本文へジャンプ トップ > 医療・福祉 > 薬事・衛生・感染症 > 感染症 > 感染症情報トップ > 年報
感染症情報トップ
対象疾患一覧
疾患別
カレンダー
感染症 年報
グラフ一覧

2007(H19)年 <  2008(H20)年 年報  > 2009(H21)年
目次I.概要II-1.発生状況の解析と評価II-2.定点把握疾患発生状況III.検査情報
ウイルス検査情報細菌検査情報流行予測検査
1.病原微生物検出情報 |検出状況表18疾患別表19月別表20検体別表21地区別表22年推移表23累計図15
1)ウイルス検査情報
 感染症発生動向調査事業にともなう感染症流行とその病原体の確認調査を行うため、2008(平成20)年1月から12月の間に県内の病原体検査定点が採取した12疾患群928検体の患者材料について検査を実施した。これらの患者材料は県下の小児を中心とした感染症の原因となるウイルスの流行状況を反映しているものであり、咽頭炎をはじめ、インフルエンザ、感染性胃腸炎、手足口病、咽頭結膜熱、ヘルパンギーナ、無菌性髄膜炎等の疾患についてウイルスの検出分離を行った。
(1)疾患別ウイルス分離状況(表18)
分離されたウイルスは表18に示すように14種類435株が分離または検出され、これを血清型で分類すると33種類となった。
以下に代表的な疾患群のウイルス分離状況について述べる。
・咽頭炎
26検体から多種類のウイルス8株が分離された。
分離されたウイルスは、コクサッキーウイルスA10型が1株、コクサッキーウイルスB5型が3株、エコーウイルス18型が2株、パレコウイルス及びライノウイルスが各々1株であった。
・インフルエンザ(疑いを含む)
318検体から9種182株のウイルスが分離された。
分離されたインフルエンザウイルス172株には、2008/2009シーズンの11月、12月に分離したインフルエンザウイルスAソ連型(AH1)5株とインフルエンザウイルスA香港型(AH3)25株が含まれている。2007/2008シーズンの1月から6月の間に分離した株は、142株で、内訳は流行の主体となったインフルエンザウイルスAソ連型(AH1)が111株、流行中期から分離されたインフルエンザウイルスB型が24株、流行後期に分離されたインフルエンザウイルスA香港型(AH3)が7株であった。
その他に、アデノウイルス1型、4型が各々1株、コクサッキーウイルスB2型が1株、エコーウイルス18型が2株、30型が4株及び単純ヘルペスウイルスが1株計10株が分離された。
・咽頭結膜熱
本疾患の起因ウイルスであるアデノウイルスは7株分離され、2型が5株及び3型が2株であった。
・手足口病
32検体から4種類のウイルス19株が分離された。
分離されたウイルスは、コクサッキーウイルスA4型、10型が各々1株、16型が13株、エコーウイルス18型が1株、パレコウイルスが2株、ポリオウイルス1型が1株分離された。前年(2007(平成19)年)と同様、主に分離されたウイルスは、コクサッキーウイルスA16型であった。
・ヘルパンギーナ
49検体から6種類のウイルス26株が分離された。
今年の夏季の流行は小規模であったが、主に分離されたウイルスは、コクサッキーウイルスA2型が9株、4型が5株、10型が2株であった。
・無菌性髄膜炎
93検体から3種類のウイルス28株が分離され、全てが6月から10月の間に出雲圏域で小流行した本疾患由来であった。
2007(平成19)年には、出雲圏域で主にエコーウイルス30型による大規模の流行が起こったが、本年は、同圏域でエコーウイルス18型、コクサッキーウイルスB2型及び3型が各々14株、11株及び3株分離され、この3種類のウイルスによる流行であった。
・感染性胃腸炎
228検体の内117検体からウイルスが検出または分離され、検査した疾患の中で最も多種類のウイルスが検出または分離された。
主に検出または分離されたウイルスは、A群ロタウイルス43例、ノロウイルスGU33例、サポウイルスの9例である。

(2)月別ウイルス分離状況(表19)
 年間を通してみると、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エコーウイルスがほぼ年間を通して分離された。また、感染性胃腸炎の起因ウイルスであるノロウイルスは、例年冬季に検出されるが本年はほぼ年間を通して検出された。
