散 文
島根の文学を考えるとき、当地が歌聖の柿本人麻呂や歌舞伎元祖の出雲阿国ゆかりの地であるという文化的な伝統を考えないわけにはいかない。文化風土が人々の文化的な精神を育てるからである。そのような文化的な風土の中で育った森鴎外や島村抱月が、中央で文学・演劇活動を展開し、わが国近代文学及び演劇の形成に多大な貢献をするのである。鴎外はドイツ留学で学んだ西欧の近代文学や演劇を紹介し、自らも小説・詩・短歌・戯曲・評論の幅広い分野で旺盛な創作活動を展開した。一方、抱月も西欧の最新の文芸思潮を紹介し、郷土の先輩である鴎外や早稲田大学の恩師・坪内逍遙が果たせなかった文学・演劇の近代化を強力に推進し、自然主義理論による小説・評論や新劇などの新天地を開拓した。
特に、注目したいのは、わが国近代文学の黎明期に島根文学人脈ともいえる人脈が中央で形成されたことである。今から考えると、森鴎外を頂点にして中央文学界に島村抱月、中村吉蔵(津和野町出身)、伊原青々園(松江市出身)らの島根出身の錚々たる文学者集団が形成されたことは一種の偉観でさえある。その延長線上に小説家の田畑修一郎(益田市出身)、児童文学者の天野雉彦(津和野町出身)らが輩出されている。
他方、島根県は異色のイギリス人作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が島根県尋常中学校の英語教師として来任し、小泉セツ(松江市)と結婚し、来日最初の作品『知られぬ日本の面影』を書いた土地である。(島根県文学連盟)
短 歌
島根は須佐之男命の「八重垣」や万葉の大歌人柿本人麻呂有縁の地として和歌の盛んな土地柄である。又、飫宇の海(中海)を詠んだ出雲守門部王の歌などがある。一方、流罪地であった隠岐には、遣唐副使に任命され乗船しなかった為流された小野篁、隠岐郡海士町で崩御された後鳥羽院などが来島し、多くの歌が詠まれた。
明治に入ってからは傑出した文学者である森區鳥外のほか、福羽美静、小出粲、島田豆夫、千家尊福などが大きな足跡を残している。長塚節、木下利玄、与謝野鉄幹・晶子夫妻、齋藤茂吉など多くの著名歌人も訪れており、多くの歌碑や足跡も残っている。昭和に入ってから発刊された「昭和万葉集」には57名の人が作品を発表している。
現在、県下で発行されている歌誌は出雲方面で「湖笛」「歌林」「山陰アララギ」「潮騒」などがあり、石見では「輪」「藺の花」「緑野」などがある。(島根県短歌連盟)
俳 句
山内曲川など江戸時代から俳諧は盛んだったようである。明治に入ってからは、松江市の米子橋付近での泳ぎ仲間の少年達が俳句を志し、明治30年には全国5番目の子規派句会「碧雲会」が結成された。結成に尽力したのが、子規の弟子で東京帝大生、大谷繞石。仲間は奈倉梧月、佐川雨人、祝羽風などで、後に安来市の広江八重桜、山本村家らが加わり安来市に「青嵐会」も結成した。
現在、県下で発行されている俳誌は、昭和3年松江市で創刊された「城」をはじめ、「地帯」(安来市)、「白魚火」(平田市(現出雲市))、「出雲」(大東町(現雲南市))、「石見」(大田市)、「勾玉」(松江市)、「山陰」「夕焼」(江津市)などがある。(島根県俳句協会)
川 柳
古川柳の誕生から狂句百年を経て、永い眠りを覚まさせたのは明治時代の久良伎、剣花坊であった。この新川柳を明治41年正月松陽新報に、村穂珍馬が発表したのが島根における川柳の祖と思われる。組織としては明治41年2月松江に誕生した「乱坊会」が初めてと記録されている。大正時代は新聞柳檀の開設も多く、県内各地に川柳会が生まれた。以後昭和、平成と戦争という苦境を挟みながらも、「松江番傘」、「川柳塔いずも」の二つの柱を中心に川柳人口は増え続けている。また全国的に知られる柴田午朗(伯太町(現安来市)出身)を輩出したのも島根県川柳界の誇りである。
(島根県川柳連盟)
詩
森鴎外を中心とする訳詩集『於母影』(明治22年)は本格的な新体詩を生む契機となり、近代詩の源流ともなった。しかし島根県内に新体詩詩人として名をあげた人は見られない。進取の石見・穏和な出雲そのままの文学風土を反映し、大正の石見からはダダ詩人松本淳三が、昭和の出雲からは安部宙之介が出た。千家元麿は大社(現出雲市)の出自、現代詩の第一人者入沢康夫は松江生まれ。以上いずれも東京が活動拠点で、島根は人材供給県の感がある。だが、県内でも大正中期から脈々と口語自由詩の隆盛は続き、現在『山陰詩人』『石見詩人』『光年』等に拠る、詩人たちの活発な詩活動が行われている。
(島根県詩人連合)
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文化国際課
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