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杉原通信「郷土の歴史から学ぶ竹島問題」

第16回日露戦争と竹島


中井養三郎が明治37年(1904)に上京して「リャンコ島領土編入並貸下願」を内務、外務、農商務省に提出した時、内務省は「内務当局ハ此時局ニ際シ(日露開戦中)韓国領地ノ疑アル莫荒タル一箇不毛ノ岩礁ヲ収メテ、環視ノ諸外国ニ我国ガ韓国併呑ノ野心アルコトノ疑ヲ大ナラシムルハ、利益ノ極メテ小ナルニ反シテ事体決シテ容易ナラズトテ、如何ニ陳弁スルモ願出ハ将ニ却下セラレントシタリ」、つまり、現在日露戦争中だからこの請願は受け入れるべきでない、という当初意見でした。

確かに中井養三郎が請願した時は日露戦争中でした。日露戦争は朝鮮方面へ勢力を伸ばそうとしていた清、ロシア、日本の間で展開された抗争の一つで、まず朝鮮国内の甲午農民戦争の鎮圧を口実に出兵した清と日本との衝突が起こり、明治27年からいわゆる日清戦争となり、翌年には日本が勝利し下関条約で台湾割譲、遼東半島での各種権益を獲得しました。

ところがこれに対して、ロシアがドイツ、フランスを誘ってのいわゆる「三国干渉」で「日本の遼東半島進出は朝鮮の独立を有名無実化する」との理由に、同半島の放棄を日本に勧告して来ました。日本国内にはロシアに対する報復を求める声があがりましたが、明治政府は臥薪嘗胆(がしんしょうたん・苦痛でもじっと耐えること)を国民に求め、軍力補強に努めました。そして「扶清滅洋」のスローガンの下、清国内に義和団事件が起こり、ロシアが遼東半島に兵を進出させました。続いて日本も出兵し、明治37年2月いわゆる日露戦争が勃発しました。戦場は遼東半島での陸戦と、現在の竹島周辺から対馬にかけての海域でロシアのバルチック艦隊と東郷平八郎率いる日本海軍が激突した、いわゆる日本海海戦でした。

中井養三郎は、日露戦争勃発時にはリャンコ島でアシカ漁が事業として成り立つか試していた時でした。上京して請願を彼が続けていた時も戦争中で、明治38年政府が閣議でリャンコ島を島根県所属と決定、竹島と名称を定め、同年2月22日島根県知事が県民に告示の形で公表した時も戦争は続いていました。

しかし、竹島近くで日本海海戦が起こったのは同年5月27日から数日です。バルチック艦隊の出動も、日本海航行も、日本側が想定していたものでありませんでした。それでも「中井養三郎は海軍にそそのかされて請願をした」とか「海軍は望楼(見張り所)を島に設置していた」というような理由で日露戦争と竹島を関係づける研究者がいます。

しかし、おそらくは竹島付近でバルチック艦隊の内戦艦ニコライ1世など4隻が日本海軍に包囲され降伏したのは偶発的出来事だったと思います。その証拠に日本海海戦の時期、竹島では隠岐の人々がアシカ漁をしていました。明治末期から昭和初期の30年余りアシカ漁に参加していた中渡瀬仁助は、この時竹島で漁をしており、「目の前で捕まったロシアの軍艦」として昭和9年7月7日付の朝日新聞に回想を語っています。

竹島を、戦争を優位にする拠点と考えていたなら、民間人の竹島への出漁を政府は許さなかったはずです。また望楼(見張所)の建設についてですが、海軍に関する資料によると日露戦争が終わった後の8月の建設としています。その他、日露戦争について調べを進めていますが、竹島が日露戦争の戦略上のため島根県の所属とされたとする資料は見つかりません。

日露戦争と竹島について有名なのは、東郷平八郎の名での海戦戦況の新聞発表です。「5月28日リャンコールド岩付近で敵艦ニコライ第1世(戦艦)等4隻降伏せり、我が艦隊損害なし」とありましたが、まもなく「リャンコールド岩を竹島に訂正する」が報じられました。島の名がリャンクール島から竹島と変ってわずか3ヶ月でしたから、日本海軍が間違えたわけですが、この訂正が日本海に竹島ありの事実を国民に強く印象付けたといわれています。

6月に宮内省(当時)で開かれた月例歌会で席題に「島」という題が出されると、大口鯛二という人は「雲霧を伊吹はらひし神風に竹島の名はあらはれにけり」と詠じ、高崎正風という人は「あしかのみ海士かとらへし竹島に鯨のえものおもひかけきや」と具体的島の竹島を詠んでいます。

 日露戦争墓碑

 写真日露役戦死者之碑(島根県大田市志学)


(主な参考文献)

・「官報」(明治篇)国立公文書館

・「軍艦対馬戦時日誌」防衛研究所図書館

・「軍艦新高行動日誌」防衛研究所図書館

・電報新聞

・『秘竹島』(島根県行政文書)島根県総務部総務課所蔵

・田村清三郎『島根県竹島の新研究』島根県総務部総務課昭和40年(1965)

・内藤正中『竹島(鬱陵島)をめぐる日朝関係史』多賀出版平成12年(2000)


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