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島根県農業試験場研究報告第5号(1963年3月)p1-88
稲胡麻葉枯病の発生と水稲根部の発育に関する研究
横木国臣
摘要
従来稲胡麻葉枯病は土壌的な欠陥のある場所のいわゆる秋落稲によく発生するので、その発生機作については稲体の栄養生理、あるいは組織的な立場からの研究が行わなれ、多くの知見が報告されている。また水稲の根との関係については、根腐れが問題にされ胡麻葉枯病と関連づけた業績も少なくない。筆者は水稲の栄養凋落(地上部の形態的表徴)が発病に深い関係があるとすれば、養分を吸収する器官としての根の発育ならびに活力は、発病に重要な役割をもつであろうと考え、圃場試験と根箱実験によって発病と根群発達との関連について研究した。その概要を摘録すれば次の如くである。
- 多発地において胡麻葉枯病が発生した稲は、苗代、本田期ともに生育が不振で、特に根に及ぼす影響が著しい。苗代では根数と、健全根の減少、本田では根長、根数、根重、生根歩合が小さくなった。
- 多発土壌に生育した稲は軽発土壌の稲に較べて
- 苗代では明らかに発病が多く、根の分布は表層にやや多く、深くなると急に減少し、根長は短く、R1/T1は小となった。
- 本田においても発病は多かったが、生育が進むにつれて対照との差は大きくなった。地上部の生育は挿秧当時にはやや劣ったが、その後急に生長し出穂期にはやや勝った。根部の発育は概して表層近くは大であったが、深層では小さくなって活動探度が浅く、死根の発生が多く、機能障害と活力が低下した。
- 多発土壌に生育した稲は苗代、本田ともに根の活動深度が浅く、土中深層からの養分摂取を減じた。更に死根率の増加に伴って活力が低下し、機能障害が起って栄養の不均衡から発病を多くしたものと思う。
- 多発地における病斑の増加は、概ね8月上中旬に初発し、発生最盛期は8月終りから9月はじめで、その後は次第に増加率が低下した。葉位別にみた病斑の増加は、上位葉ほと晩くまで発生し、止葉では刈取期近くまで増加した。
- 多発土壌と軽発土壌をつめた根箱における胡麻葉枯病の発生は、8月中旬に初発し下旬から急に増加したが、何れの時期も多発土壌に発生が多く、土壌による差は8月下旬に著しかった。多発土壌は幼穂形成期ごろから地上部生育が概して良好であった。根の発育は根数は8月下旬から多くなったが、根長は短かく、土中の分布は深い層に少なく浅板型を示しR1/T1は小となった。また死根の発生か多く、特に8月下旬から激増した。
この結果から、多発土壌では発病前に根の発育が劣って浅根型になり、蔓延盛期には死根率が高くなって活力の低下か認められた。また地上部の生育に対する根部発育が不良で平衡が失なわれた。
- 多発地における赤土の客土は好結果を得ることが出来た。
- 苗代においては苗の生育が佳良となって発病が少なくなった。
- 本田においては明らかに発病を減じ、客土量の多いほと著しかった。生育は稈長、茎数ともに概ね勝って増収となり、3.3m2当たり150kg客土の収量が多かった。
- 実験根箱における苗代の客土は、苗の発病を減じ、特に3.3m2当たり150kgが著しかった。地上部生育は形態的な差は少なかったが、根の発育には影響して土中20−30cmの根数が明らかに多くなり、R1/T1、Rw/Twもやや大となった。
本田においては胡麻葉枯病の発生は少なかった。地上部の生育は概ね佳良になったが、根の発育は根長、根重ともに大となり、死根率は低く、R1/T1、Rn/Tn、Rw/Twは何れも大きく、かつ活動深度が深くなった。
- 客土後の年数を経過するに従って発病は漸増したが、9年目においても死根率が明らかに低く、発病が少なかったから効果は相当長期間に及ぶことを認めた。
- 軽発土壌の耕土に赤土を混ぜれば発病を減じた。
