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新資料から検討する「SCAPIN-677」

要旨

1.戦後日本が占領されていた時期に、竹島を日本政府の行政区域から一時的に除外した総司令部( GHQ/SCAP )の覚書= SCAPIN-677 は、韓国の竹島領有主張における主要な根拠の一つである。この SCAPIN-677 の作成過程を新資料で検討し、次の結論を得た。

2. SCAPIN-677 で竹島が位置づけられた「日本の範囲から除かれる地域」の設定は、総選挙の準備作業を指導する中で、総司令部の管轄が及ばない地域があるという現実に対応した暫定的な措置であった。 SCAPIN-677 は他国に対して発せられたものではなく、韓国の竹島領有根拠にはなりえない。

3. SCAPIN-677 では、「竹島」は「日本の範囲から除かれる地域」に含まれ、「朝鮮」は「日本帝国政府の政治上および行政上の管轄権から特に除外される地域」の一つである。両者は異なる内容の項目に分類されており、「竹島」は「朝鮮」に含まれない。この点からも、 SCAPIN-677 は韓国の竹島領有根拠にはなりえない。

 

1.韓国政府の主張におけSCAPIN-677

 韓国政府外交部は広報冊子『韓国の美しい島、独島』(注1)で、「第二次世界大戦の終了後、独島は韓国の元に戻り、大韓民国政府は確固たる領土主権を行使しています」と自国の竹島(韓国名「独島」)領有根拠を主張している( 11 頁)。この主張で重要な位置を占めるのが、戦後日本が占領されていた時期に竹島を日本政府の行政区域から一時的に除外した SCAPIN-677 であることは、次の説明( 28 30 頁)でわかる((1)~(4)の番号は筆者(藤井)が付記した)。

 

(1)1943 12 1 日、終戦後の日本の領土に関する連合国の基本方針を明らかにしたカイロ宣言は、「日本は暴力と貪欲に

 よって奪い取ったすべての地域から追放される」と規定しています。(略)

(2) 終戦後、連合国最高司令官総司令部は、 1946 1 29 日、連合国最高司令官覚書 (SCAPIN) 677 号を通じて独島を日

 本の統治・行政範囲から切り離しました。 同覚書は、第 3 項で日本が統治権を行使できる地域は「本州、九州、北海道、

 四国 の四つの主要島嶼と約1千の隣接する小島嶼」とし、日本の領域から「鬱陵島、リアンクール岩 ( 独島 ) と済州島は除

 外さ れる」と規定しています。(略)

(3)1951 年のサンフランシスコ平和条約は、第 2 (a) で「日本は韓国の独立を承認して、済州島、巨文島及び鬱陵島を含む韓

  国に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」と規定しています。(略)同条項に独島が直接明示されていないか

  らといって、独島が日本から切り離される韓国の領土に含まれていないことを意味するわけではありません。

(4)1943年のカイロ宣言及び、 1946 年の連合国最高司令官覚書 (SCAPIN) 677 号などに示されている連合国の意思を踏まえ

  ると、同条約によって日本から切り離される韓国の領土には当然独島が含まれていると見るべきです。

 

 以上をまとめると次のとおりである。(1) 「戦後の日本の領土に関する連合国の基本方針」を示したカイロ宣言には「日本は暴力と貪欲によって奪い取ったすべての地域から追放される」とある。(2) 日本を占領した GHQ/SCAP (以下、「総司令部」と略記) の覚書であるSCAPIN-677 で竹島は日本の統治・行政範囲から除かれた。(3) サンフランシスコ平和条約(以下「平和条約」と略記)で竹島は韓国領と明記されていないが、それは竹島が韓国領ではないという意味ではない。(4) カイロ宣言と SCAPIN-677 に示された「連合国の意思」を踏まえれば、同条約は竹島を韓国領としているとみるべきだ。要するに、竹島は日本の「暴力と貪欲によって」奪われた朝鮮の島なので、日本の朝鮮統一終了後 SCAPIN-677 で元に戻された。 平和条約は SCAPIN-677 が示すそのような「連合国の意思」を再確認したのだという主張である。

 韓国にとってSCAPIN-677の利用価値が大きいことは、小学校社会科の国定教科書で「独島が我が国の領土であることがわかる資料」の一つとして掲載されている(注2)ことでもわかる。そこで、本稿では最近発掘された資料を利用して、 SCAPIN-677 が竹島を韓国領とする根拠にはならないことを再確認したい。

