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思考力を衰弱させる絶叫・騒音列島

前日本国際教育支援協会理事長福田昭昌

 今日、子供の思考力の発達を妨げている社会的要因として危惧されるものに、情報技術社会の負の副作用と共に、日々テレビ、ラジオから絶え間なく発せられる絶叫、騒音の流行がある。

 プロレス実況ばりに声張り上げて速射砲のようにしゃべるアナウンサー。視聴者(彼はこの日本語の代わりに「リスナー」なる符丁を使う)に思考する暇なからしめんとするかのように。ニュースを色付けすべく、吾に勝る万能の賢人なかるべしとばかりに咆哮する。「ニュースキャスター」や「コメンテーター」。コマーシャルとまごうばかりにかしましい音声で宣伝する自局番組の予告。局の推奨お墨付きを与えるべく、「スゴーイ」の一つ言単語の喚声を連発する料理店、旅館の紹介番組。日本語を豊かにすべく、業界用語、仲間うち用語の叫喚が飛び交う娯楽番組。詩情なき散文を耳つんざくばかりの音曲に乗せて絶叫する歌声。場面を問わずビートの利いた背景騒音を無意味に流して言葉を聴きづらくする番組づくり。「国のために事に処する、その初、謹慎沈黙思慮尽くさずんばあるべからず」の自戒の念も、「汝ら人を裁くな、裁かれざらんために」の自省の念も縁なき経済的価値至上主義者の思い付き国家改革の雄叫び。絶叫・騒音もとより放送界のみにあらず。

 今やわが国は絶叫・騒音列島と化し、人々はその扇情と洗脳のるつぼの中にある。静寂なきところ思考なく、思考なきところ理性も内省・自省もなく、内省・自省なきところ他人への思いやりや他人を慮る心も生まれない。絶叫・騒音に慣らされ静寂に耐え得なくなった子供は、思考する習慣と意志を形成することなく、ひたすら本能の発する欲求と感情のままに言動することとなる。

 かくして、周囲の迷惑もものかは電車の中をわが家のソファ、化粧や食事の場と心得るような傍若無人の、世界は自分のためにあり何でも国や社会、学校の責任にする自立、自己責任欠乏の、自己中心的幼稚性に満ちた人間の出現と相なった。

「時事通信社『内外教育』(平成20年11月18日第5868号)より」


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