっている。
このような現状を踏まえ、次の施策について推進されたい。

〔実施すべき方策〕
(1)機能別ゾーニング等による新たな森林の整備
1-本県の森林を、広葉樹も含めて機能別にゾーニングするなどの手法により、整備すべき森林のあるべき姿を明確にし、その整備手法を確立すること
2-里山林は、身近な自然や生活環境、生物多様性などを保全していく上で重要な役割を果たしていることから、里山の保全・整備と活用を進めその多様な機能を回復させること
3-松くい虫などによる松枯れ被害は、海岸部や隠岐島後を中心に依然として猛威をふるっており、県民への様々な影響が懸念されている。蔓延する松くい虫被害の拡大を防ぐため引き続き被害防除対策を推進するとともに、災害防止機能や景観形成さらには良好な漁場環境の確保などに配慮した被害跡地の森林機能の回復に向けた取り組みを強化していくこと

(2)間伐の推進
間伐実施率や間伐材利用率が極めて低い現状を踏まえ、これらを高めるため、次の方策を早急に講じること
1-高性能林業機械の導入やヘリコプター集材の研究など、林業作業の効率化による間伐コストの低減を図ること
2-間伐作業促進のために、林業作業道の整備を早急に進めること
3-間伐の実施を採算ベースに乗せるため、間伐材を活用した新商品や新用途の研究・開発を進めるとともに、販路の拡大を図ること

林業・木材産業の振興
本県の素材生産量は、昭和50年代から平成4年頃まで60万m3前後で推移してきた。しかし、近年減少傾向を示しており、平成10年は約39万m3となっている。
また、国産材需要の低迷から、製材品の生産量も平成10年には約19万m3と好況期の昭和55年の半分以下の水準となっている。
しかし、資源量から見ると、10年後には多くの人工林が標準伐期齢に到達し、その蓄積量は現在の3倍以上になると見込まれることから、県産材の利用拡大に向けた取組を早急に進めていくことが必要である。
一方、林業施業に不可欠の路網については、林道密度が平成10年度末現在3.1m/ha、公道も含めた林内道路密度は15m/haとなっており、必要とされる22〜24m/haと比較しても極めて低い状況にある。
このような現状を踏まえ、次の施策について推進されたい。

〔実施すべき方策〕
(1)路網整備、機械化等の推進
適正な森林の整備・管理はもとより、安定的かつ低コストで木材を供給するためには、路網整備、高性能林業機械の導入が不可欠であり、早急に次の事項について対応すること
1-低コストで安定的な林業生産のため、森林の施業に直結した林道・作業道等の路網整備を計画的かつ早急に進めること
2-高性能林業機械の導入・活用をさらに促進すること

(2)県産材の利用促進
1-今後、スギの供給量の増大が見込まれることを踏まえ、住宅用資材としての活用の普及と消費者ニーズに対応した県産材製品の開発に早急に取り組むこと
また、木材需要の変化に対応できる品質性能の高い製品の安定供給のため、乾燥材生産や高次加工の生産体制の整備を図ること
2-公共施設の木造化の推進と公共施設における県産材の利用の徹底を図るとともに、その活用事例を一般消費者に普及していくことにより、県産材の消費拡大に努めること。
また、県産材の利用促進に当たっては、農林水産部局と建築部局の連携、県と市町村との連携などその体制を強化すること。
さらに、木材供給者と設計者・大工・工務店等の住宅生産者の連携も強化するとともに、県が創設した県産材利用促進に係る各種事業について、建築関係者や県民への積極的な普及に取り組み、県産材を活用した良質な木造住宅を供給する体制づくりを進めること
3-木材利用が森林の適切な管理のみならず、地球温暖化防止や環境への負荷の少ない循環型社会形成等にも貢献することについて、県民への一層の理解の促進を図ること

 

