祈月書院創立75周年を祝す
島根の自然・歴史・文化を表現するとき、豊かな自然・歴史・文化、豊かな人情といわれる。私なりにそれを表現したのが次の文である。
我が島根は、長い海岸線が連なる、穏やかで時として荒ぶる海や、絵の島と謳われる隠岐諸島。里山から千メートル級まで連なる山々。河と表現される大河川から小川に至る多様な河川。夕日に映え、朝霧にけむる宍道湖・中海の汽水湖。そして、それぞれの四季の移ろいが鮮やかではっきりした自然、気候、風土、豊かな植生。そこからの四季の恵み、海の幸、山の幸が豊富な『美し國』。
国引き国譲りの神話の古代から中世・近世までの豊富な歴史、文化遺産、建造物、史跡が往時をしのばせる。神が舞い人が舞う出雲神楽、石見神楽。海・山・里にとり行われる年中行事や民俗芸能など歴史が息づく『神の國』。
ひかえめすぎるほどに温やかで、人情厚く、きめ細やか。勤勉実直で忍耐強く、大義に向かっては犠牲的・奉仕的精神を発揮する県民の集う『民の國』。
来訪者はこの地を箱庭的といい、神々の座と呼ぶ。日本の面影と呼んだ小泉八雲の時代から今も変わらぬ日本の原郷・日本のふるさと。
出雲弁で訥弁に語り、石見弁で歯切れ良くしゃべり、隠岐弁で情緒豊かに歌う『言の葉の國』。
空気と水がおいしく温泉の多い、元気で長生きでは日本有数、「お茶」や「花」「食」の文化が生活にとけ込んでいる『粋の國』。
こうした、島根に育った人間にとっての原風景は、当然のことながらそれぞれ個々人の精神形成に色濃く影響を与えている。(与えているはずだ。)
私はこうした精神形成と風土とについて、自然の生命、それを育くみ加工する生産、それを享受する生活の「3つの生」の良好な関係こそが、本来の人間の生活であり、それが失われつつある中にあってまだ残されているのが、我が島根であると訴えてきた。
いささか、我田引水の嫌いはあるが、中山間地域・地方は「3つの生」の良好な関係が残された原郷である。中山間地域、地方を評価し、年のうちの何日かはそこで過ごすデュアル・ハビテーション(ダブル居住)やグリーン・ツーリズム、地方定住の理論的意義をそこに求める論を展開してきた。ふるさと島根定住財団が団塊の世代向けに行ったU・Iターンの呼びかけもこうした考えに基づくものである。
地方の存在意義は社会の物質的近代化から取り残された地域と把えるのではなく、そこにある歴史・文化の継続性を積極的に評価することで文化の多様なシーズ(種子)を活用・保存し未来へつなげていくことであると思う。
我が国の国家としての存在をあらしめる基本的な理念としてこうした地方重視の観点がマジョリティを得て欲しいと願うものである。
さて、本稿は祈月書院の75周年の書院報に掲載いただくものであります。
幾多の人材の育成に尽力してこられた祈月書院の御功績を伺いました。貴院の願いが山陰から世界を俯瞰できる人材の育成にあることも承知しています。関係各位にあっては引き続き郷土島根と祈月書院の隆盛に御活躍あられんことをお祈りしております。
今日、公益法人制度改革への対応が待ったなしで迫られております。社会全体の風潮が市場原理主義、効率至上主義、過度な個人尊重と公共・公益概念の希薄化の中にあっても、将来を見据えた人材の養成はまさしく国家百年の大計として尊重されるべき不易の定理でありましょう。
今後の祈月書院の益々の御隆盛をお祈りします。
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