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島根県農業試験場研究報告第14号(1976年12月)p39-48
ブドウの生育に及ぼす風の影響と防風に関する研究
高橋國昭、倉中将光、宮川煦、竹下修
摘要
島根県における露地ブドウの生産は極めて不安定であり、過去11年間の島根県経済農業協同組合連合会統計で10a当り出荷量が500kgを越えたことがなく、ブドウ振興上重大な阻害要因になっている。筆者らは、ブドウの生育と風との関係について1966年より研究を続け、島根県における露地ブドウの低収と生産不安定の主たる要因が風によるものであることを明らかにするとともに、島根県における風の特徴および棚仕立ブドウ園の防風方法についても検討した。
- ブドウ主要産地の1年間における風速10m以上の風のひん度は島根県が最も多い。
- 松江、浜田、西郷における1年間の風向別風程の合計によると、島根県においては、南西から西の風が圧倒的に多くかつ強い。
- 島根県内41か所の農業気象観測所における風向および風速は地形に影響されて必ずしもー定でない。しかし島や沿岸部及び出雲から松江にかけての平野部では風が強く、中山間は弱く、山間地においてはやや強い傾向がみられ、一般に南西の風が最も強かった。
- 島根県経済農業協同組合連合会の共販量から計算すると、過去11年間の10a当り収量はハウスが1,117kgなのに対し露地では308kgにすぎない。5月における松江と浜田の10m以上の風の全風程と露地ブドウの収量との間には−0.745いう高い負の相関がみられ、回帰式はY=256−0.404Xであった。
- 鉢植えのブドウに3−4m/sの風を当てると枝葉の生長は抑制され、葉の面積は小さくなった。そして単位葉面積当りの気孔数はやや少くなった。
- ハウス内で風を送ると気温は下り、相対湿度は上昇し見掛けの同化量は減少した。灌水によって枝葉の生長は促進され、風による抑制が緩和された。
- 品種によって風による枝の生長抑制の度合が異なり、ネオ.マスカットが最も抑制され、次いでヒムロットで、デラウエアと巨峰は少なかった。
- 風当りの強い野外において、鉢植えのデラウエアを寒冷しゃで囲って風を防いだところ、放任区に比べて枝葉の生長は優れ、樹体重も増えた。灌水を十分行うと生長はより促進された。
- 砂丘地のデラウエア園における竹垣の防風効果を調査したところ、棚上1m程度の竹垣で垣から4−8m離れたところまで効果がみとめられた。
- 砂丘地の成木デラウエアを防風ネット框で囲ったところ、枝葉の生長はすぐれ、花穂当りの花数が増え、果粒の肥大もすぐれた。そして、落葉が遅く枝の登熟も良好で、枝内粗デンプン含量は高くなった。防風2年目の発芽率は防風区で高く、花数多く、結実率も高くなり、果実は大きく収量も多くなった。
- 砂丘地の成木デラウエア樹を寒冷しゃハウスで覆い、ビニールハウス栽培及び露地栽培と比較した。その結果、ビニール、寒冷しゃ両区とも露地区に比べて枝葉の生長はすぐれ、生育は早まり、花数は増え、結実率は高くなった。そして粒重は大きくなり果房重は露地の1.5−1.8倍となった。落葉が遅くなり枝の登熟は良好で翌年の発芽率と果実の品質がすぐれた。ビニールハウスとの比較では1粒重、健全葉率では寒冷しゃハウスが劣ったが、花数や結実率には差がみられなかった。そして、島根県における露地ブドウの生産不安定の重要な原因が風による結実不良であり、防風すれば基本的に妨げることが明らかとなった。
- 風洞による模型実験によって、垣の密閉度は75−50%程度が減風率が高く、ネットは寒冷しゃ130番程度以上が望ましいと考えられた。
- 高さ3.8mの組立式防風垣を使って野外実験を行った。効果の及ぶ範囲は棚より上の垣の高さに比例し、それの10−15倍程度と考えられる。ネットの目の大きさは4mm以上では効果が劣り、4mm目なら2重、あるいは2mm目がよいと考えられる。棚面がブドウ葉で密閉されると減風率は高くなった。
- 第2防風垣を第1防風垣の後方10mの位置に設置すると、減風効果は高くなった。第2防風垣は葉が繁ると棚上部分のみでも効果が高かった。
- 台風の被害調査によると、棚上1m程度の竹垣でも垣後方10−20mまで効果がみられ、6mネットでも効果がみられた。棚が空いているより茂っている方が被害は少なかった。
- ポプラの防風垣は樹高が高いので、垣後方への減風効果の及ぶ範囲は広がったが、減風率は低かった。クロマツ林帯とヒノキ垣は減風率が高くこれは垣の密度が高いためと考えられた。
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