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2009(H21)年 <  2010(H22)年 年報  > 2011(H23)年
目次I.概要II-1.発生状況の解析と評価II-2.定点把握疾患発生状況III.検査情報
ウイルス検査情報細菌検査情報流行予測検査
1.病原微生物検出情報 |検出状況表18疾患別表19月別表20検体別表21地区別表22年推移表23累計図15
1)ウイルス検査情報
 感染症発生動向調査事業にともなう感染症流行とその病原体の確認調査を行うため、2010年1月から12月の間に県内の病原体検査定点が採取した11疾患群637検体の患者材料について検査を実施した。これらの患者材料は県下の小児を中心とした感染症の原因となるウイルスの流行状況を反映しているものであり、咽頭炎をはじめ、インフルエンザ、咽頭結膜熱、手足口病、ヘルパンギーナ、無菌性髄膜炎、感染性胃腸炎等の疾患についてウイルスの検出を行った。

(1)疾患別ウイルス検出状況(表18)
 検出されたウイルスは表18に示すように18種類301例、これを血清型で分類すると34種類であった。
 以下に感染症発生動向調査の把握疾患のウイルス検出状況について述べる。
・インフルエンザ(疑いを含む)
 86検体から5種75例のウイルスが検出され、新型インフルエンザ(AH1pdm)が49例、A香港型(AH3)が22例、その他にRSウイルスが2例、ヒトメタニューモウイルスが1例、単純ヘルペスが1例検出された。
・咽頭結膜熱
 本疾患がほとんど流行しなかったことから検体も6検体と少数であった。
 起因ウイルスであるアデノウイルスは3例から検出され、1型が2例、2型が1例であった。
・手足口病
 43検体中19検体から2種類のウイルスが検出され、コクサッキーウイルスA5型が3例、主流であったエンテロウイルス71型が16例であった。
・ヘルパンギーナ
 夏季に小規模な流行が起こったが、検体数は30検体と少数であった。
 検出したウイルスは4種類25例で、主に検出されたのはコクサッキーウイルスA型の17例、コクサッキーウイルスB型の6例であった。
・無菌性髄膜炎
 2007年に出雲圏域で主にエコーウイルス30型による流行が起きて以降大きな流行は起こっていない。33検体中7検体から検出され、検出されたウイルスはアデノウイルス2型、コクサッキーウイルスB2型とB4型、エンテロウイルス71型及びパレコウイルスと多種類のウイルスが検出された。
・感染性胃腸炎
 179検体中105検体からウイルスが検出され、調査した疾患の中で最も多種類のウイルスが検出されている。
 主なウイルスは、ノロウイルスG2の43例、A群ロタウイルスの30例、ノロウイルスG1の6例であった。
(2)月別ウイルス検出状況(表19)
 年間を通してみると、アデノウイルス、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エンテロウイルス71型がほぼ年間を通して検出されている。
 また、感染性胃腸炎の起因ウイルスであるノロウイルスは冬季に、インフルエンザは新型インフルエンザウイルスが1月から3月の間と12月に、A香港型が5月と11、12月に検出された。
 以下に代表的なウイルスについて月別の検出状況をについて述べる。
・アデノウイルス
 咽頭結膜熱の流行が小規模であったことから検体数が少なく、春季に流行した時に3検体から検出されたのみであった。
・コクサッキーウイルスA群
 ヘルパンギーナから2型、4型、5型が検出され、5型は冬季から春季の流行期に、2型と4型は夏季から秋季の流行期に検出された。
 また、手足口病は春季から夏季の間に小規模に流行したが、検出されたのは春季に提出された3検体からの5型のみであった。
・コクサッキーウイルスB群
 例年多種類の疾患から検出されるウイルスである。
 本年は咽頭炎、ヘルパンギーナ、無菌性髄膜炎、感染性胃腸炎等から1型、2型、3型及び4型検出されているが、検出された時期は3月から10月で、冬季には検出されていない。
・エンテロウイルス68型及び71型
