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島根県農業試験場研究報告第11号(1973年12月)p74-85

 


安部浩


摘要

 1969年、島根県八束町において生産されているボタン苗木の一部が、根部に腐敗症状を呈し、著しい被害をこうむった。この原因として線虫の疑いを持ち、調査したところ数種の植物寄生線虫が分離され、このうちキタネグサレセンチュウは分離頻度、密度からみて、最も重要種と考えられた。
ボタンに本種が寄生することはわが国では記録がなく、国外においてもわすかにHUTCHINSONらによってボタン属の1種に寄生する事実が報告されていろにすぎない。したがってボタンに寄生した本種の防除対策は確立していなかった。
そこで筆者は被害の発生した八束町を中心に、キタネグサレセンチュウを主としたボタン苗木の根部に寄生加害する線虫の被害実態、ほ場における発生々態および防除法について試験研究を行なった。
その概要は次のとおりである.

 

1.被害

 キタネグサレセンチュウの寄生によりボタンは、まず細根群が褐変し脱落する。さらに被害が進むと主根も黒変腐敗する。地上部も根部の被害の進行に伴ない、生育が衰え、早期落葉し、さらに進むと枯死する。この事実をほ場調査およびポット試験で確かめた。なお本種を含めて植物奇生線虫がわずかでも寄生していると、外見上生育障害がみられなくても、その後の増殖によって被害が増し輸出用、国内用の如何を問わず苗木としての価値をきわめて減ずる。

 

2.ボタン根(苗木)寄生線虫の種類

 島根県産ボタン根およびボタンの台木となるシャクヤクに寄生する線虫として次の6種類を記録した。

 1.キタネグサレセンチュウPratylenchuspenetrans

 2.ニセネグサレセンチュウAphelenchusavenae

 3.キタネコブセンチュウMeloidogynehapla

 4.ハセンチュウの1種Aphelenchoidessp.

 5.ラセンセンチュウの1種Helicotylenchussp.

 6.ピンセンチュウの1種Paratylenchussp.

 

 次の2種類はボタン苗木の根辺土壌のみから分離した。ボタンヘの寄生は確認していない。

 7.ユミハリセンチュウの1種 Ttichodorussp.

 8.ハリセンチュウの1種Tylenchussp.

 

3.ほ場における線虫の生態

 

  • 八束町内28ボタン苗木ほ場を調査した結果、82%のほ場から植物寄生線虫が分離された。種類別ではキタネグサレセンチュウが分離頻度、密度ともに最も高く、ついでニセネグサレセンチュウとハセンチュウであった。
  • ほ場内分布調査において、キタネグサレセンチュウはとくに一部に片よることなく、ほ場内全体に広く分布する傾向がみられた。
  • 春植えのボタン苗木において、キタネグサレセンチュウは細根の発生増加に伴ない、根内、根辺土壌中ともに次第に密度を高め、根内では7月上旬および8月末〜9月上旬に密度が高くなったのに対し、土壌中では7月下旬および9月末に密度が高まった。

 

 

4.防除

 

  • ほ場での防除

 苗木植付け前のキタネグサレセンチュウ防除に5種の農薬を供試した結果、殺線虫効果はNCSが最も高かった。線虫密度抑制効果はNCSおよびDBCP乳剤150倍液150L/a灌注区が高かった。葉剤処理区での苗木生育はNCS,D-DおよびDBCP乳剤150倍液75L/a灌注区が良好であった。苗木生育中の防除では実用的に使用できる薬剤をみいだせなかった。

  • 温湯処理による防除

 苗木に寄生したキタネグサレセンチュウの防除法として温湯浸法の利用を検討した。苗木に寄生した本種は温湯で、46度C60分以上、48度C30分以上、50度C10分以上のいずれかの処埋をすることによってほぼ駆除できることがわかった。まだボタン苗木は46度C60分以下、48度C60分以下、50度C10分以下の処理にほぼ耐えうることがわかった。

 以上のことからボタン苗木に寄生したキタネグサレセンチュウの防除は46度C60分、48度C30−60分、50度C10分のいずれかの温湯処理により実用的に防除できる。


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