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サカキ輪紋葉枯病とその防除

 

 

1.はじめに

 

 林間で栽培される枝物にサカキ、シキミ、ヒサカキなどがあります。これらの枝物栽培は林間を有効に活用でき(写真-1)、また中山間地域における重要な収入源となります(写真-2)。

このうちサカキは神棚用の花木ですが、山林の自生木から採取されることが少なくなったため、栽培が盛んになっています。島根県の1集落では面積5haで1千5百万円を超える生産額を上げています。しかし、これらの栽培園では葉枯性の病害である輪紋葉枯病が発生し(写真-3)、収穫できる枝葉が著しく減少して問題となっています。そこで、当センターで得られた研究成果にもとづいて、サカキ輪紋葉枯病の生態とその防除法について解説します。また、栽培方法について得られた知見についても紹介します。

なお、本研究は「林間を活用した有望農林作物の栽培技術(病害虫防除)の確立」(県単,H20〜22)で実施したものです。

 

 

写真1

 写真-1林間で栽培されたサカキ。

 

写真2

写真-2道の駅に出荷されたサカキ。

 

写真3

写真-3輪紋葉枯病によって著しく落葉した枝。

 

 

 

2.輪紋葉枯病の病原菌

 

輪紋葉枯病の発生時期である5月下旬から11月下旬、病葉には病原菌(Haradamycessp.)の繁殖体(菌糸体)が形成されます(写真-4)。この繁殖体は白色、キノコ状、径約500〜600μmで、本病はこの繁殖体が分散して伝染します。輪紋葉枯病はサカキのほか、チャ、ツバキ、サザンカ、ミズキ類などで発生することが知られていますが、いずれの樹種においても本病原菌のものと類似した形状の繁殖体が形成されるのが特徴です。

 

 

写真4

写真-4輪紋葉枯病菌の繁殖体。

 

 

 

3.発病の症状と伝染方法

 

 葉に生じる病斑は円形、黄褐色〜褐色、不明瞭な輪紋を描きます(写真‐5)。病斑が径約1〜3cmまで拡大すると、病葉は落葉します。当年生の枝も侵されることがあり、枝先の長さ2〜10cmが赤褐色に枯死します(写真‐6)。繁殖体は葉の病斑上に数個から600個と多数形成されます(写真‐7)。

繁殖体が健全葉に付着して感染し、病斑が形成されるまでの期間は2〜3日と短く、また繁殖体は病斑形成後2〜3日と短期間で形成されます。このため、感染と繁殖体形成の条件が整えば本病が木全体に短期間で蔓延します。ただし、繁殖体の分散範囲は通常発病木の周辺に留まり、本病が栽培園全体に短期間で拡大することはありません。

 

写真5

写真-5葉の病斑。

 

写真6

写真-6発病・枯死した枝先。

 

写真7

写真-7多数形成された繁殖体(白い粒状に見える)。

 

 

 

4.被害の発生しやすい日照条件

 

 上層木がなく日射量が多い露地栽培では本病の被害が激しくなる傾向があります(写真-8)。とくに日射のうち紫外線の多い場所では繁殖体が多数に形成されるため、被害が激化します(図-1)。

 

写真8

写真-8露地栽培園。下枝では葉がほとんど残っておらず、上枝に葉をわずかに残すのみとなっている。

 

 

図1画像

 

図-1栽培園における相対照度・相対紫外放射照度と病葉に形成される繁殖体形成数の関係

被害指数を−:なし、+:僅か、++:中程度、+++:激害で示す。

栽培園の紫外線量(相対紫外放射照度)が多くなるにつれ、繁殖体の形成数が増え、また被害も激しくなる傾向である。

 

 

5.気象条件

 

 本病の発生は気象条件と密接な関係があります。病葉の発生は5月下旬〜11月下旬ごろまでですが、高温・少雨の7月下旬〜8月下旬には新たな発生は見られません。多雨の梅雨時期や9〜10月に降雨が続くと被害が激しくなります。また、台風襲来時には繁殖体が4m以上と広く分散されて、本病の発生が栽培園内の各地に見られるようになります。なお、接種試験から本病の発生しやすい条件は概ね20〜25℃、湿度100%であることが分かっています。

 

 

 

6.防除

 

 