森林資源を活かした魅力ある中山間地域づくり
特用林産物は、中山間地域における農林家の複合経営作物として重要である。本県においては、これまで乾しいたけ生産が盛んに行われ、昭和60年代前半までは生産量が500トンを超え、全国でも屈指の生産県であった。
しかしながら、中国産乾しいたけの輸入増大、生産者の高齢化などにより生産量は減少し、平成11年度は109トンの生産にとどまっている。
一方で、近年は菌床栽培によるしいたけ生産が大きく伸びており、平成11年度は全国5位の1,518トンの生産がなされている。大阪市場では高い評価を受けており、安定的な生産体制の整備が必要である。
今後、キノコ類についてはしいたけを主力としながら、商品価値の高い多様なキノコ類の生産振興を図る必要がある。
木炭については、その多様な効用が見直され、従来の燃料としての利用のみならず、土壌改良材や水質浄化材、吸湿材としての利用など多方面で活用されるようになってきているため、効率的な生産体制の整備と需要の開拓に努める必要がある。
また、森林資源や伝統文化など多様な地域資源を有効に活用しながら所得を確保し、中山間地域の活性化につなげることが必要である。
野生鳥獣については、生息環境の変化などにより、特に中山間地域において野生鳥獣による農林作物への被害が深刻化している。
このような現状を踏まえ、次の施策について推進されたい。

〔実施すべき方策〕
(1)しいたけやマツタケなどのキノコ類をはじめ、生け花用の枝ものや薬草・薬木など地域独自の特用林産物の定着化を進め、農林家の複合経営作物として振興を図ること
(2)木材は、環境負荷の少ない再生産可能な優れた資源であることを踏まえ、木材活用のあらゆる可能性の研究を進めることが必要。
1-バイオマスエネルギーの積極的な活用について関係機関と連携を進めながら検討すること
2-木炭や竹炭の多方面での活用が見直されていることを踏まえ、農業サイドや建築サイド等との連携を取りながら需要の拡大と生産の振興を図ること
3-木質堆肥利用の有機農業や木材チップ敷料を使った畜産、バイオマスエネルギー利用による施設園芸等の暖房など森林資源と農業との連携強化を進めること
4-路面舗装材や公園施設材など土木・建築資材として活用できる製品の開発とその積極的な活用に努めること
(3)森林は、保健・休養や自然・環境に関する教育の場としても重要であり、森林資源のこのような機能を活用した都市との交流を促進することにより、森林に対する理解の増進に努めるとともに、地域の活性化を進めていくこと
(4)野生鳥獣は、生息環境の整備などにより適正な保護管理を進めるとともに、被害に対しては、駆除と防護の両方の観点から効果的な抑制策を講じること。
特に、中国山地においては、他県との連携も視野に入れ、広域的な駆除の実施や効果的な被害防止施設の開発などについての共同研究を進めること

森林管理の働き手の確保
林業労働力は高齢化が進むとともに減少傾向が続いている。平成7年の林業就業者は昭和55年の約半数の3,160人であり、うち50歳以上が7割を占めている。
適切な森林の整備や木材生産のためには、質の高い労働力の確保が必要であり、就業条件の改善や生活環境の整備等を行いながら、とりわけ、新規就業者の確保に向けた取り組みが必要である。
また、森林の多様な機能を高めていくために、地域の森林整備の中核となる森林組合の組織や経営基盤を強化するとともに、民間事業体も同時に育成し、森林の効率的な施業ができる体制を整えることも必要である。
このような現状を踏まえ、次の施策について推進されたい。

〔実施すべき方策〕
(1)中核的な森林整備の担い手である森林組合に対しては、広域合併の推進等により経営基盤や執行体制の強化を図るとともに、公団造林や林業公社事業など公的森林整備事業の計画的な推進により、組合経営の安定化を図ること
(2)民間事業体に対しても、協業化や機械化などによる事業量の確保と生産性の向上を促進し、その育成を図ること
(3)近年、林業への就業を希望するU・Iターン者が増加していることを踏まえ、林業体験事業の実施や求人情報の積極的な提供などに努めるとともに、技術習得のための研修体制の充実や住居確保などの就業支援、さらには、就業条件改善のための雇用主に対する支援を充実すること

 


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