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2019(R1)年 <  2020(R2)年 年報  > 2021(R3)年
目次 I.概要 II-1.発生状況の解析と評価 II-2.定点把握疾患発生状況 III.検査情報
全数把握 週報(インフルエンザ・小児科・眼科・基幹定点) 月報(STD・基幹定点) 精度評価
印刷用ページ 1.発生状況の解析と評価 発生状況 表5.指数(県) 表6.指数(地区) 表7.地区 表8.月(県) 表9-1.月(東) 表9-2.月(中) 表9-3.月(西) 表9-4.月(隠) 表10.年齢
インフルエンザ報告者の年齢区分割合
流行指数(2016年報告数/(2006から2015年の平均報告数))
流行指数(2016年報告数/(2006から2015年の平均報告数))

 2010から2019年の過去10年間の感染症報告総数は、最も少なかった2010年が22,271件、最も多かった2011年が29,513件、概ね25,000件前後で推移していたが、2020年の総数は9,540件、 指数にして0.37と、2010年以前にさかのぼっても過去に例がない最少の年であった。これは新型コロナウイルス感染拡大に対しての自粛の効果で、あらゆる感染症の流行が沈静化したためである。
 2019/2020年シーズンのインフルエンザ流行は、1月がピークで2月は流行残存、3月に流行の裾野があり4月に完全収束した。インフルエンザがみられなくなった5月からは、 報告総数が300前半、多くても400をわずかに超える月が12月まで続いた。例年の30%程度、多くても40%程度の月が続いたことになる。
 これは島根県だけではなく全国的に同様で、子どもたちの健康を考えるうえでは、とりあえず喜ばしいことであるが、マイナス面としては一般のカゼウイルスに対する抗体を獲得しないまま 成長する子どもが多くなることであり、人と触れあって成長する子どもの精神発達面における悪影響の懸念されており、子どもの将来に大きな禍根を残すことが心配されている。 全国の小児科クリニックの多くはカゼ診療が主体であり、これらの多くから経営的には悲鳴が上がっていることも事実である。 小児科クリニックの役割が、カゼ診療から乳幼児健診や予防接種にシフトすべきであることはいままでも言われていたが、コロナがこの流れを加速することは確実と考えられる。
3)インフルエンザ定点感染症の流行状況:表5〜10、図1〜4
 過去10年間では、最少は2010年の2,196件に次いで少ない3,508件、指数にして0.43の極めて少ない年であった。2019/2020年シーズンの流行は1月がピークで、4月に完全収束した。 2020/2021年シーズンの流行は、通常であれば11月から12月にかけて兆しがみられるが、このシーズンはまったくみられていない。オーストラリア・ニュージランドなど南半球の国々で 現地の冬である7月から9月にまったく流行がみられなかったことから、2020/2021年シーズンはまったく流行しないことはあり得ると考えられる。コロナ自粛の影響は極めて大きいと言える。
4)小児科定点感染症の発生状況
(1)RSウイルス感染症
 わずか79件の報告であった。指数0.08、夏の終わり頃からの流行がまったくみられず、12月に入っても流行の兆しは見られていない。迅速検査の適応が拡大されてから例をみない少ない年であった。 コロナ自粛の影響がもっとも顕著に現れた感染症と言える。このまま消えることは考えにくいし、半年程度ずれて流行、あるいは次の年の流行と重なって大きな流行になるとの予測もある。 ハイリスク乳幼児へのシナジス投与スケジュールにも影響する。シナジスはモノクローナル抗体で、量産ができない高価薬だけに、RSの今後の動向には注意を要する。 RSウイルス感染症と臨床像や好発年齢がよく似た疾患にヒトメタニューモウイルス感染症があるが、これもRSとまったく同様の少なさであった。
(2)咽頭結膜熱
 総数172件、流行指数0.28と、過去10年間で最少であった昨年を下回り、最少を更新した。
(3)A群溶連菌咽頭炎
 2020年は1,069件、流行指数0.51と過去10年間で3番目に少ない年であった。これもコロナ自粛の結果と言えるが、細菌性疾患で、一定数無症状保菌者がいることを考えれば、 急性ウイルス感染症よりも自粛の影響により少なくなることはうなずける結果と言える。
