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インフルエンザQ&A  >一般の方々のために医療従事者の方のために
インフルエンザQ&A 平成16年度版(厚生労働省)
医療従事者の方のために

●インフルエンザ総論・臨床
Q. 1:インフルエンザとはどういう病気ですか?
Q. 2:インフルエンザの症状と診断方法について教えてください。
Q. 3:インフルエンザの合併症について教えてください。
Q. 4:インフルエンザにはどんな治療法がありますか?
Q. 5:インフルエンザの治療薬や予防薬はありますか?
Q. 6:インフルエンザに罹ったときの発熱に使う解熱剤について教えてください。
Q. 7:インフルエンザの予防法について教えてください。
Q. 8:インフルエンザに罹患後、どのくらいの期間学校あるいは職場を休めばよいのでしょうか?
Q. 9:インフルエンザ患者の病室や衣類の管理はどのようにしたらよいでしょうか?
●ウイルス
Q.10:インフルエンザウイルスについて教えてください。
Q.11:インフルエンザウイルスの型は何種類ありますか?
Q.12:インフルエンザウイルスの変異について教えてください。
●インフルエンザの流行
Q.13:インフルエンザの疫学的特性は何ですか?
Q.14:インフルエンザの流行の歴史について教えてください。
Q.15:今年流行するインフルエンザはどの株ですか?
Q.16:新型インフルエンザは現れるのでしょうか?
Q.17:インフルエンザの外国での流行状況を教えてください?
●ワクチン接種
Q.18:インフルエンザワクチンの接種は効果があるのですか?
Q.19:インフルエンザワクチンの製造やワクチン株の選定はどのように行われているのですか?
Q.20:インフルエンザワクチンはいつごろ接種するのが効果的でしょうか?
Q.21:インフルエンザワクチンの接種はどこでできますか?
Q.22:インフルエンザワクチンの接種の対象となるのは、どのような人でしょうか?定期接種の場合と任意接種の場合に分けて説明して下さい。
Q.23:インフルエンザワクチンの接種を受けることが適当でない人や接種時に注意が必要な人はありますか?
Q.24:卵やゼラチンにアレルギーのある人にインフルエンザの予防接種はできるでしょうか?
Q.25:授乳中にインフルエンザワクチンを接種しても問題はありませんか?
Q.26:インフルエンザワクチンの接種を考えたときに、ウイルス疾患に罹患したり、定期予防接種の時期と重なった場合にはどうすればよいですか?
Q.27:インフルエンザの予防接種は何回受ければよいのでしょうか?
Q.28:インフルエンザワクチンの接種に関するガイドラインはありますか?
Q.29:インフルエンザワクチンの接種による副反応にはどのようなものがありますか?
Q.30:インフルエンザワクチンで著しい健康被害が発生した場合は、どのような対応がなされるのですか?
Q.31:インフルエンザワクチン接種の費用はどうなるのですか?
Q.32:インフルエンザワクチンは国によって違うのでしょうか?
Q.33:インフルエンザワクチンでインフルエンザ脳症を予防できますか?
●予防接種法関係
Q.34:予防接種法でインフルエンザワクチンの接種はどのように位置づけられていますか?
Q.35:定期予防接種の場合にワクチン接種の費用は変わりますか?
Q.36:住民票と異なるところに長期滞在している場合に、現在地でのワクチン接種ができますか?
Q.37:痴呆など意思確認が難しい方へのワクチン接種はできますか?
●インフルエンザと話題の関連疾患
Q.38:今年のインフルエンザシーズンにSARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザが起こったら、どうすればよいのですか?
Q.39:インフルエンザのパンデミックが起こったときの対策はあるのですか?

●インフルエンザ総論・臨床
Q. 1:インフルエンザとはどういう病気ですか?
 インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、鼻咽頭、のど、気管支などを標的臓器 とします。急に発症する38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などに加えて、咽頭痛、鼻汁、咳な どの症状も見られます。大多数の人では特に治療を行なわなくても1−2週間で自然治癒します。し かしながら、乳幼児、高齢者、基礎疾患をもつ人では、気管支炎、肺炎などを併発したり基礎疾患の 悪化を招いたりして、最悪の場合死に至ることもあります。
 普通のかぜとインフルエンザは、症状に多少の類似性があるものの疾病としては全く違うものです。 普通のかぜはライノウイルスやコロナウイルス等の感染によって起こり、咽頭痛、鼻汁、咳などの症 状が中心で、全身症状はあまり見られません。発熱もインフルエンザほど高くなく、重症化すること はあまりありません。また、インフルエンザは、基本的に流行性疾患であり、一旦流行が始まると、 短期間に乳幼児から高齢者まで膨大な数の人を巻き込むという点でも普通のかぜとは異なります。 名前の似ているヘモフィルス・インフルエンザ菌という細菌がありますが、これは以前インフルエン ザの原因と間違われたためについた名称で、インフルエンザの原因ではなく、別の疾患の原因となり ます。また、2003年前半に、アジアを中心に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)はSARSコロナウ イルスによる感染症であり、インフルエンザとは異なる疾患です。詳細はSARS Q&Aをご覧ください (SARSに関するQ&A、 http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/QA/QAver2.html)。
Q. 2:インフルエンザの症状と診断方法について教えてください。
 症状については、突然の38〜39℃を超える発熱と頭痛、関節痛、筋肉痛などに加え、鼻汁、咽頭痛、 咳などの上気道炎症状がみられ、全身倦怠感等の全身症状も出現します。流行期(我が国では例年11月 〜4月)にこれらの症状のあった場合はインフルエンザの可能性が高いと考えられます。潜伏期は1日か ら5日(平均3日間)とされています。通常、症状は約1週間で軽快することがほとんどですが、肺炎な どを合併する場合もあり注意が必要です。また、インフルエンザは、非特異的な症状を呈する例も多 く、流行のピーク以外の時期に臨床所見だけからで他の疾患と鑑別することは困難です。
 確定診断は、咽頭ぬぐい液、うがい液、鼻腔吸引液などからのウイルス分離や、血液検査で抗体価 の有意な上昇(抗体陽転あるいは急性期と回復期で4倍以上の上昇)の確認で行いますが、検査に日数 を要することから臨床現場での実用性は高くありません。しかし、流行中のウイルス種の同定や、次 シーズンのワクチン株選定のためにはこれらの検体からのウイルス分離が重要な情報となります。
 臨床現場での診断補助のためには、発症早期にインフルエンザウイルス抗原を検出するための迅速診 断キットがすでに普及しており、通常30分以内に結果を判定でき、ベッドサイドや外来でも診断が可能 です。現在、7種類程度の迅速診断キットが流通しています。検査の感度は、検体の種類や採取時期、 キットの種類により異なります。添付文書等を参照してください。
迅速診断キットには下記のような種類があります。
(以下は平成16年10月15日現在市販されていることを把握している
迅速診断キットで、感染症研究所として推薦しているものではありません)
商品名発売元・ホームページ
インフルA・Bクイック
クイックS―インフルA・B
デンカ生研
www.denka-seiken.co.jp
エスプライン インフルエンザA & B−N 富士レビオ
www.fujirebio.co.jp
キャピリア Flu A, B 日本ベクトン・ディッキンソン
www.bdj.co.jp
ディレクティジェンFlu A+B
ポクテム インフルエンザA/B シスメックス
www.sysmex.co.jp
ラピットテスタ FLU II 第一化学薬品
www.kensa-daiichi.jp
ラピッドビューインフルエンザA/B 住友製薬バイオメディカル
www.ssbm.co.jp
Q. 3:インフルエンザの合併症について教えてください。
 抵抗力の弱い高齢者・乳幼児、気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全等の循環器疾患、糖尿病、 腎不全、免疫不全(免疫抑制剤による免疫低下も含む)などの方は、インフルエンザにかかると合併 症を併発する場合があります。高齢者では細菌の二次感染による肺炎、気管支炎、慢性気管支炎の増 悪が起こりえます。また、乳幼児では中耳炎や熱性けいれんが起こりえます。その他の合併症として は、ウイルスそのものによる肺炎や気管支炎、心筋炎、アスピリンとの関連が指摘されているライ症 候群などが挙げられます。合併症の状況によっては入院を要したり、死亡する例もあり注意を要しま す。近年我が国では、小児において年間100〜200例の、インフルエンザに関連したと考えられる急性 脳症の存在が明らかとなり、現在病態の解明が進められています(Q33、脳症の項 を参照)。
Q. 4:インフルエンザにはどんな治療法がありますか?
 他の疾患にも共通して言えることですが、早めに治療し、体を休めることは、自分のからだを守る だけでなく、他の人にインフルエンザをうつさないという意味でも大変重要なことです。一般的な注 意点は、以下のようなことです。
・ かぜだと考えずに、早めに医療機関を受診して治療を受けましょう。
・ 安静にして、休養をとりましょう。特に睡眠を十分にとることが大切です。
・ 水分を十分に補給しましょう。お茶、ジュース、スープなど飲みたいもので結構です。
 インフルエンザに対する特異的な治療として、1998年11月から抗インフルエンザウイルス治療薬 (Q5参照)が使用できるようになりました。また、インフルエンザにかかったこと により、他の細菌にも感染しやすくなりますが、このような細菌の混合感染による肺炎、気管支炎な どの合併症に対する治療として抗菌薬が使用されます。これらの薬の効果については、インフルエン ザの症状が出はじめてからの時間や病状により異なりますので、使用する、しないは医師の判断とな ります。なお、一般の感冒薬(かぜ薬)と言われるものは、発熱や鼻汁、鼻づまりなどの症状をやわ らげることはできますが、インフルエンザウイルスや細菌に直接効くものではありません。
Q. 5:インフルエンザの治療薬や予防薬はありますか?
 インフルエンザの治療薬としては、ここ数年で様々な薬剤が利用可能となりました。
 本邦では平成10年11月に、インフルエンザの治療薬として抗ウイルス剤の 塩酸アマンタジン(商品名シンメトレル)が認可されましたが、この薬剤は従来、 パーキンソン病の治療薬として1970年代から用 いられてきました。インフルエンザウイルスが細胞表面に吸着し、エンドサイトーシスで細胞内にと りこまれ、M2イオンチャネルが活性化されます。塩酸アマンタジンはM2イオンチャネルを阻害す ることにより、ウイルス粒子の細胞核内への輸送を阻止することで、抗ウイルス活性をもつと言われて います。このようにA型だけが持つM蛋白に作用するため、A型インフルエンザのみにしか効果はありま せん。アマンタジンを投与された患者の約30%でアマンタジン耐性のA型インフルエンザウイルスが出 現するという報告もあることから投薬には注意が必要であり、投与期間を1週間程度に止めることとい う使用上の注意が出されています。副作用としては、主として嘔気などの消化器症状やふらつき、不 眠などの中枢神経症状が軽度ながら出現することがあると報告され、使用した場合の注意事項としては、 車の運転を避けることなどが挙げられています。米国では重症化のおそれがあるとされるグループやワ クチンの接種が出来ない者、医療従事者へのワクチン接種を補う予防薬としての位置付けが明らかにさ れています。