 

(注1) https://dokdo.mofa.go.kr/jp/pds/pdf.jsp  2023 年7月16 日最終閲覧。

(注2) 釜山教育大学校国定図書編纂委員会編『初等学校5~6学年群 社会6-2 』(2020 年8月)95 頁。

 

2.SCAPIN-677は総司令部民政局が作成

 総司令部は、日本の政府や漁業者の請願により、1949 年9月19日付SCAPIN-2046で、1946年6月22日付SCAPIN-1033で定められていた日本漁船の操業許可区域(区域の境界線がいわゆるマッカーサーライン)を拡大した。この操業許可区域の拡大を、領海や戦前から国際的に論議されてきた漁業管轄権(漁業活動を沿岸国のみが管轄できる権利)の拡大と誤解して、ノルウェー駐日代表部や米国の国際法学者が総司令部に説明を求めた。問合せに対応する中で行われた、1950年4月11日付の天然資源局から外交局への報告に、「1946129日付のSCAIN-677は、若干の外郭区域を政治上および行政上日本から切り離すことに関わる。このSCAPINは民政局が起草者なのだから、民政局によるこの問題について情報追加が可能だろう(SCAPIN 677, 29January 1946 concerns the governmental and administrative separation of certain outlying areas from Japan. Since this SCAPIN was originated by GS, it may be that GS can furnish additional information on this subject.)」という一節がある(注3 )。SCAPIN-677は 総司令部の民政局 (GS=Government Section) で作成されたという証言を含む資料が発掘されたのである。

 民政局の「主要な任務は、最高司令官に対して、統治行政のほか経済・社会・文化の全般的非軍事化・民主化政策について助言することであった」(注4)。 SCAIN-677 は日本の国内問題に対応する部署で作成されたことを記憶しておきたい。

 

(注3) 1950-52: 322.2 Boundary Waters (国立国会図書館憲政資料室「在日米国大使館領事館・政治顧問部文書」請求記号 FSP 0561 )。原資料は NARA, RG84 Office of the U. S. Political Advisor for Japan, Tokyo Box No.7 Folder No.11

(注4)竹前栄治他編『 GHQ 日本占領史 第1巻 GHQ 日本占領史序説』(日本図書センター 1996 年2月 東京) 43 頁。

 

3.SCAPIN-677は総選挙準備作業が関係

 民政局が残した資料に、Outlying Areas of Japan & Areas File Underwherein Elections May Be Heldというファイルがあり(注5)、1946年に予定されていた第22回衆議院議員総選挙(実際には4月10日実施)の準備のために日本側が行った要請に対して総司令部が検討を行った文書が収められている。この中にSCAPIN-677の草案があり、SCAPIN-677は日本政府の総選挙の準備作業を指導する中で作成されたことがわかる。

 19451029日付で日本政府が総司令部に提出した「船舶の航行が禁止されている地域における総選挙」(6061コマ)で、日本政府は伊豆七島、奄美大島、歯舞村について選挙実施準備の考慮を要請した。この申し入れに対応して民政局と総司令部内各部署、とりわけ参謀長(Chief of Staff)との意見交換が行われた。

同年12月に民政局長に就任したホイットニー(Courtney Whitney日本国憲法の草案作成を指揮したことで知られる)のもとで、日本政府への回答が作成された。19451224日付の参謀長宛文書(144145コマ)では、次の留意事項が列挙された。

 

