トップ > 医療・福祉 > 薬事・衛生・感染症 > 感染症 > 感染症情報トップ > 疾患別
感染症情報トップ
対象疾患一覧
疾患別
カレンダー
感染症 週報
グラフ一覧

前シーズンへ  2004/2005シーズン  次シーズンへ
報告基準発生推移グラフ島根県データ表示全国データ表示インフルエンザ情報
インフルエンザ施設内感染予防の手引き
平成16年度版
(平成16年10月)
厚生労働省健康局結核感染症課
日本医師会感染症危機管理対策室
目次
1.はじめに
2.インフルエンザの基本
(1)インフルエンザの流行
(2)インフルエンザウイルスの特性
(3)インフルエンザの症状
(4)インフルエンザの診断
(5)インフルエンザの治療
3.施設内感染防止の基本的考え方
4.施設内感染対策委員会
(1)施設内感染対策委員会の設置
(2)施設内感染リスクの評価
(3)施設内感染対策指針の作成・運用
5.発生の予防―事前に行うべき対策
(1)インフルエンザの発生に関する情報の収集
  @地域での流行状況
  A施設内の状況

(2)施設への持ち込みの防止
  @基本的考え方
  A入所者の健康状態の把握
  B施設入所者へのワクチン接種及び一般的な予防の実施
  C面会者等への対応
  D施設従業者のワクチン接種と健康管理
  Eその他
6.まん延の防止―発生時の対応
(1)発生の確認と施設内の患者発生動向の把握
(2)患者対策
  @適切な医療の提供
  A個室での医療の提供
  B医療機関への患者転送システムの確保
(3)感染拡大経路の遮断
(4)積極的疫学調査の実施について
(5)連絡及び支援の要請


