江津高野山風力発電所の雷害対策について
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島根県企業局では、隠岐大峯山風力発電所(島根県営の風力発電所として第1号)を始め、他の風力発電所で問題となっている雷の被害を最小限にするため、幾つかの対策を施しました。
その概要は、次のとおりです。
対策1.アルミチップ

ブレード先端(受雷部)に3.7kgのアルミニウム導体を採用(クラスI+)
対策2.引込導線
ブレード内の引込導線に70mm2の銅線を採用
(クラスI+)
対策3.マルチレセプター
対策4.接地抵抗
対策5.サイト内通信回線(NTT回線含む)
対策6.複合耐雷装置
高性能SPD(クラスI+)
対策7.ケーブル誘導対策
1.ブレード仕様について(上記対策1〜3の詳細説明)
(1)雷の保護レベル(クラスI+)とは
今回導入したNORDEX製ブレードNR45は、IEC61024-1に従い、雷保護レベルが日本の特殊仕様であるクラスI+仕様(クラスIの約2倍)で設計されている。
IEC61000-24では、雷の保護レベルとして以下の数値を規定している。

表1IEC61400-24による設計値と日本特殊仕様であるI+との比較表
※用語はTRC1400-24TS/TR番号C0041風力発電システム−第24部:風車の雷保護による。
表1に規定されている、「比エネルギー」によって引き込み導線の太さが、「全電荷移送」によって受雷部の寸法が決定される。
(2)受雷部および引き込み導線の仕様
NORDEX製ブレードNR45には、6つの受雷部を設けている。雷電流は、受雷部から引き下げ導線を通じて、ハブ、主軸、メインフレーム、タワーの経路で地面に安全に電流を地面に流す。
翼端部はアルミのムクとすることで、受雷部の面積を大きくし、引き込み導線までスムーズに電流を流すことで、着雷後のFRP部への放電を防止している。また、ブレードの中間部2箇所(表裏)にステンレス製のレセプターを設けている。
(ア)翼端部45m地点アルミチップ材質:アルミニウム
(イ)翼付根から35m地点レセプター(裏表2箇所)材質:ステンレス
(ウ)翼付根から25m地点レセプター(裏表2箇所)材質:ステンレス
(エ)翼根部ハブ材質:鋳鉄
引き込み導線(翼端からハブまで)材質:銅面積:70mm2
図1ブレード断面模式図

図2ブレード先端部模式図
(3)受雷部の熱容量計算書
雷は、最も上部の翼端部に落ちることがほとんどであり、翼端アルミチップ部に600Cの雷が受雷したときの金属部の強度について計算を行った。
「アークエネルギーWがすべて金属の溶融に消費され、溶融金属が概略10MPaに達するアーク圧力によって飛散する」という簡略化した仮定を用い、アークによる陰極または陽極の電圧降下Ua,kが一定とすれば、溶融金属の体積Vは次式により計算される。
アークエネルギーWは、以下の式で与えられる。
IEC61024−1に基づく表1のクラスI+の要求値600C
UA,K:アークによる陰極または陽極の電圧降下(V)平均値30V
したがって、表2のアルミニウムの物性値を用いると、
翼端部の体積は、設計で3.7kg0.00137m3=1370[cm3]であるため、落雷により消失される(溶けてなくなる)量は概ね無視でき、600Cの雷に対して十分な強度があることが確かめられる。
万が一、翼中間部のステンレス製のレセプターに落雷した場合も、表2のステンレスの特性を用いて計算では、V=2.12[cm3]のレセプターが消失する。中間部のレセプターは交換式であり、交換部分の体積は10[cm3]のため、落雷後交換することで対応可能である。図1に示すように、ブレード内部にレセプター連結部1000[cm3]程度の鋼が存在し、600Cの雷に対して十分な強度があることが確かめられる。
翼根元のハブは、最も雷が落ちることは考えられないが、重量が23トンあり、雷による消失量は無視することができる。

表2金属の物理特性
(4)引き込み導線の熱容量計算
ブレードの損傷の多くは、受雷した雷電流が引き込み導線を流れる際に発生する熱により、ブレード内で発生する水蒸気爆発によるものが多い。このため比エネルギー20MJの雷が本ブレード仕様による引き込み導線を通過する場合の温度上昇が水の沸点よりも低く、またFRP樹脂の軟化温度よりも低いことを確認する。
導体の温度上昇の導出式は次式で表される。
次に落雷保護に用いられる典型的金属の物理特性を表3に示す。