 71型は1月から8月の間に小規模に流行した手足口病から主に検出された。その他に過去10年間には検出されたことがない呼吸器系感染症の起因菌である68型が12月に検出されている。
・インフルエンザウイルス
 2009/2010年シーズンは、2009年7月から流行が始まり2010年3月まで続いた。また、2010/2011年シーズンは2010年11月から流行が始まっている。
 2009/2010年シーズンは、新型インフルエンザ(AH1pdm)の単独の流行で終わった。また、2010/2011年シーズンは、2010年11月にA香港型(AH3)が先行して流行し、その後12月に新型インフルエンザ(AH1pdm)が加わり、2つの型による流行となった。
・下痢症関連ウイルス
 ウイルス性感染性胃腸炎は主に冬季から春季にかけて流行する。ノロウイルスはG1型が1月、5月、10月、11月、12月、G2型が7月から9月を除く全ての月から検出された。A群ロタウイルスはノロウイルスの流行が終息する3月から検出され始めて6月まで検出されたが、ピークは4月であった。また、アデノウイルス40/41型はノロウイルスが流行している時期と同じ、2月から6月の間に検出された。
 この他にサポウイルス、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エコーウイルス等が検出されているが、検出数が少数なため季節性は分らなかった。
(3)検査材料別ウイルス検出状況(表20)
 適切な検査材料と採取時期が感染症の病原体診断のために重要な要素である。現在、定点医療機関において呼吸器系感染症は咽頭拭い液を主体に糞便を補助的に加え、胃腸炎症状は糞便、髄膜炎症状では脊髄液、咽頭拭い液、糞便、そして水疱を伴う発疹症は水疱液、咽頭拭い液、糞便、眼疾患では結膜拭い液、咽頭拭い液等の検査材料を採取してもらい検出を行っている。

 以下に材料別のウイルス検出状況を示す。
・咽頭拭い液
 192検体が病原体定点から送付され、98検体(51.0%)からウイルスが検出された。主に検出されたのはインフルエンザウイルスの27例で、その内訳は新型(AH1pdm)が24例、A香港型(AH3)が3例であった。この他に咽頭結膜熱等の起因ウイルスとなったアデノウイルス6例、主にヘルパンギーナの起因ウイルスとなったコクサッキーウイルスA群が20例及びコクサッキーウイルスB群が6例、手足口病の起因ウイルスとなったエンテロウイルス71型が16例、上気道炎等の起因ウイルスとなったライノウイルスが9例検出された。
・鼻腔拭い液
 新型インフルエンザ(AH1pdm)が流行したことから鼻腔ぬぐい液の検査数は例年より多かった。検体数は122検体で、27検体(22.1%)からウイルスが検出された。主に検出されたウイルスはインフルエンザA香港型(AH3)の15例、新型インフルエンザ(AH1pdm)の1例であった。
・鼻汁
 検体数は45検体で、38検体(84.4%)からウイルスが検出され、主な検出ウイルスは、新型インフルエンザ(AH1pdm)の27例、インフルエンザA香港型(AH3)の5例、RSウイルスの5例であった。
・糞便
 病原体定点から提出された検体の中で最も多い検体数であった。検体数は237検体で122検体(51.5%)からウイルスが検出された。主に検出されたのは、ノロウイルスG2が43例、A群ロタウイルスが30例、ノロウイルスG1が6例検出された。
(4)地域別ウイルス検出状況(表21)
 ウイルス毎の検出時期と地域間の波及の方向をみるため,流行した代表的なウイルスについて表21に示した。
・コクサッキーウイルスA5型
 ヘルパンギーナは春季と夏季から秋季の2つの小規模な流行があった。本ウイルスは春季に流行した患者から検出され、2月上旬に東部で発生し、4月中旬には中部へと拡大したが、その後この型による流行は終息した。
・コクサッキーウイルスB4型
 ヘルパンギーナ、無菌性髄膜炎、感染性胃腸炎、熱性疾患等の多種類の疾患から検出され、6月下旬に東部で発生し、7月下旬には中部へと拡大したが、9月上旬にはこの型による流行は終息した。
・エンテロウイルス71型
