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2002(H14)年 <  2003(H15)年 年報  > 2004(H16)年
目次I.概要II-1.発生状況の解析と評価II-2.定点把握疾患発生状況III.検査情報
ウイルス検査情報細菌検査情報流行予測検査
1.病原微生物検出情報 |検出状況表17表18表19表20表21表22図15
1)ウイルス検査情報
 感染症発生動向調査事業にともなう感染症流行とその病原体の確認調査のために,2003年1月から12月 の間に県下の病原体検査定点で採取された13疾患群2,516検体の患者材料を取り扱った。これらの患者材 料は県下の小児を中心とした感染症の原因となるウイルスの流行状況を反映しているものであり、年間を通じて 最も多くみられた咽頭炎を中心に、インフルエンザ、感染性胃腸炎、手足口病、咽頭結膜熱、ヘルパンギーナ、 無菌性髄膜炎、などについてウイルスの検索をおこなった。
(1)疾患別ウイルス分離状況(表17
 分離されたウイルスは表17に示すように41種類(血清型)833株であった。
 以下に代表的な疾患群とウイルスについてあげる。
咽頭炎:咽頭炎は病原体調査対象疾患の不完全型あるいは前駆症状を示す重要疾患であることから、インフルエ ンザについで多くの検体(535検体)を取扱った結果、多種類のアデノウイルス、コクサッキーA群・B群ウ イルス、エコーウイルス、単純ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス等の23血清型(種類)の112株 が分離された。
 アデノウイルスでは6種類が分離され、全アデノウイルス分離数84株中34株(40.5%)が咽頭炎に由 来している。このうち2型が最も多く,次いで1型が多く分離されている。
 コクサッキーA群は9種類133株のうち、ヘルパンギーナの主な原因として流行したA10型20株を中心 に31株が咽頭炎に由来していた。
 コクサッキーB群ではB1型が主に分離され、39株中18株が咽頭炎に由来していた。
 エコーウイルスでは6種類29株のうち、7型4株をはじめとして6株が咽頭炎から分離されている。昨年大 流行し、咽頭炎や無菌性髄膜炎の原因となった13型は、本年は感染性胃腸炎から1株分離されたのみで、咽頭 炎からも分離されていない。
 インフルエンザウイルスはA香港型(H3N2)を中心にB型が流行したが、主に流行したA香港型はインフ ルエンザからの分離株数が多かったが咽頭炎からは少なく、B型は咽頭炎からのの分離頻度も高かった。
インフルエンザ(疑いを含む):603検体中9種類290株のウイルスが分離された。インフルエンザウイルスは、 A香港型(AH3)191株、B型83株が分離された。その他ではアデノウイルス(1、2、5、7型) 13株などが分離された。
咽頭結膜熱:67検体から16株が分離された。主なウイルスはアデノウイルス1型、2型であった。
耳下腺炎:流行性耳下腺炎の非流行期にあたり検体数も少なく、7検体から4株のムンプスウイルスが分離され ている。
手足口病:142検体から61株が分離され、大きな流行となった6月〜9月を中心にエンテロ71型が主に分 離された他、ヘルパンギーナの原因ウイルスとして流行したコクサッキーA10型も分離されている。
ヘルパンギーナ:過去10年間で最も大きな規模の流行となり、115検体から73株のウイルスが分離された。 主な原因となったコクサッキーA10型が48株と最も多く、この他にコクサッキーA2、4、6、12型な どが分離された。
無菌性髄膜炎:78検体から13株が分離された。昨年はエコー13型ウイルスの流行により無菌性髄膜炎から 多数のウイルスが分離されたが本年は特定のウイルスあるいは分離株数が少なかったが、その中でエコー6型6 株をはじめとして、手足口病の原因として流行したエンテロ71型が2株などが分離されている。
