島根県感染症発生動向調査2014年報：ウイルス検査情報

　検出されたウイルスは、表18に示すように45種類 601例であった。
　以下、感染症発生動向調査の把握疾患のウイルス検出状況について述べる。

・インフルエンザ（疑いを含む）
　206検体から12種180例のウイルスが検出された。
　インフルエンザウイルスは、AH1pdm09型が64例、A香港型(AH3)が48例、B型が56例であり、その他、アデノウイルス6型4例、アデノウイルス3型、コクサッキーウイルスA8型、エコーウイルス6型、パラインフルエンザウイルス2型、RSウイルス、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、単純ヘルペスウイルスが各1例検出された。

・咽頭結膜熱
　3月から4月に中部を中心に流行が認められ、アデノウイルス1型、2型、3型、4型、5型の他、コクサッキーウイルスA10型、エコーウイルス11型、パラインフルエンザウイルス3型、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、サフォードカルディオウイルスが検出された。

・感染性胃腸炎
　210検体中135検体からウイルスが検出された。
　検出された下痢症関連ウイルスは、A群ロタウイルス 20例、ノロウイルスＧⅠ型８例、ノロウイルスＧⅡ型 48例、サポウイルス 18例、アストロウイルス 5例、エンテリックアデノウイルス（アデノウイルス40/41型） 6例である。
　その他、パレコウイルス1型や熱性疾患等から検出されているエコー3型、11型、アデノウイルス4型、31型など多種類のエンテロウイルス、アデノウイルスが少数例ずつ検出された。

・手足口病
　散発的な患者発生が認められたのみであり、検体数、検出ウイルス数とも少なく、コクサッキーウイルスA10型が５例、パレコウイルス3型が3例、エンテロウイルス71型が2例検出された。

・ヘルパンギーナ
　7月をピークに比較的大きな流行があり、検体数は41検体であった。。
　検出されたウイルスは、コクサッキーウイルスA４型16例、A10型10例、A5型３例であり、その他アデノウイルス２型、31型、コクサッキーウイルスB1型、エコーウイルス11型、エンテロウイルス71型、ライノウイルスが各1例検出された。

・無菌性髄膜炎
　4月以降、中部地区で散発的な患者発生が続き、44検体中17検体からウイルスが検出された。
　検出されたウイルスはコクサッキーウイルスB1型10例、B3型が３例、B4型2例、エコーウイルス6型、11型各１例である。

・麻しん（疑いを含む）
　7症例21検体の検査を行なったが、麻しんウイルスは検出されなかった。

・風しん(疑いを含む)
　2症例6検体の検査を行ったが、風しんウイルスは検出されなかった。

・先天性風しん症候群
　1月に1例発生し、生後2日目の検体及び島根県先天性風しん症候群フォローアップ検査実施要領に従い、生後1か月、３か月、6か月、８か月、10か月に採取した計16検体の検査を行い、8か月目までに採取した咽頭ぬぐい液、唾液、血液、尿、髄液から風しんウイルスが検出された。

　アデノウイルス、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ノロウイルスGⅡ型、サポウイルスは検出数の増減はあるが、年間を通して検出された。コクサッキーウイルス、エコーウイルス、パレコウイルスは概ね夏期から秋期に多数検出されたが、コクサッキーウイルスA５型、B1型、エコーウイルス３型は冬期にも検出された。インフルエンザウイルスは冬期から春期、RSウイルスは秋期から冬期に流行が認められた。
　以下、代表的なウイルスについて月別の検出状況を述べる。

・アデノウイルス
　1型、2型は通年、3型は3月から月に、4型は1月から8月に、5型、31型、57型は散発的に検出された。
　57型は2001年にアゼルバイジャンで分離され、近年新たに分類されたウイルスであり、世界的に検出報告が非常に少ないウイルスである。

・コクサッキーウイルスA群
　4型は７月をピークに4月から7月まで、10型は7月と10月をピークに6月から10月まで検出された。
　5型は8月、11月、12月に、6型は9月に、8型は1月に散発的に検出された。

・コクサッキーウイルスB群
　1型が6月をピークに4月から12月と長期間検出された。4型は7月及び8月に検出された。2型、3型は散発的な検出であった。。

・エコーウイルス
　11型は昨年後半に検出されているが、本年も9月から11月に検出された。
　3型は12月、25型は11月に散発的に検出された。6型は昨年大流行したウイルスで1月、2月、8月に散発的に検出された。