 本ウイルスは主に手足口病の起因ウイルスである。3月中旬西部で発生し、4月中旬には中部へ、5月中旬には東部へと感染が拡大したが、8月下旬には本ウイルスの流行は終息した。
・インフルエンザウイルス
 2009/2010年シーズンは、新型インフルエンザ(AH1pdm)の単独の型の流行で、中部が1月下旬に、西部が2月中旬に、東部が3月上旬にウイルスが検出されなくなり、流行もほぼ終息した。
 また、2010年/2011年シーズンはA香港型(AH3)が11月中旬に東部で流行し、その後12月上旬に中部から検出されたが、12月下旬には流行が縮小してウイルスは検出されなくなった。逆に、新型インフルエンザ(AH1pdm)が12月上旬から県内全域で流行し始めたが、流行が小規模であったため12月下旬まで中・西部の検体からは本ウイルスが検出されていない。
・RSウイルス
 本ウイルスは冬季の呼吸器系疾患の起因ウイルスである。
 流行は2009年10月から全県でほぼ一斉に始まり、4月上旬まで続いたが、本ウイルスの検出は検体採取時期、保存期間及び保存温度等に大きく左右されることから、毎年検出数は少ない。従って、地域間の波及を考察することは困難であった。
・A群ロタウイルス
 本ウイルスは冬季の感染性胃腸炎の起因ウイルスで、例年ノロウイルスの流行が終息する時期から流行し始める。
 本年もノロウイルスの流行がほぼ終息した3月下旬に中部で、その後、4月上旬になって県内全域で検出され、流行はほぼ同時期に起こったと推察された。
 本ウイルスが検出されなくなったのは、東部が6月下旬、中部が5月下旬、西部が5月上旬であった。従って、中・西部は東部より約1か月以上早く流行が終息したと推察された。
・ノロウイルス
 ノロウイルスG2は年当初から県内全域で検出されており、検出されなくなったのは東部が1月下旬、中部が4月下旬、西部は3月上旬と地域間で終息時期が異なっていた。
 また、ノロウイルスG1型による流行は小規模であったことから、県内の動向は分からなかった。
(5)過去10年間のウイルス検出状況(表22)
 感染症サーベランスが開始されて以来、29年間で21,300例以上のウイルスを当所で検出している。表22はその内の過去10年の状況を示す。
・アデノウイルス
 1型、2型、3型、5型、6型、40/41型は増減があるもののほぼ毎年検出される型である。4型は2005年から2008年の間に検出されていたが2009年、2010年は検出されていない。7型は1994年以降毎年検出されていたが、2005年から全く検出されなくなった。
・コクサッキーA群ウイルス
 高率に検出される4型、6型、10型、16型と低率に検出される2型、5型、9型及び稀に検出される3型、8型、9型、12型、14型、21型に分類される。

 2010年は2型、4型及び5型の3つの型が検出された。2型は昨年2009年には検出されていないがほぼ毎年検出され、4型、5型もほぼ継続的に検出される型である。
・コクサッキーB群ウイルス
 過去29年では、本ウイルスは1年から2年の多発期と2から3年の非流行期を繰り返して流行している。
 2010年は1型、2型、3型、4型が検出された。1型は2006年から2009年の4年間は検出されていなかったが本年は検出され、2型、3型、4型はここ数年継続して検出されている。
・エコーウイルス
 他のエンテロウイルスに比べ流行周期が長く、多種類の疾患から検出され、また、検出される型も多種類であるのが特徴で、29年間で10種類の型が検出された。ほとんどの型が、2年から3年の多発期の後、長期間検出されなくなる流行周期であるのに対し、30型は2002年から毎年検出されている型である。
・エンテロウイルス71型
 本ウイルスは、手足口病の起因ウイルスとして3年から4年の周期で流行し、また、本ウイルス以外の手足口病の主要ウイルスとなるコクサッキーウイルスA10型、A16型と流行時期が相前後した時期に流行する。
 2010年はエンテロ71型による流行となり、コクサッキーウイルスA6型、A10型は検出されなかった。
・ポリオウイルス
 年間に3から30例が検出されるが、いずれも感染性胃腸炎、咽頭炎、発しん症等の糞便、咽頭拭い液材料から生ワクチン投与後の一定期間に限られて検出されている。