 1.日本政府は、総司令部の許可が得られ次第、衆議院総選挙を実施することを提議している。

 2.様々な候補の選出や選挙運動に必ず先立つ行政上の準備期間は、選挙そのものよりも相当前に始まるべきである。

 短い選挙運動期間は現職には望ましいが、長い期間は対立候補に有利だろう。

 3.正確で最終的な日本の境界はまだ明らかになっていない。JCS1380/15 の1 (b) 項で日本をさして、主要な四島と

 「対馬を含む約 1 千の隣接小諸島 」と言っているのが、今まで明らかになったもっとも確かな境界である。

 4.JCS 1380/15 の4 (d) 項の行政上日本からの分離が求められる地域に加えて、次に述べる地域が、先述の軍事的

 指揮下にある部隊によって占領されている

     a. 口之島を含む北緯 30 度以南の琉球諸島は太艦隊艦隊総司令官の下で軍政庁の行政が行われている。

     b. 大島と八丈島を含む伊豆諸島もまた太平洋艦隊総司令官の下で軍政庁の行政が行われている。

     c. 北海道の東端の北東にある水晶、勇留、志発、多楽、及び秋勇留を含む歯舞村の島々は ロシア(ママ) 軍に

 占領されている。

 5.日本政府は沖縄県と千島列島での選挙の実施を「現在の状況の下」では放棄すると述べた。

 6.総司令部とは異なる連合国軍の支配下にある地域での選挙の実施は、調整する上で深刻な問題をもたらす。

 7.日本政府は、選挙用資材の発送が許可されるか拒絶されるかを日本の最終的な境界に関する連合国軍の方針を示唆

 するものと解釈するかもしれない。

JCS1380/15」とは、統合参謀本部(JCS=Joint Chiefs of Staff、米軍における最高機関)194511月3日付で承認した「日本占領及び管理のための連合国最高司令官に対する降伏後における初期の基本的指令」のことである(以下「基本的指令」と略記)。「基本的指令」の中で本稿に関係する部分を次に示す。

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この指令の目的及び範囲

(b) この指令にいう日本は、次のものを含むものと定められる。日本の主要な四島、すなわち北海道 ( エゾ ) 、本州、九州、四国及び対馬を含む約 1 千の隣接小諸島。

4.日本に対する軍事的権限の確立

(d) 貴官は、 (1)1914 年世界大戦開始以後日本が委任統治その他の方法によって奪取又は占領した太平洋諸島の全部、 (2) 満洲、台湾、澎湖諸島、 (3) 朝鮮、 (4) 樺太及び (5) 今後の指令に指定されることのある他の地域の日本からの完全な政治上および行政上の分離を実施するために適当な措置を日本において執る。

 

「1.この指令の目的及び範囲」にある「約1 千の隣接小諸島」 の定義は明らかではなかった。それに加えて総司令部以外の軍隊に占領されている島々があった。それらの地域での選挙の実施は重大な問題をもたらすとホイットニーは懸念した。

 このような留意事項をふまえた上でホイットニーは、「選挙が許可される地域は、最終的な境界とは関わりなく、総司令部の管理下にある地域に限定される」という方針を提案した。そして、選挙実施許可の地域か否かは日本の境界の最終決定ではないことを日本政府に認識させる必要性があると述べた。

 

(注5) 国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能。 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8837593 。原資料は NARA, GHQ/SCAP Records(RG331), Box no.2032 。このファイルについては福永文夫編『 GHQ 民政局資料「占領改革」 選挙法・政治資金規正法』(丸善 1997 年11 東京)中に同氏の解説(「(2) 総選挙の実施地域」)があり、本稿作成にあたって筆者(藤井)は参考にした。

 

4.SCAPIN-677の作成と「基本的指令」

 1946年1月5日付のホイットニーから参謀長宛文書(17~19コマ)は、「基本的指令」の「4.日本に対する軍事的権限の確立」(d)項の「日本からの完全な政治上および行政上の分離を実施するために適当な措置を日本において執る」に対応して、SCAPIN-677の草案(2223コマ)を添付して提案したものであった。

 SCAPIN-677の草案と成案に違いはほとんどない(注6)。1項と2項では、日本帝国政府が日本国外の政府の官吏や雇用員に対して政治上または行政上の権力行使および通信を行うことが禁止された。そして、3項と4項が「基本的指令」に対応した内容である。次はそれを表示したもので、1946年1月5日付文書のII(留意点)にあるホイットニーの説明を付記した。

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SCAPIN-677 ホイットニーの説明 「基本的指令」の関係箇所

[3項前半]

「日本の範囲に含まれる地域」

日本の四主要島嶼(北海道、本州、四国、九州)と、対馬、北緯 30 度以北の琉球(南西)諸島(口之島を除く)を含む約 1 千の隣接小諸島
総司令部の管轄下にある地域に相当する。(II の第4段落)

[1.この指令の目的及び範囲]

(b) この指令にいう日本は、次のものを含むものと定められる。日本の主要な四島、すなわち北海道 ( エゾ ) 、本州、九州、四国及び対馬を含む約 1 千の隣接小諸島。

[3項後半]