1.はじめに
 本インフルエンザ施設内感染予防の手引きは、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 (以下「感染症法という。)」に基づいて作成された「インフルエンザに関する特定感染症予防指針」におい てその策定が定められているものであり、高齢者等の入所施設でのインフルエンザ感染防止に関する対策をま とめたものである。
 本手引きは、標準的なものであり、各施設においては、本手引きを参考にしながら、入所者、施設の設備・ 構造、関連施設の有無等、施設の特性に応じ各々の施設における手引きを作成しておくことが重要である。
2.インフルエンザの基本
(1)インフルエンザの流行
・インフルエンザは、例年、11月上旬頃から散発的に発生し、1月に入って爆発的な患者数の増加を示して 1月下旬から2月にピークを迎えた後、急速に患者数の減少を経て、4月上旬頃までに終息する。
・インフルエンザの流行に関する情報としては、a)全国約5000のインフルエンザ定点医療機関にて1週間
毎に診断したインフルエンザ患者数を把握する「感染症発生動向調査」とb)全国の幼稚園・小学校・中学校な どを対象としてインフルエンザ様疾患により学級・学年・学校閉鎖が実施された場合に、その施設数とその時点 での患者数を毎週報告してもらう「インフルエンザ様疾患発生動向調査」、またc)インフルエンザの流行につい て迅速な把握に重点を置いた「インフルエンザによる患者数の迅速把握事業」がある。
(2)インフルエンザウイルスの特性
・インフルエンザウイルスは、膜の表面に赤血球凝集素(Hemagglutinin)とノイラミニダーゼ(Neuraminidase)
の2種類の突起を有しており、 この2種類の突起は、H、N と略されている。また、核蛋白複合体の抗原性の 違いから、インフルエンザウイルスはA型、B型、C型に分類される。インフルエンザの予防は、この突起とく にHに対する防御のための抗体を持っているかどうかが鍵を握る。
・現在、ヒトの世界で流行しているのは、A/H1N1(ソ連)型ウイルス、A/H3N2(香港)型ウイルス、 B型ウイルスの3種類であり、最近(2001/02シーズン)ではA/H1N2型ウイルスの流行も報告され ているが、 これらのウイルスの違いで症状等に大きな違いはないといわれている。
(3)インフルエンザの症状
・典型的なものでは、発病は急激で高度の発熱、頭痛、腰痛、筋肉痛、全身倦怠感などの全身症状が現れ、これ らの症状と同時に、あるいはやや遅れて、鼻汁、咽頭痛、咳などの呼吸器症状が現れる。
・熱は急激に上昇して、第1〜3病日目には、体温が38〜39℃あるいはそれ以上に達した後、諸症状ととも に次第に緩解し通常であれば、1週間程度で寛解治癒に向う。
(4)インフルエンザの診断
・インフルエンザに特徴的な臨床症状、所見はなく、確実な診断にはウイルス学的診断が必要でそのためには、 咽頭拭い液あるいはうがい液を検体としてウイルス分離を行うが、最近では、各種の迅速診断用キットによるウ イルス抗原の検出が普及しており、また、PCR法も行われることもある。
・血清学的検査としては患者から急性期(または初診時)及び回復期(発病2週間後)に採取したペア血清に ついて、赤血球凝集抑制試験(HI)や補体結合試験(CF)が行われている。
・臨床症状からの鑑別診断としては、呼吸器症状を伴う急性熱性疾患が鑑別診断の対象となる。細菌性肺炎、 肺結核、胸膜炎、咽頭ジフテリア、また、感染性胃腸炎がインフルエンザと臨床診断された報告もある。
・2002年11月中国に発生し、世界各国に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)は200 3年7月 には終息したと報告されているが、今後再び流行する可能性は否定できない。SARSでは発病当初は高い熱 (>38℃) と全身倦怠、頭痛、筋肉痛などインフルエンザの発病時とよく似た症状を呈する。インフルエン ザの流行と時期を同じくしてSARSが発生するような事態になればインフルエンザの鑑別診断で最も問題と なるのはSARSである。
(5)インフルエンザの治療
・治療は、抗インフルエンザウイルス薬の投与が中心であり適宜対症療法も行われる。抗インフルエンザウイル ス薬としてはA型インフルエンザに対して有効なアマンタジン(内服)およびA、B両型に有効なノイラミニダーゼ 阻害薬のザナミビル(吸入)、およびリン酸オセルタミビル(内服)がある。いずれも発病48 時間以内に投与を 開始する。それぞれ副作用の可能性もあり、また特にアマンタジンではウイルスの耐性獲得の可能性が警告され ており、また最近リン酸オセルタミビルでも小児で耐性獲得の例が報告されている。

