人口減少問題と教育
島根県教育委員会教育長 藤原孝行
「島根県の人口は、減少を続け70万人を割り込みましたが、この人口減少問題に対し、教育の面では、どういった対応ができると考えますか?」
小中学校の校長昇任試験において、私は、面接したすべての方に問いかけました。人口減少の問題は、まさに県全体で総力を挙げて取り組まなければならない大きな課題であり、教育委員会も、問題解決に向けて一翼を担っていると考えているからです。
島根県の小学校は、全国と比べると小規模の学校が非常に多くなっており、前向きにとらえれば、児童一人一人に対して、目配り、配慮ができる環境が整っています。また、「ふるさと教育」に熱心に取り組んできており、地域社会と学校教育の連携が進んでいるといった特徴もあります。さらに、各地域において、頑張って伝統行事などを支えている方々も数多くおられます。
子どもたちには、こうした方々と交流したり、伝統行事を体験するなど、島根のすぐれた教育環境を存分に生かして、育ってほしいと願っています。そうすることにより、子どもたちは、地域の中で自分がいかに大切にされているか、期待されているかなどを感じることができ、自己肯定感をもって育っていくものと思います。
今年度の「少年の主張」において、柿木中学校3年生の河野鉄太さんが「鬼退治」というタイトルで発表し、中四国代表となって全国大会にも出場しました。「自分は勉強とかも熱心でなく、いい生徒とは言えなかったが、地域の神楽のメンバーとして、東京で公演をする機会を与えてもらった。そして、その舞台で観客から多くの拍手をもらい、高く評価されたことにより、自分に対する自信も生まれ、その後、心の中にいる怠惰という鬼を退治することができた。」といった内容でした。まさに、島根ならではの「ふるさと教育」による成果だと、とてもうれしく思いながら発表を聞きました。
また、浜田商業高校には「石見神楽」の部活動があり、全国大会などでも活躍をしていますが、この神楽部の生徒が地元に残る比率は、100パーセントに近いとも聞いています。神楽などの活動は、社会人になっても続けることが可能であり、田舎にいても舞台で多くの拍手を浴びることができることは、都市で暮らしているとなかなか味わえない「存在感」を感じる場面だと思います。
一人一人が自分の何かに自信を持って育っていくことが大切です。それは、勉強でも、スポーツでも、音楽でも何でもいいと思います。島根の教育の良さは、それが学校の中だけでなく、神楽の例のように、地域の中にも多く存在することであり、また、学校においても、少人数学級が多い利点を生かして、一人一人が何かに自信を持つようにしっかりと指導していくことができやすいことであると考えます。
今年度策定した「第2期しまね教育ビジョン21」では、「家庭・地域と連携した学校教育の展開」を基盤に据えています。島根県の人口減少問題に対しても、家庭・地域と連携した取り組みが必要です。子どもたちが、ふるさとに残って頑張ることが、地域社会のためだけでなく、日本全体の人口減少問題解決につながることを、家庭でも理解していただけるよう、働きかけていく必要もあるのではないでしょうか。私自身の記憶をたどっても、親から家を継ぐように言われて育ったことや、学校の先生から、「将来は、県庁に入って島根のためにがんばれ。」と言われたことが、心に強く残っていて、進路を決めたように思います。
人口減少の問題を解決するには、本当にいろいろな取り組みと、長い時間が必要だと思います。自分たちが住む地域を存続させ、発展させていくためにも、皆様と力を合わせて、教育の面でも、粘り強く努力を続けていきたいと考えています。
(島根県小学校長会『校長会報』平成26年度第3号掲載)
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