「日本の範囲から除かれる地域」

(a)鬱陵島 、竹島、済州島 (b) 北緯 30 度以南の琉球(南西)列島(口之島を含む)、伊豆、南方、小笠原、硫黄群島、及び大東群島、沖ノ鳥島、南鳥島、中ノ鳥島を含むその他の外廓太平洋全諸島。 (c) 千島列島、歯舞群島(水晶、勇留、秋勇留、志発、多楽島を含む)、色丹島

「基本的指令」に明確な説明はない。連合国軍による軍政庁の占領下にある地域である。連合国軍とは、 (a) は第 24 軍団、 (b) は太平洋艦隊総司令官、 (c) はソ連軍。(IIの第3段落)

[4項]

「日本帝国政府の政治上および行政上の管轄権から特に除外される地域」

(1)1914 年世界大戦開始以後日本が委任統治その他の方法によって奪取又は占領した太平洋諸島の全部、 (2) 満洲、台湾、澎湖諸島、 (3) 朝鮮、 (4) 樺太

「基本的指令」の[4 . 日本に対する軍事的権限の確立]で「日本からの完全な政治上および行政上の分離を実施する」として明確な説明がある。(IIの第2段落)

[4 . 日本に対する軍事的権限の確立]

(d) 貴官は、 (1)1914 年世界大戦開始以後日本が委任統治その他の方法によって奪取又は占領した太平洋諸島の全部、 (2) 満洲、台湾、澎湖諸島、 (3) 朝鮮、 (4) 樺太及び (5) 今後の指令に指定されることのある他の地域の日本からの完全な政治上および行政上の分離を実施するために適当な措置を日本において執る。

 

 3項前半の「日本の範囲に含まれる地域」は、「基本的指令」の「1.この指令の目的及び範囲」 (b) 項の日本を構成する諸地域から、太平洋艦隊総司令官の占領下にある「口之島を含む北緯 30 度以南の琉球諸島」を除いたものであった。ホイットニーは、これらの地域が日本政府の政治上および行政上の権力が及ぶ限度であることは行政面で望ましいと述べた。

 3項後半の「日本の範囲から除かれる地域」とされた (a) (c) の三つの地域について、「基本的指令」に明確な説明はなく、連合国軍による軍政庁の占領下にある地域であるとホイットニーは説明した。そして、これらの地域に日本政府の政治上および行政上の権力が及ぶことはこれらの軍政庁の存在との整合性がないと述べた。

 それまでの民政局の論議にはなかった「 (a) 鬱陵島、竹島、済州島」がここで登場した理由は、現状では明らかでない。平和条約第2条 a 項「日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び鬱陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」によって朝鮮に帰属した済州島と鬱陵島が、 SCAPIN-677 では「朝鮮」が含まれる「日本帝国政府の政治上および行政上の管轄権から特に除外される地域」ではないことには、違和感が持たれるかもしれない。しかし、 1947 年の英連邦キャンベラ会議で済州島の帰属をめぐる論議があった(注7)ように、日本の統治終了直後の時点では、これらの島々の帰属は確定していたわけではなかった。

 なお、「鬱陵島、竹島、済州島」の英語表記が、 SCAPIN-677 草案は「 Utsuryo, Take and Quelpart (Saishu) Islands 」であったのが、 SCAPIN-677 成案では「 Utsuryo (Ullung) Island, Liancourt Rocks (Take Island) and Quelpart (Saishu or Cheju) Island 」と、鬱陵島と済州島のみに朝鮮語の呼称が加わった。総司令部にとって「独島」という呼称は存在しなかった。

 4項の「日本帝国政府の政治上および行政上の管轄権から特に除外される地域」について、ホイットニーは「基本的指令」の「 4. 日本に対する軍事的権限の確立」 (d) の「日本からの完全な政治上および行政上の分離を実施する」地域 を明らかにしたものと説明したが、 (d) 項の「 (5) 今後の指令に指定されることのある他の地域」は除外されている。

 こうして見ると、 SCAPIN-677 では、「朝鮮」は[4項]の「日本帝国政府の政治上および行政上の管轄権から特に除外される地域」の一つであり、「竹島」は[3項後半]の「日本の範囲から除かれる地域」に含まれ、両者は異なる概念で位置づけられている。よって、竹島は日本に奪われた朝鮮の島なので SCAPIN-677 で元に 元に戻されたなどということは成り立たない。

 

(注6) SCAPIN-677 成案では、草案9段落の “Receipt of this directive will be acknowledged” が削除されている。

