杉原通信「郷土の歴史から学ぶ竹島問題」
第1回金鱗雨船の浜田漂着
最近韓国は竹島周辺の海底に「○○海山」のような地名をつけました。そしてその名は安龍福海山[あんりゅうふくかいざん]のように、共通して竹島問題に関係する歴史上の人物名が利用されています。そして一つの海山に金鱗雨[きんりんう]という名が命名されています。
朝鮮王朝は1400年代初期から、税金や軍役等を忌避して鬱陵島やその周辺の島へ逃げ込む人々を逮捕したり追い出すのに、この地域にくわしい三陟[サムチョック]の役人を長官にします。金鱗雨は、それに任命された一人です。
彼はまず1417年に于山島[うさんとう](私達は韓国の鬱陵島[うつりょうとう]の近くの竹嶼[ちくしょ]という島だと考えていますが、韓国の研究者等は独島[どくと]すなわち日本の竹島だと主張しています)で居人3人を捕え大竹、水牛の皮、生芋[なまいも]等を持って帰国しました。金鱗雨はその後も何度も出かけ島に居た者を連れ帰りました。
1425年10月、金鱗雨が2隻の船で鬱陵島へ向かった時のことです。彼が乗っていない方の船が突風で転覆、流されて行きました。金鱗雨自身は島に居た20人の人を連れて帰国し事故の顛末を当時の朝鮮国王世宗[せいそう]に話しますと、国王は遭難した船の46人は死んだであろうから全員の慰霊祭をしてやるよう命じました。
ところがこの年の12月思いがけないことが起こりました。遭難船に乗っていた10人の者が姿を現したのです。
驚く金鱗雨等に、張乙夫[ちょういっぷ]という者が代表して言いました。「突風で私達の船は転覆しましたので小舟に10人だけがしがみつき漂流を続けました。舟はまもなく日本国石見州[いわみしゅう](現在の島根県西部)の長浜という浦に漂着しました。私達は疲労とすき腹で歩くことが出来ず這いながらしばらく進みますと泉があったので競争するように水を飲み、その場に全員昏倒してしまいました。まもなく通りかかった一人の漁師が近くの寺へ連れて行き食事を与えてくれました。そこへこの地の領主順都老(周布[すふ]殿)が来られ『あなた達は服装からみて朝鮮の人々ですね。遭難されたようでお気の毒でした。しかし必ず帰国させてあげますのでしばらく私の所に逗留していてください』と言われました。
そしてその後30日の間に船を用意し、送別会を開いた上で護送船もつけて対馬[つしま](現在の長崎県)まで送ってくださり、対馬の有力者左衛門太郎様に対馬から朝鮮へ送ってやって欲しいと頼んでくださいまいた。左衛門太郎様も親切な方ですぐ船を用意し送ってくださり、10人そろって帰国できました。」
これを聞いた朝鮮国王は感激し、すぐ周布殿の所と左衛門太郎の所に李芸という人物を派遣し、礼物を届けると共に朝鮮へ来れば交易等で特典を与えることを約束しました。周布殿とは益田氏の庶子家として現在の浜田市周布町に居城を持っていた有力者で、当時は周布兼仲という名の者が家長でした。兼仲は朝鮮国王の申し出にそって6回朝鮮へ交易船を派遣しましたし、その子兼貞、孫の和兼も数多く船を送り、周布氏は朝鮮貿易の利益で隆盛を誇りました。現在周布町の八幡宮にはこの頃朝鮮から持ち帰ったと伝えられる獅子頭[ししがしら]が大切に保存されています。
一方対馬の左衛門太郎とは早田[そうだ]左衛門太郎という海賊の頭領でした。当時の対馬の領主は守護代宗[そう]氏でしたが、早田氏はまもなく朝鮮貿易の利益で宗氏を凌ぐ勢力を一時期保つ存在となりました。早田家は現在も続く旧家で、中世の朝鮮との貿易に関係する資料を保存しています。
このように鬱陵島等へ逃げ込んだ人を捕獲するために出向いた金鱗雨の船が浜田の長浜浦に漂着した事件は、周布氏、早田氏に大きな影響を長く持たせることになりました。
また朝鮮国は鬱陵島等に朝鮮人を入らせないようにするいわゆる空島[くうとう]政策を明治初期までの長期間とりましたので、無人島と思った日本人が島の木材、竹、アワビ、アシカ等島の豊かな産物を取りに出かけるようになり、1640年頃には鬱陵島へ行く途中で現在の竹島も発見し、中継地として利用したり、竹島のアワビ、アシカも漁猟するようになりました。
周布氏が朝鮮から持ち帰った獅子頭(浜田市周布町八幡宮所蔵)
(主な参考文献)
『朝鮮王朝実録』(世宗実録)
『萩藩閥閲録』
『中世日朝海域史の研究』関周一著吉川弘文館(2002年)
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