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実事求是〜日韓のトゲ、竹島問題を考える〜

第25回

「アジアの平和と歴史教育連帯」の意見広告について

 

 島根県松江市で開催された第5回目の「竹島の日」記念式典の翌日(2010年2月23日)、韓国の「アジアの平和と歴史教育連帯」(構成団体計64団体)が地元紙の山陰中央新報に意見広告を発表した。韓国側では、これまでもニューヨークタイムズやウォールストリートジャーナル等に事実無根の意見広告を掲載してきたが、これで日本にも上陸したことになる。韓国側の意見広告の目的は、竹島の領有権を主張する日本を封印することにある。その際、常套手段として使われるのが、1910年の日本による韓国併合と1905年の竹島の島根県編入を結びつけ、それを「侵略」とする論理(歴史認識)である。

 だが島根県の竹島問題研究会が実証したように、竹島は歴史的にも国際法上も韓国領であった事実はない。従って、1910年の韓国併合と1905年の竹島の島根県編入は何ら関係がなく、個々別々の歴史事象として捉えなければならない。にもかかわらず、韓国側が竹島問題と1910年の韓国併合を結びつけ、声高に日本の侵略を強調する理由はどこにあるのだろうか。韓国側では、過去の歴史を後世の歴史認識で語る傾向が強く、歴史を恣意的に解釈するからである。

 それは「アジアの平和と歴史教育連帯」による意見広告の文言自体が、端的に物語っている。意見広告では、「独島(竹島)問題は、日本の方々にとってのそれは単なる領土問題かもしれません。しかし、韓国の人々にとってのそれは、植民地支配の痛ましい傷跡を思い出させる象徴的な存在であり、侵略と植民地主義が生んだ痛ましい歴史の1ページなのです」としているが、これは竹島(韓国名、独島)が歴史的に韓国領であったことが実証することができて、はじめて主張できる意見である。

 だが残念なことに、韓国側ではこれまで、歴史的に竹島が韓国領であった事実を実証することができていない。ましてや、「無主の地」であった竹島の島根県編入は、1910年の韓国併合と関係があるはずもなく、「侵略と植民地主義が生んだ痛ましい歴史の1ページ」でもない。それを意見広告では、竹島問題を「日本の方々にとってのそれは単なる領土問題」と、意図的ともいえる筆鋒でことさら重要案件ではないかのごとく記しているが、竹島は国際法に則って合法的に日本領となっている。それを韓国政府が1952年1月18日、公海上に「李承晩ライン」を設定し、竹島をその中に含めたことが今日の竹島問題の発端である。

 歴史的事実としては、領土の一部を奪われたのは日本の方で、国家主権が侵され続けているのも日本なのである。それを「単なる領土問題」とし、日本側による竹島の領有権の主張を「植民地支配の痛ましい傷跡を思い出させる」ものと感情論に訴えるのは、竹島侵奪の事実を隠蔽するための政治的なデマゴギーでしかない。

 韓国側による竹島侵奪と言った厳然たる歴史事実が、韓国側では、「韓国の人々にとってのそれは、植民地支配の痛ましい傷跡を思い出させる象徴的な存在」に摩り替わってしまうのは、韓国側の歴史理解に問題があるからである。事実、日韓の間に竹島をめぐる論争がおこると、韓国側ではさまざまな理由付けを行ない、歴史的根拠のない文献や史料、古地図を恣意的に解釈しては、無理やり竹島(独島)を韓国領としてきた。

 その中で、竹島の島根県編入を日本による「韓国侵略の最初の犠牲物」とする歴史認識が生まれたのは、1954年10月の外務部長官卞栄泰の声明文が基になっている。竹島に灯台を建設し、海岸警備隊を配備した韓国政府に対し、日本政府が1954年9月、国際司法裁判所への提訴を提案すると、外務部長官の卞栄泰はそれを1910年の韓国併合に続く「第二の侵略」としたのである。以来、「第二の侵略」とする歴史認識は、その後の「歴史問題」の論拠となっている。

 だが竹島の島根県編入を「第二の侵略」とするためには、1905年以前に、竹島が韓国領であった事実を実証し、根拠を示さねばならないが、韓国側では今に至るまでそれができずにいる。韓国領でもなかった竹島を島根県に編入しても、「韓国侵略の最初の犠牲物」とは言えないのである。

 それにしても日本の固有領土である竹島を侵奪した韓国側が、なぜここまで暴走するのであろうか。それは、日本の外交姿勢が確立していないからである。竹島問題の解決については「民主党政策集INDEX2009」にも登場するが、民主党のマニフェストには記載されていない。その中途半端な政治姿勢は昨年12月25日、高等学校の学習指導要領の解説書に「竹島」が記載されなかった事実にも現れている。

