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教育長メッセージ:H29中学校長会との意見交換会

 中学校長会の校長先生方との貴重な意見交換の機会ですので、私が平素から考えていることを率直に述べさせていただきます。

 

 私は、十年来、県教育委員会に入ったり出たりしながら、教育行政に携わり、島根の教育の良さも課題も見てきました。この十年間の経験が、教育長としての私の仕事の糧となっているように思います。

 

 島根の教育には確かに様々な課題があります。教育委員会と学校は、それをしっかり受けとめ、改善に向けて誠実に努力を重ねていくことが大切であると思います。
一方、いたずらに危機感を煽るような風潮を感じることが多くなりましたが、そうした風潮は、教育の現場にとっては、かえって萎縮したり挑戦する意欲を萎えさせたりして、「悪循環」を生む要因になりかねないのではないかと危惧しています。
教育の本質は、多様な個性のある児童生徒一人一人と丁寧に向き合い、一人一人の力を最大限引き出し、そして一人一人の自己実現を精一杯支援することに尽きると思います。
校長先生方には、危機感を煽るような風潮に流されることなく、教育の本質を学校経営の基本に据えて、自信を持ってぶれることなく日々の教育活動を実践していただきたいと思います。

 

 他方、私にとって、この十年間の経験に照らして気がかりなこともあります。最も根の深い問題ではないかと私が感じているのは、県教育委員会・市町村教育委員会・学校の間で、「学力観」についての基本認識が共有されていないのではないかという懸念です。

 

 校長先生方にとっては常識の範疇だと思いますが、平成18年の教育基本法改正に併せて一部改正された学校教育法において、「学力」の重要な要素として、
1.基礎的・基本的な知識・技能
2.知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力
3.主体的に学習に取り組む態度
という「学力の3要素」が、法律上位置づけられました。

 

 これは、変化が激しく容易に予測できない未来の社会で生きていかなければならない子どもたちに、知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力や、主体的に学習に向かう意欲・態度をバランスよく身に付けてもらう必要があるとの考えに基づき、新たな「学力観」として提起されたものです。
それから十年が経過し、すでに現行学習指導要領も「学力の3要素」を踏まえて作成されているにもかかわらず、いまだに知識・技能の習得のみに重きを置いた、狭い「学力観」に捕われているかのような感覚、そして狭い「学力観」のもとであたかも競争の中に置かれているかのような「煽られ感」が、一部の教育の現場に染み付いているように感じられます。
現在普及している学力テストは、「知識・技能の定着状況とその応用力の一部」を測定するものですが、この測定の方法論は、長年にわたって改良が重ねられ熟成されて、皮肉にも一点刻みで受験者を序列化することができると言われています。一方、今後一層重視されることになる「思考力・判断力・表現力」等については、現時点でその測定方法が十分確立されているとは言えません。
この測定方法の熟度の差が、一部の教育の現場がいまだに狭い「学力観」から抜け出しにくい状況を作り出しているのかもしれません。
しかしながら、国は、新たな「学力観」に基づき、「学力の3要素」を正しく評価する測定方法の具体化に向けて、教育関係者の英知を結集して作業を進めています。そうした教育改革の大きな動きの中で、現在の中学生・小学生は、新たな測定方法を取り入れて制度設計される大学入試を受けることになります。

 

 大きなタンカーの進路を変えようとすれば、大変な時間とエネルギーを要するわけですが、今、覚悟を持って舵を切らなければ、島根の教育は取り残されてしまうのではないか、と私は心配しています。
では、変革の時機を逸することによって失われるものは何でしょう。
「失われるのは、島根の子どもたちの未来であり、子どもたちが担う島根の未来かもしれない。」
教育委員会と学校は、そのような責任を自覚し、正しい「学力観」を共有したうえで、思考力・判断力・表現力や主体的に学習に向かう意欲・態度を育成する「教育の方法論」の具体化に向けて果敢に挑戦していく必要があります。
そして、「主体的・対話的で深い学び」を目指す次期学習指導要領は、こうした方向性を強く後押しするものだと受け止めなければならないと思います。

 

 私の率直な思いを拙い言葉で表現しましたが、どうか意を汲み取っていただき、こうした論点も含めて意見交換を行いたいと思います。
率直な意見交換の積み重ねこそが、お互いの信頼関係を築くことにつながると考えます。どうかよろしくお願い申し上げます。


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