感染性胃腸炎:476検体より218例が検出された。A群ロタウイルス79例、ノロウイルス(NV)45例、 エンテリックアデノ16例が主なウイルスであるが、この他にも各種のウイルスが分離され、最も他種類のウイルス が検出されている。
(2)月別ウイルス分離状況(表18
 年間を通してみると、冬期はインフルエンザウイルス、感染性胃腸炎の原因となるノロウイルス、A群ロタウ イルスが、初夏から秋にかけての5〜10月にコクサッキーA群、6〜9月にエンテロ71型、また、夏から初冬 にかけての8〜11月にコクサッキーB群およびエコーウイルスが検出された。
 以下に代表的なウイルスについて月別にあげる。
アデノウイルス:1、2、3、5、6、7型ウイルスが年間を通して分離される傾向にあった。
コクサッキーA群ウイルス:9種類が分離されている。ヘルパンギーナの主な原因となったA10型が6〜7月 を中心に5〜10月に多く分離された。その他、A14型が6〜9月に、A6型が7月〜10月に分離された。
コクサッキーB群ウイルス:B1型が咽頭炎をはじめとした様々な疾患から7〜12月の間に分離され小規模な 流行がみられた。B3、4型が8〜11月まで分離されている。
エコーウイルス:昨年は13型が大流行したが、本年はエコーウイルスによる流行はみられなかった。6、7、 30型が9〜12月の秋から冬にかけて分離されている。
インフルエンザウイルス:A香港型が1月を中心として3月まで流行した。入れ替わるようにB型が1月から分 離されはじめ、3月をピークに4月まで流行した。
下痢症関連ウイルス:ノロウイルスは感染性胃腸炎の流行の前期の1〜2月と11〜12月に主な原因として検 出された。一方、A群ロタウイルスは3月を中心として1〜5月の下痢症流行後期に主に検出された。同様に、 C群ロタウイルス、サポウイルス、アストロウイルスが流行後期に時期をずらしながら検出された。この他、エ ンテリックアデノウイルスは10〜12月に検出されている。
(3)検査材料別ウイルス分離状況(表19
 適切な検査材料と採取時期が感染症の病原体診断のために重要な要素である。一般に呼吸器系感染症は咽頭拭 い液を主体に糞便を補助的に加え、胃腸炎症状は糞便、髄膜炎症状では脊髄液、咽頭拭い液、糞便、そして水疱 を伴う発しん症は水疱液、咽頭拭い液、糞便、眼疾患では結膜拭い液、咽頭拭い液等の材料を採取し、ウイルス分 離が行われている。
以下に材料別のウイルス分離頻度を示す。
 咽頭拭い液及びうがい液は最も多種類のウイルスが分離され、胃腸炎症状以外の疾患のウイルス検索に一義的 に採取検討される材料である。さらに症状に合わせて脊髄液、水疱内溶液、結膜拭い液等の採取によって分離率 を高めることが適当と考えられる。
 また、眼症状を伴うアデノウイルス感染症の主要疾患である咽頭結膜熱、流行性角結膜炎等の眼脂、結膜拭い 液からの分離率はかならずしも高くない。これはアデノウイルスは増殖の過程でインフルエンザ、エンテロウイ ルス感染症のように、ウイルスが感染細胞外へ放出されにくく細胞内にとどまることから、材料採取に当たって は感染細胞が採取できる程度に強く拭うことが必要である。
(4)地域別ウイルス分離状況(表20
 分離されたウイルス毎の分離時期と侵入地、地域間の波及の方向をみるため,流行した代表的なウイルスにつ いて表20に示した。
コクサッキーA群ウイルス:A10型はヘルパンギーナの主な原因となり、6〜7月にかけて各地区で分離され たが、東・中部では6月中旬〜7月中旬に多く分離され、西部では7月上旬〜下旬にかけて多く分離され、地域 での流行のずれを反映した形となった。
コクサッキーB群ウイルス:東部ではB1型が7月下旬から分離され始め、12月上旬まで分離されたが、中部 ・西部では散発的に推移した。