表1.インフルエンザの基本ポイント
・病原体: インフルエンザウイルス
・感染経路:飛沫感染及び飛沫核感染(空気感染)(注)
・流行期: 例年12月〜3月下旬、1月末〜 2月上旬にピーク
・地域での流行状況について情報を確認することが重要
・潜伏期間:通常1日〜3日
・感染期間:発病後3 日程度までが最も感染力が特に強いとされる
・症状: 急激な発熱で発症、38〜39℃ あるいはそれ以上に達する。
  頭痛、腰痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感などの全身症状が強い。
  咽頭痛、咳などの呼吸器症状
・検査のポイント
  迅速診断キット
  ウイルス分離
  ペア血清による抗体の測定
  PCR
・診断のポイント
  地域におけるインフルエンザの流行
  典型的な症例でのインフルエンザ症状(上記の「症状」参照)
   ウイルス、ウイルス抗原の証明あるいは抗体の上昇の確認
・治療のポイント
  早期に抗インフルエンザウイルス薬の内服
  安静、適切な対症療法、水分補給
  肺炎合併の早期診断
(注)インフルエンザウイルスは患者のくしゃみ、咳によって気道分泌物に小粒子に含まれて周囲に飛散する。 この小粒子( ウイルスではなく) の数については1回のくしゃみで約200万個、咳で約1 0万個という 数字がある。その際、比較的大きい粒子は患者からおよそ1〜1.5メートルの距離であれば、直接に周囲の 人の呼吸器に侵入してウイルスの感染が起こる。(飛沫感染)
感染の多くは、この飛沫感染によると考えられている。
ごく細かい粒子は長い間空気中に浮遊し、また一旦床に落下した比較的大きい粒子でも水分を失うとウイルス は埃とともに再び空気中に舞い上がるので、患者と同じ空間を共有する室内の多くの人にウイルスが吸い込ま れて感染する可能性がある。(飛沫核感染)
感染の拡大(流行)にはこの飛沫核感染の役割が大きい。
3.施設内感染防止の基本的考え方
・インフルエンザウイルスは感染力が非常に強いことから、ウイルスが施設内に持ち込まれないようにするこ とが施設内感染防止の基本となる。
・施設内に感染が発生した場合には、感染の拡大を可能な限り阻止し被害を最小限に抑えることが施設内感染 防止対策の目的となる。
・そのためには、まず第一に、各施設ごとに常設の施設内感染対策委員会を設置し、施設内感染を想定した十 分な検討を行い、
(1)事前に行うべき対策(事前対策)
(2)実際に発生した際の対策(行動計画)
について、事前に、それぞれの施設において、各々の施設入所者の特性、施設の特性に応じた対策、及び手引 きを策定しておくことが重要である。
・事前対策については、感染が発生する前に着実に実施しておくことが重要であり、行動計画についても発生 を想定した一定の訓練を行っておくことが望ましい。
・発生時には、関係機関との連携が重要であり、日頃から保健所、協力医療機関、都道府県担当部局等と連携 体制を構築することが重要である。
4.施設内感染対策委員会
(1)施設内感染対策委員会の設置
・施設内感染対策委員会は、施設内感染対策を立案し、各部署での実施を指導・監督し、実施状況の評価を行う。
・インフルエンザ以外の感染症を取り扱う施設内感染対策委員会が同時にインフルエンザを取り扱うこととし ても良いが、その場合には、インフルエンザの感染対策の責任者を決めるとともに、施設内にインフルエンザ に詳しい医師がいない場合は、外部からの助言等を得ることが重要である。

表2.施設内感染対策委員会の役割
施設内感染リスクの評価
施設内感染対策指針の作成、運用
職員教育
構造設備と環境面の対策の立案、実施
感染が発生した場合の指揮
地域におけるインフルエンザ流行状況の把握
施設内外のインフルエンザ発生情報の収集分析及び警戒警報の発令
施設内感染対策の総合評価
(2)施設内感染リスクの評価
・施設内感染対策委員会の第一の仕事は、当該施設におけるインフルエンザ感染のリスク評価である。過去 において、どの程度のインフルエンザの患者数、死亡者数が発生したか、また現時点において、65歳以上 の高齢者、心疾患や呼吸器疾患等の疾患を有する者がどの程度入所しているかについて、事前に評価してお くことが重要である。
・過去の施設内感染リスクの評価としては、前年1年間(できれば3年間)に当該施設で診断されたインフ ルエンザ患者(インフルエンザ様疾患の患者を含む。)の把握を行う。次に、これらの患者の中の代表例に ついて、発病から診断、治療の過程を調査しておくことは、施設内感染対策の上で極めて大切である。

表3.施設内感染リスクの評価ポイント
・前年1年間(できれば3年間)に診断されたインフルエンザ患者数
(インフルエンザ様疾患の患者を含む)
・代表的な症例について発病から診断、治療の過程を調査、分析
・65歳以上の高齢者、各種の基礎疾患を有する者等の高危険群の把握
(3)施設内感染対策指針の作成・運用
・本手引きを参考にして、各施設の具体的状況に即した「施設内感染対策指針」を各施設が策定しておくこ とは極めて重要であり、施設内感染対策委員会の重要な役割である。施設内感染対策委員会においては、そ の指針の運用の指導・監督も忘れてはならない課題である。また入院等が必要となった場合を想定した関連 医療機関の確保と連携が重要である。