 近年、インフルエンザウイルスが細胞から細胞へ感染、伝播していくために不可欠な、ウイルス表面 に存在するノイラミニダーゼの作用をブロックすることによって、増殖したインフルエンザウイルスが 細胞外へ出て行くことを阻害する抗インフルエンザウイルス剤が開発されました。ノイラミニダーゼは A、B型に共通であることから、A型、B型インフルエンザ両方に効果があります。現在2種類の薬剤が使 用可能です。吸入薬のザナミビル(商品名リレンザ)と経口薬である リン酸オセルタミビル(商品名タミフル)は、平成13年2月より健康保険の適応となり、 平成14年4月からはリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)ドライシロップが健康保 険の適応となり、1歳以上の小児で、使用可能となっています。 重篤な副作用は、アマンタジンに比べ少ないとされていますが、消化器症状(嘔気、嘔吐、下痢、 腹痛など)の副作用が報告されています。また最近、リン酸オセルタミビルにおいても耐性ウイルスの 出現頻度が報告されました。アマンタジン耐性、オセルタミビル耐性となったインフルエンザウイルス による感染が容易に生じるかどうかは不明ですが、いずれにせよむやみな使用は慎むべきと考えられます。

 これらの抗インフルエンザウイルス薬は、発症後48時間以内に服用することにより、合併症のない インフルエンザでの罹病期間を短縮することが確認されています。ハイリスク患者においても、抗菌薬 を必要とするような合併症を減少させたという報告もありますが、合併症などの重症化を予防できるか どうかについてはまだ結論は得られていません。いずれも、医師の処方が必要な薬剤です。
 また、塩酸アマンタジンは催奇性が疑われるため、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投 与は禁忌となっています。ザナミビル、リン酸オセルタミビルに関しては、妊娠中の投与に関する安全 性は確立しておらず、動物実験では薬剤の胎盤通過性が報告されており、治療上の有益性が危険性を上 回ると判断した場合にのみ投与することとなっています。
 授乳婦に投与する場合は、乳児に対する安全性も確立していませんし、乳汁中に薬剤が移行すること が動物実験などで報告されていることから、投薬中の授乳を避けることが勧められます。

 予防薬としては、平成16年7月にリン酸オセルタミビルに対し、成人および13歳以上の小児を対象に、 効能追加が承認されました。米国の成績ですが、予防効果は82%と報告されています。ただし、その使 用に関しては、様々な条件があります。その条件とは、(1)インフルエンザを発症している患者と同 居する高齢者や慢性疾患をかかえるいわゆるハイリスク患者を対象としている、(2)医療保険の給付 対象とならない、(3)医師の処方が必要である、などです。また、用法・用量も異なっており、治療 に使用する場合は1日2回、1回75mg(5日間)であるのに対して、予防投与の場合は1日1回75mg (7日間〜10日間)です。リン酸オセルタミビルの予防投与はワクチンによる予防に置き換わるもの ではありません。
Q. 6:インフルエンザに罹ったときの発熱に使う解熱剤について教えてください。
 解熱剤には、インフルエンザに罹っているときは使用を避けなければならないものがあります。例え ば、アスピリンなどのサリチル酸系解熱鎮痛薬は、15歳未満のインフルエンザ患者へは 投与しないことになっています。
(サリチル酸系解熱剤関連リンク) 医薬品・医療用具等安全性情報No.151「ライ症候群とサリチル酸系製剤の使用について」
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_anzen/PMDSI151d.html#1

医薬品・医療用具等安全性情報No.167「サリチル酸系製剤の小児に対するより慎重な使用について」
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_anzen/PMDSI167d.html#1

 ジクロフェナクナトリウムを含む解熱剤についても、15歳未満のインフルエンザの患 者へは投与しないことになっています。また、平成11年度のインフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研 究班のよる研究では、インフルエンザ脳炎・脳症を発症した患者においてジクロフェナクナトリウム又 はメフェナム酸の使用群が、解熱剤未使用群と比較してわずかながら有意に死亡率が高いと報告され、 平成12年度の調査では、ジクロフェナクナトリウムの使用群と他の解熱剤使用群との比較をした結果、 ジクロフェナクナトリウムの使用群についてより高い有意性をもって死亡率が高いことが示されました。 また、本症の脳の病理学的検査が行われ、脳血管に損傷が生じていることが特徴的に見出されました。 この研究結果を踏まえ厚生労働省では、ジクロフェナクナトリウムについて、明確な因果関係は認めら れないものの、インフルエンザ脳炎・脳症患者に対する投与を禁忌とすることとし、ジクロフェナクナ トリウムを含有する解熱剤を製造、販売する関係企業に対し、使用上の注意の改訂等を指示しました。
(ジクロフェナクナトリウム関連リンク) 厚生労働省発表資料「小児のライ症候群等に関するジクロフェナクナトリウムの使用上の注意の改訂について」(平成13年5月30日)
http://www.info.pmda.go.jp/happyou/PMDSI_010530_2.pdf

医薬品・医療用具等安全性情報No.163「インフルエンザ脳炎・脳症患者に対するジクロフェナクナトリウム製剤の使用について」
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_anzen/PMDSI163d.html#16

 メフェナム酸を使った解熱剤についても、厚生労働省が主催した会議における小児科 の医師、インフルエンザ脳炎・脳症の研究者などの意見の一致に基づいて、アスピリン、ジクロフェナ クナトリウムと同様に15歳未満の小児のインフルエンザに伴う発熱に対して投与しないことになってい ます。
(メフェナム酸関連リンク) 厚生労働省発表資料「インフルエンザによる発熱に対して使用する解熱剤について」(平成13年5月30日)
http://www.info.pmda.go.jp/happyou/PMDSI_010530_1.pdf

厚生労働省医薬品情報提供システム
使用上の注意改訂情報(平成13年6月15日)
http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/kaitei20010615.html#1

 日本小児科学会では平成12年11月に、小児のインフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであれ ばより危険の少ないアセトアミノフェンが適切であり、非ステロイド系消炎剤の使用は慎重にすべき である旨の見解を公表しました。平成16年10月時点では、成人のインフルエンザに対する解熱剤投与 に関しての勧告は出されておらず、医師の判断に委ねられています。参考までに、ジクロフェナクナ トリウムやメフェナム酸がインフルエンザ発症時の解熱剤として小児への使用が禁止されている理由 のひとつとして、これらの薬剤が血管内皮細胞障害を修復する酵素の働きを抑制するため、脳症を発 症した場合に重症化することが予想されている点があります。成人ではインフルエンザ脳症を発症す る頻度は低いとされていますが、これらの薬剤の作用機序は同じであるため、脳症発症時には同様の リスクを考慮すべきであると考えられます。
 なお、医療機関での処方薬は、医師が患者の状態を診察して、その状態に合ったものを必要な量処 方しており、別の人に処方された薬はもちろん、当人であっても別の受診時に処方されて使い残した ものを使用することは避けるべきです。しかし現実問題として、時に家庭内や知人間で、他人に処方 された薬を使用する事があり得ますので、普段からインフルエンザの発熱の際には使用してはいけな い薬剤があるといった情報の提供を行うことが重要です。
別の疾患にかかったときに医療機関で処方された解熱剤の使用、特に家庭に残っているものを、 処方された以外の疾患や他の方に使用しないよう指導することが大切です。