(4)感染性胃腸炎
 総数3211件、流行指数0.36は過去10年間で最少であったが、他のウイルス感染症が激減の中では、比較的認められた感染症であったと言える。 減少はコロナ自粛とロタウイルスワクチンが定期化の両方の影響と思われる。ロタワクチンは生ワクチンで1価と5価の2種が存在する。ワクチンの普及で今後流行株の亜型が変化し、 ワクチンに含まれない型による大きな流行になる可能性も否定できないので、今後の動向には注意を要する。
(5)水痘
 3年連続流行指数0.25前後で推移している。罹患例も軽症が多いと報告されており、水痘ワクチン定期化の効果が続いていると考えられる。 水痘の軽症化は将来の帯状疱疹の予防や軽症化につながると言われているので、漸減傾向・軽症化に安心することなくワクチン接種の継続的な啓発活動が必要と思われる。
(6)手足口病
 全県で121件、流行指数0.07と、過去10年間で2番目に少ない年であった。出雲圏域で秋に少し見られたが、その他の圏域ではほとんど流行は見られなかった。
(7)伝染性紅斑
 総数167、流行指数0.60と少し認められたが、これは東部圏域で前年からの流行が残存したためで、後半には完全に消失した。
(8)突発性発しん
 総数695、流行指数0.97と、過去10年間のほぼ平均で、まったく自粛の影響を認めなかった。本サーベーランスの精度をモニターするために登録されている疾患であるが、 モニターとしての適性を如実に示していると考えられる。
月別の報告患者数 月別の報告患者数
月別の報告患者数 眼科定点の報告患者数
流行性角結膜炎の年齢分布 基幹病院定点の報告患者数
(9)ヘルパンギーナ
 総数243件、流行指数0.49と、軒並み著減の急性ウイルス性感染症の中では、比較的多く見られた。
(10)流行性耳下腺炎
 総数は17件、流行指数0.04と、これも過去10年間で最少で、指数0.04は登録感染症の中で最少であった。コロナ自粛とワクチン接種の両方の効果と思われる。
5)眼科定点感染症の流行状況:表5、6、7、8、9、10、図7,8
(1)急性出血性結膜炎
 非常に伝染力の強い結膜炎であるが、2020(R2)年は島根県での発生の報告はなかった。
(2)流行性角結膜炎
 2020(R2)年は、全県で12件の報告があった。東部10件、中部1件、西部1件であった。2020年は、新型コロナウイルス感染症対策のため、マスクの着用、手洗い、手指の消毒の重要性が浸透したため、 結膜炎の発症も少なかったと思われる。
 流行性角結膜炎は感染力が強く、家庭内発症や職場、学校での集団感染を起こしうるので、早期の発見と診断が重要である。感冒症状を伴う結膜充血や眼脂が見られる場合、 アデノウイルス感染症を念頭に置いて、対象患者の発症状況や周辺環境を含め詳細な問診が重要であり、さらなる流行の予防のための丁寧な生活指導、治療が重要であると思われる。
6)基幹定点把握疾患の発生状況:表5、6、7、8、9、10、図9
(1)細菌性髄膜炎
総数6件、流行指数0.75であった。細菌感染である本症は、A群溶連菌咽頭炎と同じく、自粛下でも急性ウイルス感染症ほどには自粛しても減らないことを示している。
(2)無菌性髄膜炎
 総数9件、流行指数0.24と、過去10年間で最少であった。ほとんどはウイルス性であるので、コロナ自粛の影響と考えられる。
(3)マイコプラズマ肺炎
 2020年はマイコプラスマ肺炎が25件報告された。2018年9月以降に散発的に報告されているが、これもコロナ自粛で減少したと言える。マイコプラスマ感染症は、 肺炎を起こしても外来治療できる疾患となっているため、入院例があるということは、入院例の数倍から10倍の外来患者がいると推定される。 本サーベーランスのように入院例でマイコプラスマ感染症の動向をとらえることは困難で、外来患者を把握する方法を検討する時期にきていることは昨年の報告書でも申し上げたことである。
(4)クラミジア肺炎
2010年以降、年間0から6件の報告がある。2020年は報告がなかった。
(5)感染性胃腸炎(ロタ)
2020年の報告はなかった。減少はコロナ自粛とロタウイルスワクチンの定期化の両方が影響していると思われる。
島根県感染症情報センター