表4.施設内感染対策指針に盛り込むべきポイント
地域におけるインフルエンザ流行の把握方法
インフルエンザを疑う場合の症状等
インフルエンザと診断された者又は疑いのある者への施設内での対応方法
インフルエンザ患者又は疑い患者の症状が重症化した場合及び重症化が予想される場合の医療機関への入院の手続き
関連医療機関の確保と連携
5.発生の予防―事前に行うべき対策
(1)インフルエンザの発生に関する情報の収集
(1)地域での流行状況
・インフルエンザの発生動向に関する情報としては、
a)全国約5000 のインフルエンザ定点医療機関において1週間に診断したインフルエンザ患者数を把握 する「感染症発生動向調査」
b)全国の幼稚園・小学校・中学校などを対象としてインフルエンザ様疾患により学級・学年・学校閉鎖が 実施された場合に、その施設数とその時点での患者数を毎週報告してもらう「インフルエンザ様疾患発生動向調査」
c)インフルエンザの流行について迅速な把握に重点を置いた「インフルエンザによる患者数の迅速把握事業」
が代表的である。
・これらの情報について、常に注意を払い、特に地域におけるインフルエンザの流行状況については、感染症 発生動向調査の各県レベルで提供・公開されている情報について常に注意を払い、一定の流行が観測された場合 には、施設の従事者を中心に注意喚起の呼びかけを行うことが重要である。
表5. インフルエンザ流行情報の入手先
・インフルエンザ総合対策ホームページ
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/0111/h1112-1.html
・国立感染症研究所感染症情報センター
 http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
・厚生労働省ホームページ
 http://www.mhlw.go.jp
(注)これらのホームページでは、インフルエンザ流行以外の情報も各種掲載しているので、是非とも参考に されたい。

 各都道府県、地域におけるインフルエンザ流行状況については、各都道府県等の衛生担当部局又はもよりの 保健所に相談してください。

(2)施設内の状況
・施設内での異常(流行)を察知するためには、常日頃から入所者における感染症の発生動向を把握しておくこと が必要である。
 特に早期に把握するためには、インフルエンザのシーズンに入った場合に、38℃を超える発熱患者が発生した 場合には報告を求めるなどの施設内の発生動向調査体制を決めておくことが重要である。

表6.感染症法に基づく報告の基準
 感染症法に基づく発生動向調査では、全国に医療機関の協力を得て内科約2000、小児科約3000 の合計約5000 の定点が設けられており、インフルエンザの報告の基準としては、診断した医師の判断により、症状や所見から 当該疾患が疑われ、かつ、以下の4つの基準をすべて満たすものである。
・突然の発症
・38℃を超える発熱
・上気道炎症状
・全身倦怠感等の全身症状