表3金属の物理特性
以上の計算結果により、保護レベルクラスI+の雷による温度上昇に対して、引き込み導線が十分な容量があることが確認される。
2.接地抵抗低減について(HP対策4の詳細説明)
(1)接地極の検討
接地設計に用いる大地固有抵抗値は,地質調査時の電気検層測定値に基づき、250〜500Ω・mとして計画した。
a.環状接地
環状布設は、図3のとおり計画するものとして接地抵抗の算出を行う。
1)風車設備

図3接地線布設図(風車設備)
b.ボーリング接地
風車基礎の場所打杭を接地電極として利用する場合の接地抵抗を算出する。
また、風車1基あたり場所打杭を20本設けるが、ボールング接地として使用するものは、このうち外周の8本とするため、合成接地抵抗を以下に求める。
c.埋設地線
埋設地線は、道路沿いに4,960m埋設するものとして接地抵抗の算出を行う。
d.合成接地抵抗
1)風車設備
風車設備においては、環状接地とボーリング接地8本の複合接地極となるため、この合成接地抵抗を以下に求める。
2)全体合成接地抵抗
変電設備接地(4.5〜8.9)、風車設備接地および埋設地線を連接した場合の合成接地抵抗は次のとおりとなる。
(2)接地抵抗値(実測値)
上記検討は、代表地点のボーリング電気検層による大地比抵抗を基に算定したものであったが、建設工事実施後に変電設備および各風車地点で個別に測定した実測値は以下のとおりであった。
なお、大地固有抵抗値の実績値は、200〜400Ω・m(設計値:250〜500Ω・m)であった。