・エンテロウイルス71型
　2月及び5月に散発的に検出された。

・パレコウイルス
　3型が4月から7月、1型が6月から10月に検出された。

・インフルエンザウイルス
　2013/2014年シーズンは、2013年9月にAH1pdm09型、12月にはA香港型(AH3)が検出された。 2014年1月からはB型も検出され始め、AH1pdm09型は2月をピークに4月まで、A香港型(AH3)は1月をピークに5月まで、B型は3月をピークに5月まで検出された。さらにA香港型(AH3)は8月及び9月に出雲圏域で小流行し、一旦収まったが、11月以降、県下全域で検出されるようになった。また、12月にB型が検出された。

・呼吸器関連ウイルス
　パラインフルエンザウイルスは1、2型は散発的に、3型は4月から7月に検出された。
　RSウイルスは1月、4月、7月に散発的に検出され、9月以降、流行が認められた。
　ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルスは年間を通して検出された。
　ヒトボカウイルスは年間で９例と散発的な検出であった。

・下痢症関連ウイルス
　ウイルス性感染性胃腸炎は、主に冬季から春季にかけて流行する。その主な原因ウイルスとなっているのがノロウイルスGⅡ型とA群ロタウイルスである。
　ノロウイルスGⅡ型はほぼ通年検出されたが、1月及び10月から12月には県内全域で流行が認められたほか、5月から6月に東部・中部で流行が認められた。
　A群ロタウイルスは3月から検出され始め、4月をピークに6月まで検出された。
　また、サポウイルスがほぼ年間を通じて検出された。
　その他、エンテリックアデノウイルス（アデノウイルス40/41型）ノロウイルスGⅠ型、アストロウイルス、が春期を中心に散発的に検出された。

・風しんウイルス
　すべて先天性風しん症候群1症例（フォローアップを含む）からの検出である。

　適切な検査材料と採取時期が感染症の病原体診断のための重要な要素である。現在、定点医療機関において呼吸器系感染症は咽頭拭い液及び鼻汁・鼻腔拭い液、胃腸炎症状は糞便、髄膜炎症状では脊髄液・咽頭拭い液・糞便、そして水疱を伴う発疹症は水疱液・咽頭拭い液・糞便、眼疾患では結膜拭い液・咽頭拭い液等の検査材料を採取してもらい、ウイルス検出を行っている。また、麻しん、風しんウイルスの検出には咽頭ぬぐい液、血液、尿を採取してもらっている。
　以下、材料別のウイルス検出状況を示す。

・咽頭拭い液
　392検体が採取され、222例（56.6%）からウイルスが検出された。
　このうち、エンテロウイルス（コクサッキーウイルスA群、B群、エコーウイルス、エンテロウイルス71型）が87例と約4割を占めた。検出数が多かったウイルスは、ヘルパンギーナの原因ウイルスとなったコクサッキーウイルスA４型、A10型が各23例、無菌性髄膜炎の主流行株となったコクサッキーウイルスB1型 16例などである。
　インフルエンザウイルスは42例検出され、内訳は、AH1pdm09型が20例、A香港型(AH3)が12例、B型が10例であった。アデノウイルスは1～6型が37例検出された。呼吸器感染症の原因となるRSウイルスが7例、ライノウイルス10例、パラインフルエンザウイルス12例、ヒトメタニューモウイルス9例などが検出された。

・鼻腔拭い液
　インフルエンザ様患者由来の検体でAH1pdm09型が１例検出された。

・鼻汁
　主にインフルエンザ様患者及び肺・気管支炎患者由来で検体数201検体中182検体（90.5%）からウイルスが検出された。
　主な検出ウイルスは、AH1pdm09型が45例、A香港型(AH3)38例、B型46例、RSウイルス、ライノウイルスが各12例であり、インフルエンザウイルスが7割を占めた。

・糞便
　348検体のうち、ほぼ半数が感染性胃腸炎患者由来、残りの半数が熱性疾患・発疹症などの患者由来であり、180検体（51.7%）からウイルスが検出された。
　主に検出されたのは、下痢症関連ウイルスではA群ロタウイルス20例、ノロウイルスGⅡ47例、サポウイルス18例であった。
　その他、感染性胃腸炎、熱性疾患患者由来でアデノウイルスが28例、無菌性髄膜炎、発疹症、熱性疾患、感染性胃腸炎の患者由来でエンテロウイルスが40例検出された。