 なお、非流行期での臨床診断は、他疾患との慎重な鑑別が必要である。
上記の基準は必ずしも満たされないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当疾患が疑われ、かつ、 病原についてのウイルス学的診断や血清学診断によって当該疾患と診断されたもの。
(2)施設への持ち込みの防止
(1)基本的考え方
・施設内へウイルスが持ち込まれることを防止することは、インフルエンザの施設内感染対策において最も重要 な対策の一つである。
・インフルエンザウイルスは、ヒトからヒトに飛沫感染および飛沫核感染によって伝播する感染症であり、動物 や昆虫、あるいは、食品等の物品を介して感染することはない。すなわち、施設内へウイルスを持ち込むのは感 染した人である。
・したがって、施設においては、まず、入所者へのお見舞いなど、どのような人が施設に通常出入りしているか を把握することが重要である。
(2)入所者の健康状態の把握
・施設への入所者自身については、定期的な健康チェックによる感染症の把握を行うことが重要である。
・入所時における健康管理の対象としては、65歳以上の高齢者がまず第一に重要であるが、すべての入所者で 心肺系の慢性疾患、糖尿病、腎疾患等の有無を入所時にチェックし、あらかじめインフルエンザに罹患した場合 の高危険群について把握しておくことが重要である。
・長期滞在型の施設においては、正月休み等外泊が行われることがあるが、過去において外泊中に感染した入所 者から流行が施設内に拡大した事例が報告されていることからも、入所者が外泊から戻る際には健康状態のチェ ックを行うことが重要である。さらに、可能であれば、高危険群に属する者が外泊等を行う場合においては、 外泊先においてインフルエンザにかかっている者がいないか確認するなどの配慮を行う。
(3)施設入所者へのワクチン接種及び一般的な予防の実施
・施設入所者に対して、予防接種の意義、有効性、副反応の可能性等を十分に説明して同意を得た上で、積極的 に予防接種の機会を提供するとともに、接種を希望する者には円滑に接種がなされる様に配慮することが重要で ある。 また、予防接種の効果があるのは、おおむね、接種2週間後から5か月間と言われており、通常の流行 期は1〜2月であることから、接種時期は12月中旬までに行うことが好ましい。

注)65 歳以上の者および60 歳以上65 歳未満の者であって心臓、腎臓若しくは呼吸器の機能又はヒト免疫不全 ウイルスによる免疫の機能に一定の障害を有するものに対する予防接種は特に勧められており、被接種者の意 思確認の上で慎重に実施することが望ましい。

・施設入所者の日常の健康管理に注意し、予防接種以外の一般的な予防に留意する。特に、定期的な健康チェック において、入所時に引き続き、心肺系の慢性疾患、糖尿病、腎疾患等の経過観察を適時行い、施設内において誰 が高危険群に属しているか的確に把握しておく必要がある。
(4)面会者等への対応
・インフルエンザ様疾患を呈する者の面会は、各施設、面会者、入所者等の事情を踏まえた上で、必要に応じて 制限することも検討する。
・したがって、インフルエンザの流行期においては、施設の玄関に掲示を行ったり家族等にはあらかじめ説明を 行うなど面会者に対して理解を求めるための活動が必要である。
(5)施設従業者のワクチン接種と健康管理
・一般的には、施設従事者が、外部との出入りの機会の多さから最も施設にウイルスを持ち込む可能性が高い 集団であり、かつ、高危険群にも緊密に接する集団であることを認識する。
・日常からの健康管理が重要であり、万が一インフルエンザ様症状を呈した場合には、施設の実状に応じて、 症状が改善するまで就業を停止することも検討する。
・さらに予防接種の禁忌者については、一般的な健康管理を充実強化する。
・施設従業者に対して、予防接種の意義、有効性、副反応の可能性等を十分に説明して同意を得た上で、積極的 に予防接種の機会を提供するとともに、接種を希望する者には円滑に接種がなされる様に配慮する。
(6)その他
・入所施設の衛生の確保に加え、手洗い、加湿器等の設備が重要であり、必要なものについては、計画を立てて 積極的な整備を進める。
・ただし、設備・構造の整備は補完的なものであり、実際にそれを有効に活用するための活動が行われてこそ生 かされることに留意する必要がある。