 また、市販の風邪薬や解熱鎮痛薬の一部にはアスピリンなどのサリチル酸系薬剤などの、15歳未満 の小児に対し原則的に使用すべきでない成分を含んだものもあり、医療機関を受診するまで差しあた っての処置として使用する際も、使用上の注意をよく読んで用いて下さい。
Q. 7:インフルエンザの予防法について教えてください。
 予防の基本は、流行前にワクチン接種を受けることで、欧米では一般的な方法であり、本邦でも 年々ワクチン接種率の上昇が見られてきています。インフルエンザワクチンは、罹患した場合の 重症化防止に有効と報告されています(Q18)。
 インフルエンザは、罹患している人の咳、くしゃみ、つばなどの飛沫と共に放出されたウイルスを、 鼻腔や気管など気道に吸入することによって感染します。インフルエンザが流行してきたら、特に高 齢者や慢性疾患を持っている人や、疲労気味、睡眠不足の人は、罹患したとき重症化する可能性が高 くなるので、人混みや繁華街への外出を控えることも効果があります。
 空気が乾燥すると、インフルエンザに罹患しやすくなります。乾燥により咽頭粘膜のウイルス粒子 に対する、物理的な防御機能が低下します。外出時にはマスクを利用したり、室内では加湿器などを 使ったりして適度な湿度(50〜60%)を保ちましょう。常日ごろからバランスよく栄養をとることも 大切です。外出時のマスクの利用や帰宅時のうがい、手洗いは、かぜの予防と併せておすすめしま す。また、インフルエンザが飛沫感染であることから、インフルエンザに罹患し、咳嗽などの症状 のある方は特に、周囲への感染拡大を防止する意味から、マスクの着用が推奨されます。
 なお、海外でアマンタジンを医療従事者などの発症予防に用いた報告などもありますが、抗インフ ルエンザウイルス薬の予防効果については国内での調査がまだ十分に行われておらず、現在のところ、 予防内服は推奨されていません。平成16年に認可されたリン酸オセルタミビルの予防投与に関しては Q5をご覧下さい。
Q. 8:インフルエンザに罹患後、どのくらいの期間学校あるいは職場を休めばよいのでしょうか?
 一般的にインフルエンザウイルスに感染し、発症後3〜7日間ウイルスを排出すると言われています。 この期間に患者は感染力があるといえますが、排泄されるウイルス量は経過とともに減少し、排泄期 間の長さには個人差があります。抗インフルエンザ薬の内服によって発熱期間は通常1〜2日間短縮さ れ、ウイルス排泄量も減少されますが、解熱後の感染力が同じように短縮されるとは限りません。
学校保健法では、「解熱した後2日を経過するまで」をインフルエンザによる出席停止期間としてい ますが、「ただし、病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認めたときは、こ の限りではない」となっており、医師の裁量が認められています。また、職場復帰の目安については 決まった規則や取り決めはありません。
 インフルエンザ罹患後には体力等の低下もありますので、以上のような点を考慮の上、いずれの場 合も無理をせず十分な体力の回復ののちに、復帰するのが妥当と考えられます。また、咳などの症状 が続いている場合には、咳やくしゃみをする際にはハンカチやティッシュで口元を覆う、あるいはマ スクをするなど、周囲への配慮が望まれます。
Q. 9:インフルエンザ患者の病室や衣類の管理はどのようにしたらよいでしょうか?
 基本的にインフルエンザは飛沫感染であり、特別な条件下では飛沫核感染もあると言われています。 飛沫というのは、1〜2メートル以上は飛びませんし、患者がマスクをしていれば飛沫の発生は最小 限に抑えられます。また、手指を介した接触感染もありますので、手洗いは重要です。しかし、狭い 気密な部屋などでは、比較的長くウイルスが浮遊することもあり得る(飛沫核感染)ので、時々換気 をすること、部屋の湿度を適度に保つことなどは意義があります。インフルエンザウイルスには、ほ とんどの消毒薬が有効です。また、十分な湿度があれば生存期間も短いので、通常の清掃で十分だと 考えられますが、あきらかな目に見える呼吸器分泌物(痰やつばなど)による汚染がある場合には、 通常の消毒薬により消毒しておくほうがよいでしょう。
 インフルエンザを発症中に使用した衣服にはウイルスが付着していることが予想されますが、これま での知見ではこれから感染を起こすことはまれだと考えられています。使用後は、通常の洗濯をして 日なたに干しておけばウイルスの感染性は消失します。

●ウイルス
Q.10: インフルエンザウイルスについて教えてください。
 インフルエンザウイルスは、直径1万分の1ミリ(100nm)の多形性のオルソミクソウイルス科のRNA ウイルスです。ウイルスは細菌とは異なり、生きた細胞の中でしか増殖できないため、インフルエン ザウイルスは空気中や土壌中などの細胞外では増殖しません。インフルエンザウイルスがヒトに感染 した場合は、鼻腔や咽頭粘膜表面の上皮細胞にあるシアル酸に吸着し、エンドサイトーシスにより細 胞に取り込まれたのち、膜融合によってリボヌクレオプロテイン(RNP)が細胞内に放出されます。 このRNPは細胞核へ輸送され、その中で増殖したのちに、ウイルス粒子の形でノイラミニダーゼの働 きにより細胞から切り離され、細胞外へ放出されます。

 インフルエンザウイルスは、核蛋白(NP)と膜蛋白(M)の抗原性に基づいて、A,B,C型の3つに大 別されます。A型はさらに、ウイルス粒子表面のHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)という 糖蛋白により、多くの亜型に分けられます。B型も同様の糖蛋白を持っていますが、1つの亜型しかあ りませんし、C型はウイルス粒子表面にHE(ヘマグルチニンエステラーゼ)と呼ばれるひとつの糖蛋白 しか持っておらず、やはり1つの亜型しかありません。HAとNAの2つの糖蛋白の抗原性の変異で、大き な流行が起こることがあるとされています。歴史的にA型が大きな流行を起していますが、B型もヒト に感染し流行を起こします。C型もヒトに感染しますが、大きな流行は起こさないとされています。

 B型とC型の主な宿主はヒトで、まれにB型はアザラシ、C型はブタに感染すると言われています。一 方A型は、ヒトを含むほ乳類や鳥類に広く分布し、水禽類、特にカモが自然宿主と考えられています (Q11)。 この鳥型のインフルエンザウイルス(A/H5N1, A/H7N7など)がヒトに感染した例も報告されています (高病原性鳥インフルエンザQ&A参照)。
Q.11:インフルエンザウイルスの型は何種類ありますか?
 A型やB型のインフルエンザウイルスでは、ウイルス粒子表面から棘状に突出した、スパイク蛋白と 呼ばれる、HA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)の糖蛋白が、ウイルスの感染あるいは細胞 内での増殖後のウイルスの放出に重要な働きをしています。
 A型のインフルエンザウイルスでは、現在HAは15種類、NAは9種類が報告されています。これらが様 々な組み合わせで、複数の亜型として、ヒトや、ブタ、トリなどの多くの宿主に広く分布しています。 例えば、A香港型といわれるウイルスはHAが3、NAが2という番号の組合せでH3N2となり、Aソ連型はH1N1 です。いままでの流行から、H1、H2、H3はヒトの間で感染が起こり、流行株となりえることが知られ ています。
 また、A型は多種の宿主を持っており、人と動物の共通感染症としてとらえられています。なかで もカモは、現在知られているすべてのHA亜型とNA亜型のA型インフルエンザウイルスを保有しており、 インフルエンザウイルスのいわゆる「運び屋」として注目を浴びています。これらのウイルスが他の水 禽、家禽、家畜、そしてヒトでのA型インフルエンザウイルスの供給源となり、新しい亜型のウイル スがヒト世界に侵入し、ヒト−ヒト間で効率よく感染できるようになると、これが新型インフルエン ザウイルスと呼ばれ、パンデミック(世界的な大規模流行)を起こす原因となります(Q16)。
 一方、B型のインフルエンザウイルスではHA, NAはそれぞれ1種類で、HA, NAの組合せによる分類は 行われませんし、C型もHE(ヘマグルチニンエステラーゼ)しか持っておらず、やはり1つの亜型しか ありません(Q8参照)。  このように、ヒトがあるウイルス型に対して免疫を獲得しても、異なるスパイク蛋白をもつウイル スに対してはその免疫が効かず感染・発症してしまうことが考えられるので、1シーズンにA/ソ連型 (H1N1)インフルエンザにかかったあとA/香港型(H3N2)にかかったり、A型インフルエンザにかか ったあとB型インフルエンザにかかったりすることがおこります。
Q.12:インフルエンザウイルスの変異について教えてください。
 インフルエンザウイルスのHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)は、同じ亜型の中でも わずかな変化が常に見られます。これは、A/香港型(H3N2)のインフルエンザウイルスでも、その 年によってシドニー株類似ウイルスといわれるものであったり、パナマ株類似ウイルスといわれた りするもので、これを連続抗原変異(antigenic drift)または小変異と呼びます。車のマイナーモデ ルチェンジのようなもので、抗原性に多少の変化がありますので、巧みにヒトの免疫機構から逃れ、 感染を受けた場合に今までの免疫で防げる場合もあれば、防げない場合もあります。このため、ヒト によっては毎年のようにA型インフルエンザに感染することも起こりますし、インフルエンザの流行 も毎年起こっています。この変異の幅が大きいほど宿主免疫の効果は低くなり、感染して発症した 時の症状も強くなるとされています。
 A型は上述のマイナーチェンジを続けながら数年から数十年単位で流行が続きますが、突然まった く別の亜型に取って代わることがあります。いわばフルモデルチェンジで、新型インフルエンザウ イルスが出現したことになります。これを不連続抗原変異(antigenic shift)または大変異とい います。1918年に始まったスペイン型(H1N1)は39年間続き、1957年からはアジア型(H2N2)に 代わり、流行は11年続きました。その後1968年には香港型(H3N2) が現われ、ついで1977年ソ連型 (H1N1)が加わりました。現在はA型であるH3N2とH1N1、およびB型の3種のインフルエンザウイルス が世界中で共通した流行株となっており、すでにA/香港型(H3N2)が30年、A/ソ連型(H1N1)が20 年連続している状況では、これまでのインフルエンザの変化の歴史からみて、いつ新型に置き換わ ってもおかしくないため警戒を高めることが必要です。新型インフルエンザに免疫を持っているヒト はいないため、出現した場合には多くのヒトがインフルエンザにかかり、またその合併症による被害 が甚大であろうことが予測されるため、世界的に対策が進められています。

