平成20年度新規採用教職員辞令交付式教育長訓辞
訓辞
ただいま、辞令を交付した百六十六名の皆さんは、念願がかない、晴れて本県教職員として教育現場に勤務されることになりました。心からお慶び申し上げます。
皆さんの目標は、教職員として採用されることではなく、実際に教育に携わることであります。それが今日から始まることになります。
皆さんには、子どもを学校に託す保護者の願いや地域の大きな期待が込められていることを十分に認識し、教職員としての使命を自覚の上、社会全体への広い視野と教育への熱い情熱をもって、職務に精励されるとともに、自らの資質の向上を目指して、絶えず自己研鑽に努め、人格を高めるために修養を積んでいただきたいと思います。
また、これから皆さんは、早速それぞれの勤務校に赴かれる訳でありますが、校長をはじめ諸先生方との協調連携を深め、法令に定められた服務の遵守はもとより、勤務を離れても地域社会の一員として、児童生徒や保護者、地域社会の方々から信頼される教職員となられるよう切望しております。
さて、折角の機会でありますので、門出に当って皆さんに私の考えの一端をお話しいたします。
約六十年前、敗戦から再出発した我が国社会は、ものの豊かさでは世界屈指の大国となった反面、心の豊かさや歴史・文化・匠の技などを尊重する心を軽んじ、今日に至りました。とりわけ、バブル経済の崩壊以来、過度な市場原理主義や効率主義、自分さえよければといった風潮が蔓延し、いとも簡単に人の生命を殺めたり、インターネットを悪用したりするなど、これまでなかった犯罪が頻発し、社会の安全までがおびやかされる様々な社会病理現象を抱え込むこととなりました。こうした社会状況は、子どもたちの安全に直接関わるとともに、心身の発達等に重大な影響を与え、いじめや不登校、学力低下など、様々な教育問題を引き起こしております。
こうした情況は、一つ一つが個々の原因と結果によって生じているというより、むしろ複雑に絡み合い、複合的・重層的に生起しているととらえるべきであり、それぞれの課題に対応した的を射た対策を講じると同時に、根源的・総合的な取り組みを推し進めていかなければなりません。
また、こうした今日の教育問題は極めて深刻であり、これを打開するためには強力な取り組み、言い換えると余程のスピードとパワーが必要だと考えております。
このほど「しまね教育ビジョン21」を改訂しましたが、改訂にあたっては、こうした考えを根底に据え、より具体的な取り組みを明示するとともに焦点を絞ることを心がけたところです。
「教育に期待される役割」は、人格形成の最も重要な時期において、「知・徳・体」のバランスの取れた人格をつくることであり、これはいつの時代でも不変不易であります。そのさらに基礎となるのが感動する心、卑怯を恥じ、弱いものをいたわる心など「豊かな心」の醸成です。
それを表現する私なりの教育理念として、事あるごとに提唱している言葉があります。それは、
「感性を磨けば人生が楽しくなる」
「知性を高めれば人生が豊かになる」
というフレーズであります。
こうした教育の一つとして、本県では「ふるさと教育」に力を入れております。このふるさと教育とは、学校と家庭と地域が一体となり、地域の人々にも積極的に参加していただき、その知恵や技術、自然、歴史、文化などを子どもたちに伝えていくものであります。
そのねらいとして、
一ふるさとを愛し、ふるさとに誇りをもつ子ども
二学ぶことの楽しさを実感し、自ら課題を見つけ、自ら考える子ども
三「他人をやさしく思いやる心」、「美しいもの、気高いものに感動する心」など、豊かな心や人間性、社会性をもつ子どもの育成を掲げております。
今後も、これまでの成果の上にたって更に発展させてまいりたいと考えています。
皆さんには、単なる知識の切り売りではなく、子どもたちの知的好奇心を喚起し、知ることの楽しさを教える教育を行って欲しいと願っております。そのためにも、自らの感性を磨き、知性を高め、それをもとに全人格的に子どもたちと向き合っていただきたいと思います。
昨年度、島根県で開催した全国高校総合文化祭での高校生のはつらつとしたさわやかな活躍を見て、子どもたちは全体としては健全に育っており、一生懸命がんばっている、と強く感じました。学力低下や問題行動など解決すべき課題があることは前述のとおりでありますが、いわば陰の部分のみを強調するのではなく、こうした光の部分、大多数の健全で次代を担うにふさわしからんと誠実に学んでいる子どもたちの状況も正当に評価すべきと感じております。そしてそれを育んでいるのが、現場の学校であり、教師であります。
最後に一つ、はなむけの言葉をお伝えします。昨年の新規採用教職員の方々にもお話ししたことですが、それは「そつ啄同時(そつたくどうじ)」という四字熟語であります。
卵の中のひなが殻を破って今まさに生まれようとするとき、それを察知した親鳥が外から殻をつついて介助するといいます。機をみて両者相応ずる様は、教育の本旨、学ぶ側、授ける側の阿吽の呼吸に通じるものであります。
どうか健康には十分留意され、地域とのつながりを大切にして御活躍されることを大いに期待しまして、訓示といたします。
平成二十年四月一日
島根県教育委員会教育長
藤原義光
※「そつ啄同時」の「そつ」は「口」偏に「卒」という漢字です。ホームページ上で表示できないため、ひらがな表示してあります。
お問い合わせ先
島根県教育委員会
〒690-8502 島根県松江市殿町1番地(県庁分庁舎) 島根県教育庁総務課 TEL 0852-22-5403 FAX 0852-22-5400 kyousou@pref.shimane.lg.jp