感染症 年報
1)ウイルス検査情報
感染症発生動向調査事業にともなう感染症流行とその病原体の確認調査を行うため、2013年1月から12月の間に県内の病原体検査定点が採取した16疾患群1102検体の患者材料について検査を実施した。
これらの患者材料は、県下の小児を中心とした感染症の原因となるウイルスの流行状況を反映しているものであり、インフルエンザをはじめ、咽頭結膜熱、手足口病、風しん、ヘルパンギーナ、無菌性髄膜炎、感染性胃腸炎、肺・気管支炎等の疾患についてウイルスの検索を行った。
(1)疾患別ウイルス検出状況(表18)
検出されたウイルスは、表18に示すように47種類706例であった。
以下、感染症発生動向調査の把握疾患のウイルス検出状況について述べる。
・インフルエンザ(疑いを含む)
177検体から9種169例のウイルスが検出された。
インフルエンザウイルスは、AH1pdm09型が13例、A香港型(AH3)が121例、B型が24例であり、ライノウイルス4例、アデノウイルス2型3例、
その他にアデノウイルス1型、エコーウイルス6型、パレコウイルス6型、ヒトメタニューモウイルスが各1例検出された。
・咽頭結膜熱
12月をピークとする流行が認められ、アデノウイルス1型、2型、3型、4型の他、コクサッキーウイルスA2型、エコーウイルス11型、
インフルエンザウイルスA香港型、ヒトボカウイルスが検出された。
・手足口病
8月をピークに比較的大きな流行が認められた。コクサッキーウイルスA6型が42例検出され、2011年と同様、本疾患の主流行型となった。
また、従来からの原因ウイルスであるコクサッキーウイルスA16型、エンテロウイルス71型も各12例検出された。
・ヘルパンギーナ
7月をピークとする小流行があり、検体数は27検体であった。
検出されたウイルスは、コクサッキーウイルスA8型9例、A10型8例、A2型が4例、A6型、B2型、エコーウイルス11型、エンテロウイルス71型が各1例である。
・無菌性髄膜炎
7〜9月に中部地区で流行が認められ、92検体中63検体からウイルスが検出された。
検出されたウイルスはエコーウイルス6型が40例、次いでエコーウイルス30型 17例である。その他、散発的にコクサッキーウイルスB3型、
エンテロウイルス71型も検出された。
・感染性胃腸炎
229検体中138検体からウイルスが検出された。
検出された下痢症関連ウイルスは、サポウイルス 34例、A群ロタウイルス 30例、ノロウイルスG2型 28例、アストロウイルス 9例、
ノロウイルスG1型3例、アデノウイルス40/41型 1例であり、例年検出数が多いノロウイルスG2型の流行は比較的小さかった一方、
サポウイルスが多数検出された。
その他、無菌性髄膜炎の原因ウイルスとして流行したエコーウイルス6型やエコーウイルス30型など多種類のエンテロウイルス、
アデノウイルスが少数例ずつ検出された。
・流行性耳下腺炎
1症例の検査を行ったが、ウイルスは検出されなかった。
・風しん(疑いを含む)
全国的な流行を反映して34症例89検体の検査を行い、24症例54検体から風しんウイルスが検出された。また、麻しん疑い例から1例、
風しんウイルスが検出された。
・SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
4症例8検体の検査を行い、1症例からSFTSVが検出された。
(2)月別ウイルス検出状況(表19)
アデノウイルス、ライノウイルス、ノロウイルスG2型、サポウイルスは年間を通して検出された。コクサッキーウイルス、
エコーウイルスは概ね夏期から秋期に多数検出されたが、コクサッキーウイルスA6型やエコーウイルス6型はほぼ通年、
コクサッキーウイルスB群は秋期から冬期に検出された。
以下、代表的なウイルスについて月別の検出状況を述べる。
・アデノウイルス
1型、2型は通年、3型は11,12月に、4〜6、11、31、56型は散発的に検出された。
56型は2011年に新型アデノウイルスとして提唱されたウイルスで、島根県では初めて検出された(流行性角結膜炎患者由来)が、
全国的にみると2011年以降、主に流行性角結膜炎患者から毎年30例あまり検出されている。
・コクサッキーウイルスA群
6型は1月から検出され始め、4月から6月をピークに9月までの長期間検出された。
16型は6月から9月、8型と10型は7月から2,3か月間、2型、5型、9型は8月以降散発的に検出された。