多発土壌(B−B)と軽発土壌(A−A)の耕土と心土をおきかえた場合の発病は、B−Bが最も多く、B−Aは減少し、A−Aは最も少なく、A−Bにすると増加した。その際の地上部生育は、B−B>B−A>A−Aとなった。根の発育は発病を減じたB−Aは根長が長くなり、土中分布が深く、死根率は低くなって地上部に対する根の割合が大きかった。発病を増したA−Bは根長が短かく、土中分布は浅く、地上部に対する根の割合が小さくなった。かように心土を変えることによって根の発育に影響を来し、根の発育がよくなれば発病を減少した。
- 肥料要素と発病は水耕実験では無燐酸>無窒素>無加里>三要素の順に少なくなった。ポット実験では無窒素が顕著に少なく、他は相当発生したが無加里>無燐酸>三要素の順に少なくなった。
根の発育は三要素に較べて何れの区も根長が短か<、無窒素は根数と根重が明らかに小さかったが、r1/t1、rw/twは大であった。無燐酸、無加里では特に差がなかった。死根率は無加里>無窒素>三要素>無燐酸の順に低くなった。
- 加里の増施は発病を減じ、地上部の生育が佳良となった。根の発育は根長が長く、根数、根重ともに明らかに増し、根の活動深度が深くなり、R1/T1、Rn/Tn、Rw/Twも大きかった。
- 苗代における肥料の分施は全量元肥より発病を減少し、施肥量が少ない時にその差が大きかった。
本田における分施は発病を減じたが、苗代と異なって施肥量の多い特に著しかった。根の発育は分施は元肥より根長が長くなり、根数は多く、根重は重かった。
- 無肥料栽培は普通肥料より胡麻葉枯病の発生が極めて少なく、約1/5に止まった。地上部の生育は不良であったが、根の発育は根長がやや長く、根数は少なく、死根の発生は多かった。しかし土中20cm以上深層の根数が多く、R1/T1、Rn/Tn、Rw/Twは何れも大きく地上部に対する根部の発育の割合は大であった。
- 罹病苗を挿秧すれば、本田における発病が判然と多くなって減収となった。
- 播種量は、多発地では量を増すほと苗代、本田ともに発病か多くなった。軽発地では苗代においては発病しなかったが、多発地の本田に移すと量の多いほど発病を増した。
- 苗代の施肥量と発病は、播種量によって異なり360ccでは多肥が少なく、720ccでは差がなく、1,080ccでは多肥に多くなった。本田の発病は播種量にかかわらず多肥にやや多く、また多発地の苗は軽発地のものに較べて本田の発病が明らかに多い傾向を示した。
- 株播苗は手播より苗代、本田ともに発病がやや少なく、生育は佳良であった。本田では根長が長く、根数は多く根重が重く、Rn/Tn、Rw/Twは大で、根の土中深度別分布は深くなった。また折衷苗は水苗代の苗より本田での発病が少なく、死根率は低く、Rn/Tn、Rw/Twは大であった。
- 品種間における根の発育は、多発土壌と軽発土壌ではかなり変化があり、抵抗性の農林6号は、多発土壌で根の発育が罹病性品種よりも小となった。このため養分吸収は調整され、ひいては地上部生育に対し抑制的に作用して地上部と根部の平衡が保たれた。罹病性品種は多発土壌において根数なとが増したので養分吸収は促進され、地上部の生育を促す結果となり相対的にみれば根部の発育は小さく、生育中期以後の成分不足と相まって稲体の栄養生理に変調を来し、抵抗性が低下するものと考えられる.かような観点からすれば抵抗性の農林6号は秋落土壌に対する感度が高く、罹病性の品種は低いと見做してよかろう。
また抵抗性品種は死根率が低く、発病との間に正の関係が認められた。
- 多発地において赤土の客土ならびに珪酸石灰を施用した稲は稲体内の珪酸含有率が客土、珪酸石灰の順に多く、生育の後期ほど著しかった。加里、全窒素及び蛋白態窒素の差はほとんど認められなかった.
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