3)インフルエンザ定点感染症の流行状況:表5〜10、図1〜4
1999年4月から小児科、内科、計38の定点で実施されている。2015年のインフルエンザの報告数は8,467件(定点当り222.8件)と2005年以降で第6位と中位であり、2015年の報告数を2005年〜2014年の10年間の年間平均患者数で除した流行指数も1.04であった。
県全体では、例年より早く2014年第49週(12月初旬)[週の定点当り報告件数:1.08] に流行期に入り、2015年第1週[14.7]には注意報レベルを、第3週[44.6] 及び第4週[43.8]に早くも警報レベルを超えた。これらは2009年のピークである第48週[48.0]に匹敵する。その後は急減し、第8週(2月中旬)[6.2]には警報レベル終息基準値[10.0]以下となった後、漸減し、例年と同様に第20週(5中旬)[0.52]に流行期を脱した。2014/2015シーズンは、早くからの急な立ち上がりが特徴的であった。2014年11月から2015年5月の間の合計報告件数は8,861件であり、過去5年間と比較して2009/2010シーズンに次ぐ流行であった。
なお、2015/2016シーズンとなる2015年第53週[0.32]には、未だ流行期に達していない。
地区別では、東部(隠岐を含む)の流行指数は1.23でピークは第3週[60.9]、中部の流行指数は 0.92でピークは第3週[33.3]、西部の流行指数は0.93でピークはやはり第3週[44.8]であった。
医療圏域別の定点当り報告件数は、松江圏域(305.5)、雲南圏域(276.0)で大きく、隠岐圏域(129.5)で小さかった。他は大田圏域の(198.7)から浜田圏域の(174.6)の間に分布した。2015年は東部での流行が大きかった。
年齢別では、乳児1.4%(2010年から2014年までの5年間のこの年齢層の平均と幅は2.5%と1.7〜2.6%。以下、同様)、1〜4歳19.7%(18.6%、18.6〜23.0%)、5〜9歳29.8%(29.2%、25.4〜32.2%)、10歳代20.7%(20.3%、17.8〜21.7%)、20歳代〜50歳代19.8%(22.9%、18.3〜28.2%)、60歳以上8.5%(3.5%、2.2〜5.6%)であった。例年と比べ乳児はやや少なく、高齢者は明らかに多かった。
4)小児科定点感染症の発生状況
2015年のインフルエンザも含めた総患者数は2,6769件であり、過去10年間と比較して第5位と中位であり、流行指数も1.02であった。
(1) 全県的な感染症の流行状況:表5,図2
ア) 患者報告数が特に多かった疾患 _ ( )は流行指数
◆A群溶連菌咽頭炎 : 3,678件(2.61)
2014年の大流行(2,911件)を更に大きく上回り、全国と同様、2014年から通年的に過去10年間と比較して最大の流行が続いた。
◆RSウイルス : 1,251件(2.31)
2012年の1,155件を上回り、過去10年間と比較して最多であった。ただし、RSウイルスの迅速検査は、2011年10月から、乳児等に対する外来での検査が保険適用になっており、このことが診断数の増加に繋がっていることも考えられ、引き続き、動向を注視する必要がある。
◆手足口病 : 2,680件(2.29)
過去10年間と比較して2011年(3,659件)、2013年(2,795件)に次ぐ第3位の流行規模であった。
◆咽頭結膜熱 :839件(1.38)
過去10年間と比較して2006年(1,162件)、2014年(1,126件)に次ぐ、第3位の流行規模であった。
イ) 患者報告数が例年並みであった疾患 _ ( )は流行指数
◆突発性発しん : 735件(0.89)
「流行」とする疾患ではない。2005年以降、703件〜961件と変動幅は小さいが、最初の2005年から2008年が1〜4位を占めている。出生数の減少と小児科医療機関の増加の双方の影響の可能性がある。
◆感染性胃腸炎 :7,695件(0.78)
過去10年間の報告件数は7,695〜11,753件と変動幅は比較的小さい。この中で2015年は最少であった。
◆百日咳 : 5件(0.70)
2006年以降、2,008年の19件を除き、1桁の患者報告数となっている。
ウ) 患者報告数が例年より小さかった疾患 _ ( )は流行指数
◆流行性耳下腺炎 : 426件(0.51)