・コクサッキーウイルスB群
3型が8月から、2型が9月から、1型が10月から検出され始め、冬季まで検出された。
・エコーウイルス
6型は昨年10月から検出されているが、本年も1月から検出され、7、8月をピークに12月まで検出された。
また、30型が7月から12月、11型が9月から12月、25型が10月、11月に検出された。
・インフルエンザウイルス
2012/2013年シーズンは2012年11月にAH1pdm09型が検出され、12月にはA香港型とB型も検出され始めた。
2013年1月からはA香港型を主流行株に、A香港型とB型が5月まで、AH1pdm09型は4月まで検出された。
また、本ウイルスは9月に益田圏域で小流行し、6例検出された。
2013/2014年シーズンは12月にA香港型が検出されている。
・呼吸器関連ウイルス
パラインフルエンザウイルスは1、2、3型が散発的に検出された。
RSウイルスは例年とは異なり、8月下旬をピークとする流行を反映して7月から11月に年間の検出数の約8割を検出した。
ライノウイルスは、年間を通して検出された。
ヒトメタニューモウイルス、ヒトボカウイルスは年間で各3例、10例と散発的な検出であった。
・風しんウイルス
昨年秋以降の全国的な風疹の流行を反映し、県内でも2月から6月に56検体から検出された。
・下痢症関連ウイルス
ウイルス性感染性胃腸炎は、主に冬季から春季にかけて流行する。その主な原因ウイルスとなっているのがノロウイルスG2型とA群ロタウイルスである。
ノロウイルスG2型はほぼ通年検出されたが、1月と11月から12月には流行が認められた。その後、A群ロタウイルスが
2月から検出され始めて4月をピークに6月まで検出された。
また、サポウイルスが1月から5月を中心に年間で34例とノロウイルスG2型を凌ぐ検出数であった。
その他、アストロウイルスが2月から5月、ノロウイルスG1型、腸管アデノウイルス(アデノウイルス40/41型)が散発的に検出された。
(3)検査材料別ウイルス検出状況(表20)
適切な検査材料と採取時期が感染症の病原体診断のための重要な要素である。
現在、定点医療機関において呼吸器系感染症は咽頭拭い液及び鼻汁・鼻腔拭い液、胃腸炎症状は糞便、髄膜炎症状では脊髄液・咽頭拭い液・糞便、
そして水疱を伴う発疹症は水疱液・咽頭拭い液・糞便、眼疾患では結膜拭い液・咽頭拭い液等の検査材料を採取してもらい、ウイルス検出を行っている。
また、麻しん、風しんウイルスの検出には咽頭ぬぐい液、血液、尿を採取してもらっている。
以下、材料別のウイルス検出状況を示す。
・咽頭拭い液
445検体が採取され、285例(64.0%)からウイルスが検出された。
このうち、エンテロウイルス(コクサッキーウイルスA群、B群、エコーウイルス、エンテロウイルス68型、71型)が140例とほぼ半数を占めた。
検出数が多かったウイルスは手足口病の原因ウイルスとなったコクサッキーウイルスA 6型 55例、A16型、
エンテロウイルス71型が各13例、無菌性髄膜炎の主流行株となったエコーウイルス6型 16例などである。
インフルエンザウイルスは46例検出され、内訳は、AH1pdm09型が9例、A香港型が28例、B型が9例であった。
アデノウイルスは1〜6型が27例検出された。その他、風しんウイルス23例、呼吸器感染症の原因となるRSウイルスが15例、
ライノウイルス14例、パラインフルエンザウイルス7例などが検出された。
・鼻腔拭い液
インフルエンザ様患者由来の検体でA香港型が8例、B型が1例検出された。
・鼻汁
主にインフルエンザ様患者及び肺・気管支炎患者由来で検体数168検体中147検体(87.5%)からウイルスが検出された。
主な検出ウイルスは、AH1pdm09型が4例、インフルエンザA香港型90例、B型16例、RSウイルス9例であり、インフルエンザウイルスが3/4を占めた。
・糞便
主に感染性胃腸炎患者由来で、検体数342検体中194検体(56.7%)からウイルスが検出された。
主に検出されたのは、下痢症関連ウイルスでサポウイルス34例、A群ロタウイルス30例、ノロウイルスG2 28例、アストロウイルス9例であった。
その他、感染性胃腸炎、熱性疾患患者由来でアデノウイルスが19例、無菌性髄膜炎、発疹症、熱性疾患、
感染性胃腸炎の患者由来でエコーウイルス6、11、25、30型が計43例検出された。