・下痢症起因ウイルス
 最近の下痢症起因ウイルスの検出状況は、ノロウイルスG2、A群ロタウイルスで大多数を占め、その他に少数検出されているアデノウイルス40/41型、C群ロタウイルス、ノロウイルスG1、サポウイルス、アストロウイルスがある。
 ノロウイルスG2はPCR法による型別検査を実施することになった2004年以降高率に毎年検出され、また、A群ロタウイルスは検査を始めた1984年から毎年高率に検出されている。アデノウイルス40/41型、C群ロタウイルス、ノロウイルスG1、サポウイルスは近年数例から数十例検出されているが、これらウイルスは学校等の集団生活の場で感染症を引き起こすことがあり疫学的サーベイランスは重要である。
・インフルエンザウイルス
 2009年以前は、Aソ連型(AH1)、A香港型(AH3)、B型の3種類の型による流行パターンであったが、2009年から新型(AH1pdm)がこれに加わり、今後はこの4種類の型による流行パターンが続くと思われる。
(6)主な疾患から検出されたウイルス検出状況(表23)
 表23に、2001年から2010年までに代表的な疾患から検出されたウイルスを示す。これらにはそれぞれの疾患の主要な原因ウイルスと、必ずしも原因ウイルスではなく、その時々に流行しているウイルスが付随的に検出されたものも含まれている。
・咽頭炎
 多種類の疾患の症状であることから、アデノウイルス、コクサッキーウイルスA、B群、エコーウイルス、インフルエンザウイルス等の多種類のウイルスが検出されている。
・インフルエンザ
 インフルエンザウイルスAソ連型(AH1)、インフルエンザウイルスA香港型(AH3)、インフルエンザウイルスB型、新型インフルエンザ(AH1pdm)が検出されている。検出数はA香港型(AH3)が多数を占めているが、新型(AH1pdm)は2009年の流行の規模が大きかったこと、病原体定点の医師の注目度も高かったことから出現後2年間にもかかわらず検出数は多かった。
・咽頭結膜熱
 咽頭結膜熱の起因ウイルスはアデノウイルスで、この10年間では主にアデノウイルス3型が検出されている。その他に1型、2型、5型が少数ではあるがほぼ毎年、4型、6型、7型が散発的に検出されている。
・手足口病
 手足口病の起因ウイルスはエンテロウイルスで、主にコクサッキーウイルスA群、エンテロウイルス71型である。
 過去10年に主に検出されたウイルスはコクサッキーウイルスA16型で、ほぼ3年毎に多数検出されている。その他に、エンテロウイルス71型が2001年、2004年及び2010年に多数検出されている。
・ヘルパンギーナ
 ヘルパンギーナの起因ウイルスはコクサッキーウイルスである。
 この10年間のウイルスの検出状況は、主にコクサッキーウイルスA群によるもので、4型がほぼ毎年、10型は2003年に多く検出されている。また、2型、6型は断続的に検出され、8型は2004年以降検出されていない。
・無菌性髄膜炎
 主にエコーウイルスが検出され、その他にコクサッキーウイルスA、B群等が検出されている。
 2007年に出雲圏域でエコーウイルス30型による大規模な流行が起こったが、それ以外の年はコクサッキーウイルスやエコーウイルスによる小規模な流行に留まっている。 
・感染性胃腸炎
大きく流行するのはノロウイルス及びA群ロタウイルスで、毎年ノロウイルスが流行した後にA群ロタウイルスの流行が起こっている。その他に腸管アデノウイルス、アストロウイルス及びサポウイルスが検出されているが、大きな流行はなく検出数も少数である。
・熱性疾患
 五類感染症ではないが、各種疾患の症状として重要な疾患である。毎年、多種類のウイルスが検出されているが、過去に大規模な流行は起こっていない。
・発疹症
生後1か月から1歳までの発症をピークとして、季節的な流行は少なく年間を通じてほぼ一定して流行している疾患である。検出されるウイルスは多種類で、コクサッキーウイルスA9型、エコーウイルス13型、16型、18型が多く、年別では、2002年にエコーウイルス13型、2006年にコクサッキーウイルスA9型が多数検出されている。
島根県感染症情報センター