• 背景色 
  • 文字サイズ 

「複合汚染」の浄化

 

 「複合汚染」という言葉を記憶しておられることと思います。一九七〇年代、有吉佐和子の同名の小説がベストセラーとなり、一気に世に広がった語句です。今、教育に関して起こっている諸問題、いじめ、不登校、自殺、犯罪の加害者、被害者、幼児虐待、学力低下、体力低下、生活リズムの乱れなどなど。いずれの事象もまさしく、要因と考えられる諸問題が複合的に、複雑に、重層的に絡み合って起こっていると言えます。

 「複合汚染」で指摘された「二種類以上の汚染物質が同時に存在して、人の健康や生活環境に相互関連的に相乗的な影響を及ぼすこと」の定義からすれば、まさしく現在の教育の諸問題は「複合汚染」だと言えます。

 それでは、「二種類以上の汚染物質」に相当するものは、どんなものがあげられるのでしょう?まず、戦後、六〇年の教育制度の制度疲労をあげることができます。また、社会がものの豊かさを追究するあまり、人を思いやる心や伝統に培われた匠の技を尊重する心など、古来からの日本文化の特徴とされる精神的文化を軽んじてきたことの応報だと言えるかもしれません。さらに、テレビ、ゲームなどの映像の悪影響、市場原理主義、唯効率主義、拝金主義、汗を流して働くことの軽視、少子化や社会のコミュニティが希薄になったことによるコミュニケーション能力の低下、大切にされるあまりの自分の意思が通らない「挫折体験」の欠如。最近では、「利(り)子(こ)主義」なる造語も生まれました。まさに、もはや我が国の社会は音を立てて崩れさるのではの感があります。

 教育基本法が改正され、「我が国と郷土を愛する態度」の表現が盛り込まれました。私がこのことに賛成なのは、「国家に対する忠誠心」ではなく、「国」の意味するところは「国民」であり、それはとりもなおさず我が国の歴史・文化、そしてその共同体を愛することであるからです。

 今、社会に最も必要なものは何かと言えば、こうした日本の歴史・文化についての価値観の共有と伝統・文化、伝承されてきた匠の技の再評価であると思うのです。安倍内閣が掲げる「日本の再生、美しい国、日本」はこうした政策を進めることで初めて叶うこととなると思うのです。そして、それが残っているのは、我々の「地方」であり、農山漁村であります。従って、歴史・伝統・文化を再評価することは「地方」を再評価せずしては論理が成り立ち得ないと思います。そして、地方には、失われたとはいえ、まだまだ歴史と伝統に裏打ちされた古来からの文化が脈々と息づいています。また、自然の「生命」、その生命を育み加工する「生産」、そして、それらを享受する「生活」、この三つの「生」が密接不可欠なものとして存在する、日本文化の現郷です。

 この理念は地域振興論として構築したものですが、まさに今進めている「ふるさと教育」においてもそのままの理念となり得ると考え、そうした話をしています。感受性・情感豊かな、人を思いやるやさしさのある、卑怯を恥じる心を持った人格を形成するためには、こうした「ふるさと教育」などを通じて、人格形成期の最も大切な時期に、こうした精神をしっかりと涵養していく必要があると思うのです。そして、そのことでは、我が島根は大都市部などとの比較では、教育環境としての相対的な優位性があります。「複合汚染」を浄化するためには、その根本のところで、こうした思いを強くしている今日この頃です。

(平成19年2月島根県小学校長会『校長樹林』寄稿)

「両鏡相照」トップに戻る教育委員会トップに戻る


お問い合わせ先

島根県教育委員会

〒690-8502 島根県松江市殿町1番地(県庁分庁舎)
島根県教育庁総務課
TEL 0852-22-5403
FAX 0852-22-5400
kyousou@pref.shimane.lg.jp