・脊髄液
無菌性髄膜炎患者由来で、63検体中35検体(55.6%)と高率にウイルスが検出された。
内訳はコクサッキーウイルスB3型2例、エコーウイルス6型25例、エコーウイルス30型8例である。
・尿
風しんあるいは麻しん疑い患者由来の検体 24検体中15検体から風しんウイルスが検出された。
また、出血性膀胱炎患者由来検体からアデノウイルス11型が検出された。
・血液
風しんあるいは麻しん疑い患者由来の検体36検体中18検体から風しんウイルスが検出された。
(4)地域別ウイルス検出状況(表21)
ウイルス毎の検出時期と地域間の波及の方向をみるため、流行した代表的なウイルスについて旬毎のウイルス検出数を表21に示した。
・コクサッキーウイルスA6型
今年の手足口病の主流行ウイルスであり、県内全域で流行が認められた。
まず西部で1月上旬から検出され始め7月下旬まで、次に東部で1月下旬から8月上旬まで、さらに1か月遅れて中部で2月下旬から9月下旬まで検出された。
・エコーウイルス6型
今年の無菌性髄膜炎の原因ウイルス一つのである。
昨年10月から東部で検出されていたが、1月下旬に中部で、2月上旬には東部でも検出された。
東部ではその後散発的な検出であったが、中部では無菌性髄膜炎の流行を反映して6月から検出が増加し8月上旬をピークに12月下旬まで検出された。
西部では6月下旬から検出され始め、散発的に12月中旬まで検出された。
・エコーウイルス30型
今年の無菌性髄膜炎の原因ウイルスの一つであり、7月上旬から10月中旬に中部で主に検出された。
東部では10月から12月に散発的に、西部では12月上旬に2株検出されたのみである。
・エンテロウイルス71型
7月以降の手足口病の原因ウイルスの1つであり、中部で7月中旬から11月下旬、東部で8月中旬から10月上旬に検出された。
西部では検出されなかったが、本ウイルスの流行期であった8月中旬以降、手足口病由来検体がなかったためである。
・ライノウイルス
6月から8月と12月を除き、県内全域で検出され、地域差、季節性は特に認められなかった。
・インフルエンザウイルスA香港型
2012/2013年シーズンは、2013年第1週に定点あたりの報告患者数が1人以上となり流行入りした。
A香港型は、流行前の12月中旬に西部、下旬に東部で検出され始め、1月中旬には中部でも検出され、県内全域で流行した。
東部では1月下旬をピークに5月中旬、中部では1月下旬をピークに4月下旬、西部では4月上旬まで検出された。
2013/2014シーズンは2014年第1週に定点あたりの報告患者数1人以上となり流行入りをしたが、2013年12月上旬から中部でA香港型が検出され始めた。
・インフルエンザウイルスB型
2013年1月中旬に東部で1株検出され、2012/2013シーズンの県内での侵入が確認された。その後、中部で2月上旬、西部で3月中旬から検出された。
検出数は中部が多かったが、各地区とも検出数の増減はなく、東部は4月上旬、中部は5月上旬、西部は5月中旬まで継続的に検出された。
・RSウイルス
夏季の流行を反映し、7月下旬から東部と西部、8月下旬から中部でも検出され、11月下旬まで各地区で検出が続いた。
・A群ロタウイルス
本ウイルスは冬季から春季の感染性胃腸炎の起因ウイルスで、例年、ノロウイルスの流行が終息する時期から流行し始める。
本年は2月上旬から中部で検出され始め、3月中旬には東部でも検出されるようになり、両地区とも6月まで継続的に検出された。
西部では4月下旬に1例のみ検出されたが、患者の流行は認められていることから、本ウイルスの好発年齢である
乳幼児の胃腸炎患者検体が少なかったためと考えられる。
・ノロウイルスG2
2012/2013シーズンは東部で10月中旬に検出され始め、11月中旬に中部、12月上旬に西部へと流行が拡大した。
年明け後の1月は県内全域で検出されたが、それ以降は散発的な検出であった。
2013/2014シーズンは10月下旬に中部、11月中旬に東部で検出されるようになったが、西部では年内は検出されていないが、
患者の流行は認められていることから、本ウイルスの好発年齢である乳幼児の胃腸炎患者検体が少なかったためと考えられる。
・サポウイルス
東部、中部では1月から9月あるいは8月まで断続的に検出された。
西部では2例のみの検出であるが、前述のように乳幼児の胃腸炎患者検体が少なかったことも一因と考えられる。