(注7) 拙稿「対日講和条約と竹島‐英国国立公文書館所蔵資料の検討‐」(『島嶼研究ジャーナル』 8-2 島嶼資料センター 2019 年3月 東京) 107 108 頁。

 

5.SCAPIN-677をめぐる論争と新資料

 韓国政府は1952 年1月18 日付で李承晩ライン宣言(正式名称「隣接海洋に対する主権に関する宣言」)を発し、竹島を含む広大な海域に対する主権を持つと主張した。日本政府は同月28 日にこの宣言に抗議し、竹島問題が発生した。同年2月12 日に韓国政府が反論すると、同年4月25 日に日本政府は再反論した。 韓国政府の 1952 年2月12 日付反論での竹島領有根拠は SCAPIN-677 SCAPIN-1033 しかなく、翌年9月9日付で日本政府に送付された第1回韓国側見解で主張されたような歴史的根拠は述べられていなかった。

 日本政府は 1953 年7月 13 日付の第1回の見解で、 SCAPIN-677 の6項に「この指令中の条項はいずれも、ポツダム宣言中の第八項(「日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州、四国及吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」- 藤井補注 )にある諸小島の最終的決定に関する連合国側の政策を示すものと解釈されてはならない」とあることを指摘した。領土の最終的な決定は平和条約で行われたのであって SCAPIN-677 は根拠にならないと主張したのである。

 第1回見解での日本政府の主張に対応して韓国政府内で論議が行われたが、そこには SCAPIN-677 について「日本側主張(最終的な領土の画定を意味しないという主張)は是認できる主張なので、当時の米国側の意思が独島を言外に韓国に帰属させようとしたことにあったと推定できる程度の主張がよい」という意見があった(注8)ことは注目される。

 日本政府の主張に反論できなかった韓国政府は、  1959 年1月7 日付第3回見解で「連合国の日本領土の処理はカイロ宣言と対日平和条約に至る一連の国際文書に依拠した」、「独島の処理はポツダム宣言から( 1947 年7月11 日に極東委員会が発表した‐藤井補注‐)「降伏後の対日基本政策」に至る一連の文書によって理解されねばならず、そのような用意なしに SCAPIN-677 の第6項だけで全体を歪曲しようとする日本の態度は不当なものだ」と日本を非難した。これは、竹島は、日本の「暴力と貪欲によって」奪われた朝鮮の島なので、日本の朝鮮統治終了後 SCAPIN-677 で元に戻された。平和条約は SCAPIN-677 が示すそのような「連合国の意思」を再確認したのだという、現在の韓国政府の主張と共通する。

 しかし、新資料で確認したように、 SCAPIN-677 で竹島が位置づけられた「日本の範囲から除かれる地域」の設定は、総選挙の準備作業を指導する中で、総司令部の管轄が及ばない地域があるという現実に対応した暫定的な措置であって、 SCAPIN-677 は他国に対して発せられたものではない。韓国政府の主張は誤りである。

 また、日本政府は 1962 年7月13 日付の第4回見解で、「 SCAPIN677 号自体においても竹島は明らかに朝鮮とは別個の対象として朝鮮とは別個の項目の中に規定されている」と指摘した(注9)。「竹島」は[3項後半]の「日本の範囲から除かれる地域」に含まれ、「朝鮮」は[4項]の「日本帝国政府の政治上および行政上の管轄権から特に除外される地域」の一つであり、両者は異なる項目に分類された。「竹島」は「朝鮮」に含まれない。よって、 SCAPIN-677 は韓国の竹島領有根拠にはなりえない。本稿で確認したこのような事実を日本政府は指摘したのだった。この後、 1965 年に韓国政府が日本政府に送付した口上書には第4回見解は添付されておらず、韓国政府は日本政府のこの指摘に答えていない。

 以上、本稿で検討してきた新資料は、 SCAPIN-677 は韓国の竹島領有の根拠にならないという日本政府の主張を裏付けるものである。

 

(注8) 拙稿「竹島問題に関する日韓両国政府の見解の交換について(上)」(『島嶼研究ジャーナル』 7-1 2017 年10 47 頁。

(注9)拙稿「竹島問題に関する 1996 年の韓国の主張について 平和条約をめぐって 」(『島嶼研究ジャーナル』 11-2 2022 年3月) 44 頁。

 

2023年8月30日掲載(島根県竹島問題研究顧藤井賢二)


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