●インフルエンザの流行
Q.13: インフルエンザの疫学的特性は何ですか?
 インフルエンザは流行性の疾患で、流行時には短期間に全年齢層を巻き込み、膨大な数の患者を発 生します。本邦では例年、11月から4月ごろまでの冬から早春にかけて流行しており、近年の流行の ピークは、2月初め頃で、12月から患者数が増え始め、4月には終息することが多いようです (IDWR過去10年との比較グラフ,http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html)。  インフルエンザは、平成11年4月施行、平成15年11月改正の感染症法(感染症の予防及び感染症 の患者に対する医療に関する法律)の改正で第五類感染症の定点報告疾患となっています。インフル エンザの患者情報は、全国5,000の定点医療機関(小児科3,000と内科2,000)から法に基づいた報告 が週単位で集められています。臨床診断に基づいて、1.突然の発症、2.38℃を越える発熱、3.上 気道炎症状、4.全身倦怠感等の全身症状の、四つの規準を全て満たすインフルエンザ様疾患と、必 ずしも臨床の規準は満たしていないが、ウイルスの分離や抗体価の検査で、インフルエンザと診断 されたものが報告されています。2003/2004シーズン(11月〜4月)では、約79万人、定点当たり約 150人の報告がありました。この報告数は、実際の患者数の一部分ですので、定点からの報告を基に 同シーズンの全国での罹患数を推計したところ約923万人の方がインフルエンザに罹患し医療機関を 受診したと考えられます。
 患者数の報告はこのほか、全国の保育所、幼稚園、小学校、中学校等における休校数、学年・学級 閉鎖施設数の状況を把握するための「インフルエンザ様疾患発生報告」があります。この10年ほどを 見ると、多い年では約128万人(1997/1998シーズン)が報告されており、また2003/2004シーズンで は約30万人が報告されています。
 性別での罹患状況には特に差はありませんが、年齢別では10歳未満の小児の罹患が多く報告されて います(IASR Vol24No11 p281-282発行後最新版へ)。 下図は、厚生労働省発表の人口動態統計にある死因別の死亡統計上、インフルエンザによる死亡とし て届けられたものです(平成16年は暫定数)。近年は死亡のほとんどを高齢者が占める傾向が続いて います。また、インフルエンザの大きな流行があると、非流行時に比べ死亡者数が著しく増加する傾 向が認められます。世界保健機関(WHO)は、これを「超過死亡(excess death, excess mortality)」 と呼ぶ概念で、インフルエンザの流行の社会への影響の大きさを評価する際に利用することを推奨し ています(IASR Vol24No11 p288-289)。2003/2004シーズンは2,400人と超過死亡も少なく、中規模 の流行であったことがわかります。
 また、近年九州地方から北上する傾向がみられましたが、2003/04シーズンは東北地方から定点当 たりの報告数が増え始め南下しており、流行が開始する地域についての科学的な説明はありません。

 流行や検出の現状は地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知る ことができます。
○ 国立感染症研究所感染症情報センターホームページ: http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
Q.14:インフルエンザの流行の歴史について教えてください。
 インフルエンザの流行は歴史的にも古くから記載されていますが、科学的に立証されているのは 1900年ごろからで、数回の世界的大流行が知られています。中でも、1918年に始まった「スペインイ ンフルエンザ(A/H1N1亜型)」は被害の甚大さできわだっています。当時、インフルエンザによる死 亡者数は全世界で2,000万人とも4,000万人ともいわれ、日本でも約40万人の犠牲者が出たと推定され ています。その後、1957年にはアジアインフルエンザ(A/H2N2亜型)が、1968年には香港インフルエ ンザ(A/H3N2亜型)が世界的な大流行を起こしています。次いで1977年にはA/ソ連型(H1N1亜型)が 加わり、現在はA型であるH1N1亜型(一般にA/ソ連型と呼ばれます)とH3N2亜型(一般にA/香港型と 呼ばれます)、及びB型を加えて3種類が世界中で共通した流行型になっています。
 1種類あるいは2種類の型の混合流行であることが多いインフルエンザですが、日本では2000/2001 シーズン、2001/2002シーズンはH1N1型、H3N2型、B型の3種類すべてが混合流行しました。流行する ウイルスの型の数と比率は、各国地域で、また、その年毎に異なっています。
Q.15:今年流行するインフルエンザはどの株ですか?
 日本では、2000/2001シーズン、2001/2002シーズンは、2種類のA型インフルエンザとB型インフル エンザの3種類の型のウイルスが、同じシーズンの中で検出されていましたが、2002/2003シーズン、 2003/2004シーズンは従来のように、A/H3N2(香港)型とB型2種類の流行のとなり、H1N1(ソ連)型 はほとんど検出されませんでした。2002/2003シーズンは、ワクチン株とは若干異なる福建株のA/H3N2 (香港)型とビクトリア系統株のB型が11月終わり頃からほぼ同時に流行し始め、A型が1月の後半に、 B型が1月末から3月にまで至る長いピークがみられました。2003/2004シーズンは、ほとんどが前シー ズンと同じ福建株のA/H3N2(香港)型が12月初旬から流行し始め、1月末にピークがみられました。 山形系統株が主体のB型も同時に流行しましたが、その数はA/H3N2(香港)型比べて非常に少なく (約5%)、3月中旬に流行は終息しました。
 患者分離株の分析と、南半球の流行状況も考慮して、2004/2005シーズンはA型については昨シーズ ンと同じ種類の株が、B型は異なる系統株が流行する可能性が高いと判断され、今年のワクチンには、 A/H1N1(ソ連)型のニューカレドニア株、A/H3N2(香港)型として福建株に対応できるワイオミング 株、B型の上海株(山形系統株に対応できる)を混合したものが用意されました (IASR Vol25No9 p238-239)。
 全国の流行や検出の現状は、地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームペ ージで知ることができます。
○ 国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
 各地方のインフルエンザウイルスの情報は、患者の皆さんと全都道府県にあるインフルエンザ定点 医療機関の協力によってウイルス検査のための検体が集められ、地方衛生研究所で分離検査が実施さ れています。ピーク時には週1,000件以上が分離されています。ウイルスの分離は時間がかかるので 患者の発生より遅れてそのデータが集まってきますが、ウイルス検出の状況は地域の感染症情報セン ター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知ることができます。
○国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
○地方衛生研究所・保健所ホームページへのリンク: http://idsc.nih.go.jp/phi/index.html
http://idsc.nih.go.jp/hcl/index.html
参考:我が国のインフルエンザに関連する調査

1)感染症法に基づく定点医療機関からの報告数:小児科約3,000、内科約2,000、計5,000の 全国のインフルエンザ定点医療機関から週単位で保健所に報告されている。

2)病原体定点からの流行株情報:定点医療機関の内約10%が病原体定点となり咽頭ぬぐい液 などを採取し、地方衛生研究所で検査している。

3)インフルエンザ様疾患発生数:保育所、幼稚園、小学校、中学校等におけるインフルエン ザ様疾患の発生数(学童数)、休校数、学年・学級閉鎖施設数の状況を各学校および各都道府県の教 育担当部局の協力を得て週単位にまとめて、把握している。

4)インフルエンザ迅速把握事業(毎日報告):インフルエンザ定点の約1割から毎日インフル エンザ患者の報告を受け、結果を参加医療機関に毎日還元するシステムで、結果の一部はホームペー ジ上で一般公開している(http://www.flu.msi.co.jp/graph/)。 全シーズンのデータ解析から得られた補正方法により、リアルタイムに流行を把握する手段として有 用性が認められている。

5)感染症流行予測調査事業:厚生労働省が実施主体となり、全国約20〜30の都道府県、都道府県衛 生研究所、国立感染症研究所が協力して毎年7〜9月に健常人から採血し、ワクチン株3株(A/H1N1, A/H3N2,B型)と抗原性の異なるB型インフルエンザウイルス、計4株のHI抗体価を測定し報告している。 調査結果は、10月末頃から国立感染症研究所感染症情報センターのHP上 (http://idsc.nih.go.jp/yosoku/index.html) に速報として公開し、年齢別の抗体保有率と過去3年間の年齢別抗体保有率の推移を報告している。 また、この情報はその後のワクチン接種の勧奨などにも利用されている。