2005〜2006年及び2010〜2011年が流行年であった。2013年の最少レベル(86件)から漸増している。全国的には、2014年末からより鮮明に流行年に向かいつつある。
◆伝染性紅斑 : 109件(0.36)
2006年及び2011〜2012年が流行年で、2012年8月以降、非流行期が続いている。全国的には夏季をピークに流行がみられた。
◆ヘルパンギーナ : 245件(0.35)
2014年(833件)は、過去5年間と比較して最大の流行年となったが、2015年は減少し、過去5年間と比較して最少であった。
◆水痘 : 428件(0.25)
2014年10月から水痘ワクチンが1〜2歳(2014年度のみ1〜4歳)を対象に定期接種化された。2005年から2013年まで1,429〜2,036件の幅で推移していたが、2015年は4週換算した各月で過去5年間の平均と比べ13.5%〜41.9%の件数であった。全国的にも、2014年10月以降、過去10年間と比較して最少の件数が続いている。
(2) 地区・圏域別にみた流行指数:表6、7、9、図2
ア) 各地区での流行指数の上位疾患(突発性発しんを除く) _ ( )内は流行指数
◆東部(隠岐を含む) : A群溶連菌咽頭炎(3.78)、手足口病(1.96)、RSウイルス感染症(1.95)
◆中部 : 手足口病(2.63)、咽頭結膜熱(2.22)、RSウイルス感染症(2.16)、A群溶連菌咽頭炎(1.54)
◆西部 : RSウイルス感染症(3.57)、A群溶連菌感染症(3.03)、手足口病(2.48)
イ) 定点当りの報告数が特に多かった圏域 _ ( ) 内は定点当りの患者報告数
◆RSウイルス感染症 : 出雲圏域(84.6)、松江圏域(54.7)、雲南圏域(61.7)
◆咽頭結膜熱 : 出雲圏域(115.8)
◆A群溶連菌咽頭炎 : 松江圏域(282.3)、出雲圏域(157.6)、益田圏域(121.3)
◆感染性胃腸炎 : 大田圏域(498.0)、松江圏域(491.6)、出雲圏域(349.0)
◆水痘 : 雲南圏域(25.0)、松江圏域(23.6)、出雲圏域(22.8)
◆手足口病 : 出雲圏域(150.0)、松江圏域(136.4)
◆伝染性紅斑 : 雲南圏域(7.0)、出雲圏域(6.6)、松江圏域(5.3)
◆ヘルパンギーナ : 出雲圏域(15.6)、松江圏域(14.6)
◆流行性耳下腺炎 : 隠岐圏域(46.0)、益田圏域(26.0)、松江圏域(23.4)
(3) 感染症患者月別発生状況:表8、9、図4〜6
− 流行の季節変動 −(月別報告数は1か月4週に換算)
◆RSウイルス感染症 : 2014/2015年シーズンは2014年8月に33件と早い立ち上がりで、第48週(11月下旬)には97件のピークとなった。以降は漸減し、2015年第13週(3月下旬)以降、週当たりの件数は10件未満となった。2015/2016年シーズンも2015年第34週(8月中旬)から10件以上が続き、全国的にも早い立ち上がりとなった。2015年第38週(9月中旬81件)に早くもピークとなった後、小流行が続き、2015年第50週(12月初旬91件)に再びピークとなった。2峰性の経過は島根県に特異であった。
◆咽頭結膜熱 : 出雲圏域で流行し、2015年第16週(4月中旬)から流行が始まり、6月初旬から7月初旬をピーク(最大 第27週:34件)に、その後も小流行が12月まで持続した。
◆A群溶連菌感染症 : 松江圏域では2014年5月からの大流行が、2015年も通年継続した。特に、1〜3月及び12月は月に200件を超えた。中部では3〜6月及び12月に大きな流行となった。西部でも3〜5月の間に流行した。いずれの圏域とも通年的に報告があった。
◆感染性胃腸炎 : 冬季のピーク(2014/2015シーズンは2014年12月)は、例年どおり大きかった。晩春から初夏に掛けてのピークは、2014年5月(734件)、2015年4月(578件)と、例年、1,000件を超えているのに比べ、2年連続で小さかった。
◆水痘 : 2014年10月から1〜2歳児の定期予防接種が始まり、効果は翌月から現れ、2015年は1年を通して少なかった。例えば、2013年の各月は34〜188件に分布し、冬季のピーク(2012年12月205件、1月146件)及び初夏のピーク(4月161件、5月158件)が明白であったのに対し、2015年は各月7〜70件に分布し、1月70件、11月52件、12月44件とやや多かったものの、初夏のピークは無かった。