 この混乱する日本外交を嘲笑うかのように掲載されたのが、「アジアの平和と歴史教育連帯」の意見広告である。それも「竹島の日」条例を制定した島根県の地元紙に掲載された事実は、稚拙な日本外交が愚弄されたのにも等しいものがある。

 竹島問題の解決については、1996年、自民党が選挙公約としているが、その自民党政権も2005年の「竹島の日」条例の制定には批判的であった。続く民主党政権も竹島問題を解決しようとする意欲が希薄である。韓国の『月刊朝鮮』(2009年10月号)が伝えるところでは、2006年5月3日、訪韓した民主党の鳩山幹事長(現、首相)が韓国の韓明淑総理(当時)と会談し、「竹島問題によって、韓国民が日本から再び侵略を受けるといった考えを起こしたのは、日本の外交的失敗」と語っているからだ。

 さらに韓明淑総理から「盧武鉉大統領の特別談話は、竹島問題が領有権問題だけでなく、日本の誤った歴史認識の問題であることを強調したもので、これを日本政府と国民に、教え悟らせるためであった」との説明を受けると、鳩山幹事長(当時)は「すべての領土問題は、歴史から始まる。竹島問題に関しては、日本が歴史的事実をより正確に理解するよう努力する必要があるようだ」と、韓国側に共感を示したとされる。

 この鳩山幹事長の発言は、韓国側(保坂祐二世宗大学教授)から1時間30分にわたって竹島問題に関する説明を受けてのことで、この種の歴史理解は民主党の支持母体の一つである北海道教職員組合の歴史認識とも酷似している。北海道教職員組合は、組合の機関誌兼学習資料である「北教」(2008年11月28日付)で、竹島問題を次のように伝えているからである。

 「「竹島・独島」問題をめぐって日韓の歴史認識の大きな違いを見せつけられました。日本では、領土問題としてとらえられているものの、韓国では、「独島」が日本による韓国植民地化の過程で占領されたことから、侵略・植民地支配の問題だととらえられているのです。つまり、文科省が中学校歴史の解説書に「竹島(独島)の領有権」を明記したことは、韓国にとっては、侵略・植民地支配を日本が正当化する不当極まりないものになるのです。歴史事実を冷静に紐解けば、韓国の主張が事実にのっとっていることが明らかなだけに、事は極めて重大なのです」

 この北海道教職員組合の歴史認識は、山陰中央新報に掲載された韓国の「アジアの平和と歴史教育連帯」(構成団体計64団体)の意見とも共通している。それは意見広告の広告主が「韓国労働組合総連盟」、「全国民主労働組合総連盟」、「全国教職員労働組合」等、日本の民主党政権の支持母体とも近いものがあるからである。

 だが残念なことに、竹島は歴史的に韓国領となった事実はなかった。それを「アジアの平和と歴史教育連帯」の意見広告では、「日韓併合100年に当たる今年、日韓両国がかつての誤った歴史を反省し、未だ癒えることのない被害者たちの痛みを少しでも和らげるために、私たち日韓の市民が立ち上がる時ではないでしょうか」と謳っている。

 この文言は一見すると、史実に立脚しているように見えるが、歴史の事実ではない。日韓併合と、1905年の竹島の島根県編入は全く関係がないからである。それを1910年の韓国併合と結びつけ、「中学校学習指導要領解説書から、韓国の思いだしたくない痛みを刺激するような独島(竹島)領有権の主張を削除すべきではないでしょうか」とするのは、自らの侵略行為を正当化するための詭弁でしかない。

 この歴史事実を無視した意見広告が、なぜ山陰中央新報紙上に掲載されたのか。その背景は明らかではないが、これは日本側にとっては不幸中の幸いであった。竹島問題の解決を遅らせ、日韓関係を混乱させてきた正体が明確になったからだ。

 そこで今、意見広告を出した「アジアの平和と歴史教育連帯」に求めたいのは、竹島が韓国領であったとする論拠を示し、日本による竹島の領有権主張が「第二の侵略」である事実を証明して見せることである。意見は意見として傾聴するが、その内容が歴史の事実を逸脱した日本批判である以上、自らの言動には責任を持たねばならないからである。国際社会を欺瞞し、自らの侵略行為を隠蔽する張本人が韓国側自身である事実を白日の下に曝さないためにも、意見広告の広告主は、歴史の事実の前に謙虚となり、真実を語るべきである。

 今回、山陰中央新報に意見広告が掲載されたのを機に、一文を同紙に寄稿したが、意見広告とするよう勧められた。私自身には、新聞に意見広告を掲載できるような金銭的余裕がないので、この「実事求是」コーナーで問題点を指摘することにした。

(下條正男)


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