表4接地抵抗値(実測値)
(3)その他の接地抵抗値低減対策
風力発電施設にとって、接地抵抗値が如何に小さい値となるかは、雷害の影響を評価する上での重要な要素となるため、より小さくを目指して、発注以降にも低減対策を検討追加した。
a.導電性コンクリート接地電極材+パワーメッシュ
火力発電所にて発生するEP灰(ElectronParticle)に含まれる炭素を有効に活用し、EP灰・EP灰粒体と硬化剤としてセメントを配合した導電性コンクリート接地電極材。
パワーメッシュ(幅22cmの銅製の網)の上に100mm2の裸銅より線をほぼ中心部に引き伸ばし、2m程度の間隔で網と裸電線とを銅線で結び、電極材を2m当たり1袋の量で敷設し、銅と銅線を包み込むようにならすと、電極材に含まれたコンクリート成分が土壌の水分を吸収して硬化し、網・銅線とが一体となった導電性接地電極を形成する。
写真1導電性コンクリート接地電極材、パワーメッシュ
b.羽根付アース
小さな規模で雷サージによる過渡接地抵抗(サージインピーダンス)を低減することを目的とした接地材料。
この接地材は、金属帯から左右に広げた羽根によって、定常接地抵抗とサージインピーダンスを低減させ、また羽根の先端部を尖らすことにより、先端部からの土中放電をスムーズに行う機能をもたせている。
この羽根付アースが接続される環状接地第3層(上、中、下部の3層にて構成される階層の上部層)だけは、接地端子箱内で切り離し可能としており、将来の非連接接地の可能性を考慮している。
写真2羽根付アース施工状況
c.内部抵抗(導通)の徹底確認
ブレード先端からタワー下部の接地端子箱までの間に、僅かな抵抗が無いか、間違いなく導通が有るかの確認を徹底した。
導通の確認は、ブレード先端からハブ(羽根の付根)とハブから接地端子箱までの2回に分けて測定した。
1)ブレード先端からハブ
ブレードが未だ江津港の仮置場にあるうちに、地上にて導通確認を行った。ブレード途中にあるマルチレセプターについても、全数確認している。
江津高野山のサイト内に搬入後、風車組立直前にも再測定を実施した。
写真3江津港にて仮置中の風車部材
2)ハブから接地端子箱
この間の測定については、まさにチカラワザである。ハブ内に直接入りこみ、ブレード付根までIV線を引き込んで測定を行った。写真4の左下部に見える黄色の細い線が導通確認用のIV線である。
写真4ハブ内導通確認状況(地上80m)写真5ブレード/ハブ接続部
写真6タワー連結部写真7ハブ/ナセル連結部
3.サイト内通信回線の光ケーブル化について(HP対策5の詳細説明)
(1)通信回線構成(発注当初)
サイト内に構成される通信回線は、風車間を結ぶ制御用の回線と、外部からアクセスするためのNTT回線がある。風車間の回線は当初計画より光回線にて計画されていたが、NTT回線については幾つかの障害があり、メタル回線の構成のままとされていた。
i.専用回線(光)企業局から遠隔監視するための回線
ii.専用回線(メタル)中国電力(株)との連系上必要となる転送遮断装置用回線
iii.公衆回線(ISDN/メタル)メーカー等から状態監視・メンテナンスを行うための回線
図4NTT回線構成(当初)
これらのメタル回線を建設予定地の山頂(尾根部)まで引き込んだ場合、メタル回線への誘導雷による被害が想定される。隠岐大峯山風力発電所においても、NTTメタル回線を通じて終端の装置他に多数の被害が報告されている。
(2)専用回線(メタル)の光回線化
転送遮断装置用の専用回線として想定されていたのは、「帯域品目3.4kHz(4線式)」という商品であり、単純に光回線のHSD192kbpsに置き換えてしまえそうであるが、事情により光回線を中国電力(株)構内へ引き込むことは不可であった。
そのため中国電力(株)から別の場所までメタル回線で引き、メディアコンバータ等の光変換装置を介して光回線にて高野山山頂まで引き込むことを計画した。(図5上側の回線)
中継場所として最初に想定したのがサイト入口のNTT引込柱であった。この場合、引込柱からサイト末端の変電所までは自社の光ケーブルとなる。
しかしながら引込柱が位置するのは、5号風車と6号風車の中間位置の山頂部となるため、同様に誘導雷の影響は避けられない。また中継の装置が増えることによって雷被害の対象も増えることになる。
図5検討中途のNTT回線構成
(3)公衆回線(ISDN/メタル)の光回線化
メーカー等の遠隔から状態監視・メンテナンスを行うための回線として必要なのは、ISDN回線等一般の家庭で利用されている公衆回線が1回線(64kbps)あれば十分である。公衆回線で一般的に利用されている光回線としては、「フレッツ光」「光プレミアム」等の商品があるが、建設予定地の山頂まで回線を引くことは出来ない。また島根県江津市自体が提供エリア外となっている。
そこで注目したのが、「ISDN1500k」という企業ユーザーや大容量の通信を行うユーザー向けの商品で、1本で通常の通話などに必要な64kbpsのチャンネルを23回線分利用できるというものである。(図5中間の回線)
しかし問題なのは、回線コスト(3.8万円/月)と電話交換機(PBX)に相当する装置の価格(数百万)である。
その後の調査で、PRI/BRIスイッチャーというRJ48(1500k回線)をRJ45(イーサ、LANポート)12回線として変換接続可能な安価(88万円)な装置を発見するに至ったが、ISDN64kが1回線だけ欲しいのに対しては、まことに過大な投資となる。
(4)NTT回線の光回線化にむけた解決策(最終回線構成)
前述の2組のメタル回線(専用回線、公衆回線)を光回線化するにあたり、解決策としたのが「多重伝送装置」によるサイト外での中継である。(図6)
24時間の遠隔監視・メンテナンスを行っている企業局西部事務所は、高野山風力発電所と同じ江津市内にあり車で約30分の距離に位置する。この西部事務所へメタル線のまま引き込み、多重化装置により回線を1組にまとめ高野山サイトへは光回線で引き込むという構成である。
図6最終回線構成
これにより高野山サイトへ引き込まれる全てのNTT回線、風車間の通信回線の全てが光回線となり、誘導雷の懸念を一掃した。
また、光ケーブルの強度を保つために芯線(テンションメンバ)に金属のワイヤが使用されている点に注目し、ノンメタリックタイプ(FRP製のテンションメンバ)を仕様として限定した。NTT関連工事会社にも協力をお願いし、同様のノンメタリックタイプにより施工して頂いた。
4.複合耐雷装置による雷進入路の遮断(HP対策6-7の詳細説明)
(1)高性能SPDの採用
半導体等のサージ耐量の小さな素子が使用される風車制御装置・監視通信装置においては、複数の耐雷素子の組合せによってサージエネルギーを充分に低いレベルに抑圧しなければ、充分に機器を保護することは出来ない。
従来の避雷器及び保安器等は、単段構成の電圧減衰方式を採用しており、単なる電圧サージの減衰(低減)のみであり、風力発電サイトにおいては、この方式だけでは雷害を充分に抑制できていない。
そこで、雷サージのエネルギー(電圧×電流×時間)を減衰させる方式を採用している、M社の「高速回線避雷ユニット」に注目し、確実に機器を雷害から守ることを目指した。
M社は、冬季雷の発生する日本海沿岸の中でも特に激雷地区とされる福井、石川、富山、新潟を営業拠点とする北陸のメーカーで、耐雷機器のパイオニア的存在である同社に期待した。

