コトバと文字と文化
人類を人類たらしめた最も重要な発明・発見は何かについては、よく論じられている。その際に、「火」や「道具」とともに必ずあげられるのが「コトバ」である。この三つはそれぞれ人類の進歩に密接に関連があるので、どれかひとつが重要ということではないといえよう。このうち「コトバ」を今回のテーマとしたい。
コトバは人類が相互に情報を伝えあう手段であるばかりでなく、我々は思考したり記憶したりする時もコトバを使う。こうした伝達手段や記憶を時代や空間を超えて飛躍的に発展させるものとして、その後人類は「文字」と「印刷技術」を発明した。したがってコトバ、文字、印刷技術は同じ系譜にあるもので、文明や文化、すなわち精神生活を成立させる上で欠かすことはできないものである。
書物は勿論、このコトバ・文字・印刷技術という「コトバの三兄弟」によって成立し、読書は時空を超えた情報を受信することであり、また自らの思考や記憶などの活動を含めた知的精神的活動である。
こうした「読むことによる文字の知覚、意味の理解、思考、記憶」などの一連の精神活動が、我々の脳神経を中枢とする生化学反応によって司られていることは、まさに生命の驚異である。
読書は人間の欲求のひとつである知的欲求(知識欲)を満足させる行為で、「なるほど」や「なんだ、そうだったのか」と知らないことを知った時に満たされる高度な精神活動のひとつであり、思想・哲学や芸術などは、受信者である読者を感動させ、行動の動機を与える。科学的な真理や技術的な方法の蓄積、継承、発展などにも不可欠である。人類はこうした力を文明・文化の原動力として、今日の世界を築いてきた。
また、読書の魅力のひとつに、読むことによる「疑似体験」がある。特に物語や紀行文・ドキュメントなどの分野でいえることである。恋愛小説を読み、自らが悲劇のヒーローと同化したり、冒険野郎とともに世界探検したりのワクワクした気分を味わったりするのも読書ならではのことである。
受験勉強時代に、明日の日のことも思わずに明け方まで読み耽った本はどんな本だったのか、今は具体的には思い出せないが、青春期の精神形成には必要不可欠な元肥だった。活字を追うだけでその実、中身は全く理解できない癖に時代の空気でページをめくった学生時代の本。新たな発見や知見により「真実」が究明されていくことに知識欲を求めてきた生物学や進化論、宇宙論や古代史。
読書がもつ多面的機能についてはこのほか、テレビやパソコンが弱めるといわれ出した「脳力」を高めるトレーニングの効果があり、情操力のアップにも役立つそうだ。
子どもの学力、生活習慣と読書の間には、相関度が高いこともわかっている。人格形成の多感な時期にタイムリーに良書を読み、豊かな心、人を思いやる心、感動する心を養っていただきたい。「島根県立図書館報図書館だより第172号(平成18年9月)」
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