◆流行性耳下腺炎 : 2014年6月から漸増しており、9月以降は51件〜76件で推移したが、2015年2月から小流行に後退し、11月以降再燃した。全国的には2015年春から漸増を続け、年末には高レベルに達した。2016年は、2010〜2011年以来の流行年になると予想される。
(4) 定点別把握疾患の年齢別患者数の分布:表10
◆RSウイルス感染症 : 生後6か月までの乳児14.3%、生後7〜12か月の乳児21.5%、1歳代40.5%、2歳代14.2%であり、これらが90.5%を占めている。2008年以降(87.8〜91.3%)同様の傾向である。
2011年にRSV抗原検査の保険適用対象が拡大された。患者報告が入院患児にほぼ限定されていた2011年までとその後を比較するため、2008〜2010年(以下、前期と言う。)及び2012〜2015年(以下、後期と言う。)の各期間の平均(分布幅)を比較したところ、生後6か月までの乳児では前期:30.4%(21.2〜35.5%)に対し、後期:17.8%(14.3〜21.8%)、生後7〜12か月の乳児では前期21.5%(17.5〜24.2%)に対し、後期:22.6%(21.5〜23.0%)、1歳代では前期:29.9%(27.1〜34.2%)に対し、後期:36.2%(34.0〜40.5%)、2歳代では前期:9.6%(6.4〜13.2%)に対し、後期:13.4%(12.0〜14.2%)、3歳代では前期:3.85%(3.2〜4.2%)に対し、後期:5.6%(4.6〜6.2%)であった。
特に、乳児期前半の感染児の多くが入院すると仮定すると、近年の報告件数の増加は、比較的軽症の1歳〜3歳の被検児の増加も一因と考えられる。
◆突発性発しん : 生後6か月までの乳児2.2%、生後7〜12か月の乳児43.8%、1歳代47.1%であり、これらが93.1%を占めた。2010〜2014年の5年間の平均(分布幅)は、生後6か月までの乳児2.9%(2.0〜3.8%)、生後7〜12か月の乳児52.4%(49.3〜59.0%)、1歳代41.3%(33.4〜44.9%)であり、概ね例年どおりであるが、2015年は生後7〜12か月の乳児がやや少なく、1歳代以降が幾分、多かった。
◆水痘 : 2014年10月から1〜2歳の予防接種が2回の定期接種化が開始された(移行措置として、2015年3月までは3〜4歳も1回の接種が可能)。まだ、1年を経過したに過ぎないが、罹患年齢の変化をみておきたい。2015年は、生後6か月までの乳児1.2%、生後7〜12か月の乳児7.5%、1歳代22.2%、2歳代16.8%、3〜9歳46.7%、10歳代4.9%、成人0.7%であった。
2013〜2009年の5年間の平均(分布幅)は、生後6か月までの乳児2.6%(2.3〜3.2%)、生後7〜12か月の乳児7.5%(6.2〜8.2%)、1歳代28.4%(25.6〜32.8%)、2歳代24.8%(24.1〜25.8%)、3〜9歳35.1%(30.7〜37.5%)、10歳代1.1%(0.9〜1.5%)、成人0.5%(0.4〜0.7%)であった。1〜2歳は、減少はしたものの少なくない罹患児があり、接種年齢に達したらできるだけ早期に接種を済ませる必要がある。生後6か月までの乳児の減少は集団免疫効果がより強く作用した可能性がある。3〜9歳及び10歳代の割合は明らかに増加した。
◆百日咳 : 5件あり、乳児3件、1歳及び成人が各1件であった。
◆1歳代が最多であった疾患 ( )は1歳代の占める割合
咽頭結膜熱(43.5%)、感染性胃腸炎(19.3%)、手足口病(42.3%)、ヘルパンギーナ(42.3%)であり、疾患の種類、割合ともに2014年と同様である。
◆その他の年齢が最多であった疾患 : A群溶連菌咽頭炎(4歳、14.3%)、伝染性紅斑(3歳、19.3%)、流行性耳下腺炎(4歳、19.0%)。
◆成人の流行性耳下腺炎 : 流行年の2010年及び2011年は14件及び27件であったが、2012年以降は8件、1件、5件と1桁で推移し、2015年は4件であった。
− 2015年の特徴 −
◆水痘 : 2014年10月からのワクチン効果により例年の1/4程度に減少した。
◆A群溶連菌咽頭炎 : 特に、東部で全国と同様に大流行となり1年を通して続いた。
◆咽頭結膜熱 : 中部に集中する形で流行が続いた。
