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教育長メッセージ:平成29年年頭・教育長インタビュー

【横田】今年の「年頭・教育長インタビュー」は、横田(社会教育課社会教育GL)が担当することになりました。よろしくお願いします。

 

【鴨木】こちらこそよろしくお願いします。

 横田さんと私は、平成19年度に「実証!『地域力』醸成プログラム」という公民館事業が始まった時の、担当者と担当課長でした。あれから十年経って、横田さんは県が任用する五十数名の社会教育主事を束ねる「頭領」を務めています。そして私は教育長。感慨深いですね。

 

【横田】私も同じ気持ちです。それでは、早速インタビューに入りたいと思います。教育長は、今年の仕事始め式で、「教育の魅力化」を進めていきたいと表明されました。その思いをお聞かせください。

 

【鴨木】今が頑張りどころだと思って、年頭のあいさつで取り上げました。

 県内の市町村、特に中山間地域や離島の市町村は、いわば生き残りをかけて「地方創生」の取り組みを必死に進めようとしておられます。人口減少と少子高齢化がこのまま続けば、地域社会が成り立たなくなるのではないか。地域に住み続けることができなくなるのではないか。そのような危機感を持ちながらも、起死回生の地域づくりを始めようとする人たちが県内各地におられます。

 「地方創生」とは、端的に表現すれば、「私はここで生きていきたい」と思ってもらえるような地域になることだと思います。とりわけ若い世代の人たちに選択してもらえるような「地域の魅力」を備えることです。

 私は、これまで、Uターン・Iターンを進める移住・定住対策や、地域づくりを支援する仕事に携わったことがあります。その中で、島根の教育に魅力を感じる人が数多くおられることを実感してきました。教育は、若い世代の人たちにとって、地域を選択する際の大切な判断材料になっていると思います。

 そこで考えました。生き残りをかけた地域づくりが始まろうとするとき、教育に携わる我々は「傍観者」であってよいのでしょうか。島根の教育をより一層魅力あるものに高めていき、それを「地域の魅力」に結びつけていく。このことを学校教育や社会教育に関係する皆さんのご理解のもとで進めていくことが、私の願いです。

 

【横田】中山間地域や離島の人口減少問題の厳しさは、隠岐で生まれ育った私も痛感しています。本当に、今からでも間に合いますか。

 

【鴨木】やるしかないと思いますし、悲観しすぎることもないと思います。

 人口減少問題は、出生数と死亡数の差を表わす「自然動態」と、転入者数と転出者数の差を表わす「社会動態」に分けて考える必要があります。

 島根の人口を年齢構成で見ると、高齢化のピークを迎えていますので、死亡数が出生数を上回ることによって人口が減ってしまう「自然減」の状態は、今後も長く続いてしまいます。一方、県外へ転出する人数が、県内に転入する人数を超過することによって人口が減ってしまう「社会減」の状態は、すでに大きく改善しています。Uターン・Iターンする人が年間4,000人を超えているという実態も判明し、中山間地域や離島でも「社会増」になる地域が出てきました。

 「自然減」を止めることは困難ですが、「社会減」を「社会増」に転じていくことは実現可能な目標だと思います。「社会減」が止まり、そして出生率が向上すれば、長期的に人口は安定します。

 そのために大切なことは、若い世代の人たちに選択してもらえるような地域になり、そして、その次の世代にバトンが渡るようにしていくことだと思います。

 

【横田】私も、悲観的になりすぎて危機感に圧し潰されるようなことでは困ると思っていました。厳しさを意識しつつも、目の前の一歩を踏み出すには、明るい展望を共有できることが大切だと思います。さて、話を進めたいと思いますが、「教育の魅力化」とは、具体的にはどのような内容をイメージすればよいのでしょうか。

 

【鴨木】議論はこれから本格化していきます。

 それぞれの地域において、教育に関するどのような取り組みを進めることが「地域の魅力」につながっていくのか、「地方創生」の理念を踏まえ、議論を尽くしていくことが大切です。それは、決して「金太郎飴」のようなものではないと思います。

 昨年の秋以降、市町村と意見交換を始めたところですが、おぼろげながら見えてきたものがあります。

それは、ないものを取って付けるような、全く新しい教育活動を唐突に導入することではなく、むしろ今ある島根らしい教育の魅力をより一層充実するような方向性のものではないかと思います。