(2)高速回線避雷ユニットの特徴
一般の避雷器は電源ラインとアース間に並列素子があり、雷サージのエネルギーが大きい場合、並列素子のみで対応できず、機器側を通過して破壊してしまう。
高速回線避雷ユニットは、並列素子だけでなく直列素子が存在し、雷サージは並列素子だけを通過する。この直列素子は、商用電源だけを通過し機器に電源を供給するが、雷サージについては遮断する効果がある。並列素子は一般のものと比べ3nsと短いため、より速い動作で機器を保護する。
図8一般避雷器との違い(2)
(3)大容量電源用避雷ユニット
この装置は、サージエネルギー減衰方式に加え、直撃雷(10/350μs)に耐えうるサージ耐量を持ち、1線あたりのインパルス電流25kA、3相で75kAを実現している。
雷サージ電圧を1.5kV以下に制限し、落雷カウンタを標準装備しており、タワー内補機電源100V、変電所所内電源100V、200Vに採用した。
写真8クラスI+を実現する複合耐雷装置
(4)通信回線および電源用避雷器
この装置は、サージエネルギー減衰方式により、クラスII程度の誘導雷(8/20μs)を想定した、インパルス電流20kAの安価なタイプである。
並列素子の動作時間は、大容量電源用ユニットと同様に3nsであり、タワー内補機電源200V他に採用した。
写真9クラスII誘導雷対策避雷器
(5)雷進入路の遮断
サージエネルギー減衰方式の高速回線避雷ユニット、避雷器を組み合わせ、要所に設置することによって、直撃雷、誘導雷の侵入路と想定されるルートを徹底的に遮断した。
特高圧機器、高圧機器については、そもそも取り扱う電気的耐力により、さほどの心配は要らないが、問題となるのは制御装置、通信装置等の半導体素子が使われる装置、特にAC100〜200V機器については対策が必要となる。
ここで、AC電源だけに限定したのは、直流電源装置により供給されるDC電源は、整流素子によりワンクッション置かれているからであり、供給電源であるAC200Vに対策を行ったものである。
電源側からの直撃雷(変圧器を介して侵入してきたもの)への対策としては、大容量電源用のユニットをタワー内100V系統、変電所200V系統、100V系統へそれぞれ配備した。この対策だけで総額1千万円ほどとなる。
図9変電所単線結線図(所内電源)図10風車内単線結線図(制御用電源)
風車タワーから外部の啓発表示盤(写真10)へAC100Vを供給しており、この電力ケーブルからの誘導雷を想定し、風車側、啓発表示盤側の双方にクラスII対策避雷器を配置した。
また同様に屋外へ延びている電源線を全て抽出し、航空障害灯電源、昇降機電源、変電所鉄構スポットライト(写真11)等へも対策を実施した。
写真10啓発表示盤(右側はサイト案内看板)写真11変電所鉄構スポットライト
サイト内の通信回線には全て光ケーブル化が施してあるので、回線の中継地点である西部事務所(前述の多重伝送装置設置場所)へ引き込んでいるメタル回線に対して、クラスII対策避雷器(回線用)を配置した。
図11通信回線構成図(西部事務所)
5.江津高野山風力発電所の落雷被害状況(参考)
江津高野山風力発電所の組立が終わり、その後一冬を経た落雷被害の状況は、以下のとおりです。
・発電機制御盤内のヒューズ3本溶断
ただし、予備品の在庫が十分あり、影響は無かった。
・啓発表示盤内の避雷器1個破損
ただし、啓発表示盤は避雷器により守られ異常は無かった。
・発電機過電流により風車遮断器トリップ
遮断器投入により再起動可能であり、至って正常な動作である。
このように十分なハード的対策とともに、万一部品の故障が発生した場合にも即時に対応できるよう十分な予備品の在庫を確保しており、雷被害への対策として万全を期しています。
お問い合わせ先
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