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島根県農業試験場研究報告第23号(1988年7月)p1-73
ヒラズハナアザミウマの生態と防除に関する研究
村井保
摘要
1970年ごろから、日本の各地で果菜類に特異な症状が現われ始めた。それが花棲性のヒラズハナアザミウマFrankliniellaintonsa(TRYBOM)の寄生と関連しているのではないかとの想定のもとに、1980年から7年間にわたって主として島根県内のシロツメクサおよびトマト圃場における個体群について調査した。まず野外における発生実態を把握するとともに、室内では基礎的な生態学的研究を行い、ついでトマト白ぶくれ症発生の原因究明、さらに総合的な防除法について検討した。得られた主要な結果を要約すれば、以下のとおりである。
- 本種は年4(北海道)−13回(宮崎県)発生し、トマト、ピーマンなどの果菜類をはじめとして、40科108種の植物の花に寄生する。成虫態で越冬し(沖縄県を除く)、晩春から初夏(梅雨期を除く)にかけて個体群は指数的に増大する。発生量盛期(6月下旬)までの増殖ポテンシャルは5月中旬の平均気温を知ることによって、また発生量はシロツメクサの開花初日と5月中旬の平均気温との関係から予察できる。
- チャ、イチゴ、ナシ、チューリップ、クロマツなどの植物の花粉と蜂蜜液との給餌によって幼虫、成虫ともに容易に飼育できる。
- 成虫の寿命は極めて長く、1日当たりの内的自然増加率をは20-30度Cで0.097-0.158である。産雄単為生殖を行うから、野外における性比は季節的に大きく変動する。
- 長日型の光周反応を示し、光周期は卵期から蛹期にかけて累積的感受されるようである。雌は20度C前後の短日条件下で生殖休眠をし、非休眠虫より耐寒性が優ることは生活史戦略としての適応的意義がある。
- 雌は1回しか交尾しないのに対して、雄は多回交尾を行い、1回当たり6分以上の時間を要する。
- 開花量と生息密度に依存して飛翔個体が増える。そのとき480−490nmの波長や1m前後の風速、青色トラップに対して正の走性を示す。ただし、気温や日射量の変化が飛翔に影響するようである。
- トマト白ぶくれ症はヒラズハナアザミウマの産卵によって生ずる症状で、雌成虫の寄生花率および花当たりの寄生虫数と被害果率との間には高い正相関が認められる。とくに6−7月、夏秋露地栽培(雨よけ栽培を含む)トマト圃場における発生が著しく、被害果率が20−30%以上に達することがある。なお、被害発生量調査には50株のサンプリングで十分である。
- 成虫はトマトの花当たり、株当たりともに集中分布をし、果実当たりの被害(産卵)痕も集中分布を示す。一方、株当たりの被害果はランダム分布を示す。
- 薬剤の感受性検定には虫体浸潰法が最も安定している。
- 開花期におけるDMTP水和剤あるいはMEP乳剤の散布(1,000倍液を1週間おきに3回)や、定植時からのアセフェート粒剤の散粒(3g/株を20日ごとに2−3回)によって被害がかなり抑制できる。また、紫外線除去フィルムによる被覆や、シルバーストライプ入りポリフィルムのマルチによっても防除効果が認められる。したがって、本害虫管理に対しては化学的、物理的防除の組み合わせと、環境管理(圃場周辺の開花雑草の除去)が重要である。
お問い合わせ先
農業技術センター
島根県農業技術センター 〒693-0035 島根県出雲市芦渡町2440 TEL:0853-22-6708 FAX:0853-21-8380 nougi@pref.shimane.lg.jp <携帯・スマートフォンのアドレスをご利用の方> 迷惑メール対策等でドメイン指定受信等を設定されている場合に、返信メールが正しく届かない場合があります。 以下のドメインを受信できるように設定をお願いします。 @pref.shimane.lg.jp