6)インフルエンザ関連死亡迅速把握システム:14大都市にしぼり、インフルエンザによる死 亡および肺炎による死亡に関するデータを収集し、解析、還元する (http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/inf-rpd/index-rpd.html)。 人口動態統計(全国)からも流行の状況は確認できるが、情報入手までに約3ヵ月かかるのに対し、 この迅速把握報告による情報は週単位とタイムラグが短く、実際の流行の開始を良く反映している。
Q.16:新型インフルエンザは現れるのでしょうか?
 スペインインフルエンザ(A/H1N1亜型)が現れたときは、大規模な流行と甚大な数の死者を出しま した。今後、新型インフルエンザが現れ、流行した場合、これに対して免疫を持っている人はいませ んし、また事前に接種された予防接種の効果はほとんど期待できないため、かなりの数の罹患者とそ れに伴う死亡者も増加がみられることが予想されます(Q12インフルエンザの変異参照)。アメリカ では8〜20万人の死者がでると予測されており、本邦でも3〜4万人の死者が出ることが懸念されます。
 最近特に、ヒトにも病原性の高い鳥型のインフルエンザウイルスがヒト社会に定着し、ヒト−ヒト 感染するようになり、新型インフルエンザとなることが懸念されています。鳥型インフルエンザ (A/H5N1亜型)ウイルスによる患者報告を例にあげると、1997年に香港では、入院加療を受けた18症 例中6例が肺炎の合併などにより死亡し、香港政府は1997年12月末、140万羽のニワトリを殺処分しま した。このウイルスはヒトからヒトに感染したものではなく、恐らく感染しているニワトリからヒト に感染したものと考えられています (IASR Vol.18 No.9 http://idsc.nih.go.jp/iasr/18/211/dj2111.html)。 2003年には、中国南部へ旅行した家族の感染が報告されており、こちらはヒトからヒトへの感染が疑 われています(IASR Vol24 No3 http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/277/fr2771.html)。2003/2004年の タイ、ベトナムを中心とした東アジアでの家禽類を中心とした鳥インフルエンザ(A/H5N1)の流行 では、少数ではありますがヒトでの感染が確認されています。2004年10月20日現在43症例が報告され、 このうち31例が死亡しています。また、2事例においてヒトからヒトへの感染が完全に否定できず、 調査研究が続けられています(http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html)。 2003年2月にはオランダで、高病原性鳥インフルエンザ(A/H7N7)が鶏の集団で流行したことに関連 して、鳥型インフルエンザウイルス(A/H7N7)のヒトへの感染が確認され、1例の重症肺炎による死 亡者と82例の結膜炎を中心とした感染者が報告されています。このうち1事例において、家庭内での ヒトからヒトへの感染が確認されています (IASR Vol24 No6 http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/280/fr2801.html)。
 この他にも、2001/2002シーズンに英国、イスラエル、エジプトなどで初めてA/H1N2がヒトから分 離されました。平成14年には日本でも分離されています。この亜型は、鳥型のインフルエンザウイル スとは異なり、従来のヒトに感染するインフルエンザウイルスのA/H1N1とA/H3N2が交雑したものなの で、これまでのインフルエンザHAワクチン(A/ H1N1)で効果があると考えられています (IASR Vol23 No8 http://idsc.nih.go.jp/iasr/iasr-gg1.html)。 2001/2002シーズン以降A/H1N2亜型ウイルスは姿を消しています。
 これらのウイルスがこのままヒトの前から姿を消してしまうのか、あるいは再び勢いを盛り返して 流行するかは予断を許さず、さらにまたどのようなメカニズムでトリのウイルスが直接ヒトへ感染を 起こしたのか解明が必要です。さらに、こうした経路以外の新型インフルエンザウイルスの出現の可 能性なども予想されることから、サーベイランス体制を強化して監視していくことが必要です。
 新型インフルエンザに対する国の対策については、平成16年に設置された厚生労働省の「新型イン フルエンザ対策に関する検討小委員会」がまとめた報告書が、厚生労働省のホームページに掲載され ています。
新型インフルエンザ対策報告書:http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/09/tp0903-1.html
Q.17:インフルエンザの外国での流行状況を教えてください?
 インフルエンザは世界中で流行していますが、温帯地方では冬に(南半球では7〜8月)流行が見 られ、熱帯・亜熱帯地方では国により様々な動態をとり、年間を通じて低レベルの発生がみられる 国や、複数の流行をみる地域もあります。流行株は国によって若干の差はありますが、大きな差は ありません。アメリカ合衆国では、毎年数百万人、人口の10〜20%が罹患すると推計されており、 年間に約2万人もの死者が出ていると報告しています(CDC)。世界の流行状況は、WHOが発行し ているホームページ: http://rhone.b3e.jussieu.fr/flunet/www/ などで知ることができます(インフルエンザのページにあるリンクをご活用ください)。