 例えば、障がいがあったり困難を抱えていたりすることも含めて、多様な個性の広がりのある児童生徒一人ひとりと丁寧に向き合い、細やかな配慮のもとで大切に育てること。このような、個性と多様性を尊重する人権意識に裏づけられた教育の実践が、島根らしい教育の魅力と言えるかもしれません。

 また、島根の子どもたちがこれからの変化の激しい社会を生き抜いていけるように、一人ひとりの人生の進路選択に丁寧に立ち合い、一人ひとりの自己実現に向けて精一杯支援していくこと。このような、「進路保障」の理念を踏まえた丁寧で細やかなキャリア教育と進路指導の実践が、島根らしい教育の魅力になるのかもしれません。

 

【横田】もう少しヒントをいただけませんか。

 

【鴨木】さきほど例に挙げた考え方も含めて、「教育の魅力化」の具体的内容は今後の議論を通じて探り当ててほしいと思います。それは、誰のためでもない、島根で育つ子どもたちにとっての「魅力」にほかならない。これが原点だと思います。

 そして、内容面だけでなく、その進め方にも大切なポイントがあると思います。

 まず、島根の子どもたちにどのような人間に育ってほしいのかという教育目標について、地域の中でよく議論し、それを地域社会全体で共有することから始める必要があると思います。そして、幼稚園・保育所・小学校・中学校・高校・特別支援学校という「校種の壁」を越えて、教育活動の連携を図り、児童生徒一人ひとりの成長・発達に応じて校種間のバトンタッチを確実に行っていくことが大切ではないかと思っています。

 また、特に強調しておきたいことは、これまで述べてきたような「教育の魅力化」を学校だけで抱え込んでしまうのではなく、学校・家庭・地域の連携の中で実現することが、島根らしい教育の魅力になるのではないかと考えています。

 

【横田】具体的内容については今後の議論を待つにしても、島根らしい教育の方向性を感じることができました。それでは、社会教育関係者を代表して、最も聞きたいことをお尋ねします。「教育の魅力化」に向けて、社会教育はどのような役割を果たしていけばよいのでしょうか。

 

【鴨木】私は、社会教育主事の出身者です。

 私自身の経験の中で得た教訓として、私は、社会教育主事の後輩たちに次のような話を伝えています。

 「社会教育とは、東京ドーム100個分の外野をひとりで守るようなもの。広い外野には色々な球が飛んでくる。広すぎてフライを直接捕球することはできないかもしれない。それでも、球が落ちた場所へ一生懸命走って行って、球を拾い、内野に投げ返してほしい。そうすれば、ゲームを続けられる。」

 社会教育主事には守備範囲を狭く考えてほしくないと思っています。そして、社会教育の仕事の流儀は、学校の先生のそれとは違っています。

 話がやや外れてしまいましたが、「教育の魅力化」を進めようとすることは東京ドーム100個分の外野を更に広げることではありません。島根らしい教育の魅力が、学校・家庭・地域の連携の中に存在することを、多くの社会教育関係者が実感しておられると思います。今も島根に残る社会教育の力が、学校教育を支え、家庭教育を支え、そして家庭を支えています。

 私の期待は、これまでどおりの社会教育の流儀で「教育の魅力化」を支えていただきたいということです。社会貢献活動に参加してもらいたいとお願いしても腰の重たかった方々が、子どもたちのために一役買ってもらえませんかと言えば参加していただける。そして、子どもたちのために地域をより良くしていこうという活動へと発展していく。

 教育は、これまでも、幅広い世代の方々を地域づくりに巻き込んでいくキラーコンテンツだったのではないかと思います。

 これからは、いよいよ教育を標榜する地域づくりが始まろうとしています。社会教育にとっては、本領発揮の機会が到来したと捉えることができるのかもしれません。

 無理せず、社会教育の流儀で進めていただきたいと願っています。

 

【横田】わかったような、そうでもないような、煙に巻かれた気がしなくもないですが、社会教育の流儀のままでよいと言い切っていただいたことは、自信になりました。この教育長インタビューをきっかけにして、今後、社会教育主事や実践者の方々と議論を深めていきたいと思います。ありがとうございました。

 


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