 ヘルパンギーナの主な起因ウイルスとなったコクサッキーウイルスA群、無菌性髄膜炎の起因ウイルスとなったコクサッキーウイルスB群とエコーウイルスは春季から秋季の間に分離され、インフルエンザウイルスは冬季から春季に分離された。
 以下に代表的なウイルスについて月別の分離状況を見てみた。
・アデノウイルス
 1型、2型、3型、4型、5型、6型と多種類の血清型が分離された。また、咽頭結膜熱からの2型、3型は、本疾患が多発する夏季を除く時期に分離されており、咽頭結膜熱の季節性が薄れてきている。
・コクサッキーウイルスA群
 夏季に流行したヘルパンギーナと春季から晩秋に流行した手足口病から主に分離された。
 ヘルパンギーナからの2型は3月から7月、4型は5月から9月、10型は8月から11月と冬季以外の月に分離されている。
 また、手足口病から分離された16型はほぼ年間を通して分離されているが、夏季に手足口病の小規模な流行があったことからこの期間は多数分離された。
・コクサッキーウイルスB群
 無菌性髄膜炎及び熱性疾患から主に分離された。
 夏季に出雲圏域で無菌性髄膜炎の小規模な流行が起こり、この疾患の起因ウイルスであった3型が6月から9月の流行期間中に、2型が9月の流行終期に分離された。
 また、9月にヘルパンギーナ、感染性胃腸炎、熱性疾患から2型が、2月から6月の時期に主に熱性疾患から5型が分離された。
・エコーウイルス
 18型は3月から9月の間に咽頭炎、インフルエンザ、発疹症、髄膜炎、感染性胃腸炎及び熱性疾患等の多種類の疾患から分離された。特に、7月から9月に出雲圏域で発生した無菌性髄膜炎の流行に伴い多数分離された。
・インフルエンザウイルス
 2007/2008年シーズンの島根県の流行は2007年の第45週(11月上旬)に患者定点から最初の患者報告があって、その後、2008年第26週(6月下旬)まで患者報告があって終息した。
 その間のウイルスの分離は、流行の主流であったインフルエンザウイルスAソ連型(AH1)が1月中旬から4月上旬まで、インフルエンザウイルスB型はインフルエンザウイルスAソ連型(AH1)より少し遅く2月上旬から5月上旬まで、インフルエンザウイルスA香港型(AH3)はインフルエンザウイルスAソ連型(AH1)の流行が終息した4月上旬から流行が終息する7月上旬までの長い期間分離された。
・下痢症関連ウイルス
 ノロウイルスは冬季のウイルス性感染性胃腸炎の主な原因ウイルスであるが、本年はノロウイルスGU型による流行がほぼ一年中あったことから、年間を通して検出された。
 A群ロタウイルスは2月から5月の間に検出されたが、多く検出されたのは3月であった。
 また、この他にサポウイルス、C群ロタウイルス、アストロウイルス、エンテリックアデノウイルスが検出されているが、検出数が少数なため季節性は分らなかった。

(3)検査材料別ウイルス分離状況(表20)
 適切な検査材料と採取時期が感染症の病原体診断のために重要な要素である。現在、定点医療機関において呼吸器系感染症は咽頭拭い液を主体に糞便を補助的に加え、胃腸炎症状は糞便、髄膜炎症状では脊髄液、咽頭拭い液、糞便、そして水疱を伴う発疹症は水疱液、咽頭拭い液、糞便、眼疾患では結膜拭い液、咽頭拭い液等の検査材料を採取してもらいウイルス分離および検出を行っている。
 以下に材料別のウイルス分離状況を示す。
・咽頭拭い液
 検体の中で最も多く384検体が病原体定点から送付され、内、177検体からウイルスが分離された。主に分離されたのはインフルエンザウイルスの78株で、その内訳はインフルエンザウイルスAソ連型(AH1)が54株、インフルエンザウイルスA香港型(AH3)が21株、インフルエンザウイルスB型が3株であった。この他に咽頭結膜熱等の起因ウイルスとなったアデノウイルスの11株、主にヘルパンギーナ、手足口病の起因ウイルスとなったコクサッキーウイルスA群が38株、髄膜炎等の起因ウイルスとなったコクサッキーウイルスB群が17株分離された。
・鼻腔拭い液