●ワクチン接種
Q.18:インフルエンザワクチンの接種は効果があるのですか?
 インフルエンザワクチンの接種を行うことで、インフルエンザによる重篤な合併症や死亡を予防し、 健康被害を最小限にとどめることが期待できます。このワクチンの効果は、年齢、本人の体調、その シーズンのインフルエンザの流行株とワクチンに含まれている株の合致状況によっても変わります。
 米国では予防接種諮問委員会(ACIP)から、ワクチン株と流行株が一致している場合には、65歳 以下の健常成人での発症予防効果は70〜90%、施設内で生活している高齢者での発症予防効果は30 〜40%と下がりますが、入院や肺炎を防止する効果は50〜60%、死亡の予防効果は80%みられたと 報告されています。一方、自宅で生活している高齢者の場合は、60歳以上で発症予防効果は58%程 度で、70歳以上ではさらに低下するであろうと報告されています。また、1〜15歳の小児では77〜91%、 3〜9歳では56%、6〜24ヵ月では66%の発症予防効果などが報告されています。詳しくは、ACIPの報 告書("Prevention and Control of Influenza" MMWR 2004;53:RR-6)をご参照ください。
 日本では、厚生科学研究費による「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者 :神谷 齊(国立療養所三重病院))」の報告によると、65歳以上の健常な高齢者については約45% の発病を阻止し、約80%の死亡を阻止する効果があったとしています。また、同じく厚生科学研究費 による「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に対する研究(主任研究者:神谷 齊(国 立療養所三重病院)・加地正朗(久留米大学))」では、発熱を指標とした場合1歳以上で6歳未満 の幼児では約20〜30%の発病を阻止する効果があり、1歳未満の乳児では対象症例数も少なく、効 果は明らかでなかったとしています。また、日本臨床内科医会の河合直樹らは、0〜15歳では1回接 種、2回接種それぞれで、発症予防効果は68%と85%、16〜64歳では55%と82%と報告しています。
 インフルエンザに対する治療薬も実用化されていますが、感染前にワクチンで予防することがイ ンフルエンザに対する最も有効な防御手段です。特に65歳以上の方や基礎疾患を有する方(気管支 喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症 (免疫抑制剤による免疫低下も含む)など)では、インフルエンザが重症化しやすいので、かかり つけの医師とよく相談のうえ、接種を受けられることをお勧めします。
 また、インフルエンザの流行株は毎年変化しますし、ワクチン接種による重症化の予防に有効な 免疫レベルの持続期間はおよそ5ヵ月となっていますので、毎年シーズン前にワクチン接種を受ける ことが必要です(Q22参照)。今年流行が予測されるウイルスにあったワクチン を、インフルエンザが流行する前に接種し、免疫を高めておくことが大切です(Q19Q20参照)。
 なお、当然のことですが、インフルエンザワクチン接種ではSARSはもちろん、他のウイルスによ る「かぜ」(かぜ症候群)にも効果はありません。
Q.19:インフルエンザワクチンの製造やワクチン株の選定はどのように行われているのですか?
 日本で使用されているワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを発育鶏卵の尿膜 腔内に接種して培養、増殖させ、漿尿液から遠心にて濃縮・精製し、ウイルス粒子をエーテル等で 処理し、その副反応の原因と考えられる脂質成分の大部分を除去したHA画分浮遊液とし、更にホル マリンで不活化(病原性をなくすこと)したHAワクチンです。このように、インフルエンザワクチ ンは有精卵から作られるため、急な大量生産は出来ませんので、毎年種々の状況を検討し、生産量 が慎重に決められています。
 日本のインフルエンザワクチンに含まれるウイルス株は、シーズン前の人々の抗体保有状況、昨 シーズンや世界各国のインフルエンザの流行状況を考慮し、WHOの推奨株を参考に、毎年、専門家 会議の結果を受けて厚生労働省によって決定されます。現在のインフルエンザワクチンには、A型 2種類およびB型1種類が含まれており、A/H1N1(ソ連)、A/H3N2(香港)、B型のいずれの型にも効 果があります。ワクチンは流行するウイルス株を予測して生産されますが、流行するウイルス株は 毎年変わりますので、ワクチンに含まれている株とその年の流行株が異なった場合には、ワクチン の効果は減少します。最近の10年間は予測と実際に流行したウイルス株はほぼ一致しており、有効 なワクチンが生産されています。平成16年度のインフルエンザHAワクチン製造株については、 A型株:A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)及びA/ワイオミング/3/2003 (H3N2)、 B型株:B/上海/361/2002が決定されました。
Q.20:インフルエンザワクチンはいつごろ接種するのが効果的でしょうか?
 インフルエンザに対するワクチンは、個人差はありますが、接種からその効果が現れるまで通常約 2週間程度かかり、約5か月間その効果が持続するとされています。また、過去に感染歴やワクチン接 種歴の無い場合と、免疫学的記憶のある場合のブースターとではワクチンの効果が現れるまでに差が あると考えられています。多少地域差はありますが日本のインフルエンザの流行は12月下旬から3月 上旬が中心になりますので、12月上旬までには接種をすまされることをお勧めします。2回接種の場 合は、2回目は1回目から1〜4週間あけて接種しますので、1回目をさらに早めに接種した方が良いで しょう。
Q.21:インフルエンザワクチンの接種はどこでできますか?
 地域の医療機関、かかりつけ医などでインフルエンザワクチンを受けることが可能です。任意接種 では接種期間に制限はありませんが、予防接種法に基づく接種やワクチン接種の奨励事業などでは、 各自治体によって期間や費用の点でも異なることがあります。ワクチン接種可能な医療機関や地域で の取り組みについては、それぞれの地域の保健所、医師会、医療機関、かかりつけ医などに問い合わ せていただくようお願いします。
Q.22:インフルエンザワクチンの接種の対象となるのは、どのような人でしょうか?定期接種の場合 と任意接種の場合に分けて説明して下さい。
 予防接種法による定期接種では、重症化と死亡の報告が多い65歳以上の高齢者の方と、60〜64歳 で基礎疾患(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎 不全、免疫不全症など。一定の基準があります)がある方に接種が勧奨されています。
 任意接種では、医学的に接種が不適当であると考えられた場合を除けば、基本的にはインフルエン ザの発症と重症化を防ぎたいと希望される方すべてが対象となります(Q18参照)。
 ことに基礎疾患がある方(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾 患、糖尿病、腎不全、免疫不全症(免疫抑制剤による免疫低下も含む)など)は、ワクチン接種を 考慮すると良いと考えられます。
 小児については、平成16年11月に日本小児科学会より、「1歳以上6歳未満の乳児については、イ ンフルエンザによる合併症のリスクを鑑み、有効率20〜30%であることを説明したうえで任意接種 としてワクチン接種を推奨することが現段階で適切な方向であると考える」との見解が出されてい ます。根拠としては、1歳未満児については対象数が少なく、有効性を示す確証は認められなかっ たこと、1歳以上6才未満児については、発熱を指標とした有効率は20〜30%となり、接種の意義 が認められたことがあげられています(Q18参照)。
 小児において気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、 腎不全、免疫不全症(免疫抑制剤による免疫低下も含む)などの基礎疾患を有している場合、6ヶ 月から18歳の小児で長期間アスピリンを服用している場合(インフルエンザによってライ症候群に 進行する危険があるため)、集団生活に入っている場合なども、インフルエンザに罹患した場合に 重症化や合併症のリスクが高くなるため、接種を考慮して良いと考えられます。
 また、これらの方と身近で接触する方も、「インフルエンザをうつさない」という考え方から接 種を考慮しても良いと考えます。
 なお欧米では6ヵ月から24ヵ月未満の乳幼児もインフルエンザの重症化率が高いと報告されており、 ワクチン接種による予防が望ましいと考えられており、米国などでは接種を勧めています。
 いずれの場合も、かかりつけの医師などと相談のうえ、お受け下さい。
Q.23:インフルエンザワクチンの接種を受けることが適当でない人や接種時に注意が必要な人はあ りますか?
1) 予防接種法に基づく定期接種の不適当者としては、予防接種実施規則に以下のように示され ています。
<予防接種実施規則第6条による接種不適当者(抜粋)>
(1)明らかな発熱*を呈している者
(2)重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
(3)当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によってアナフィラキシーショックを呈したことが明らかな者
(4)その他、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
 *:通常は、37.5℃を超える場合をいいます。
 また、既往などから、接種の判断を行うに際して注意を必要とする方(接種要注意者)がおられま すが、この方々は接種禁忌者ではありません。ただし、接種を受ける方の健康状態及び体質を勘案し て接種の可否を判断し、接種を行う際には被接種者に対して、改めて十分に効果や副反応などについ て説明し、被接種者が十分に理解した上での接種希望であることを確認した上で、注意して接種を行 う必要があります。詳細については「インフルエンザ予防接種ガイドライン(平成15年9月改編)」 をご覧ください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1e.html
<インフルエンザ予防接種実施要領に基づく接種要注意者>
(1)心臓血管系疾患、じん臓疾患、肝臓疾患、血液疾患等の基礎疾患を 有することが明らかな者
(2)前回のインフルエンザ予防接種で2日以内に発熱のみられた者又は全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者
(3)過去にけいれんの既往のある者
(4)過去に免疫不全の診断がなされている者
(5)気管支喘息のある患者
(6)インフルエンザワクチンの成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来の物に対して、アレルギーを呈するおそれのある者
2) インフルエンザワクチン接種の適応に関しては、年齢の下限はありませんが、通常生後6か月未満 の乳児にはワクチンを接種しません。これは、ワクチンの効果に関しておよび、ワクチン接種 の副反応に関しての研究がまだ少なく、十分な知見が得られていないこと、また、この月齢までは母 体由来免疫の効果が期待できることに由来しています。このような場合には、同居する家族がワクチ ンなどでインフルエンザを予防することで、家庭内にインフルエンザウイルスが持ち込まれることを 防ぐといった方法が考えられます。
3) インフルエンザワクチンはウイルスの病原性をなくした不活化ワクチンであり、胎児に影響を 与えるとは考えられていないため妊婦は接種不適当者には含まれていません。しかし、妊婦又は妊娠 している可能性の高い女性に対するインフルエンザワクチンの接種に関する、国内での調査成績がま だ十分に集積されていないので、現段階ではワクチン接種によって得られる利益が、不明の危険性を 上回るという認識が得られた場合にワクチンを接種するとされています。一般的に妊娠初期は自然流 産が起こりやすい時期であり、この時期の予防接種は避けた方がよいと考えられます。
 一方米国では、「予防接種の実施に関する諮問委員会 (Advisory Committee on immunization Practices)」の提言により、妊娠期間がインフルエンザシ ーズンと重なる女性は、インフルエンザシーズンの前にワクチン接種行うのが望ましいとされていま す(MMWR 2004; 53(RR-6)参照)。  これまでのところ、妊婦にワクチンを行った場合に生ずる特別な副反応の報告は無く、また、妊娠 初期にインフルエンザワクチンを接種しても胎児に異常の出る確率が高くなったというデータも無い ことから、予防接種直後に妊娠が判明しても、胎児への影響を心配して人工妊娠中絶を考慮する必要 はないと考えられています。
4) 熱性けいれんの既往がある方に対するワクチンの接種に関しては、日本小児神 経学会の見解(平成15年5月)では、「現行の予防接種はすべて行って差し支えないが、保護者に対 して接種の有用性、副反応などについての十分な説明をして同意を得ることに加え、具体的な発熱 時の対策(けいれん予防を中心に)や、万一けいれんが出現した際時の対策を指導すること」とな っています。詳細については、予防接種ガイドラインの「過去にけいれんの既往のある者」をご参 照ください。
予防接種ガイドライン(7−2−(2)−3−ァ)
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/2003VAGL/sec07-3.html
5) てんかんの既往がある方に対しては、厚生労働科学研究事業の「ハイリスク 児・者に対する接種基準と副反応に関する研究班」の2003年の見解では、「コントロールが良好な てんかんをもつ小児では、最終発作から2−3か月程度経過し、体調が安定していれば現行のすべて のワクチンを接種しても差し支えなく、「発熱によってけいれん発作が誘発されやすいてんかん児 では、副反応による発熱が生じた場合の発作予防策と万一発作時の対策を指導しておく。いずれの 場合も、事前に保護者への十分な説明と同意が必要である」などと、なっています。予防接種ガイ ドライン「過去にけいれんの既往のある者」を参照の上、てんかんを治療している 主治医あるいはその依頼に基づき、事例ごとに検討して、ワクチンを接種するか、しないかを決め るのが望ましいと考えます。
予防接種ガイドライン(7−2−(2)−3−ィ)
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/2003VAGL/sec07-3.html
Q.24:卵やゼラチンにアレルギーのある人にインフルエンザの予防接種はできるでしょうか?
 卵アレルギーの程度にもよりますが、ほとんどの場合問題なく接種できます。インフルエンザワク チンは、その製造過程において、インフルエンザウイルスの増殖に発育鶏卵を用いるために、最終製 品であるワクチンの中に、ごくわずかながら鶏卵由来のタンパク成分が残って、それによるアレルギ ー症状がまれに起こることがありえます。しかし、近年は高度に精製され、その量は極めて微量であ り、通常は卵アレルギーがあってもほとんど問題となりません。しかしながら、鶏卵を食べてひどい 蕁麻疹や発疹を生じたり、口腔内がしびれたりする方や、卵成分でアナフィラキシーショックを起こ したことがあるような、重篤な卵アレルギーがある方は、ワクチン接種を避けるか、インフルエンザ の罹患リスクとワクチン接種に伴う副反応リスクとを考慮して、接種前にかかりつけの医師とよく相 談のうえ、接種ワクチン液による皮内反応を事前に実施するなど、十分に注意して接種することを勧 めます。詳細は予防接種ガイドライン「接種しようとする接種液の成分に対して,アレルギーを呈す るおそれのある者」を参照してください。
 また、ワクチンに安定剤として含まれていたゼラチンに対するアレルギー反応(アナフィラキシー ショック)が報告されていましたが、現在、インフルエンザワクチンを生産している国内4社からの 製品にはいずれも、ゼラチンはふくまれていません。
予防接種ガイドライン(7−2−(2)−5)
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/2003VAGL/sec07-4.html
Q.25:授乳中にインフルエンザワクチンを接種しても問題はありませんか? 
 授乳婦はインフルエンザワクチンを接種しても支障はありません。インフルエンザワクチンは不活 化ワクチンというタイプで、病原性をなくしたウイルスの成分を用いているため、ウイルスが体内で 増えることも無く、母乳を介してお子さんに影響を与えることもありません。また、母親がワクチン 接種を受けることで、乳児に直接のインフルエンザ感染の予防効果を期待することもできません (Q22参照)。また同様に、ワクチン接種による精子への影響もありませんので、 妊娠を希望しているカップルの男性の接種に問題はありません。
 授乳期間中にインフルエンザウイルスに感染した場合も、このウイルスは主に気道系の上皮細胞 で増殖しますので、血液中にウイルスが存在することは極めて稀です。また、存在した場合でも非 常に微量であると言われています。したがって、母乳中にインフルエンザウイルスが含まれ、母乳 を介して乳児に感染を起こすことはほとんど無いと考えられます。
 しかしながら、母親と乳児は日常から極めて濃厚に接触しているため、インフルエンザ罹患中に 母乳とは関係無しに、乳児に感染するのではないかという不安の声も聞かれます。インフルエンザ は主に飛沫で感染するため、1〜2メートルという近い距離での濃厚接触によって、感染の危険性が 増加するというのは事実ですし、また、母乳が乳児にとって極めて重要であるというのも事実です。 一方では、インフルエンザ患者は発症前からウイルスを排出しているので、母親が体調の異常に気 付いたときには、すでに乳児にも感染しているかもしれません。もちろん発症後の方がウイルス量 は多いので、感染の危険は増加するという指摘もあります。こういったことから、個々の状況に応 じて現実的に対応することが必要でしょう。少なくとも、赤ちゃんに接触する前のや飛沫が付いた 際の手洗い、授乳時のマスクなどによりできるだけの予防策をとることは合理的な方法でしょう。 なお、抗インフルエンザ薬を使用した場合は、その薬剤は母乳中に移行すると言われており、服薬 中に母乳を与えるのは避けることとなっています(Q5を参照)。
Q.26:インフルエンザワクチンの接種を考えたときに、ウイルス疾患に罹患したり、定期予防接種 の時期と重なった場合にはどうすればよいですか?
 予防接種ガイドライン(2003年改訂版:予防接種ガイドライン等検討委員会、監修 厚生労働省健 康局結核感染症課)によると、「麻疹,風疹,水痘及びおたふくかぜ等に罹患した場合には,全身状 態の改善を待って接種する。標準的には,個体の免疫状態の回復を考え麻疹に関しては治癒後4週間 程度,その他(風疹,水痘及びおたふくかぜ等)の疾病については治癒後2〜4週間程度の間隔をあ けて接種する。その他のウイルス性疾患(突発性発疹,手足口病,伝染性紅斑など)に関しては,治 癒後1〜2週間の間隔をあけて接種する。しかし,いずれの場合も一般状態を主治医が判断し,対象 疾病に対する予防接種のその時点での重要性を考慮し決定する。また,これらの疾患の患者と接触し, 潜伏期間内にあることが明らかな場合には,患児の状況を考慮して接種を決める」となっています。 つまり、これらの疾患に罹患後は、免疫能が低下していることがあるため、接種したインフルエンザ ワクチンに対して十分な免疫が得られない場合があり、上記のように期間をあけて接種した方が良い とされています。
 小児の定期予防接種と日程が重なった場合は、基本的には定期の予防接種を優先しますが、地域で のその疾患の流行状況やインフルエンザの流行の状況からインフルエンザワクチンの接種を優先する 場合もありますので、かかりつけの医師と十分ご相談のうえ判断して下さい。
 定期接種に限らず、生ワクチン(ポリオ、麻疹、風疹、BCG、水痘、流行性耳下腺炎など)であれ ば4週間以上、不活化ワクチンやトキソイドワクチン(DPT、DT、日本脳炎、B型肝炎)であれば1 週間以上間隔をおけば、インフルエンザワクチンは接種可能となります。
 またインフルエンザワクチンは不活化ワクチンですので、インフルエンザワクチンを接種後は、 1週以上間隔をおけば他のワクチン(生ワクチン、不活化ワクチンとも)接種が可能となります。
予防接種ガイドライン(2003年改訂版:予防接種ガイドライン等検討委員会、監修 厚生労働省健康局結核感染症課)
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/2003VAGL/index.html
Q.27:インフルエンザの予防接種は何回受ければよいのでしょうか?
 現在、日本で行われているインフルエンザの予防接種に使用するインフルエンザHAワクチンについ ては、平成12年4月に中央薬事審議会において検討が行われ、平成12年7月から薬事法上の用法・用量 が以下のようになっています。

