平成21年度新規採用教職員辞令交付式
訓辞
ただいま、辞令を交付した171名の皆さんは、念願がかない、晴れて本県教職員として教育現場に勤務されることになりました。心からお慶び申し上げます。
皆さんの目標は、教職員として採用されることではなく、実際に教育に携わることであります。それが今日から始まることになります。
子どもを学校に託す保護者の願いや地域の大きな期待が込められていることを十分に認識し、教職員としての使命を自覚の上、社会全体への広い視野と教育への熱い情熱をもって、教育に当たるとともに、絶えず自己研鑽に努め、より幅の広い、より奥の深い人格をめざし精進していただきたいと思います。
また、これから皆さんは、早速それぞれの勤務校に赴かれる訳でありますが、校長をはじめ諸先輩との協調・連携を深め、一人ひとりの教師としてだけでなく、組織として教育に当たることの必要性を認識していただきたいと思います。
また、皆さんは、教職員である前に自立した社会人であらねばなりません。教職員に対する苦情で時々聞くことに、挨拶ができない、地域にとけ込んでいない、ということがあります。例え一部の者の評価であっても全体の評価につながることを自覚し、法令に定められた服務の遵守はもとより、地域社会の一員として、児童生徒や保護者、地域社会の方々から信頼される教職員となられるよう切望しております。
さて、折角の機会でありますので、門出に当って皆さんに私の考えの一端をお話しします。
約六十年前、敗戦から再出発した我が国社会は、ものの豊かさでは世界屈指の大国となった反面、心の豊かさや歴史・文化・匠の技などを尊重する心を軽んじ、今日に至りました。バブル経済の崩壊以来、過度な市場原理主義や効率主義が進み、地域や個人間の格差が広がっており、先のアメリカの金融危機に端を発する世界的な景気後退は、深刻な雇用不安を引き起こしています。自分さえよければといった風潮が蔓延し、いとも簡単に人の生命を殺めたり、利便性と危険性をあわせもつインターネットを悪用したりするなど、これまでなかった犯罪が頻発し、社会の安全までがおびやかされる様々な社会病理現象を抱え込むこととなりました。こうした社会状況は、子どもたちの安全に直接関わるとともに、心身の発達等に重大な影響を与え、いじめや不登校、学力低下など、様々な教育問題を引き起こしております。
このような情況は、一つ一つが個々の原因と結果によって生じているというより、むしろ複雑に絡み合い、複合的・重層的に生起しているととらえるべきであり、それぞれの課題に対応した的を射た対策を講じると同時に、根源的・総合的な取り組みを推し進めていかなければなりません。
また、こうした今日の教育問題は極めて深刻であり、これを打開するためには強力な取り組み、言い換えるとスピードとパワーが必要であります。
昨年、「しまね教育ビジョン21」を改訂しましたが、改訂にあたっては、こうした考えを根底に据え、より具体的な取り組みを明示するとともに焦点を絞ることを心がけたところです。
本県では、これまで、「感性を基盤とした確かな学力・豊かな心・健やかな体をバランスよく育む」、いわゆる知・徳・体のバランスのとれた人格形成ということを目指してまいりました。これはいつの時代でも不変不易であります。そのさらに基礎となるものが感動する心、卑怯を恥じ、弱いものをいたわる心など「豊かな心」の醸成です。
それを表現する私なりの教育理念として、事あるごとに提唱している言葉があります。それは、
「感性を磨けば人生が楽しくなる」
「知性を高めれば人生が豊かになる」
というフレーズであります。
これまでのこうした方針を継承しつつ、「しまね教育ビジョン21」の趣旨を踏まえ、今年度から順次、小・中・高校で実施される新学習指導要領のもとにあっても、より島根のよさを生かした取り組みを進めていきたいと考えております。
その一つとして、豊かな心や確かな学力を育む言語活動を充実するために、読書活動の推進に力を入れていきます。特に今年度から実施する「子ども読書活動推進事業」では、全ての小・中学校で学校司書やボランティアが配置され、「人がいる」学校図書館が実現することになります。学校図書館の機能が充実し、子どもたちが読書を通して、知性と感性を磨き、思考力や表現力を養うことができるよう、積極的な取り組みを進めていただきたいと願っています。
体験活動の充実としては、本県では「ふるさと教育」に力を入れております。学校と家庭と地域が一体となり、地域の人々にも積極的に参加していただき、コミュニケーションを図る中でその知恵や技術、自然、歴史、文化などを子どもたちに伝えていくものであります。
そのねらいとして、
1.ふるさとを愛し、ふるさとに誇りをもつ子ども
2.学ぶことの楽しさを実感し、自ら課題を見つけ、自ら考える子ども
3.「他人をやさしく思いやる心」、「美しいもの、気高いものに感動する心」など、豊かな心や人間性、社会性をもつ子どもの育成を掲げております。
理数教育の充実としては「知ること、学ぶことは楽しい」ということを子どもたちに味わわせ、それをさらに意欲につなげるような指導を行うことが大切です。子どもたちが驚いたり、感動したり、考えを深めたり、子どもの興味・関心を高める取り組みを一層進めることを望んでいます。
皆さんには、単なる知識の切り売りではなく、子どもたちの知的好奇心を喚起し、知ることの楽しさを教える教育を行って欲しいと願っております。そのためにも、書物に親しみ、自らの感性を磨き、知性を高め、それをもとに全人格的に子どもたちと向き合っていただきたいと思います。
様々な課題をかかえている子どもがいるのは事実ですが、昨年度は、大社中学校男子ソフトテニス部の全国制覇、横田高校の男子ホッケーチームの三冠達成といったスポーツ面、また、文化面では合唱、読書感想文や、将棋の里美香奈さんが高校生でプロとして活躍するなど、島根県の子どもたちの活躍がみられました。日常の学習も含めて、様々な場面で頑張っている子どもが多数いることも事実です。学力低下や問題行動など、いわば陰の部分のみを強調するのではなく、こうした光の部分、大多数の健全で次代を担うにふさわしからんと誠実に学んでいる子どもたちの状況も正当に評価すべきと感じております。私は、そうした一生懸命頑張っている子どもたちやそれを育む現場を全力で応援します。
最後に一つ、はなむけの言葉をお送りします。「初心忘るべからず」です。能役者の世阿弥の言葉だそうです。その意味は「学び始めた当時の未熟さや経験を忘れてはならない。常に志した時の意気込みと謙虚さをもって事に当らねばならない。」というものです。今日のこの日の清新な想いをいつまでも胸に抱いて、何かあればその原点を思い起こし、自身の向上に努めていただきたいと思います。
どうか健康には十分留意され、地域とのつながりを大切にして御活躍されることを大いに期待しまして、訓示といたします。
平成21年4月1日
島根県教育委員会教育長藤原義光
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島根県教育委員会
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