 19検体中13検体からウイルスが分離され、そのウイルスの全てがインフルエンザウイルスで、内訳はインフルエンザウイルスAソ連型(AH1)が2株、インフルエンザウイルスA香港型(AH3)が4株、インフルエンザウイルスB型が7株であった。
 また、鼻腔拭い液からのインフルエンザウイルスの分離率が高率であったのは、医療機関において実施されているインフルエンザ迅速キットで陽性となった患者から検体を採ったことによると考えられた。
・便
 282検体中131検体からウイルスが分離または検出された。主に検出されたのは感染性胃腸炎患者からのA群ロタウイルスが45例、ノロウイルスGUが33例、サポウイルスが9例であった。更に、主に無菌性髄膜炎からのエコーウイルス18型が15株、コクサッキーウイルスB3型が6株分離された。
・脊髄液
 出雲圏域で無菌性髄膜炎の小規模な流行があったことから、例年と比較して検体数は多く76検体が主に基幹定点から搬入された。
 分離されたウイルスはエコーウイルス18型の8株とコクサッキーウイルスB2型が2株、3型が6株であった。

(4)地域別ウイルス分離状況(表21)
 分離されたウイルス毎の分離時期と侵入地、地域間の波及の方向をみるため,流行した代表的なウイルスについて表21に示した。
・コクサッキーウイルスA群
 夏季に流行したヘルパンギーナと春季から晩秋に流行した手足口病から主に分離された。
 ヘルパンギーナからの4型は、西部では5月中旬から8月上旬までの間に断続的に分離され、東部では7月中旬から9月下旬までの夏季に主に分離されているが、小さな規模の流行であったことから分離株数は少数であった。
 また、手足口病から分離された16型は、東部では早く1月下旬から7月上旬の間に、中部では6月上旬と8月中旬に、西部では8月中旬から11月中旬の間に分離されており、東部から中部、そして西部へと感染が拡大したと推察された。
・コクサッキーウイルスB群
 2型はヘルパンギーナ、無菌性髄膜炎、感染性胃腸炎、熱性疾患等の多数の疾患から分離された。月別では東部が9月下旬から12月下旬の間に、中部が9月下旬から10月中旬の間に、西部が9月中旬に分離され、各地域での流行の始まりは、ほとんど同時期であった。
 3型は主に中部で流行した無菌性髄膜炎患者から分離され、流行が始まった6月上旬から終息した10月下旬の全流行期間に分離されている。
・エコーウイルス
 18型は中部で流行した無菌性髄膜炎から7月中旬から9月中旬の間に主に分離された。
 また、この型は無菌性髄膜炎以外の咽頭炎、咽頭結膜熱、手足口病、発疹症、ヘルパンギーナ、感染性胃腸炎と多種類の疾患からも分離されており、西部では3月中旬から10月下旬の間に、東部では4月下旬から9月中旬の間に、中部では5月上旬から8月下旬の間で、春季から秋季、特に夏季に県内全域で流行した型であった。
・A群ロタウイルス
 本ウイルスは冬季の感染性胃腸炎の起因ウイルスである。
 東部では3月上旬から6月上旬の間、中部は2月中旬から6月中旬の間に、西部は3月中旬から6月上旬の間に分離された。このことから、本ウイルスによる流行は、2月中旬から中部で始まり、終息は県内全域でほぼ同時期の6月であった。
・ノロウイルス
 ノロウイルスは例年冬季に流行する感染性胃腸炎の起因ウイルスである。本年はノロウイルスGUが7月上旬から10月下旬の温暖な時期を除くほぼ全時期に県内全域で多数検出された。
・インフルエンザウイルス
 インフルエンザウイルスAソ連型(AH1)が流行の主流の型で、1月中旬に県内全域で一斉に分離され、4月上旬にはどの地区からも分離されなくなった。
 インフルエンザウイルスA香港型(AH3)はインフルエンザウイルスAソ連型(AH1)がほぼ分離されなくなった3月下旬に西部から分離され、その後、4月上旬に中部からも分離され、以降7月上旬まで散発的に分離されたが、東部では分離されなかった。
 インフルエンザウイルスB型は西部で2月中旬から4月中旬の間に、東・中部と比較してこの型による流行が大きかったことから分離株数が多かった。東・中部は2月上旬から断続的に7月上旬まで分離されているが、流行が小規模であったことから少数株数は少数であった。