年齢群接種用量・方法 接種間隔・回数
13歳以上0.5mlを皮下 1回又はおよそ1〜4週間の間隔をおいて2回接種
6歳〜13歳未満0.3mlを皮下 およそ1〜4週間の間隔をおいて2回
1歳〜6歳未満0.2mlを皮下 およそ1〜4週間の間隔をおいて2回
1歳未満 0.1mlを皮下およそ1〜4週間の間隔をおいて2回

 65歳以上の高齢者に対しては1回の接種でも効果があり、2回接種による免疫の強化に関する効果 (ブースター効果)についての評価は定まっていませんので、現在は1回接種が推奨されています。 これは、厚生科学研究費による研究「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者: 神谷 齊(国立療養所三重病院))」において、高齢者(65歳以上)に対するインフルエンザワク チン1回接種法による有効性の評価を行った結果、接種を行った後の抗体価の上昇は良好であり、 重症化は有意に阻止する事が可能であったという報告に基づいています。また、これらの高齢者に 接種した際の重篤な全身反応はなく、局所反応も軽微でした。
 なお、予防接種法により、「65歳以上の方」、「60歳から64歳までの方で、心臓、じん臓若しくは 呼吸器の機能に障害があり、身の周りの生活を極度に制限される方、又はヒト免疫不全ウイルスによ る免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方」については、年1回、予防接種法によ る定期接種を受けることができ、万が一予防接種によると考えられる著しい健康被害にあった場合に は、その1回の接種については、予防接種法による救済制度が適用されます。詳しくは次章の 「予防接種法関係」をご覧下さい。
 13歳以上64歳以下の方でも、近年確実にインフルエンザに罹患していたり、昨年インフルエンザ の予防接種を受けている方は、1回接種でも追加免疫による十分な効果が得られる方もあると考え られます。2回接種をしたほうがより抗体価は上昇するという報告もあり、接種回数が1回か2回か の最終的判断は、被接種者の意思と接種する医師の判断によりますので、接種の際には最近イン フルエンザにかかったことがあるかどうか、最近ワクチン接種を受けたことがあるかどうかとそ の時期、そして現在の体調などを担当医師に十分伝え、よく相談して下さい。
 なお欧米諸国では、新しい型のインフルエンザウイルスが出現しない限り、年少児を除いて、ほ とんどの人がインフルエンザウイルスに対する基礎免疫を獲得しているので、1回の接種で追加免 疫の効果があるとしているところがほとんどです。
Q.28:インフルエンザワクチンの接種に関するガイドラインはありますか?
 平成15年9月に改編された「インフルエンザ予防接種ガイドライン」が厚生労働省から配布されて います。
 http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1e.html
Q.29:インフルエンザワクチンの接種による副反応にはどのようなものがありますか?
 一般的に副反応は軽微で、10〜20%で接種局所の発赤、腫脹、疼痛をきたすことがありますが2〜3 日で消失します。全身性の反応としては、5〜10%で発熱、頭痛、悪寒、倦怠感などみられますが、 通常は軽微で、やはり2〜3日で消失します。また、ワクチンに対するアレルギー反応として、まれ に湿疹、じんましん、発赤と掻痒感などが数日見られることもあります。
 また、麻疹ワクチンなどの生ワクチンと混同されることが良くありますが、現在日本で用いられて いるインフルエンザワクチンはQ17にあるように、不活化ワクチンですので、その接種によってイン フルエンザを発症することはありません。ワクチン接種後に発熱した場合も、インフルエンザ以外 の冬季に見られる呼吸器疾患に罹患した可能性もあり、必ずしもワクチンの副反応とは限りません。
 卵アレルギーの人には蕁麻疹、発疹、口腔のしびれ、アナフィラキシーショックなどが現れる可 能性があります(Q26参照)。その他にギランバレー症候群(GBS)、急性脳症、 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、けいれん、肝機能障害、喘息発作、紫斑などの報告がまれにありま すが、これらの疾患とワクチンとの関連については明らかになっていません。ただし、米国ではこ れまでにギランバレー症候群を発症したことがある人においてはインフルエンザワクチンを接種し ない様に指導されています。極めてまれですが、接種後に起こった死亡の届け出もあります。しか し、インフルエンザワクチンは毎年多くの方に接種されているために、これらの届け出例の多くは、 予防接種と直接の因果関係はなく、偶然起こったものが多くを占めると考えられます。昭和51年か ら平成6年までの、主に小児に対して接種が行われていた頃の統計では、インフルエンザワクチン 接種により引き起こされたことが完全には否定できないとして、救済対象と認定された死亡事故は 約2,500万接種あたり1件でした。厚生労働省により、予防接種後副反応報告制度に基づいた報告を 集計した結果が発表されていますので、詳細はそちらをご参照ください。
予防接種後副反応報告書集計報告書:
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/09/s0924-4.html
Q.30:インフルエンザワクチンで著しい健康被害が発生した場合は、どのような対応がなされるの ですか?
 予防接種法による定期接種の場合、予防接種を受けたことによる健康被害であると厚生労働大臣 が認定した場合に、予防接種法に基づく健康被害の救済措置の対象となります。詳しくは次章の 「予防接種法関係」をご覧下さい。
 また、予防接種法の定期接種によらない任意の接種によって健康被害が生じた場合は、独立行政 法人医薬品医療機器総合機構法による被害救済の対象となります。健康被害の内容、程度等に応じて、 薬事・食品衛生審議会(副作用被害判定部会)での審議を経た後、医療費、医療手当、障害年金、遺 族年金、遺族一時金などが支給されますが、この場合でも厚生労働大臣の判定が必要です。
 新たに創設された生物由来製剤感染等被害救済制度により、生物由来製品を適正に使用したにも かかわらず、その製品が原因で感染症にかかり、入院が必要なほどの健康被害が生じた場合の救済 も行われることになりました(平成16年4月1日以降に使用された生物由来製品によって生じた 感染被害が対象)。
 以上の救済制度の内容については、下記のウェブサイトを参照するか、あるいは独立行政法人医薬 品医療機器総合機構(TEL:03-3506-9411)にご照会ください。
医薬品副作用被害救済制度:http://www.pmda.go.jp/help/index.html
生物由来製剤感染等被害救済制度:http://www.pmda.go.jp/kansen/index.html
Q.31:インフルエンザワクチン接種の費用はどうなるのですか?
 予防接種については、疾病ではないので健康保険が適用されません。原則として 全額自己負担となります。
 ただし、65歳以上の方、及び60歳以上65歳未満の方で心臓やじん臓、呼吸器等に重い病気のある 方などは、予防接種法による定期の予防接種の接種対象となります。詳しくはQ34Q35Q37をご覧下さい(60歳以上65歳未満の方で、対象と なるかどうかわからない場合は、居住地の市町村あるいは東京23区の場合は区にお尋ね下さい)。 各市町村(東京23区の場合は区)により予防接種期間や、自己負担額が異なりますので、個別の情 報については、それぞれの地域の市町村(東京23区の場合は区)へお問い合わせください。
 また、そのほかの方の接種は従来どおりの任意接種で、ご本人と医療機関との契約により行うこ ととなりますので、費用も全額自己負担となります(接種費用は私的独占の禁止及び公正取引の確 保に関する法律により一定の価格の設定が禁じられており、医療機関により算定方法が異なります ので、接種を受ける医療機関へお問い合わせください)。使用されるワクチンはすべて、厚生労働 省の決定したワクチン株を使用し、検定を受けていますので、ワクチンの品質に差はありません。
Q.32:インフルエンザワクチンは国によって違うのでしょうか?
 インフルエンザワクチン株の選定はワクチンを生産するほとんどの国で、WHOにより2月中旬に出 される「北半球次シーズンに対するワクチン推奨株」に基づき、自国およびその他の国々における 諸情報を総合的に判断して決定しています。つまり、各国(各ワクチン生産会社)が独自に決定す ることになりますが、基本的にWHOの推奨株の情報をもとにしているため、ワクチン株が国によって まったく異なるということはこれまでほとんどありませんでした。また、毎年のインフルエンザシ ーズンにおいて、国ごとに主に流行するインフルエンザウイルスの型(A/ソ連型、A/香港型、B型) が異なることはありますが、流行した3つの型における抗原性が、国ごとに大きく異なっていたこと はほとんどありませんでした。流行しているインフルエンザウイルスの抗原性がワクチン株と同じ である限り、たとえば日本で接種したワクチンも、米国で流行しているインフルエンザに効果があ りますし、逆に米国で接種したワクチンも、日本で流行中のインフルエンザに対して効果があるこ とになります。但し、ワクチンの製造方法や添加物などは国によって若干の違いがあるため、免疫 原性(抗体産生の効果)や副反応の頻度には差があります。
 インフルエンザワクチンは個人防御のために行うもので、外国への出張予定者も、インフルエン ザウイルスに感染時に発症や重症化を防ぐためには、インフルエンザワクチンの接種は効果があり ます(Q1参照)。
参照:「2003-04シーズンのインフルエンザ予防接種:SARSへの配慮を含めた提言」
http://idsc.nih.go.jp/others/urgent/sars03w/07infl-vc.html
Q.33:インフルエンザワクチンでインフルエンザ脳症を予防できますか?
 インフルエンザ脳症に対するインフルエンザワクチンの予防効果については、厚生労働科学研究 「インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療および予防方法の確立に関する研究」(主任研究者 :森島恒雄(岡山大学))のもとでデータが蓄積されつつあります。これまでの調査では、インフ ルエンザ脳症を発症した事例の間で、ワクチン接種の有無について有意な差は無く、インフルエン ザワクチンの接種によるインフルエンザ脳症の予防、インフルエンザ脳症の重症化の予防について、 明らかな効果は見いだされていません。
 今後更に研究・調査が継続されますが、インフルエンザワクチンの接種により、インフルエンザ の発症が防げるのであれば、論理的にはインフルエンザ脳症の発症リスクは回避あるいは軽減され るとも考えられます。また、インフルエンザ発病から中枢神経系障害をおこすまでの期間が、およ そ1.4日程度と短時間であることから、ワクチン接種が発症者の33%において症状の軽減に寄与する ならば、予防として有効であろうとの意見もあります。
 インフルエンザ脳症はインフルエンザに罹患しなければ発症しないので、インフルエンザ脳症の 発生リスク高い1歳前〜5歳だけでなく、周囲のヒト(家族、保育園職員など)にワクチンを接種し、 これらの幼児のインフルエンザウイルスへの曝露機会を減らすことが勧められます。