エンテロ71型ウイルス:本年の手足口病の主な原因となった。東部では6月中旬より分離されはじめ、7月を ピークに8月上旬まで分離された。中部および西部では患者の発生が2峰性になっているが、これに合わせてエ ンテロ71型ウイルスが分離されており、地域内で流行地をずらして同じウイルスが流行したものと思われる。
A群ロタウイルス:冬期の3月をピークとする感染性胃腸炎の主な病原体であるA群ロタウイルスは、中部で1 月下旬から検出されはじめ、東部・西部では2月下旬から検出され始めた。患者発生のピークは各地区とも3月 にあり、これに合わせて検出数も増加している。その後各地区とも4月下旬から5月上旬には検出されなくなっ ている。
インフルエンザウイルス:A香港型は前年の12月上旬から東部・西部で、中部では12月下旬から検出されは じめ、1月上旬からは患者数の増加に伴い各地区から多数分離された。東・中・西部ともに1月中旬に、隠岐地 区は1月下旬にピークとなり、その後急速に減少し2月下旬から3月上旬にかけてA香港型は分離されなくなっ た。一方、B型は1月中旬から散発的に分離されはじめ3月まで徐々に分離数が増加し、シーズン2度目の患者 数のピークを形成した。B型は流行が終息した5月上旬まで分離され、春遅くまで流行するB型の典型的なパタ ーンとなった。
(5)過去20年間のウイルス分離状況(表21
 感染症サーベイランスが開始されて以来、当所で分離された主なウイルスを表21に示す。
デノウイルス:1、2、3、5型は増減があるものの、この間、毎年分離されている。アデノウイルス6型の頻 度は高くないものの、断続的に咽頭炎から分離されている。アデノウイルス7型は1993年(1982年以前 を含め)まで県内での分離例はなく、1994年より分離されるようになったが、2003年には分離されてい ない。
コクサッキーA群ウイルス:一定間隔で高頻度に分離されるA2、4、5、6、10および16型と、稀に分離 されるA3、8、12、14型に分類される。14型は、1991年以来の分離となった。
コクサッキーB群ウイルス:1型〜5型が分離されており、それぞれのウイルスは1、2年の多発期と1〜3年 の非流行期がみられている。
エコーウイルス:他のエンテロウイルスに比べ流行周期が長いのが特徴のようである。昨年は13型ウイルスが 過去20年間で初めて分離され大流行となったが、本年はほとんど分離されなかった。
エンテロ71型ウイルス:手足口病の原因として2〜3年周期で流行、分離されている。同様に手足口病の主要 ウイルスとなるコクサッキーA16型ウイルスと流行時期が相前後した時期に流行している。
ポリオウイルス:年間3〜30株が分離されているが、いずれも感染性胃腸炎、咽頭炎、発しん症等の糞便、咽頭 拭い液材料から生ワクチン投与後の一定期間に限られて分離されている。
下痢症起因ウイルス:A群ロタは1984年より検査を開始したが、検査開始当初の検出率は50%以上であっ た。しかし、最近は検出率、検出数ともに低率となっている。これには流行周期の存在も考慮する必要があるか もしれないが、医療機関で迅速診断キット使用が普及し、ロタウイルスが除外された検体が多くなっていること も一因かもしれない。また、アストロウイルスは1995年より一部の材料について実施した結果であり、必ず しも流行を反映しているものではないかもしれない。C群ロタウイルスは過去2回(1993年、1999年) 小流行がみられて以来の検出となった。ノロウイルスはPCR法のプライマーの選択・改良により、検出数が増 加している。
風しんウイルス:1988年以降空白となっている。これは風しんウイルスに感受性の高い培養細胞の入手が困難と なったことにより、分離培養ができなくなったことによる。

 表22に1982年〜2002年までに代表的な疾患から分離(検出)されたウイルスを示す。これらにはそ れぞれの疾患の主要な原因ウイルスとなるウイルスと、必ずしも原因ウイルスではなくても、その時々に流行し ていたウイルスが付随的に分離されたものも含まれている。
島根県感染症情報センター