 このように昨シーズン(2006/2007)とは流行のパターンは違うものの、今シーズン(2007/2008)も3種類の型のウイルスによる混合流行であった。

(5)過去25年間のウイルス分離状況(表22)
 感染症サーベイランスが開始されて以来、当所で分離及び検出された主なウイルスを表22に示す。
・アデノウイルス
 1型、2型、3型、5型、6型は増減があるものの毎年分離される型で、4型は過去には多く分離されていたが1994(平成6)年から2004(平成16)年の間は全く分離されなくなり、2005(平成17)年から再び毎年分離されるようになった型で、7型は1994(平成6)年以降毎年分離さていたが、2005(平成17)年から全く分離されなくなった型である。
・コクサッキーA群ウイルス
 高率に分離される4型、6型、10型、16型と低率に分離される2型、5型及び稀に分離される3型、8型、9型、12型、14型、21型に分類される。
 今年は4つの型が分離され、2型は2006(平成18)年、2007(平成19)年は分離されていないが1994(平成6)年から2005(平成7)年までは毎年分離されている型で、それ以外に分離した4型、10型、16型はほとんど毎年分離されている型である。
・コクサッキーB群ウイルス
 調査した27年間、本ウイルスは1年から2年の多発期と2から3年の非流行期を繰り返して流行している。また、1型は他の型と比較して分離株数が少数で、2006(平成18)年から2008(平成20)年の3年間は分離されていない型である。
・エコーウイルス
 他のエンテロウイルスに比べ流行周期が長く、多種類の疾患から分離され、また、分離される型も多種類であるのが特徴で、27年間で15種類の型が分離された。
 ほとんどの型が、2年から3年の多発期の後、長期間分離されなくなる流行周期であるのに対し、30型は2002(平成14)年から毎年分離されている型である。
・エンテロ71型ウイルス
 本ウイルスは、手足口病の起因ウイルスとして3年から4年の周期で流行し、また、本ウイルス以外の手足口病の主要ウイルスとなるコクサッキーウイルスA16型と流行時期が相前後した時期に流行する。本年はコクサッキーウイルスA16型による手足口病が流行したことからこの型は分離していない。
・ポリオウイルス
 年間に3から30株が分離されるが、いずれも感染性胃腸炎、咽頭炎、発しん症等の糞便、咽頭拭い液材料から生ワクチン投与後の一定期間に限られて分離されている。
・下痢症起因ウイルス
 最近の下痢症起因ウイルスの分離及び検出状況は、ノロウイルスGU、A群ロタウイルスで大多数を占め、その他に少数検出されているエンテリックアデノウイルス、C群ロタウイルス、ノロウイルスGT、サポウイルス、アストロウイルスがある。
 ノロウイルスGUは、PCR法による型別検査を実施することになった2004(平成16)年以降高率に毎年検出され、また、A群ロタウイルスは検査を始めた1984(昭和59)年から毎年高率に検出されている。エンテリックアデノウイルス、C群ロタウイルス、ノロウイルスGT、サポウイルスは近年ほぼ10例前後検出されるが、これらウイルスは学校等の集団生活の場で感染症を引き起こすことがあり疫学的サーベイランスが重要である。
 なお、アストロウイルスの検査は、当所が用いていた検査キットが発売中止となったことから2008(平成20)年は実施していない。
・インフルエンザウイルス
 インフルエンザウイルスAソ連型(AH1)は、過去には2年から3年間継続して流行した後、2年から3年間は非流行期となるパターンを繰り返していたが、近年は、ほぼ毎年流行している。インフルエンザウイルスA香港型(AH3)は、1990(平成2)年から毎年分離され、インフルエンザウイルスB型は、2001(平成13)年から毎年分離されているが、この型による大きな規模の流行は数年間隔となっている。

(6)主な疾患から検出されたウイルス分離状況(表23)
 表23に、1982(昭和57)年から2008(平成20)年までに代表的な疾患から分離または検出されたウイルスを示す。これらにはそれぞれの疾患の主要な原因ウイルスと、必ずしも原因ウイルスではなく、その時々に流行しているウイルスが付随的に分離されたものも含まれている。
島根県感染症情報センター