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2014(H26)年 <  2015(H27)年 年報  > 2016(H28)年
目次 I.概要 II-1.発生状況の解析と評価 II-2.定点把握疾患発生状況 III.検査情報
ウイルス検査情報 細菌検査情報 流行予測検査
1.病原微生物検出情報 検出状況 表18疾患別 表19月別 表20検体別 表21地区別 表22年推移 表23累計 図15
1)ウイルス検査情報
 感染症発生動向調査事業にともなう感染症流行とその病原体の確認調査を行うため、2015年1月から12月の間に県内の病原体検査定点が採取した15疾患群 989検体の患者材料について検査を実施した。 これらの患者材料は、県下の小児を中心とした感染症の原因となるウイルスの流行状況を反映しているものであり、インフルエンザをはじめ、感染性胃腸炎、肺・気管支炎、手足口病、熱性疾患、無菌性髄膜炎等の疾患についてウイルスの検索を行った。

(1)疾患別ウイルス検出状況(表18)
 検出されたウイルスは、表18に示すように41種類505例であった。
 以下、感染症発生動向調査の把握疾患のウイルス検出状況について述べる。

・インフルエンザ(疑いを含む)
 117検体から4種104例のウイルスが検出された。
 インフルエンザウイルスは、A香港型(AH3)が84例、B型(山形系統)が18例であり、その他、エコーウイルス18型、ヒトメタニューモウイルスが各1例検出された。インフルエンザウイルスAH1pdm09型及びB型(ビクトリア系統)は、検出されなかった。

・咽頭結膜熱
 22検体から、6種14例のウイルスが検出された。夏季に中部で患者報告数はやや多かったが、検体数及び検出ウイルス数は少なかった。
 アデノウイルス1型、2型、3型、5型が12例、その他、エコーウイルス3型、ライノウイルスが各1例検出された。

・感染性胃腸炎
 185検体中109検体からウイルスが検出された。
 検出された下痢症関連ウイルスは、A群ロタウイルス5例、ノロウイルスGT型8例、ノロウイルスGU型 45例、サポウイルス10例、アストロウイルス 8例、エンテリックアデノウイルス(アデノウイルス40/41型)7例である。
 ノロウイルスGU型は、検出されたウイルスの内41%(45/109例)を占めた。A群ロタウイルスは、5%(5/109例)と、2014年の15%(20/135例)から減少した。
 その他、パレコウイルス1型や、熱性疾患等から検出されているエコー3型、18型、アデノウイルス2型、5型など多種類のエンテロウイルス、アデノウイルスが検出された。

・手足口病
 91検体中78検体からウイルスが検出された。
 コクサッキーウイルスA6型が48例、A16型が24例と、この2つのウイルスで検出されたウイルスの9割を占めている。コクサッキーウイルスA6型は、2月から5月、コクサッキーウイルスA16型は、6月から8月に多数検出された。
 近年、手足口病は、2年に1度の流行を繰り返している。2013年は、8月をピークに流行があり、主に、コクサッキーウイルスA6型(42/74例)及びA16 型(12/74例)が検出されていた。

・ヘルパンギーナ
 12検体中7検体からウイルスが検出された。
 散発的な患者発生報告があったのみで、検体数、検出ウイルス数も少なく、コクサッキーウイルスA10型6例及びエコーウイルス25型1例であった。

・無菌性髄膜炎
 73検体中23検体からウイルスが検出された。
 検出されたウイルスは、コクサッキーウイルスA9型2例、B3型が4例、B5型4例、エコーウイルス3型5例、18型8例であった。
 無菌性髄膜炎は、2007年のエコーウイルス30型による流行があって以降、大きな流行は無い。2013年に小規模な流行があったが、エコーウイルス6型が40例検出されていた。

・肺・気管支炎
 155検体中76検体からウイルスが検出された。
 全国的に、エンテロウイルスD68型による下気道炎の流行が危惧されていたことから、肺・気管支炎の検体数は2014年の5割増しと多かった。
 検出された主なウイルスは、呼吸器系ウイルスのRSウイルス14例、ヒトメタニューモウイルス11例、パラインフルエンザ3型10例、ライノウイルス9例、アデノウイルス2型5例であった。エンテロウイルスは、エコーウイルス3型4例、危惧されたエンテロウイルスD68 型は、10例の検出となった。
 島根県では、エンテロウイルスD68 型は、2010年に下気道炎から1例、2013年に下気道炎、熱性疾患及び上気道炎から各1例ずつ計3例検出している。2015年の10例は、下気道炎6例、気管支喘息3例及び急性弛緩性麻痺を伴う症例1例からの検出となった。

・風しん(疑いを含む)
 2症例6検体の検査を行ったが、風しんウイルスは検出されなかった。

・先天性風しん症候群
 1月に1例発生し、生後2日目の検体及び島根県先天性風しん症候群フォローアップ検査実施要領に従い、生後1か月、3か月、6か月、8か月、10か月に採取した計16検体の検査を行い、8か月目までに採取した咽頭ぬぐい液、唾液、血液、尿、髄液から風しんウイルスが検出された。