表7.ウイルスの施設内への持ち込み防止のポイント
・入所者の健康状態の把握
・施設入所者へのワクチン接種及び一般的な予防の実態
・施設に出入りする人の把握と対応
・施設従業員のワクチン接種と健康管理
・入所施設の衛生の確保、手洗い、加湿器等の整備
6.まん延の防止―発生時の対応
(1)発生の確認と施設内の患者発生動向の把握
・流行シーズンの初期においては、施設内でインフルエンザ様の症状を呈する患者が発生した場合には、インフ ルエンザ以外の疾患も念頭に十分な鑑別診断を行うことが重要である。
・流行シーズン前であっても、施設内での最初の患者が発生した場合には、インフルエンザであるか否かを確認 することが望ましい。
・ことに、初発患者の診断には、インフルエンザウイルス抗原の検出を迅速診断用キットを用いて行うことが有 効である。
・医師によりインフルエンザと診断された場合には、“感染症法に基づく報告の基準(表6参照)" に基づいて、 施設内での患者発生動向を把握体制を強化することが重要である。
(2) 患者対策
(1)適切な医療の提供
・インフルエンザの患者が発生した場合の対策としては、患者への良質かつ適切な医療の提供が基本となる。
・高齢者等の高危険群として位置づけられる患者は、インフルエンザに罹患した場合に急激に症状、病態が悪化し、
肺炎などの合併症の発生等、重症化しやすいため、十分な全身管理が重要である。
・早期に診断を行い、抗インフルエンザウイルス薬の投与を行うことが有効であるが、本剤は、医師が特に必要と 判断した場合にのみ投与することとし、たとえば以下の場合に投与を考慮することが望ましい
インフルエンザウイルス感染症に罹患した場合に、症状も重く死亡率が高いと考えられる者(高齢者、免疫不全 状態の患者等)等
(2) 個室での医療の提供
・入所施設などにおいて患者が発生した場合には、可能な限り個室での医療提供が望ましい。
・この場合、患者本人を個室に移動させて個室状態とするか、同室者を他室に移動させて患者の居室を個室状態 にする方法が考えられる。但し、移動させる入所者が感染していないことを確認することが重要である。
(これまで、移動させた居室でさらに感染が拡大するという事例に関する報告もあり、十分慎重に配慮すること が望ましい。)
・インフルエンザの流行期には、可能な限り施設内に個室を用意することが望ましい。
・やむを得ず個室を用意することができない場合においては、患者との同室者について、場合によって抗インフ ルエンザウイルス薬の予防内服を考慮する。
(3)医療機関への患者転送システムの確保
・インフルエンザと診断された患者又はインフルエンザが疑われる患者が高齢者等の高危険群である場合、肺炎 等の合併症を併発した場合、重症化する可能性がある場合等においては、当該施設内での治療とともに、状況に 応じて医療機関への入院も検討することが重要である。
・そのため、普段からインフルエンザ患者の入院を依頼する関連医療機関の確保に努め、インフルエンザ流行シ ーズンに入った場合は、関連医療機関の空床情報や施設内患者発生状況について、関連医療機関と密接な情報交 換に努めることが重要である。
(3)感染拡大経路の遮断
・長期入院型施設においては、施設のサービスとして食堂に集まっての食事、共同のレクリエーションルーム でのリハビリやレクリエーション、共同浴場での入浴サービス等が提供されているが、施設内で集団感染が発生 した場合には、施設内において多くの人が集まる場所での活動の一時停止等を検討することが重要である。
(4)積極的疫学調査の実施について
・平成15年10月に改正された感染症法においては、インフルエンザは5類感染症に位置づけられており、 施設内で通常と異なる傾向のインフルエンザの集団感染が発生し、施設長がその原因究明及びまん延防止措置 を要望した場合等には、都道府県は、必要に応じて、施設等の協力を得ながら積極的疫学調査(感染症新第 15条に規定する感染症の発生の状況、動向及び原因の調査をいう。)を実施することとされており、各施設 においても必要な協力が重要である。
・施設自らも、感染拡大の実態把握、感染拡大の原因の分析、感染拡大を予防するための指針等の作成に必要 な資料の収集、感染拡大の経路、感染拡大の原因の調査などを行い、施設内感染の再発防止に役立てることが 望ましい。
(5)連絡及び支援の要請
・施設内でインフルエンザの集団発生が生じた場合には、まず施設のみで対応できると判断された場合にあっ ても、最寄りの保健所等に連絡を行うことが望ましい。また、施設のみで対応できないと判断された場合には、 速やかに支援を求めることが重要である。
・都道府県等の要請があった場合においては、厚生労働省も対応を支援する。