1)日照条件

 前述したように、日射量が多く紫外線量の多い場所では輪紋葉枯病の発生が激しくなります。また、日差しが強い場所では葉が赤変するため(写真-9)、枝葉の商品価値が低下します。したがって、サカキは林内(写真-10)か半林内(写真-11)で栽培します。また、北向き斜面の林内ではサカキの生育に必要な日射量が著しく低下する割に、本病の発生誘因となる紫外線量はあまり低下しないため栽培には向いていません。南あるいは南東向き斜面の林内で栽培することが望まれます。なお、上層木については広葉樹か針葉樹のどちらかは問いません。

 

 

写真9

写真-9赤変した葉。

 

写真10

写真-10林内栽培園。スギ林の下にサカキが栽培されている。

 

写真11

写真-11半林内栽培。適度な間隔で植栽されたスギ上層木が適度な日陰を作っている。

 

 

2)第一次伝染源※の除去

 本病の第一次伝染源は前年に発病・枯死した枝です(写真-6)。発病・枯死した枝には翌年の5月下旬ごろになると繁殖体が形成されます(写真-12)。したがって、第一次伝染の始まる5月下旬までに第一次伝染源を除去する必要があります。本病が広く蔓延する前であれば、発病・枯死枝を除去するだけで本病の発生を完全に抑えることができます。定期的あるいは収穫時に発病・枯死枝を除去します。なお、繁殖体は一般的な病原菌の胞子と比べて非常に大きい(重い)ため、一度落葉した病葉からは繁殖体が大気中に浮遊・分散することはありません。したがって、一般的な病害の予防法である病落葉を除去する方法には防除効果がありませんので注意が必要です。

※第一次伝染はその年の最初に生じる伝染のことで、第一次伝染源とはその病原体の生存場所。

 

 

 

写真12

写真-12前年に発病・枯死した枝に形成された繁殖体(5月下旬)。

 

 

3)薬剤の使用

 薬剤を使用して本病を効率的に防除するには、本病の第一次伝染時期(5月下旬〜7月上旬)の前の5月中旬〜同月下旬に予防薬剤として塩基性硫酸銅剤(Zボルドー水和剤:500倍)を散布します。その後、病葉の発生がみられた場合は治療効果のあるベノミル剤(ベンレート水和剤:2000倍)を散布します。ただし、面積の広い栽培園では、薬剤を広範囲かつ万遍なく散布するには労力がかかります。本病原菌の繁殖体は分散能力が低いことから、栽培園全面に病気が蔓延していない場合は、前年に発病の見られた木、あるいはすでに発生した木とその周辺のみに散布するのが効率的です。また、病気が蔓延した段階では薬剤の充分な効果は得られにくいことから、第一次伝染の前に予防散布することが肝要です。

 

 

 

7.栽培方法

 

1)栽培場所

 水はけの良い、緩い傾斜地に植栽します。水田跡地に植栽されることがありますが、葉が黄化し、成長も悪く、また枯死することもあるため栽培には不適です(写真-13)。

 

 

写真13

写真-13水はけの悪い水田跡地に植栽され、枯死したサカキ。

 

 

 

2)栽培木の仕立て方

 栽培木の樹高が高くなりすぎると枝葉を収穫する効率が著しく悪くなります。栽培木は枝葉を収穫しやすいよう高さ1.5〜1.8m程度の低樹高とします(写真-14)。この高さは栽培木の上部から伸長した枝を剪定できる概ねの範囲です。収穫する枝葉を採取すると同時に、上部に伸長した枝を剪定し、側枝を伸長させます。

 

 

写真14

写真-14適正に剪定された低樹高で半球形のサカキ。

 

 

 

 

参考文献

  • 陶山大志(2007)島根県のサカキ栽培園で発生した輪紋葉枯病の被害.森林防疫56:42-47.
  • 陶山大志・池田佳子・古瀬寛(2011)サカキ輪紋葉枯病に対する数種殺菌剤の防除効果.島根県中山間地域研究センター研究報告7:39-44.
  • 陶山大志(2012)サカキ輪紋葉枯病における第一次伝染と伝染源の除去効果.森林応用研究

 

 


県外の方で、この記事についてお問い合わせ等のある方は、在住地の林業試験場等にご相談ください。


 


お問い合わせ先

中山間地域研究センター

島根県中山間地域研究センター
〒690-3405 島根県飯石郡飯南町上来島1207
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