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島根県農業試験場研究報告第13号(1975年12月)p12-29

 


ワサビアザミウマLiothripssp.(Thysanoptera)の生態と防除に関する研究(第1報)
生活環と行動並びに防除法


石井卓爾、北村憲二


摘要

 島根県西部山間地帯でワサビWasabiajaponicaMATSUMURAを加害するワサビクダアザミウマLio-thripssp.の生活環と生態的諸要因ならびに防除法に関する研究を1970年11月から行い、つぎの結果を得た。

 

  • 本種の発生地では3月下旬ころ、越冬世代成虫が地下部から地上部に現れ始め、4月中旬には主として葉裏で成虫密度が高まり、6月中旬末ころまで漸減しながら生息する。

 

  • 第1世代の卵は4月中旬ころから葉裏のくぼんだ部分に1粒ずつ産みつけられ、5月中旬から下旬に産卵最盛期となる。この第1世代産卵量が年間を通じて最も多い。

 

  • 幼虫第1令は5月下旬ころからみられ、5月末ころに最も多くなる。そのほとんどが地上部の葉裏に生息し加害するが、このー部は地下部の根茎でもみられるようになる。幼虫第1令後期から地下部への潜入が始まるが、6月下旬始めには地下部での生息数がやや増加する。

 

  • 幼虫第2令は6月上旬からみられ、6月下旬始めに発生最盛期となり、主として地下部に生息する。幼虫期の中では第1世代の発生量が年間を通じて最も多い。

 

  • 前蛹、蛹第1期、第2期は7月上旬末ころに発生盛期となり、地下部に生息する。

 

  • 6月末ころから第1世代成虫がみられるようになり、産卵を開始する。7月中旬末に成虫の発生盛期となり、気温の上昇とともに地下部に潜入する個体がやや多くなる。

 

  • 第2世代卵は7月中旬末から8月上旬に多くみられ、地下部での産卵量が第1世代の場合よりやや多くみられる。

 

  • 第2世代の幼虫は8月上旬に発生盛期となり、幼虫第1令は地上部より地下部で多くみられる。

 

  • 9月中旬から9月末には蛹化最盛期となる。

 

  • 9月末には第2世代成虫が現れ、地下部で多くみられる。この時期に第3世代卵もみられ、この卵は地上部に多い。第3世代幼虫第1令は地上と地下部で多くなり、幼虫第2令は10月上旬に主として地下部でみられ、10月上句には全ての第2令個体が地下部に生息する。第3世代の前蛹、蛹は10月上旬−中旬に地下部でみられる。

 

  • 発育の早かった第3世代成虫は11月下旬に大部分が地下部でみられ、12月中旬には発生の遅れた第2世代成虫、第3世代幼虫、前蛹、蛹、発生の早かった第3世代成虫の各態で越冬に入るようである。

 

  • 翌年2月ころまでには全ての個体が羽化し、融雪直後の3月下旬には地上部へ現れ始める。

 

  • 本種は28度Cの高温では発育は困難であり、比較的低い温度(18度C)での発育が良好である。したがって夏期高温時には比較的温度の低い地下部に潜入する個体が増加する。

 

  • 産卵は長日条件下ほど多いが、高温時には光の当らない地下部でも産卵するようになる。

 

  • 本種は無性生殖も可能で、この場合の次世代は雄のみ出現するが、普通には両性生殖を行っており、この場合の次世代は雌雄両性が現れる。

 

  • 性比は季節によって異なったが、これは温度による影響と考えられた。

 

  • 防除試験では、多くの越冬世代成虫が地上部に出揃い、しかも産卵前に当る4月小旬が防除適期となり、ディプテレックス粉剤を10a当り6kg以上散布すると有効で、7−10日後に更に1回、薬剤を散布すると最も効果が高い。
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