・脊髄液
　無菌性髄膜炎患者由来で、33検体７検体（21.2%）からウイルスが検出された。
　内訳はコクサッキーウイルスB1型３例、B3型、B4型、エコーウイルス6型が各1例である。

・尿
　麻しんあるいは風しん疑い患者および先天性風しん症候群由来の検体 19検体を検査し、先天性風しん症候群由来の4検体から風しんウイルスが検出された。
　また、出血性膀胱炎患者由来1検体からコクサッキーウイルスB1型が検出された。

・血液
　麻しんあるいは風しん疑い患者および先天性風しん症候群由来の検体 12検体を検査し、先天性風しん症候群由来の2検体から風しんウイルスが検出された。

　ウイルス毎の検出時期と地域間の波及の方向をみるため、流行した代表的なウイルスについて旬毎のウイルス検出数を表21に示した。

・アデノウイルス1型
　検出数の6割以上を占めた東部では2月から8月に検出された。その間、中部では5月に、西部では1月から2月に散発的に検出されたほか、11月には県内全域で検出された。

・コクサッキーウイルスA4型
　2014年のヘルパンギーナの主流行ウイルスの一つであり、県内全域で5月下中から検出され始め、東部ではその後、6月下旬に1例検出されたのみであるが、中部、西部ではそれぞれ7月下旬、7月中旬まで検出された。

・コクサッキーウイルスA10型
　2014年のヘルパンギーナの主流行ウイルスの一つであり、手足口病の原因ウイルスでもあった。
　6月上旬に東部で検出され始め、断続的に10月下旬まで検出された。その後、7月中旬から中部でも検出されるようになり、10月上旬まで検出された。西部では10月下旬に1例検出されたのみであった。

・コクサッキーウイルスB1型
　2014年の無菌性髄膜炎の原因ウイルスの一つである。
　東部では4月上旬から7月中旬まで検出された後、3か月以上経った11月中旬から1か月の間、再び検出された。
　中部では4月中旬から、西部では6月上旬から検出され始め、9月中旬まで断続的に検出された。

・インフルエンザウイルスAH1pdm09型
　1月上旬に東部、中旬に中部、下旬に西部と東から西に流行が拡大し、ほぼ3か月間検出された。

・インフルエンザウイルスA香港型(AH3)
　2013/2014年シーズンは、2014年第1週に定点あたりの報告患者数が1人以上となり流行入りした。
　A香港型(AH3)は、流行前の12月上旬から中部で検出されており、1月上旬から県内全域で検出され始め、中部は4月上旬、西部は3月下旬まで検出された。患者報告は5月中旬に定点あたり1人以下となったが、東部は5月下旬まで検出された。東部では1月下旬をピークに5月中旬、中部では1月下旬をピークに4月下旬、西部では4月上旬まで検出された。
　2014/2015シーズンは、8月下旬から9月上旬にかけて中部で発生した局地的な小流行から検出されたのち、11月下旬までウイルスは検出はされなかった。

・インフルエンザウイルスB型
　2014年1月中旬に西部で２例検出されたのち、下旬に中部、2月中旬に東部でも検出され始めた。検出数は中部、西部で多く、西部では3月上旬をピークとする流行が認められた。東部は5月中旬まで各1月1例ずつと散発的な検出であったが、中部は5月中旬、西部は5月上旬まで継続的に検出された。

・RSウイルス
　秋季から冬期の流行を反映し、10月下旬に県内全域で検出された。さらに東部・中部では12月中旬まで検出が続いた。

・ライノウイルス
　さまざまな疾患から検出され、3月から5月、9月から10月、12月に県内全域で検出され、地域差は特に認められなかった。

・A群ロタウイルス
　3月中旬から中部で検出され始め、4月上旬には東部でも検出されるようになり、両地区とも6月まで継続的に検出された。
　西部の検出例はないが、基幹病院定点報告である感染性胃腸炎（ロタウイルス）の報告は西部でも認められていることから、本ウイルスの好発年齢である乳幼児の胃腸炎患者検体が少なかったためと考えられる。

・ノロウイルスGⅡ
　2013/2014シーズンは10月下旬に中部、11月中旬に東部で検出されるようになり、年明け後の1月は県内全域で検出された。その後、4月下旬から6月中旬に東部・中部で流行が認められた。さらに10月以降、東部・中部を中心に散発的に検出された。

・サポウイルス
　中部ではほぼ年間を通じて検出されたが、東部、西部では各4例、2例と検出数が少なく、散発的な検出であった。