(2)月別ウイルス検出状況(表19)
 アデノウイルス、コクサッキーウイルスA型、エコーウイルス、ライノウイルス、ノロウイルスGU型は検出数の増減はあるが、年間を通して検出された。
 インフルエンザウイルスは冬期から春期、RSウイルスは夏期から冬期に検出された。
 以下、代表的なウイルスについて月別の検出状況を述べる。

・アデノウイルス
 1型、2型及び4型は通年検出された。54型は、12月に流行性角結膜炎由来で咽頭拭い液から1例検出された。
 流行性角結膜炎患者から検出されるアデノウイルスとしては37型、8型及び19型などの血清型があるが、近年、新型として53型及び54型が報告されている。54型は、島根県で初めての検出となった。

・コクサッキーウイルスA群
 6型は、2月から4月まで多数検出され、5月以降年末まで漸減しながらも検出された。16型は、6月から8月をピークに2月から10月まで検出された。10型は、8、9月の2か月のみ検出されている。

・コクサッキーウイルスB群
 年間を通じて、検出数は例年に比して少なかった。3型及び5型が9月に複数例検出され、11月に2型及び5型が散発的に検出された。
 2014年に多数検出された1型は、検出されなかった。

・エコーウイルス
 2014年に散発的に検出された3型は、8月をピークに2月から9月まで多数検出された。
 2013年以降2年間検出されなかった18型が、1月に散発的に、7月から10月まで多数検出され、3型に次いで検出数が多かった。
 2007年以降検出の無かった16型が、9年ぶりに7月から10月まで計11例検出された。
 2013年に大流行した6型は、9月及び12月に散発的に検出された。
 2007年に無菌性髄膜炎から多数検出された30型は、2014/2015年と検出されていない。

・エンテロウイルス68型
 2014年8月から2015年1月に米国で1,153人の呼吸器疾患患者から検出されており、乳幼児や子供が発症しやすく、流行期には急性弛緩性麻痺例が確認され、麻痺とウイルス感染との関連が疑われ、日本での流行が危惧されていた。
 全国では、2010年129例、2013年122例と9月をピークに検出されていたが、2015年は258例が検出され、流行のピークは9月で、11月以降は検出されていない。島根県では、9月から10月に10例検出された。
 島根県では、9月から10月に10例検出された。

・インフルエンザウイルス
 2014/2015年シーズンは、2014年9月にA香港型(AH3)が検出された後、一旦、検出は無くなり、11月下旬から2015年1月をピークに3月末までシーズンの主流ウイルスとして県内各地で検出された。
 B型(山形系統)は、2014年12月と 2015年2月に散発的に検出された後、3月をピークに5月まで検出された。
 2015/2016年シーズンは、2015年10月にB型(山形系統)が施設での集団発生事例から検出されたほか、11月上旬に散発的に検出された。11月下旬には、A香港型(AH3)が散発的に検出された。

・呼吸器関連ウイルス
 パラインフルエンザウイルス1型及び2型は散発的に、3型は6月から8月に検出された。
 RSウイルスは2月に散発的に検出され、8月以降、継続して検出されてた。
 ライノウイルスは年間を通して検出され、ヒトメタニューモウイルスは、3月から4月をピークに1月から5月に検出された。

・下痢症関連ウイルス
 ウイルス性感染性胃腸炎は、主に冬季から春季にかけて流行する。その主な原因ウイルスとなっているのがノロウイルスGU型とA群ロタウイルスである。
 ノロウイルスGU型はほぼ通年検出されたが、1月及び10月に検出数が多く、12月には県内全域で流行が認められた。
 A群ロタウイルスは、例年2桁検出されていたが、散発的に1月、6月、11月及び12月に検出され、予防接種の普及効果がうかがえた。
 アストロウイルスは、3月から6月に検出され、サポウイルスは、1月、3月、8月、11月及び12月と散発的に検出された。
 その他、エンテリックアデノウイルス(アデノウイルス40/41型)、ノロウイルスGT型が、散発的に検出された。

(3)検査材料別ウイルス検出状況(表20)
 適切な検査材料と採取時期が感染症の病原体診断のための重要な要素である。
 現在、定点医療機関において、呼吸器系感染症は咽頭拭い液及び鼻汁・鼻腔拭い液、胃腸炎症状は糞便、髄膜炎症状では脊髄液・咽頭拭い液・糞便、そして水疱を伴う発疹症は水疱液・咽頭拭い液・糞便、眼疾患は結膜拭い液・咽頭拭い液等の検査材料を採取してもらい、ウイルス検出を行っている。
 また、麻しん、風しんを疑う症例の場合には、咽頭ぬぐい液、血液、尿を採取してもらっている。
 以下、材料別のウイルス検出状況を示す。