●予防接種法関係
Q.34: 予防接種法でインフルエンザワクチンの接種はどのように位置づけられていますか?
 平成13年から予防接種法によりインフルエンザの予防接種は、定期接種の「二類疾病」となりまし た。「一類疾病」とは、発生及びまん延を予防することを目的として、予防接種法の定めるところに より予防接種を行う疾病です。「二類疾病」は、個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれに よりそのまん延の防止に資することを目的として、予防接種法に定めるところにより予防接種を行う 疾病で、接種はそれぞれの意思に基づいて行われます。これは、海外および国内の研究の成果から、 高齢者へのインフルエンザワクチンの接種が重症化や死亡の防止に効果的であることが証明されたこ とに基づいています(Q18を参照)。
 これによりインフルエンザは全額自己負担の任意接種から、
(1)市区町村長が予防接種機会を設けることとなったこと、
(2)対象者には通知がなされること、
(3)接種場所も通知されること、
(4)接種にあたって、一部公費負担が導入されること
により、全体として費用負担が減じることになりました(一部負担額は市区町村によって異なりま す)。
 しかし、定期接種としての費用負担の軽減や、予防接種による健康被害の救済・保障が法的に認め られた対象となるのは、65歳以上の方(接種日が、65歳の誕生日の前日に当たる方からが対象となり ます)及び、60歳から64歳までの方で、心臓やじん臓、呼吸器等に自己の身辺の日常生活活動が極度 に制限される程度の重い病気のある方や、ヒト免疫不全ウイルスへの感染によって免疫の機能が日常 生活がほとんど不可能な程度低下している方などで、年1回の定期予防接種として受けた接種につい てだけです。これ以外の方はこれまで通りの自己負担での任意接種の形になります。
 また、定期予防接種により障害などの健康被害が生じたと認定された場合には、予防接種法に定め られた医療費や各種手当などの給付を受けられるようになります(Q30)。具体的には、健康被害の 内容、程度に応じて、厚生労働省の疾病障害認定審査会(感染症・予防接種審査分科会)での審議 を経たあと、医療費、医療手当、障害年金、遺族年金、遺族一時金などが支給されます。支給額は 予防接種法施行令の規定に準じた額となります。
 詳しくは以下のアドレスの厚生労働省ホームページ政令掲載部分をご覧下さい。
予防接種法施行令:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1b.html
予防接種法施行規則:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1c.html
予防接種法に関する情報ページ:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1.html
Q.35: 定期予防接種の場合にワクチン接種の費用は変わりますか?
 定期予防接種の費用については、予防接種は疾病から被接種者自身を予防するという個人受益の 要素があることから、市区町村の判断により経済的理由により負担できない方を除き、実費を徴収 することができることとされています。
 具体的な額、実費を徴収されない方の詳細については、市区町村によって異なりますので、Q28 を参考に、居住地の市区町村にお問い合わせください。
 予防接種法に基づく定期接種の対象外の方(任意接種)は、これまでどおり、接種費用を全額自 己負担していただくことになります。金額は地域、医療機関で異なりますので、接種予定の医療機 関へ直接お問い合わせください(Q24参照)。
Q.36: 住民票と異なるところに長期滞在している場合に、現在地でのワクチン接種ができますか?
 任意接種の場合はいずれの市町村でも接種可能ですが、予防接種法による定期接種は、市区町村 が実施するため、住民票のある市区町村が指定する医療機関などで受けていただくのが原則です。 しかし、市区町村によっては住民票と異なるところに滞在している方に便宜を図っていることもあ りますので、詳しくはお住まいの市区町村にお問い合わせください。詳しくは住民登録をしている 市区町村にお問い合わせください。
Q.37: 痴呆など意思確認が難しい方へのワクチン接種はできますか?
 対象者の意思確認が難しい場合は、家族又はかかりつけ医の協力により対象者本人の意思確認を することとし、接種の意思があるものと確認できた場合に予防接種法に基づいた定期接種を行うこ とができます。対象者の意思確認が最終的にできない場合には、予防接種法に基づくインフルエン ザワクチンの接種を行うことはできません。個別の事例に関しては、各市区町村、医師会などへご 相談ください。
インフルエンザ予防接種実施要領:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1d.html
厚生労働省行政版Q&A:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1g.html
予防接種法の一部を改正する法律等の施行について(H13.11.7) http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1h.html

●インフルエンザと話題の関連疾患
Q.38: 今年のインフルエンザシーズンにSARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザが起こ ったら、どうすればよいのですか?
 SARSについては、2003/2004シーズンにみられた発生報告は実験室内での感染例でした。また、鳥 インフルエンザについては、国内での家禽類の間での発生はみられたものの、平成16年10月時点ま で国内でのヒトの感染の報告はありません。今冬起こるのかどうかについては、世界中のだれにも わかりません。サーベイランスが引き続き必要です。
 SARSはSARSコロナウイルス、インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、まった く違う病原体によるものですが、初発症状は、突然の高熱、筋肉痛、全身倦怠感など極めてよく似 ており、症状からは区別はつきません。両者を鑑別するには、医療機関において各種検査を行いそ の結果などから総合的に判断することが必要です。また、鳥インフルエンザは例年ヒトの間で流行 しているインフルエンザウイルスとは異なりますが、同じA型のインフルエンザウイルスによる感 染ですので、ヒトに感染した際の症状は酷似しており、一層インフルエンザとの区別は難しくな ります。地方衛生研究所や国立感染症研究所で各種検査を実施し、亜型あるいは遺伝子配列などの 詳細な解析を行って初めて確定診断ができます。
 インフルエンザ様の症状が長引いたり、症状が強いか激しい場合で、かつ、実際にSARS患者と濃 厚な接触をしたか、介護したか、同居したか、あるいはその体液に接触したか、SARSコロナウイル スや、それを含んでいる可能性のある検体を取り扱って実験をしているか、具合の悪い鳥との密接 な接触などの感染の可能性が疑われる情報がある場合には、保健所などへ相談することが必要にな ります。
 詳しくは、SARSのページのQ&A、「非流行期におけるSARS対応のガイドライン」、高病原性鳥 インフルエンザが疑われる患者に対する医療機関での対応、鳥インフルエンザのQ&Aなどを参照 してください。
SARS(重症急性呼吸器症候群):http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/index.html
高病原性鳥インフルエンザ:http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html
Q.39:インフルエンザのパンデミックが起こったときの対策はあるのですか?
 Q16にあるように、新型のインフルエンザが出現する可能性は以前にも増して 大きくなりつつあります。新型インフルエンザに対しては誰も免疫を持っていないために、世界中 で大規模な流行、つまりパンデミックが起こる可能性は非常に高いと言えます。
 新型インフルエンザが出現した場合に、パンデミックを食い止めるには、早期に検知して、直ちに ワクチンを開発し、あらゆる手段を講じて、その間の感染拡大を最小限にとどめる以外に方法はあり ません。事前対策としての、患者、ウイルス両面からのインフルエンザサーベイランスの強化に始ま り、ワクチン生産体制の整備、生産実施計画の準備、緊急時の医療供給体制の整備、予防投与の考え 方の整理、そして、実際の行動計画の策定などをあらかじめ準備、演習しておく必要があります。 また、海外で先に発生することも考えられますので、国際情報の収集も重要になります。
 本邦では、これらを網羅した新型インフルエンザ対策検討会が、厚生労働省のもと開かれ、平成16 年8月に報告書が取りまとめられています。詳細は以下の報告書をご参考ください。

島根県感染症情報センター