感染症 年報
2.感染症流行予測調査
1)ポリオウイルス感染源調査
ポリオ流行地域からのポリオウイルス野生株の輸入および変異型ワクチン由来株の日本における伝播の可能性
を調査する病原体サーベイランスの一環として小児から採取された糞便検体からのポリオウイルスの分離をおこ
なった。調査は2003年8〜9月に0〜6歳児の糞便77検体を対象に培養細胞を用いてウイルスの分離同定を試みた。
77検体中9検体からウイルスが分離されたが、ポリオウイルスは分離されなかった。
分離ウイルスの内訳はコクサッキーA4 1株、コクサッキーB4 2株、コクサッキーB5 1株、エコー30 1株、
エンテロ71 2株、パレコウイルス1株、アデノ1型 1株、未同定1株であり、型別されたウイル
スは同時期に調査対象地域で流行していたウイルスであった。
2)新型インフルエンザウイルスの出現を想定した感染源調査
(豚の新型インフルエンザウイルスHI抗体調査)
鳥に由来する新型インフルエンザウイルスは、豚を経由してヒトの世界に侵入してくるといわれていることか
ら、豚にける新型ウイルスAH5、AH7およびAH9に対する抗体保有調査を行った。
島根県食肉公社において2003年7月中旬から9月中旬にかけて各旬10頭ずつ、計70頭(全て8か月齢)
から採血した。血清を前処理した後、国立感染症研究所から配布された下記の3種類の抗原に対して、0.5%
ニワトリ赤血球を用いてマイクロタイター法によりHI試験を行った。
不活化A/HongKong/213/2003PR8(H5N1)・・・・・・ヒト由来
不活化A/HongKong/1073/99E(H9N2)・・・・・・・・ヒト由来
不活化A/mallard/Netherland/12/2000(H7N3)・・・・マガモ由来
70検体のうち8月中旬の1検体がA/HongKong/1073/99E(H9N2)に対して「1:10」、8月下旬と9月上旬の
各1検体がA/mallard/Netherland/12/2000(H7N3)に対して「1:10」の反応を示し、他は全ていずれの抗原に
対しても陰性であった。疑陽性反応が出た3検体について検体の前処理から別ロットのニワトリ赤血球を用いて
再検査したところ、3検体とも全ての抗原に対して陰性であった。今年度の調査実施要領では1:20以上の
HI価を示す場合に国立感染症研究所へ検体送付することとされており、該当例はなかった。
表28 豚の新型インフルエンザウイルスHI抗体保有状況:2003年(平成15年)
採血月日 | 検体数 | HI抗体価 |
A/HongKong/213/2003 (H5N1) | A/HongKong/1073/99E (H9N2) | A/mallard/Netherlands/12 /2000(H7N3) |
<10 | 10 | 陽性率 (≧10)(%) | <10 | 10 | 陽性率 (≧10)(%) | <10 | 10 | 陽性率 (≧10)(%) |
7月11日 | 10 | 10 | | 0 | 10 | | 0 | 10 | | 0 |
7月23日 | 10 | 10 | | 0 | 10 | | 0 | 10 | | 0 |
8月1日 | 10 | 10 | | 0 | 10 | | 0 | 10 | | 0 |
8月12日 | 10 | 10 | | 0 | 9 | 1 | 10 | 10 | | 0 |
8月29日 | 10 | 10 | | 0 | 10 | | 0 | 9 | 1 | 10 |
9月1日 | 10 | 10 | | 0 | 10 | | 0 | 9 | 1 | 10 |
9月17日 | 10 | 10 | | 0 | 10 | | 0 | 10 | | 0 |
*再検査で全て陰性を確認
3)豚における日本脳炎ウイルスHI抗体保有状況
2003年7月から9月の間に島根県食肉公社(大田市)で採取した豚血清についてJaGA#01株に対するHI抗体の推移
および2ME感受性抗体を測定した。
結果は下表に示すとおり8月上旬(8月1日)に20頭中1頭(5%)が抗体陽性となった。一方、9月上旬(9月3日)
に20頭中2頭(10%)、が抗体陽性となり、2頭とも2ME感受性抗体を認めた。さらに、9月中旬(9月17日)に20頭中
5頭(25%)が抗体陽性となり、その内3頭に2ME感受性抗体が認められた。
*本調査は平成15年度感染症流行調査実施要領(厚生労働省)に基づき行った。
表29 豚の日本脳炎ウイルスHI抗体保有状況:2003年(平成15年)
採血月日 | 検査頭数 | HI抗体価 | HI抗体陽性率 (≧10)% | 2ME感受性抗体※1 |
<10 | 10 | 20 | 40 | 80 | 160 | 320 | ≧640 | 検査数※2 | 陽性数(%) |
7月11日 | 20 | 20 | | | | | | | | 0 | | |
7月23日 | 20 | 20 | | | | | | | | 0 | | |
8月1日 | 20 | 19 | 1 | | | | | | | 5 | | |
8月12日 | 20 | 20 | | | | | | | | 0 | | |
8月29日 | 20 | 20 | | | | | | | | 0 | | |
9月5日 | 20 | 18 | | | | | | 1 | 1 | 10 | 2 | 2(100) |
9月17日 | 20 | 15 | | 2 | | | 2 | | 1 | 25 | 3 | 3(100%) |
※1:2-メルカプトエタノール(2ME)感受性抗体(感染初期のIgM抗体の存在を示す)
※2:HI抗体価 1:40以上