・咽頭拭い液
 495検体中、242検体(48.9%)からウイルスが検出された。
 このうち、エンテロウイルス(コクサッキーウイルスA群、B群、エコーウイルス、エンテロウイルス71型)が131例と約5割を占めた。 検出数が多かったウイルスは、手足口病の原因ウイルスとなったコクサッキーウイルスA6型 が50例、A16型が26例である。
 インフルエンザウイルスは25例検出され、内訳は、A香港型(AH3)が20例、B型(山形系統)が5例であった。 アデノウイルスは28例検出された。 呼吸器感染症の原因となるRSウイルスが15例、ライノウイルス13例、パラインフルエンザウイルス14例、ヒトメタニューモウイルス6例などが検出された。

・鼻腔拭い液
 インフルエンザ様患者由来6検体中、5検体からインフルエンザウイルスB型(山形系統)が検出された。

・鼻汁
 主にインフルエンザ様患者及び肺・気管支炎患者由来の検体110検体中、97検体(88.2%)からウイルスが検出された。
 主な検出ウイルスは、A香港型(AH3)64例、B型(山形系統)8例、ヒトメタニューモウイルスが7例であり、インフルエンザウイルスが7割を占めた。

・糞便
 303検体のうち、ほぼ半数が感染性胃腸炎患者由来、残りの半数が熱性疾患・発疹症などの患者由来であり、150検体(49.5%)からウイルスが検出された。
 主に検出されたのは、下痢症関連ウイルスでは、ノロウイルスGU44例、サポウイルス8例、ノロウイルスGT8例、アストロウイルス8例であった。
 その他、熱性疾患、肺炎、咽頭炎患者由来でアデノウイルスが19例、無菌性髄膜炎、発疹症、熱性疾患、感染性胃腸炎の患者由来でエンテロウイルスが45例検出された。

・脊髄液
 熱性けいれん、脳・脊髄炎、無菌性髄膜炎患者由来の46検体中、8検体(17.4%)からウイルスが検出された。
 内訳は、コクサッキーウイルスB5型2例、エコーウイルス3型2例、18型2例、コクサッキーウイルスA9型及びコクサッキーウイルスB3型が各1例である。
 無菌性髄膜炎では、脊髄液25検体中7検体(28%)からウイルスが検出されたが、咽頭拭い液17検体中5検体(29.4%)、便検体18検体中11検体(61.1%)と比べ低い検出率であった。
 無菌性髄膜炎の原因ウイルスの検索では、便検体からのウイルス検出率が高いが、胃腸炎など他の起因ウイルスも便検体に長期間排出されているため、無菌性髄膜炎の原因ウイルス検索としては、髄液と便など1患者から異なる種別の複数検体の採取が望ましい。

・尿
 麻しん及び風しん疑い患者、SFTS及びデング熱疑い患者、出血性膀胱炎患者由来の15検体を検査したが、ウイルスの検出は無かった。

(4)地域別ウイルス検出状況(表21)
 ウイルス毎の検出時期と地域間の波及の方向をみるため、流行した代表的なウイルスについて旬毎のウイルス検出数を表21に示した。

・コクサッキーウイルスA6型
 2015年の手足口病の主流行ウイルスの一つであり、東部、中部で2月から5月に多数検出され、8月からは西部でも検出されるようになり、県内全域での散発的な検出が年末まで続いた。

・コクサッキーウイルスA16型
 2015年の手足口病の主流行ウイルスの一つであり、1年ぶりに2月に1例東部で検出され、4月下旬から中部で継続的に、東部・西部では散発的に10月下旬まで検出された。

・エコーウイルス3型
 東部で散発的に2月に検出された後、4月下旬から9月中旬まで、県内全域で検出された。

・エコーウイルス18型
 西部で散発的に1月上旬に検出された後、しばらくは検出されなかったが、7月から東部で、その後、中部、西部と拡大し県内全域で10月まで検出された。

・インフルエンザウイルスA香港型(AH3)
 2014/2015年シーズンは、2014年第49週に定点あたりの報告患者数が1人以上となり流行期入りした。
 A香港型(AH3)は、流行期前の11月下旬から東部、中部で検出された後、12月下旬には西部で検出され始め、中部では3月中旬まで、西部では3月下旬まで検出された。東部では散発的な検出状況であった。
 なお、西部では1月中旬をピークに多数の報告があり、シーズン中の検出数の6割を西部が占めた。
 2015/2016シーズンは、2015年11月下旬に東部で1例検出された。

・インフルエンザウイルスB型(山形系統)
 2014/2015シーズンは、2014年12月中旬に中部で1例検出され、2月中旬に西部で1例検出された後、3月上旬から5月上旬まで中部でのみ多数検出された。
 2015/2016シーズンは、2015年10月中旬に中部の集団発生事例から検出された後、東部で11月上旬に1例検出された。

・ノロウイルスGU
 2014/2015シーズンは、2014年10月上旬に東部・中部、12月に西部で検出されるようになり、12月は県内全域で検出された。その後、2015年1月に中部で流行が認められた。7月には、東部・西部で散発的に検出された。
 2015/2016シーズンは、東部では2015年10月上旬から、中部では9月下旬に1例検出された後、10月下旬から検出されるようになり、西部では10月下旬及び12月下旬に散発的に検出された。

島根県感染症情報センター