◆インフルエンザ : 流行の立ち上がりが早く、かつ、ピークが急峻であった。
◆RSウイルス感染症 : 8月から流行し全国的にも早い立ち上がりで9月中旬にピークとなった後、一旦減少、12月初旬に再度ピークとなる特異な経過となった。近年の増加は、主に2〜3歳以上の比較的軽いと推測される罹患児の増加による。
◆手足口病 : 県内全域で2011年及び2013年に次ぐ第3位の流行規模であった。
◆伝染性紅斑 : 全国的には流行年となったが、島根県では流行には至らなかった。
5)眼科定点感染症の流行状況:表5、6、7、8、9、10、図7,8
(1) 急性出血性結膜炎
非常に強い結膜炎であるが、1992年に全県で113件の報告があった後は急速に減少傾向を示している。2015年は島根県内で2件の報告のみであった。
(2) 流行性角結膜炎
2015年は、島根県内で73件の報告があり、東部52件、中部14件、西部7件であった。この報告数は2005年の流行に次ぐ大きな流行である。6月から11月にかけて、発症が多くみられた。発症年齢は、0歳〜5歳、30歳〜35歳までが多く、小児の集団感染から親(成人)への感染拡大が推察される。角膜炎を伴う重症例も多くみられた。
流行性角結膜炎は、感染力が強く、集団感染を起こしやすいため、早期発見・診断・治療が重要であるのはもとより、教育施設等への注意喚起が重要である。
【参考情報】
島根県内における2015年の流行性角結膜炎の流行にあたり、眼科定点(東部・中部・西部 各1定点医療機関)からの報告のほか、別途、下記のとおり把握するとともに、情報提供があった。
@ 学校欠席者情報収集システムによる流行状況の把握
流行性角結膜炎:島根県内の患者報告数は、2015年6月から増加し、7月及び11月をピークとする2峰性を示す流行年となった。特に、松江圏域では、7月をピークに患者報告数が増加した後、8月には一旦減少したが、11月には再び急増し大きな流行となった。また、浜田圏域及び益田圏域では9月に、出雲圏域では10月に、雲南圏域では11月に患者報告数が増加しており、その他の圏域でも散発的な患者発生があった。
【2015年:流行性角結膜炎 患者報告数】
島根県273件(松江圏域206件、雲南圏域15件、出雲圏域9件、大田圏域3件、浜田圏域16件、益田圏域20件、隠岐圏域4件)
A 松江市及び出雲市における流行性角結膜炎の流行状況
(松江市内及び出雲市内の眼科医療機関における調査結果)
松江市の眼科医療施設における独自の調査では、2015年8月から10月の3か月間に285件の発症が見られた。
出雲圏内でも49件の発症があった。
6)基幹定点把握疾患の発生状況:表5、6、7、8、9、10、図9
(1) 細菌性髄膜炎 : 6件 (0.88)
大田圏域から5歳以上10歳未満の1件のほか、出雲圏域から4件、益田から1件のいずれも50歳以上の報告があった。
なお、全数報告の侵襲性肺炎球菌感染症は、3件の報告があった。侵襲性インフルエンザ菌感染症の報告はなかった。
(2) 無菌性髄膜炎 : 44件 (1.40)
9月の10件をピークに11月を除く各月で報告があった。過去10年間と比較して2007年の108件に次いで多かった。
(3) マイコプラズマ肺炎 : 86件 (0.89)
2011年に297件の大流行後、漸減しているが比較的多い報告件数が続いている。過去10年間と比較して第6位の件数であった。全国的には7月頃から漸増が続いている。
(4) クラミジア肺炎 : 1件 (0.26)
2005年以降、年間1〜6件の報告がある。2015年は3月初旬に出雲圏域から20歳代の報告が1件あった。過去5年間の年齢分布は10歳未満4件、10歳代1件、20〜30歳代11件、40〜50歳代2件、60歳以上5件である。
(5) 感染性胃腸炎(ロタ) : 76件 (2013年10月14日から対象疾患)
益田圏域71件、松江圏域1件、出雲圏域3件、大田1件の報告があった。件数の推移は益田圏域のみで示す。1月、2月は散発であったが、第10週(3月初旬)から特に大きなピークをみることなく(最大は第22週の10件)、3月16件、4月26件、5月21件、6月5件と毎週報告があり、第25週(6月中旬)以降無くなった。全体の年齢分は、乳児13.1%、1歳〜4歳69.7%、5〜9歳14.5%、10歳代及び70歳以上がそれぞれ1.3%(1件)であった。